ネット依存の予防は「知ることこそ護身術」

<ネット依存相談の窓口から>

第5回 リアルな会話は苦手。居場所をネットに求める子ども達


ネット依存は、PCにのめり込み、引きこもってしまって外に出ようとしない「インドア型」と、普通に生活しているように見えても、スマホやタブレットを手放せない「モバイル型(アウトドア型)」に分けられると思います。両者は使っているデバイスが違うため、「症状」は一見異なりますが、引き起こされる結果は同じです。「モバイル型(アウトドア型)」には、普通に通学や出勤をしていても、目の前の人とコミュニケーションを取れない人もいます。ネット依存=引きこもりという図式は今や通用しないのです。

 

最近私のところに寄せられた相談から、目の前のリアルな人とコミュニケーションのできない例を紹介しましょう。

 

 

ネットの世界では饒舌だが、実際にしゃべる感覚がわからない。リアルが楽しめない

 

【事例5】

中学3年生のF君は、以前はオンラインゲームに夢中でしたが、最近はツイッターやフェイスブックにはまりこんでいます。


ちょっとしたことをつぶやいたり、気に入ったものについて語ったことに「いいね!」をもらったりすることが何よりの快感ですが、クラスの中ではほとんど誰とも話すことがありません。自分の思い通りの反応が返って来ないのが我慢できないからです。最近は、高校受験がプレッシャーになってイライラしていることもありますが、クラスの仲間がうざいと思うと、相手をどうやって殺してやろうかとか、逆にどうやって自殺したら効果的か、などと考えてしまうこともあると言います。


そんなF君を親は心配して、インターネットをやめなさいと言いますが、自分の居場所がなくなってしまうような気がして、手放すことができません。しかし、一方ではネットに依存してしまう自分に自己嫌悪を感じていますが、誰に・どのように相談していいのかわからず、いっそうイライラを募らせていました。

 


普通に社会生活を送っているように見えても、ネットの世界の方が居心地がいい

 

F君の問題は、リアルな世界よりもネットの世界の方が居心地がよいと考えていること。そしてその居心地の良さは、ネット上では人づきあいが楽で面倒がないということに起因しています。最近の子ども達は、小学校から様々なネットのデバイスに触れているので、ネット上では「会話」ができても、リアルな人間関係をどう作っていいのかわからない人が増えています。

 

彼氏・彼女は欲しいけど、実際に付き合うのは面倒だ、と平気で言う人もいます。リアルに彼氏・彼女を作るために告(コク)るのは面倒、振られたら傷つく。でも、ネット上なら傷つくこともない。会わなくても、楽しくバーチャルで「付き合えれば」それでもいいのだ、と。リア充(=リアルな生活が充実していること)に価値を感じない人が増えているのです。

 

 

リアルな出会いよりハードルが低くなるネットの中の「恋愛」。犯罪に巻き込まれる危険も

 

一方、これはネット依存とは少し違いますが、SNSやLINEでちょっと優しい言葉を書かれると、自分の中で勝手に相手のイメージを作って、恋愛感情を持ってしまう人もよくいます。文字から受けるイメージに錯覚を起こしてしまうのですが、たいてい都合のいい方へ解釈するのです。これは大人も例外ではありません。問題なのは、実際に、その人に「会う」行動に移すことです。

 

今年の夏は、若い人が巻き込まれた事件に、LINEが関係していたケースが何件もありました。LINEは、IDがあればトークができてしまうので、メルアドや電話番号を教えるよりも心理的なハードルが低いのです。LINEに限らず、ネットでは手軽に様々な人と出会い、つながれるだけに、子ども達がトラブルや犯罪に巻き込まれる落とし穴もそれだけ多くなっているということにも、直視しなければならない現実です。

 


居場所が大事。家族も、居場所を作ってあげられる

 

同じようにLINEやゲームに熱中しても、依存に陥ってしまう人とそうならない人はどこに違いがあるかというと、ネット以外に認められる場があるかどうかが大きな違いだと思います。
リアルな世界での人との関わりは、自分の思い通りになることばかりではありません。認められたいという欲求も満たされないことが多いでしょう。だから、リアルな世界で認められる場を得ることが難しい人は、面識のない不特定多数の人に認められたり、都合の悪いことは見なかったことにできたりするネットの世界に居場所を求めたくなるのです。

 

その意味で、依存の予防にも対処にも、家族とのコミュニケーションがとても重要です。ネットに夢中になっていることも含めて家族から認めてもらうことによって、子ども達はリアルな世界に居場所が確保できるのです。子どもを知識でリードしようとして、デバイスやアプリの使い方に精通する必要はありません。まずは、ネットのいいところ・楽しいところに共感する。そして、共感しながらも、「際限なく依存していくことは、長い目で見て決してよいことではない」と伝えてあげることが大事なのです。

 

エンジェルズ・アイズでは、基本的にメールで相談を受け付けていますが、相談を持ちかけてくるのは本人の場合が多いです(これは、ネット依存外来の医者には、親が相談に来ることが多いのとは対照的です)。冒頭で紹介したF君も、自分でメールを書いてきました。彼とのやりとりでは、「はまり込む気持ちはわかるよ」ということをまず伝え、その上でどのようにしたらよいかを説明していきました。そうすると、「ネットの楽しさをわかってもらえた」と、彼の気持ちがほぐれていくのを感じました。

 


ネットから離れる時間を作ることが第一歩

 

居場所づくりと共に、物理的に、ネットから少しでもいいので、離れる時間を作ることも大事です。私が子ども達に勧めるのは、一度デバイスを立ち上げたら、ゲームでもLINEでもいいので、何か1つタスクが終わったらいったん電源を切る、ということです。検索もツイッターも…と、あれこれいじっているとどうしてもやめられなくなるので、1回に1つだけと決めることで、とにかくネットから離れる時間を作るようにするのです。


生活のリズムをつけるために、適度なスポーツをすることも勧めています。物理的にデバイスから離れる時間が持てるとともに、身体を動かして適度に疲れることで、だらだらと夜更かしすることができなくなります。買い物や散歩に出る時は、デバイスを家に置いていくようにしてみる、スマホやタブレットで観るのではなく、生のスポーツの試合や舞台を観に行く、というのもよいでしょう。

 

予防としては、あまりお説教臭くない動画などを使って、依存状態がどんなにおかしいことかを客観的に見ることで、子ども自身が気づけるようにしたりします。デバイスを凝視し続けると視力が落ちることを、視力が落ちた状態になる眼鏡をかけさせて実感させたりするのも、一時デバイスから離れさせる手です。試行錯誤も経ながら、その子に合った対策をとることが効果につながります。


 

◇プロフィール

遠藤 美季(えんどう みき)

 

任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー