中高生のネット利用のトラブルと問題点


2.ネット依存の子どもを生み出す原因・背景

いまどきのコミュニケーションに不可欠なSNS

 

中高生の大半がSNSを使っています。LINE、twitter、FacebookといったSNSの利用が日常的に多くて、それに併せてソーシャルゲームというものがあり、加えて動画、オンラインゲームがあります。

 

SNSの中でも特にLINEは、もはや学校でのリアルな人間関係のために欠かせない道具となっていると言っていいでしょう。twitterやFacebookは、リアルの友達とのやり取り以外に、リアルでは面識のない知らない人達とコミュニケーションを取るためにも必要になってきています。 

「みんなで一緒に」が問題となるオンラインゲーム

 

オンラインゲームに関しては、特に男子の利用が多くて、これは引きこもりや不登校の原因になったり、深夜遅くまでやっているために授業中の居眠りや遅刻につながったりと、いろいろ問題があります。

 

MMORPG(massively multiplayer online role-playing game)というものがあります。ネットに接続した世界中の人達ゲームによっては何千万という人が、同時にプレイするロールプレイングゲームですが、その中では、一人で戦うのではなくて、いろいろな人達と一緒になってモンスターなどと戦うことができます。これは小学生の話ですが、ある時、児童が教室から急にいなくなって学校中探しても見つからない。どこへ行ったかわからないので、自宅に電話してみると、家でオンラインゲームをやっていたというのです。なぜそんなことをしているのかと訊けば、「10時になったらみんなでゲームをしよう」と約束していたので、学校から抜け出して家に帰ってゲームをしていた、と。

 

皆で一緒にプレイするよう作られているオンラインゲームは、このように、「みんなで一緒にやらなきゃいけない」という縛りを生みます。そしてユーザーは、その縛りの中でどんどん依存していくことになります。 

 

いつでもどこでもゲームができるという状況

 

ソーシャルゲームは、主にパソコンでプレイするオンラインゲームとは違って、スマホやタブレットPCといった、ネットにつながるモバイル端末を持っていればどこでも簡単にできるゲームです。もともとは、SNSを運営しているGREEやMobageといった企業が発信しているので「ソーシャル」という呼び名が付いたのです。

 

ゲームは、大人の目をかいくぐって、時間の隙間があればどこでもやりたくなるものだと思います。その点ソーシャルゲームは非常によくできていて、授業の合間の教室内や帰りの電車の中でやりたくなるように作られています。先ほどの小学生の話に似ていますが、ある高校で教室から生徒がいなくなって、先生が探したら、トイレに隠れてスマホでゲームをしていたというケースもあります。「いつでも、どこでも、手軽に」という特徴は、こうしてネット利用の長時間化につながります。

 

動画は、情報発信の手軽さがはまりやすい原因に

 

子ども達が熱中している動画はどうでしょうか。ネットで動画と言えば、YouTubeが一番有名ですが、子ども達の間ではYouTube以外に、ニコニコ動画やツイキャスといった、双方向でやり取りできる動画サービスも人気です。ただ見るだけではなくて、コミュニケーションも楽しめるところが、子ども達には魅力なのです。

 

たとえば自分で歌を歌ったり楽器を弾いたりして、その動画を発信する。すると、それに対してファンがつき、感想やコメントが書き込まれて、自分がすごく注目を集めていることが目に見えてわかります。こんなことから動画にはまる子は非常に増えています。

 

また、あらかじめ撮影した動画をアップロードして見てもらうほかに、ライブ配信、つまり生放送を行う中高生も増加しています。これもリアルタイムで配信しているのを見ている人達から、「いつ始まるの?」とか「毎晩楽しみにしてます」とか、いろいろなコメントが書き込まれます。すると、自分が注目されている、必要とされていると感じて、気持ちよくなれる。こうなると、確実にはまります。ライブ配信にはまるのは、女の子が多いです。制服だったり私服だったり、顔を出したり出さなかったりといろいろですが、よくこれだけというぐらいたくさんの女の子がライブ配信をしています。

 

こういう動画サービスも、一概に悪いというわけではなく、要は使い方次第です。たとえば、全然年代の違う小学生から大学生までが音楽を共通項に集まって、一緒に演奏して、そのセッションをライブで流す。そしてそこから有名なアーティストが生まれる、というようなこともありえます。しかし、手軽に情報発信できる、自分がメジャーになれるということで、多感な中高生がはまり込みやすくなっていることは事実でしょう。

