高校サイドから 柏陽高校での「慶應入試」の試行

受験科目として選ぶ可能性。課題は受験勉強だが、役立つと思っている

神奈川県立柏陽高等学校 間辺広樹先生


4. アンケートの結果および考察

4.1 結果 ~情報は社会に出て立つ教科との認識

アンケートは、情報入試(Q1~Q14) と自分の将来(A~D) について選択式で回答させています。まず、「情報入試」に関するアンケートの結果を表3と図5に示します。アンケート項目の内容については2-3で示しましたが、ここではアンケート結果から、「観点1:参考試験の難易度と内容」と、生徒の「観点2:生徒は情報入試をどのように考えたか」や「観点3:生徒は情報の授業をどのように考えているか」という3つ観点で、どのような特徴が見られたのかを解説します。

観点1

参考試験の難易度と内容

「参考試験の内容や難易度」という観点は、Q2、Q3、Q4、Q13 の結果に特徴が表れた。

・Q2の「参考試験は難しかったですか?」という問いに対して、「1. とても難しかった(40.0 %)」と「2. 少し難しかった(43.3 %)」を合わせて、80 %以上の生徒が難しさを感じる結果となった。

・Q3の「今回の試験は自分で何%くらい出来たと思うか?」の問いに対して、「3. 50%~25%(35.0%)」「4.25%以下(20.8%)」を合わせて50%以上が『半分もできていない』と認識した。

・Q4の「問題の意味がわからない箇所がありましたか?」という問いに対し、「1. 全部(5.8%)」「2. たくさん(25.0%)」「3. 少し(43.4%)」を合わせて70%を越える生徒が問題文のわかりにくさを感じる結果となった。

・Q13の「情報の前期評価はいくつだったか?」の結果と試験結果について、それぞれに相関を調べたが、顕著な相関は見られなかった。

 


Q2「参考試験は難しかったですか?」

Q3「今回の試験は自分で何%くらい出来たと思うか?」

Q4「問題の意味がわからない箇所がありましたか?」

Q13「情報の前期評価はいくつだったか?」

観点2

生徒は情報入試をどのように考えたか

「情報入試の考え方」という観点は、Q6、Q7、Q9、Q10、Q12、Q14 の結果に特徴が表れている。

・Q6の「情報が入試科目だったら受験に影響するか?」に対して、ほとんどの生徒は大きな影響を受けないと答えたが、6.7%の生徒が「その大学の受験を止める」と答えた。

・Q7の「受験科目だったらどんな行動をするか?」に対しては、「1. 参考書を探す(40.8%)」と「4. 教科書を読む(35.8%)」を合わせて75%を越えた。

・Q9(文系)、Q10(理系) の「受験科目が情報を含めた4科目から3科目を選べるとしたらどの組み合せを選ぶか?」に対しては、文系は従来の「1. 国語・社会・英語」が52.3%と半数を越えたのに対し、理系で従来の「1. 数学・理科・英語」は31.0 %と少なく、文系と理系で差が生じた。

・Q12の「情報入試を支持するか?」に対しては、「1. 強く支持する(9.2%)」「2. 少し支持する22.5%)」と支持するの合計が31.7%だったのに対し、「3. あまり支持しない(39.2%)」「2. 全く支持しない(29.2%)」と支持しないの合計が68.4 %となり、支持するを上回った。

・Q14の「別の参考試験問題を解いてみたいか?」に対しては、「1. 強く思う(12.0 %)」「2. 少し思う(35.9%)」の肯定派の合計が47.9 %、「1. あまり思わない(27.4%)」「2. 全く思わない(24.8%)」の否定派の合計が52.1%と、ほぼ半々に分かれた。


Q6「情報が入試科目だったら受験に影響するか?」

Q7「受験科目だったらどんな行動をするか?」

Q9(文系)、Q10(理系) 「受験科目が情報を含めた4科目から3科目を選べるとしたらどの組み合せを選ぶか?」

Q12「情報入試を支持するか?」

Q14「別の参考試験問題を解いてみたいか?」

観点3

生徒は教科情報をどのように考えているか

次に、「生徒の情報の授業の捉え方」という観点の特徴を示す。Q5、Q8、将来の質問Bにそれが表れている。

・Q5の「情報が入試科目だったら授業を受ける姿勢は変わるか?」に対しては、「1. 今よりかなり頑張る(37.5%)」と「2. 今より少し頑張る(40.0 %)」を合わせて75.5%と、8割近くの生徒が授業態度に影響すると答えた。

・Q8の「情報は大事な科目だと思うか?」に対しては、「1.強く思う(20.8%)」と「2. 少し思う(58.3%)」を合わせて79.1%と、8割近くの生徒が大事に思うと答えた。

