研究6

「コンピュータの計算原理」を理解させる体験的な学習法と教材の考察

~ビット列が理解できる「01カード」と加算回路が理解できるソフトウェアを開発

神奈川県立柏陽高等学校 間辺広樹先生


間辺広樹先生
間辺広樹先生

情報の科学的理解が重要であるということは言うまでもないことですが、生徒はコンピュータが計算機であるという認識を持っておらず、コンピュータがどのように計算しているか理解できていません。そこで、コンピュータの計算の仕組みを理解させるための学習法と教材を開発しました。

授業では、「コンピュータが行うビット列の処理手順を理解させること」を目標にしています。そのためには、まず、二進数の加算を理解しなければいけません。さらに論理回路と、それらが積み重なって加算回路になるという概念を理解するには、長い道のりとなります。

 

そこで、私は二進数の加算については、カード教材を使って、わかりにくさの克服を図りました。カード教材には、視覚的なわかりやすさ、試行錯誤しながらいろいろ考えられる、繰り返しできる、あるいはグループで考えたりできるといったメリットがあります。手作業でコンピュータ内部の動きを体験する活動は、コンピュータの仕組みを理解するのに非常に効果があるということが、先行研究からも知られています。

 

さらに、カード教材では理解が難しい、加算回路については、コンピュータで作成したソフトウェアも用意しました。教材開発には、先生が単に知識を教えるよりも、体験を通して生徒自身が発見するといった要素を授業に取り入れられることを留意しています。

 

「01カード」で、シフト、加算、減算が理解できる

1枚を1ビットと見立てた、「01カード」と名付けたカードを、生徒1人に10枚ずつ用意しました。表裏それぞれ、「1」「0」と書いた単純なカードです。

 

ビット列のシフト演算は、紙に書くよりもカードを使うほうが生徒にはわかりやすいようです。減算は2の補数を使うということもあるわけですが、2の補数を求めるときに「0と1を反転させて1を足す」ということも、カードを使うと生徒は比較的理解できるような気がしています。

 

最初の概念的なものを理解するにはカードが効果的ですが、理解を深めるために、問題を出しあって解答させる活動に移ると、徐々にカード利用は減り、筆記用具との併用、または筆記用具だけになりました。筆記用具のほうが考えがメモできるとか、扱いに慣れているということがあって、二進数に慣れてくると鉛筆でも考えられるようです。

 

加算回路の理解できるオリジナルソフトウェア

生徒はある程度勉強させると、二進数の足し算はできるようになるのですが、それがコンピュータの仕組みとつながりません。人間は何となくできてしまいますが、機械はきちんと設定したり回路をつなげたりとかしなければいけません。また、配線させたとき、果たしてそれが正しいのかどうかということが生徒にはわからない。それで開発したのが、以下のソフトウェアです。

少し説明いたします。
右上の小さい枠のところで二進数の計算ができます。その横の右端の矢印を操作すると数字を変えられます。それにしたがって下のカード(黒い部分)も連動して動くようにしています。


生徒たちは、二進数の計算は頭の中でも大丈夫なようなので、下がコンピュータであると提示して、「このコンピュータを君たちが回路を作って組み立ててみなさい」と指示します。

この加算器は入力の端子が3つ、出力の端子が2つあり、この5つのラインをマウス操作によって、ビットにつなげさせます。赤い箇所に数字が出るように、どのようにつなげば計算ができるのか考えて配線させるのです。

授業の様子ですが、わかる生徒とわからない生徒の間には大きな差があります。授業では、わざと間違えた配線を示したりするのですが、理解していない生徒は、間違いに気づかずに真似て配線をします。そういうところから個別に指導することも可能になります。他には、生徒同士で試行錯誤して、ヒントを出しあったりして、問題解決につながっていく光景も見られます。

 

生徒の反応としては、「コンピュータの計算の仕組みがわかった」と言ってくれる生徒がたくさんいました。それから「コンピュータは複雑そうに見えて単純なものが積み重なってできている」、「人間が頭の中でただなんとなく行っている作業も、コンピュータが行うとなると一つ一つの作業を、しっかりと手順立ててやらないといけない」という意見もありました。

 

意外だったのが「二進数も10進数と同じように位の繰り上がりをして計算している」というコメントです。これはカードを使った授業の中では理解できていなくて、このソフトを使ったことによって理解してくれたのでした。

 

以上、計算の仕組みを体系的に学ぶ方法について紹介しました。カード教材は概念の理解に有効であり、ソフトウェア教材も当初の狙い通りの効果があったと思っています。今後これらの教材を用いて、授業効果等を検証していきたいと考えています。

 

*参考:先生の開発した教材も多数。教科情報の授業に活かせるHP「海の近くの情報教室」
 http://www.info-study.net/


 

※本記事は、日本情報科教育学会第6回全国大会(2013年6月29日・30日、東海大学 高輪キャンパスにて)でお話しされた内容です。