中高生のネット利用のトラブルと問題点


3.ネット依存の現状

ネットのために睡眠や勉強を犠牲に

 

再び橋元研究室のデータに戻って、依存につながるネット利用の問題点についていくつか見てみましょう。

 

小学4年生から大学生を対象として、「ネットのためにあなたは何を犠牲にしていますか」と複数回答で訊ねた調査の結果があります。これは自己認識を訊いたものなので、客観的なデータではないのですが、そこにはやはり勉強との関わりが出てきます。 

 

注目したいのは、「勉強」「友達との会話」といった選択肢がいくつかある中で、「睡眠」と「勉強」の2つを選んだ子がとても多いことです。睡眠と勉強そのどちらもが本当に必要なものだということは大半の子どもが理解しているはずなのに、そのための時間をネットに使い、“犠牲にしている”と認識している。つまり、本当はよくないけれどやめられない、という状態にあるわけで、まさにこれがネット依存です。 

自宅にいる時間が長くなるが、睡眠時間は減る

 

睡眠時間への影響は、パソコンによるネット利用の時間と生活時間の関係を調べた結果にも、携帯やスマホによるネット利用の時間と生活時間の関係を調べた結果にも、現れています。

 

たとえば、パソコンによるネットの利用時間が30分以下の子ども達の平均睡眠時間が423.8分=7時間強であるのに対し、120分を超えてネットを使う子ども達の平均睡眠時間は372.2分=6時間10分ほどと、両者の間には約50分もの差が見られます。

携帯・スマホの場合も同じように、ネットを10分以下しか使わない子ども達の平均睡眠時間は425分、60分を超えてネットを使う子ども達の平均睡眠時間は371.2分と、ここでも50分以上の差が見られ、機器の違いに関係なく「ネットの利用時間が長くなるほど睡眠時間が短くなる」傾向にあることを確認できます。

同じくこの調査からは、パソコン、携帯・スマホのどちらの場合でも、「ネットの利用時間が長くなるほど自宅にいる時間が長くなる」という傾向もうかがえます。要するに、パソコンはもちろん、携帯・スマホを使う場合でも、ネットは自宅で利用することが一番多く、したがってネットの利用が増えれば増えるほど必然的に自宅にいる時間が長くなるということです。

 

この調査の結果では、携帯・スマホの場合に、「ネットの利用が増えるほど友達との会話時間が増える」傾向がある点も目を引きます。これは、もともと学校でしか話をしない友達との間でも、携帯やスマホが手元にあるために、家に帰ってからも話をする機会が増えるということです。

 

使えば使うほどSNSが負担になる

 

ネットを長時間利用する人達には「ソーシャル疲れ」の問題もあります。大人だけでなく子ども達の間でもソーシャル疲れが非常に増えているのです。そして橋元研究室の調査では、ネットの利用時間が長い人ほど、ソーシャルメディアをより負担に感じているという結果が出ています。

 

twitterであるとかFacebookであるとか、頻繁にアップされる情報を常に追い求めているうちにネットの利用時間が長くなり、それに伴ってソーシャルメディアに対する負担感も増していく。にもかかわらず、ほかの人の書き込みや反応が気になって仕方なかったり、すぐに返事をするのが義務となっていたりして、どれだけ負担を感じていてもSNSをやめない、やめられない。こうした一種のジレンマによって引き起こされるソーシャル疲れがネット上の大きな問題であることは、多くの人が認めるところでしょう。

事例に見る子ども達の現状

次に、ネット依存について具体的な話をしましょう。ネット依存が増加する現在、子ども達がどういった状況にあるのか、それをご理解いただくには、エンジェルズアイズにどんな相談が寄せられるかご覧いただくのが一番話が早いかと思います。

 

【相談例1】

「娘がtwitterばかりやっていて困ります。成績が落ちていくことも心配ですが、最近ではtwitterで知り合った人とのオフ会にも参加しています。危険だからと注意しても、聞きません。誕生日に買ったiPod touchでネットをしていますが、最近エスカレートして、親が寝た後もやっているようで、朝起きられません。半年前に買ったばかりなのですが、このままだとネット依存になってしまいそうで心配です」

 

これは高校生の娘を持つお母さんからの相談です。この子のように、ネットを始めて一瞬にしてはまってしまったというケースは、私どもに寄せられる相談の中でも結構多いです。半年どころか、ほんの2,3か月で依存してしまったという相談もあります。

 

【相談例2】

「今夏休みの中学2年です。毎日夜中までネットをやってしまいます。twitter上にも仲のいい友達がいて、毎日会話をしています。ここ数日は相手のことが気になって、『twitterを見て安心する』感じです。面と向かって話をすることが苦手な私にとっては、画面を通して会話することがとても楽です。母親に注意され、肌も荒れて目も疲れたことを自覚しましたが、やめられません。私はどうしたら依存を治すことができるのですか?」

