高校サイドから 柏陽高校での「慶應入試」の試行

受験科目として選ぶ可能性。課題は受験勉強だが、役立つと思っている

神奈川県立柏陽高等学校 間辺広樹先生


3. SFC参考試験の結果および考察

3.1 結果 ~第6問は配点高く、差が生じた

下記に、A組、B組、C組で行った試験結果をまとめました。100点換算した値で比較すると、B組が行った第4問が61.3点と最も高く、C組が行った第6問が39.8点と最も低い結果となりました。

・第3問は最高と最低の差が少なく、標準偏差も他の2問に比べて13.5点と低い。また、左右対称の分布になった。

・第4問は最高と最低の差が大きく、また、標準偏差も21.4点以上と高くなり、左に歪んだ散らばりの大きい分布となった。

・第6問では、高い配点の問題の出来の有無に左右され、極端に非対称な分布となった。

 

クラス毎(問題毎)の結果

第3問(左)、第4問(中央)、第6問(右)の得点分布

次に各問題の小問毎の正答率と、小問毎の結果の特徴を説明します。

<第3問>

小問13問は、正答率が8割以上と5割以下に2極化した。(ア)(問題番号1-5)のグラフの問題では、棒グラフや折れ線グラフは答えられているが、レーダーチャート、帯グラフ、散布図が答えられていない。(イ)(6-17)の待ち行列の問題では、前半の計算問題は誘導に従ってよくできているが、窓口が増えた場合に応用する問題(14-15、16-17)ができていない。(ウ)のプロジェクト管理の問題(18-19)では、正答率が7.5 %と極端に低かった。


第3 問の正答率(A組40名)

<第4問>

小問8問は、正答率が9割以上、6割程度、3割以下3つのタイプに分かれた。(ア)(問題番号21-33)の2進数の問題では、10進数を2進数に変換するだけの基礎的な問題は全員ができている。しかし「下位3桁を求める」(24-25)や「循環小数となる」(29-33)と応用する問題が、それぞれ25.0%、27.5%と低い正答率になった。(イ)(34-41)の無向グラフの問題では、すべて6割以上ができていて、表から無向グラフを作成できた様子が伺える。


第4 問の正答率(B組40名)

<第6問>

小問5問は、正答率100%から12.5%まで分かれた。(ア)(問題番号17-20)の変数を扱う問題では概ねよくできているが、ループの中に式を作る問題(20)で55.0%と他の(ア)の小問に比べ低い正答率となった。(イ)(21-31)の手順を作る問題では、12.5%と極端に正答率が低かった。


第6 問の正答率(C組40名)

3-2. 考察 ~能力差を測ることができる質の高い問題。易し過ぎる懸念も

高校の立場から参考試験の評価を行い、その上で、受験対策に必要な学習内容を考察します。

参考試験は、今回実施しなかった問題も含め、1つの大問の中に複数の情報科学に関する基礎概念が織り交ぜられていることや、様々な難易度の小問から構成されていることが特徴的です。ほぼ半数の生徒がアンケートでは「別の問題も解いてみたい」と答えているが、そのような変化のある問題形式が生徒に受け入れられたと考えられます。

 

<第3問>

第3問は(ア)と(エ)が統計グラフと、(イ)待ち行列と(ウ) プロジェクト管理によるシミュレーションを扱っている。統計的な思考や情報と数学の授業の中で扱ってきたが、(ア)の結果から生徒の帯グラフ、レーダーチャート、散布図の理解が十分でないことがわかった。また、(エ)の結果から応用力が十分に備わっていないこともわかった。受験対策としては、グラフの種類を知り、用途に応じて正しく使える能力の育成が必要である。

 

(イ)の待ち行列の問題では前半の計算は問題文に誘導されて適切に解くことができているが、後半大幅に正答率が低下した。これは、多くの生徒が、問題8-9 の「1人で1時間に応対できるお客さんの数が60 人」であることを踏まえて、問題14-15で「応対する人を2人にすれば30 人」と考えることができなかったためである。これは、待ち行列理論を学んでいれば解ける問題であると同時に、常識的な判断で考えても解ける問題である。受験対策として様々な理論を学ぶ必要はあるが、問題文の意図を読み取って、注意力深く考えようとする態度も必要である。

 

(ウ)のプロジェクト管理の問題では、与えられた表から有向グラフやガントチャートなどを用いて進捗状況を整理する問題である。授業で扱う内容ではないが、情報をわかりやすい形に置き換える等の能力を見る問題である。ただし、この問題の正答率は7.5%(3名)と極端に低い。正答は8日であるが、生徒の解答を見ると55.0%(22名)が9日と答えている。これは、「最短で[18][19]日前に最初の作業を始めればよい」という問に対して「何日間で作業が済むか」と多くの生徒が勘違いをしたことが原因と考えられる。読解力はどの教科でも重要な要素である。受験対策としては、前の問題と同様に、注意深く問題文を読み解く姿勢が必要である。