・将来の質問Bの「将来、社会に出て役に立つ教科はどれだと思うか? (3つを選択)」に対しては、50人(41.7%) の生徒が情報を選択した。これは英語の98 人(81.7%)に次ぐ、2番目に多い生徒数となった。


Q5「情報が入試科目だったら授業を受ける姿勢は変わるか?」

Q8「情報は大事な科目だと思うか?」

質問B「将来、社会に出て役に立つ教科はどれだと思うか? (3つを選択)」

4.2 考察 

~理系7割が情報を選択。しかし、受験勉強のノウハウがない

生徒の情報入試と教科情報に関するアンケート結果をまとめると、以下のようになります。

生徒にとって情報が英語に次いで「役に立つ教科」であり(B)、「大事な教科」と思っている(Q8)が、その一方で、受験科目に入ることは支持していない(Q12)。

 

しかし、いざ情報が入試科目になったら、今より頑張って授業を受け(Q5)、また、勉強して受験する(Q6)。特に、4科目から3科目を選ぶ選択受験制となった場合に、文系で約半分(Q9)、理系で約7割(Q10)の生徒が情報を含めた3科目を選ぶ。

 


このよう情報入試や教科情報を生徒が捉えているという事実の背景を、次のように解釈しました。

 

情報が必修化されてから10年以上が経過しましたが、その意義や役割は十分に認められていると思われます。ただし、大学入試には情報以外の多くの伝統的な科目が存在しています。生徒には、それらを学ぶための方法がある程度は身に付いていますし、効率的に学ぶための書籍や方法論も巷には溢れています。これから先もそれらの科目で受験するものと思っていて、それらに対する覚悟もありました。

 

しかし、新たに情報が入るとしたら、入試科目が1つ増えることになります。1つの科目を入試レベルまで引き上げる負担感は大きいものです。また、いざ情報で受験しようと思っても、何を勉強したらいいかはわかりにくく、現場の教師が導いてくれるものでもありません。

 

今回のアンケートでは、Q7の「情報が受験科目になったら、どうやって勉強するか?」の問いに対しては、「1.情報の参考書や受験用問題集を探す」と答えた生徒が40.8%と最も多かったのですが、情報受験に特化した参考書や問題集は見当たりません。また、「2. 教科書をよく読む」と答えた生徒も35.8%と多いのですが、今回の参考試験のような入試レベルの問題に対して、教科書は十分な情報やノウハウを提供していません。つまり、どのように情報の受験勉強をすればよいかのノウハウがないのです。情報自体が入試にそぐわない教科と思われているわけではありませんが、入試科目としての支持を得られない理由がいくつもあるのです。

 

実際、志望校で情報が必須の入試科目であれば、それは勉強するしかないと考えています。特に、選択できるのであれば、情報を含めた科目選択をしようとする生徒は多いのです。苦手な科目よりも情報に自分の可能性があると考えていると言えます。つまり下地はあるのです。時間は掛かってしまうかも知れませんが、生徒に情報入試を考える機会を継続的に与えていくことが必要だと思われます。

 

その意味で、今回のSFCのように情報入試への取り組みは価値のあることであり、今後、多くの大学で同様の取り組みを行ってくれることが望まれます。情報入試を高校の授業の中で利用していくことも、理解を深めたり、生徒の意識を刺激する可能性があります。

 

参考書や問題集の充実など、学習しやすい環境を整えることも必要だと思われます。参考試験等を継続的に作成していくことで、入試レベルの問題は蓄積され、参考書や問題集などに再利用することもできるでしょう。

 

Webを活用することや既存の学習教材を授業に使うことも効果が期待できます。柏陽高校では、論理的な思考を楽しく学ばせる目的で「ビーバーコンテスト」を利用しています。今回のアンケートでは、Q11の「試験内容はビーバーコンテストと関連する(練習になる) と思うか?」の問いに対し、「1. 強く思う(12.0%)」と「2. 少し思う(35.9%)」を合わせて6割近くの生徒がその関連を認めています。そのような利用価値の高い教材を高校間や大学―高校間で情報交換しながら有効活用していくことが必要だと考えます。

 

5. まとめ ~情報教育に明るい材料もみえてきた

大学入試科目に情報が入ることは、生徒の学習する機会を増やすと同時に、動機付け効果も重なり、教科目標の達成を導くと考えられます。今回、参考試験として実施・公開を行ったSFCの取り組みに対し、試験の実施と分析し、「情報入試に必要な学習」と「情報入試に対する生徒の考え方」を明らかにしました。情報が役立つと感じられている教科であり、入試科目を選択制にした場合に、情報を含めた科目選択をしようとする生徒は多いという事実は、情報教育にとって明るい材料です。柏陽高校でも今回の調査結果を元に、授業改善を行いたいと考えています。

 

 

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村井純先生
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慶應義塾大学「参考試験」問題解説
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