 

これは中学生本人からの相談です。自分から相談してくるくらいなので、自分が問題を抱えているという自覚はあるわけです。でも、やめたいのにやめられない、どうしたらいいかわからない。ということで、このようにアドバイスを求めてくるのですね。

 

【相談例3】

「14歳中学3年男子です。小6の頃からネットをはじめ中1でネトゲにはまりました。最近はネットをやっていないと落ち着かず、話しかけられるとイライラします。友達の誘いも嫌だと感じ、家族との会話も減りました。最近は『憎い友達をどうすれば殺せるか』『どうやって自殺するか』しか考えていません。学校でも自分の机をカッターで切りつけたりしています。自分の何もかもが壊れていきます。母は、ネット依存が理解できず怒るばかりです。苦しいです」

 

ネトゲというのはネットゲームの略称で、オンラインゲームのことです。この子のように、受験期の子どもには多くのプレッシャーがかかりますし、当人もいっそうの焦りを感じて、ますます自分の心や行動のコントロールが難しくなります。そこに親御さんが「勉強しろ」と言って追い討ちをかける。これでは、状況は悪化するばかりです。

 

【相談例4】

「学校の友達とグループでLINEをしています。夜遅くまでしているので、毎日、寝不足と学力低下で悩んでいます。やめたい気持ちはあるのに、どうしても自分からやめることができません。志望校も無理と言われ、ランクを下げなければならなくなりました」

 

これは最も代表的な、いまどきの中高生の悩みです。寝不足による「体調不良」。みんなと一緒にやっているので自分だけやめるわけにはいかないという「同調圧力」。そして「学力低下」。これらは現在、子ども達の中でとても身近な問題となっているのです。とりわけ学力低下とネット依存には非常に密接な関係があります。

 

【相談例5】

「高校生になる娘が複数のLINEグループを作り、頻繁にやり取りしている、食事中やベッドの中、勉強中でさえも利用しているため成績が下がっている。注意すると血相を変えて起こる、家族内の空気が悪くなって困っている」

 

これは学校の先生から寄せられた相談です。生徒の保護者からこうした相談が寄せられるというのです。ところが先生自身、ネット依存への対応の仕方がわからないので、エンジェルズアイズに相談してくる。学校の先生からは、依存の相談だけでなく、ネットいじめに関する相談もよく寄せられます。

 

 

2種類のネット依存

外からは見えにくい「インドア型」の依存

 

ところで、一言でネット依存と言っても、この問題はあまりに多様なので、私は便宜上これを2種類に分類しています。「インドア型」と「モバイル型」の2つです。

 

「インドア型」というのは、家の中に引きこもってネットをする形の依存で、ネットにはまっている姿は外側からはあまり見えません。そのため、子どもの遅刻が増える、不登校になる、といった段階まで来てようやく保護者や学校の先生が気づく、というケースが多いです。こちらの依存は、オンラインゲームや動画のアップにはまっているケースが目立ちます。

 

このきっかけとしては、多くがネット上のゲームの広告を見て興味を持ったとか、学校や塾の友達に「あのゲーム面白いよ。一緒にやろうよ」と誘われたというパターンです。中には、親がもともとオンラインゲームにはまっていて、それを見て自分も始めてしまったという子どももいます。

 

オンラインゲームというのはどんどん進化していて、最近のものはグラフィックが素晴らしく美しいです。ゲームシステムも巧妙にはまりやすいように作られていることもあって、インドア型の依存は確実に増えてきています。

 

ただし、外から見えないところに引きこもっていると言っても、他者とのやりとりを絶っているということではなく、インドア型依存の人の生活にもネット上の人と「コミュニケーション」はあります。1つの例として、大学4年間のうちの3年半ずっとオンラインゲームにはまっていたある男性は、ゲームをプレイするのと、ゲームの中でほかのプレイヤーとコミュニケーションをとるのとでは、3対7の割合でコミュニケーションの方が多かったそうです。そして、ゲームの中で知り合った女性と、ゲームの中で「結婚」しました。そうなると今度は、「妻」を捨てて自分だけやめるわけにいかないので、ますますオンラインゲームの世界から抜け出せなくなってしまう。ところが大学4年のある日、同級生が内定が決まったと言われてショックを受け、一気に目が覚めて、「妻」も何もかも捨ててやめてしまった。このコミュニケーションの力というのは非常に大きく、また重いと思います。

 