 

ネット上には、こういったはまり込みやすい仕掛けのサービスやコンテンツがたくさんあって、それを誰もが簡単に利用できるというのが、現在の状況です。

 

 

子ども達の内面の変化

友達の存在が重要

 

人間関係のあり方についても、私達の時代とは明らかに違う心の変化が見られます。

 

私が子どもの頃は、テレビに出てくるヒーローは、一匹狼と言うか、どちらかというと一人で戦うことが多かったですね。アイドルでも昔は一人が多かった。ところが今はグループで戦うヒーローやグループで活動するアイドルが多くなっていて、いろいろなところで集団や仲間や友達が大事という風潮がすごく高まっていると思いますが、子ども達の間でも同様の傾向が強くなっています。

 

データで示しましょう。内閣府発表の『平成25年版子ども・若者白書』で、子ども達が自分にとってどんなことを大切だと思っているか調べたデータがあります。小学5年生から高校生までを対象に、「勉強ができる」とか「お金がたくさんある」といった選択肢を示して、この中で一番大切なものは何? と訊ねたアンケートで、「友達がたくさんいる」と答えた子どもがとても多いのですね。学齢によっていくらかばらつきはありますが、たとえば「勉強ができる」を選んだ子と比べると、「友達がたくさんいる」はその2倍以上と、大きな差がついています。調査自体は平成21年に行われたものですが、ここには、友達の存在を特に大事に思う、現代の子ども達の意識が現れていると言えるでしょう。

文部科学省が行った『児童・生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』(平成24年度)の中に、小中学生を対象として、不登校の児童生徒がなぜ学校へ行かなくなったかを調べた結果があります。このうち、「学校に係る状況」という分類に注目すると、不登校になるきっかけとして一番多いのは「いじめを除く友人関係をめぐる問題」で、中学生について言うと調査対象の15.7%がこのケースに該当するという結果です。「いじめ」を不登校のきっかけとするケースが2.1%ですから、それよりもはるかに多いです。小学生でも、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」のほうが、「いじめ」をきっかけとする人数よりずっと多くなっています。一般的な印象としては、いじめがきっかけで不登校になるケースが一番多いのではないかと思いがちですけれど、実はそうではない。このデータからもやはり友達の存在が非常に重要であることがわかります。

周囲との関係を重視する子ども達

 

人間関係の変化を示すデータをもう一つ紹介しましょう。ベネッセ教育研究開発センターが、小学生から高校生を対象に、「あなたは仲間外れにされないように周りに話を合わせますか」と訊いた調査では、どの学齢でも、話を合わせる傾向が高まってきていることがわかります。小学生の場合、話を合わせるという子どもが2004年には46.7%だったのが2009年には51.6%と、2人中1人以上まで増えています。中学生も43.3%が44.4%に、高校生も39.1%が41.1%にとそれぞれ増加――実に4割以上の子ども達が、自分の意見を言うよりも周囲に合わせることを選んでいるわけです。これは少々古いデータですが、同じアンケートを今とると、たぶんもっと高い数値が出るのではないかと思います。

このように、自分の意見を言わず、周囲の人に自分がどう見られているかなどと周りのことを考えながら日々行動するには、SNSが必要になってきます。少なくとも子ども達にとってはそうです。人とのつながりを求める気持ちだったり、または友達との関係に対する不安だったり、そうした心理を背景として、人と人とのつながりのために、インターネットやスマホやLINEなどを用いたソーシャルコミュニケーションが必要であるわけです。子ども達の気持ちがこんなふうにどんどん変化していることが今という時代の特徴の一つで、それが依存の問題にもつながってきています。

 

実際、私のところに寄せられる相談の中でも、twitterやLINEがやめられないといった、ソーシャルメディア絡みのものが増えてきています。この傾向は今後ますます顕著になっていくでしょう。

 

子ども達を取り巻く環境の変化

大人と子どものデバイス知識の差

 

ネット依存増加の背景には、デバイスの変化というものもあります。みなさんはiPod Touchという製品をご存知だと思いますが、これを音楽プレイヤーだと思って子どもに与えている親御さんがいます。ところが子ども達はWifiの届くところで、iPod Touchでネットを使っているのです。

 