 


<第4問>

第4問は、2進法(ア)と無向グラフ(イ)という数学分野の問題である。(ア)では2進数と10進数の基数変換の基本問題から分数表現という応用問題への流れがある。生徒は2進数は学んでいるので基本問題は全員が正解している。しかし、応用問題では正答率が下がり、力の差を測れる問題になっている。ただし、基数変換の原理である位取り記数法を理解していれば解ける問題である。10進数から2進数への変換は「2で割った余りを繋げて記述する」という方法で行うことができるが、正答率から、方法は習得できていても、原理を理解できていないと考えられる。受験対策としては、個々の概念について正しくその原理を理解することが必要である。

 

(イ)の無向グラフの問題では、表から自分でグラフを作成する能力が問われている。情報をわかりやすく整理するという意味では、第3問の(ウ)に共通する内容である。落ち着いて考えれば解ける問題であり、大問の後半問題としては第3問、第6問と比べて正答率は高くなった。待ち行列と同様に理論を正しく学んでいれば解きやすくなるが、知らなくても常識的な判断で解ける問題である。受験対策としては、日常的に「情報をわかりやすく整理する/伝える工夫」を意識する姿勢が大切である。

 


<第6問>

(ア)(イ)共に、プログラミングの問題である。プログラミングの経験がなくてもアルゴリズム的な思考を行うことで解けるように工夫されている。(ア)では、変数の概念を扱っている。概ね正答率は高いが、繰り返し処理の中での変数の扱いで、他に比べて正答率が55%(22名)と低くなった。この変数の概念の理解が(イ)に繋がっている。

 

(イ)は選択肢より11文を選んで適切な手順に並べる問題である。かなりアルゴリズム的な思考力やプログラミングの経験が必要な問題である。実際、正答率は12.5%(5名)と第6問の中で最も低くなった。この問題では、11文が正しく並んでないと正答にはならない。生徒の誤答を見ると、ほとんど手付かずの状態のものから、1~2文が違っているだけの惜しいものもあった。配点も30点と最も高いことから、大学が求めるレベルの高さを物語っている。

 

プログラミングの問題に対しては、実際に何らかの言語を用いて経験を積むことが望ましい。教育用途に作られたプログラミング言語もたくさんあるが、受験対策としては、タイル操作などで行うビジュアル言語ではなく、テキストで記述する言語で学習することが必要と考えられる。また、それと並行して様々なアルゴリズムを理解し、プログラミングで実装できる能力を育てることも必要と考える。

 


それぞれの問題はよく練られていて、生徒の能力差を測ることができました。この3問を実施しただけでも、「情報の科学」で重要な問題解決能力としてのシミュレーション、統計的分析、手続き的な処理について、生徒の能力差を適切に測ることができると思います。参考試験という扱いではありましたが、本物の入試問題にも使える質の高さを有していると考えられます。

 

ただし、受験勉強をしていない1年生であっても、4割~6割の得点率を確保しているため、受験生が「本格的な」対策を行った場合には、易し過ぎて差がつかないことも懸念されます。SFCやこれから情報入試を行おうとする大学には、上記の結果を踏まえた問題作りを期待したいと思います。

 

また、高校の立場からすれば、これらの問題は授業用教材として価値が高いといえます。誘導型の問題や情報を整理する問題では、授業で扱っていない概念であるにも関わらず、流れにそって解いていくことで、生徒は自然とその概念を理解できるようになっていました。また、応用問題は授業で学んだ基礎を発展させる能力が問われるものでした。これらの要素を授業の中に取り入れることで、生徒に主体的に考えさせる授業となります。今後も同程度の基準で参考試験を作成/実施していただき、問題を蓄積していくことを期待します。

 

第3、4、6問の問題・解答はこちらから

※慶應義塾大学HPで公開されている全問題・解答についてはこちらから

http://www.sfc.keio.ac.jp/joho_sanko_2014_kekka.html

 

 

SFC参考試験問題

第3問の解答


第4問の解答


第6問の解答


【特集】2016年度慶應新入試、「情報」の問題案公開へ
〜変わる大学入試を示す「論理的思考力も問う情報入試」

村井純先生からの「メッセージ」と柏陽高校での試行公開

慶應義塾大学「参考試験」問題解説
アルゴリズムやシミュレーション、計算も多く、「情報の科学」中心