また、ネット依存の問題は、実は発達障がいとも非常に密接な関係があって、アスペルガー症候群やADHD(注意欠陥多動性障碍)の子は特にオンラインゲームなどにはまりやすいようです。精神科の先生方にうかがっても、サポート校の先生方にうかがっても、みなさんそうおっしゃいます。やはりシステム上、平面的なコミュニケーションがとりやすいところがその理由でしょう。また、そうした子は物事に対するこだわりが強いので、いったんはまってしまうと抜け出しづらいという側面もあるようです。

 

インドア型の依存は、リアルな外部にほとんど接触を持たず関心もなく、その生活パターンは「寝る・食べる・ゲームする」の繰り返しです。そのため、もし自宅で暮らしていて家族が食事を運んでくれるなら、あっという間に肥満をはじめとする健康面での問題を抱えることになります。そうなると、何年というスパンで治療が必要になってしまいますので、こういう事態は絶対に避けなければなりません。

 

また、治療と言っても、専門家が非常に少ないので、どこでも簡単に診てもらえるわけではありません。その数少ない一つである久里浜の医療センターでは、新規で治療を受ける場合には3か月先ぐらいまで予約が一杯だそうです。とにかくこのタイプの依存は、家の中で起き、症状が進みますから、学校や塾といった場所ではその存在にいま一つ気づきにくいがゆえに、非常に大きな問題となっています。

 

ネットをいじっている時間が長くなりがちな「モバイル型」の依存

 

もう一方の「モバイル型」は、スマホやタブレットといったモバイル端末を使ってネットをする形の依存で、これは案外見ていてわかりやすいので、学校でも家庭でも塾のような場所でも比較的気がつきやすいと思います。こちらはtwitter、LINE、Facebookなどのソーシャルメディアや、ソーシャルゲームにはまっているケースが大半です。「親や友達との連絡に必要」という大義名分で使い始めて、そのうち依存する、というのがこのタイプの一番の特徴でしょう。

 

また、そうしたソーシャル系のサービスやコンテンツを暇つぶしに使っているうちに依存してしまった、というケースが多い点も特徴です。暇になると、すぐにスマホを手にしてアプリを立ち上げることが癖になって、それを繰り返すうちにやめられなくなってしまうわけです。

 

スマホアプリの進化の速さも、依存の要因に挙げられます。昨今は、本当にいろいろな人達がアプリやサービスの開発に参入しています。そのため、アプリもどんどん進化し、次々に新しいものが出てきて、業界の競争はめまぐるしい限りです。この進化の流れに呑まれて、より新しいもの・面白いものを追い求め続けると、ますますネットにはまってしまう危険があるのです。さらに、定額・無料のサービスが増えていることや、子どもがスマホを持つことに関する親の意識が変化してきていることも、モバイル型の依存が増える要因に数えられると思います。

 

モバイル型で厄介なのは、「ながら利用」が容易なことです。勉強しながら、食事しながら、歩きながら、お風呂に入りながら、トイレに入りながら…。パソコンと違って機器を手軽に持ち歩けますから、いつでもどこでもネットを利用するため、使用時間が極端に長くなります。またいわゆる「歩きスマホ」に関しては、周囲への迷惑などの問題も無視できません。

 

では、そのようにソーシャルメディアにはまることで、モバイル型依存の人の友人関係は充実しているのでしょうか? これが実は、リアルな友達がどんどん減っていくという場合が多いのです。ですから、なんとなく友達関係が変わったとか、いつも孤立して携帯を見ているという様子が見られたら、もしかするとその子はモバイル型の依存かもしれません。また、「この子はいつもスマホをいじっているが、家でもそうなのかな、勉強中にもやってるのではないか」と思わせるような様子も要注意なのです。

 

プロフィール

遠藤 美季(えんどう みき)

 

任意団体エンジェルズアイズを主宰。アニメーションカメラマン、PCインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対し子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年にエンジェルズアイズを立ち上げる。PCインストラクターをしていた頃、生徒やインストラクター仲間のなかに、インターネットをしているときに人格が普段と一変してしまう人を見たのがきっかけ。2005年からはWeb上での普及啓発活動を、2006年からは保護者、子どもからのメールによる相談の受け付け、助言も行っている。ネット依存は予防こそが決め手であるが、当然ながら、相談者にはすでにネット依存に苦しんでいる人たちや家族からのものも多い。
講座内容のひとつ「情報モラル講座」ではトラブルを避け快適なネット利用についてアドバイスも行っている。またアンケートによる意識調査や取材などを通じ、現場の声から未成年のネット利用についての問題点を探り、ネットとの快適な距離・関係の在り方について提案している。
※情報教育アドバイザー