これに限らず、いまやネットに接続できる機器はいろいろありますし、公共の場で無料で使えるWifiもあります。しかし、そういったデバイスなどに関する知識が乏しい大人が案外多くて、親御さんに注意しても「うちはスマホは持たせていないから、外でネットをやるはずはない」という答えが返ってきたりするのです。

 

家庭意識の変化 ~親もスマホやpcに熱中

 

ネットやスマホによって生活あるいは意識に変化が生じているのは、親の方も同様です。

顕著な例で言うと、近頃は若いお母さん達の間、つまりママ友同士でもLINEやtwitterを介したつながりが非常に密になっていて、そこで特定の誰かを仲間はずれにするという子どものいじめと同じことが起きています。そのため、中高生と同様に母親達も必死でソーシャルネットワークの世界についていかなければならない。そしてそういう親のふるまいに影響された子ども達は、ネット依存になる傾向が強いのです。

 

あるいは、小さい子がギャーギャー騒いでうるさい時に、自分で注意せずにスマホを与えて静かにさせるなど、完全に誤ったネットの使い方をしている親も少なくありません。

 

さらに親がゲーム好きで家族そっちのけで熱中したり、父親が帰宅後もパソコンでずっと仕事をしたりしている姿を見て「ずっと使ってもいいものなんだ」と思い込む。こういう親のネットの使い方を見て育った子ども達が、右に倣えで依存になっていくというケースも増えています。

 

エンジェルズアイズには、子どもだけでなく、大人の依存の相談も多く寄せられていますが、そうした大人のネット依存が子どもに影響を与えるということが家庭内では起きやすいのです。大人にはその点をしっかり意識してほしいと思います。

 

学校環境の変化 ~携帯・スマホの持ち込み可

 

先ほど、震災後は中学校でも携帯やスマホの持ち込みが許されるようになってきたという話を紹介しましたが、このように学校側も変化しています。

偏差値の高い進学校の中には、自己管理に任せるということで、学校内でスマホを使っても注意しないというところがあります。授業中にスマホをいじって、その結果成績が落ちたとしても、それは自分の責任だろうということで放っておくのだそうです。

 

それはごもっともですが、放任することでいじめやトラブルが起きているという側面もあって、そこは無視できません。とはいえ、もはや学校側の指導ではスマホの使用を止めきれないというのも事実で、おそらく先生方も心中は非常に複雑な思いを抱えているのでしょう。ただやはり、携帯やスマホの持ち込みや使用が自由になったことと、中高生のネット依存が増加していることの関係は、決して小さくないと思います。

 

定額制で使い放題

 

ところで、インターネット依存の問題は、Windows95が発売された1995年頃には、すでにアメリカで起きていて、ネット依存というものがあると提唱した人もいました。といっても、当時のネット接続は、使った分だけ料金が発生する従量制でしたから、その頃ネットにはまるという問題を抱えていたのは、経済的に恵まれた人などほんの一部のユーザーに限られていました。

 

それが現在では、定額制で使い放題というのが普通です。しかもいろいろな割引があって、誰もが機器を買いやすく、また長時間使いやすくなっています。今や、学校の給食費は払えなくても携帯は買ってしまうという時代なのです。この経済的負担の軽減が、さらにネットに依存しやすい状況を作り出していることは断言してよいと思います。

 

親の共働きも影響か

 

また、これは学校の先生方とやりとりする中でよく話題に上るのですが、景気が悪くて生活が苦しくなってきていることも、依存の問題と関連していると思います。

 

どういうことかと言うと、保護者が共働きになると、子どもにスマホなり携帯電話なりを与えて、それで連絡を取るようになります。面と向かったコミュニケーションよりも、そういうものを使わざるを得ないような関係が普通になってきているのです。食事についても、子どもに500円なり1000円なりを渡して「じゃあ今日は外でご飯食べて来てね」と言う。すると子どもの方は、LINEで「今日一緒にメシ食える人いる?」みたいな感じで友達と連絡し合って、みんなでどこかに集まって食べるといった具合です。しかもそうした連絡を取るのに、コンビニならば24時間Wifiがつながりますから、特にこれといった不便もありません。こういった環境の変化も、微妙にではありますが、依存の増加に影響を及ぼしているのではないかと思うのです。

 

プロフィール

遠藤 美季(えんどう みき)

 

任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー