ネット依存の予防は「知ることこそ護身術」

<ネット依存相談の窓口から>

第4回 LINEでのいじめは、情報モラルの授業でも取り上げたい


前回、子ども達のLINE依存と同調圧力の関係についてお話しました。仲間はずれになりたくないからLINEをやめられず、さらにまわりに流されることで依存が進む。同調圧力によってそうした状況が生み出されているわけです。そして、この心理的拘束はまた、LINEでのいじめにも無関係ではありません。ネット依存の話からは横道にそれますが、そのいじめの問題についてお話しします。

 

 

LINEは仲間はずれを作り出しやすい


LINEを使ってのいじめ行為はよく聞きますが、どの学校でも問題となっているのは、『LINE外し』と言われる「特定の子を仲間はずれにする」ことです。たとえばグループ内の誰かを本人に了解なく勝手に退会させてしまう。退会させられた方は、誰が、どのような理由で自分を外したかわからず、ただ傷ついたり、不安になったり、落ち込むということになります。

 

また、こんなケースもあります。5人でグループを作っていて、そのうちの誰か1人がちょっと気に食わない場合に、4人でいっせいにグループから抜け、新しいグループを作るというやり方で、残りの1人を仲間はずれにするものです。この時、グループから抜ける側の子達に同調圧力が働いていることは明らかです。


仲間うちの誰かをのけ者にすることは、リアルの学校生活でも間々あることですが、簡単な操作で特定の誰かの書き込みをブロックしたり新しいグループを作ったりできるLINEでは、現実以上にそれがやりやすいのですね。

 

また、LINE上でのいじめ行為は、相手の表情などを直接目にしないで済むからか、相手を傷つけているという罪悪感も薄いように思われます。というのも、LINE上で仲間はずれにした子をリアルでも仲間はずれにしているのかというと、必ずしもそうではなく、学校で顔を合わせれば普通に会話するのですから。仲間はずれにした子の側には悪いことをしたという意識がないのだとしか考えられません。おそらくこの子達にしてみれば、グループからそろって抜けたのは、あくまで軽い気持ちで「ちょっと気に入らないから、ちょっと嫌がらせをした」程度のことなのでしょう。


LINEでは困ったことに、スマートフォンの画面を指先で“ちょっと”操作するだけで、気軽に、仲間はずれを作り出すことができてしまうのです。簡単にやってしまいがちですが、エスカレートすると、された側が精神的に追い込まれ、不登校や自殺未遂という深刻な状況に陥ることもあります。

 

 

グループトークもいじめの現場になる


LINE上でのいじめには次のようなケースもあります。

 

【事例4】

Eさんはあるとき、クラスの仲間と一緒にスマートフォンのカメラで写真を撮りました。ごく普通のクラスの集合写真です。ただ、その中でEさん1人だけが皆と違う色のベストを着ていたのです。クラス全体で作っているグループのグループボードにその画像が貼られたあと、Eさんを指していろいろな書き込みが展開されていきます。「ひとりだけ注目浴びたい人?ありえなくない?」。要するにEさんは悪目立ちしてしまったわけです。これを発端として、クラスのグループトークにはEさんに対するイヤミ、あてこすり、皮肉などが次から次へと書き込まれ、さらには問題の画像からわざわざEさんだけを切り抜いたりする子も出てくる始末。本人が事態に気づいたときには、クラスのみんながEさんをネタに、トークで盛り上がっていたのでした。

 

ここでもいじめに加わっている子達に同調圧力の働いていることははっきりしています。幸いなことに、Eさんはこうした場合でも臆せずにいろいろと言い返すことができる子だったので、結局このケースが深刻ないじめに発展することはありませんでした。けれども、こうした特定の誰かをからかうグループトークが酷いいじめの火種となるケースは少なくないと聞きます。

 

 

悪ふざけでは済まないことを教えよう


ところで、この事例の相談中にEさんが意外なひと言をこぼしました。「みんなも悪気があったわけじゃない。ふざけただけ」。こんなふうにグループトークで誰かをからかうのは、いじめではなくて、単なる悪ふざけなのだ、と言うのです。この「悪ふざけ」という言葉は、いじめ事件の報道において、いじめた側の言い訳としてよく耳にしますが、まさかやられた側の子の口から聞くとは…。そこには日常茶飯事にこのようなことが行われている背景が垣間見えます。

 

改めて言うまでもなく、たとえ加害者の側が自分達のしたことをいじめだと認識していなくても、たとえ酷いいじめにまでエスカレートしていなくても、事例4のようなケースはやはり悪ふざけで済むものではありません。そのことは子ども達に教えなければならないと思います。肉体的な暴力を伴わなくても、いじめは他人の権利を侵す不法行為です。だから、たとえば名誉毀損や侮辱は刑法に定められた犯罪であり、LINE上でのトークでも内容次第では脅迫や強要、恐喝、自殺教唆などの罪になるし、そういった罪の中には未遂でも罰せられるものがある、他人の画像を勝手に貼り付けるのは肖像権の侵害になるといった事実を指摘し、教える必要があるのです。

 

法律を持ち出して子どもに自制心をつけさせることについては疑問の声もあるかもしれません。わたし自身、小学校・中学校など教育の場で、あまり安易に犯罪というものを持ち出すのはどうかとも考えます。しかしこうした知識が、悪ふざけのつもりでいじめに加担する子達に対するひとつの抑止力になることも確かです。また社会に出れば同様のことが罪になるという意識を持って行動して欲しいと思うのです。


もし事例のようないじめにあったときには、グループトークの内容をスマートフォンのスクリーンショット機能で撮るなどしてすべて保存、プリントアウトし、親に見せて相談しなさいと子ども達にアドバイスしています。いじめやトラブルの証拠は問題が大きくなるのを防いだり、深刻な問題が起きた時に「なぜ」そうなったのかという根本に迫ったりするために役立ちます。子どもが自分一人で抱え込んでしまっては解決に至りませんから、スマホやSNSの利用に関して、大人が想像できない利用やトラブルがあることを身近な大人に相談するにはどうしたらいいか、その道筋を示してあげます。あとは相談を受けた大人が、場合によっては警察に相談するなど、毅然とした態度で対処すれば、いじめを減らすことは決して不可能ではないはずです。


いじめが場合によっては不法行為になること、発信する方が悪ふざけでも受け取る側がいじめと感じることがあること、それはたとえLINEのトーク上でも犯罪として罪に問われる可能性があることは、情報モラルの授業の中で教えていただく必要があると思います。

 

 

子ども達の個人情報に対する意識は低い

 

さらに、情報モラルの授業では個人情報の扱いに関してもしっかりとした知識を与えるべきです。たとえばLINEでは登録の際にスマートフォンの電話帳データを送信することが基本となっていますが、電話帳の情報がLINEのサーバーに保存されることについてどう思っているか子ども達に尋ねてみると、何の抵抗も覚えないという子が驚くほど多いのです。「電話帳を取られたからってそれがどうかしたの?」くらいの意識です。Facebookのような実名かつ顔出しが前提のSNSを中学生が使っている時代ですから、こうした反応が返ってきても不思議ではありません。しかし、ネット上の個人情報の扱いについて、多くの子どもが注意を払っていないことは問題といえます。自分の個人情報や友達の個人情報を漏らすことで自分や他人を危険に巻き込む込む可能性があること、場合によってはその行為が違法になることも理解していない子が多いのです。

 

子ども達の意識は、なぜこれほど低いのでしょうか。


いくつか理由はあります。一つは情報機器を利用する際、その機能について、正しく理解する機会がないということ。これは家庭での指導が軸になります。『インターネットに接続できるデバイス』を子どもに与える際、様々な注意点があります。特に、SNSのようなアプリを利用するならば、なおのこと個人情報の扱いについてしっかり理解させておかなくてはなりません。ですが、そのあたりの指導が曖昧であったり、特に注意をしていなかったりする家庭も少なくないため、このような問題がおきてしまうようです。学校で『ネットを利用する際の個人情報について』や『ネットと人権』というテーマで授業をされるところもまだ少なく、子ども達は個人情報の大切さについて学ぶ機会が少ないと言えます。

 

一説には「いまどきの中高生が、ネットに接続できて当たり前の携帯電話やスマートフォンしか知らないためだ」とも言われています。SNSがクローズドな空間だと思いこんでいる子もいます。LINEにしてもtwitterにしてもFacebookにしても、彼らにはそれらが不特定多数の人たちとつながっているインターネット上のサービスであるという意識がないようです。1対1で直接つながる電話と同じような、仲間うちだけでつながるためのスマートフォンの一機能程度にしか思わず、「わたし―LINE―友達」とか「わたし―twitter―友達」といったイメージで理解されているわけです。そこに友達の情報を書いても、まさか学校中の、さらに日本中・世界中に知れたり、悪用されたりするかもしれないということは想像だにしていません。インターネットを使っているという意識がきわめて薄いのですから、ネット上に個人情報をさらす危険など、まるで考えもしないはずですね。

 

また、危険意識が低い(もしくは自分は大丈夫という勝手な思い込み)ゆえの問題もあります。小中高生などは『自己主張のため』や『リアルな友達とつながるため』にあえて個人情報を利用することも少なくありません。自己紹介的に個人情報を出し、情報を共有する友達を作ったり、自分の人気度を示したりするため、友達の写真を無断で載せたり、自分や友達の変顔の写真などを躊躇することなくアップしたりするのです。


個人情報の扱いに関する社会一般での認識が曖昧なのも、このような行為を助長させる原因です。親も曖昧に利用している場合があるので、この問題は学校でしっかり教える時代が来ていると思います。もっと早いうちに取り組んでおくべきだったかもしれません。教育現場で、情報モラル教育の充実に併せて、インターネットに関する知識や利用の仕方について、子ども達に初歩的なところから教える体制を、できるだけ迅速に整えてもらいたいと願わずにいられません。

 

なお、LINEをインストールし、登録するときには、電話帳を送信しないオプションを選ぶことができます。そうした登録方法があることは、やはり大人がきちんと子どもに教えるべきでしょう。

 

◇プロフィール

遠藤 美季(えんどう みき)

 

任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー