日本情報科教育学会 第9回全国大会

高等学校共通教科「情報」の検討状況

鹿野利春氏 国立教育政策研究所 教育課程研究センター研究開発部 教育課程調査官

本日お話しする内容は、以下の通りです。これらは昨年10月からの中央教育審議会の情報ワーキンググループで、8回の議論を経てまとめられたものです。

こちらは、情報科目の今後の在り方について検討するための素案で、昨年2015年夏の段階のものです。高度情報化社会に対応するためには、文理の別や卒業後の進路を問わず、情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力を身に付けることが重要であるため、現在の「社会と情報」「情報の科学」を一本化することが示されました。新科目は「情報の科学」の内容が濃いイメージが強くなっていますが、例えば「情報社会の発展と情報モラル」やコミュニケーション、コンテンツなど現行の「社会と情報」に含まれるものもきちっと入っています。

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中学校の技術・家庭(技術分野)における「情報に関する技術」の指導内容については「家庭、技術・家庭ワーキンググループ」で検討されました。現行では、技術分野において扱われているのはロボットにライントレースをさせるような「計測・制御」ですが、今回の改訂では新たに「動的コンテンツ」でプログラミングを扱うことが加わっています。さらに小学校で2020年度からプログラミングを必修化するということを検討しています。高校に話を戻しますと、共通必履修科目に加えて、さらに発展的な内容の選択科目でどのようなことを学ぶか、という検討も進んでいます。

 

■情報活用能力

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情報教育の目標は情報活用能力の育成で、従来、「3観点8要素」(※1)で表されていましたが(スライド上部の青い部分)、次期学習指導要領の検討では、資質・能力の「三つの柱」として、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力、人間性等」が軸になっています。ワーキングでは、「情報活用能力」を考える際にこの二つがどのような関係であるかということを議論しました。そして、どちらの見方で見るかで整理の仕方が異なりますが、情報活用能力自体が今後変わっていくということではないと落ち着きました。例えば、内容や学習活動という点で見る時には、3観点・8要素がわかりやすいということになりますし、一方他科目あるいは他教科との連携ということを考える際には、教科共通の資質・能力から考える必要があります。

 

※1 「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」第1次報告(1997年10月)

 

■小・中・高等学校を通じた情報教育

こちらが小・中・高等学校を通じた情報教育と、高等学校情報科の位置づけのイメージです。全体の流れとして、左側が高校卒業までに身に付けるべき情報に関わる資質・能力です。ワーキングではこれをまず議論しました。それをどこまでが小学校で、どこからが中学校で、どこからが高校なのか、ということをまとめたものが右側になります。 

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この○で囲んだところがポイントです。小学校での「基本的な操作技能の着実な習得」というのは、キーボードを使った文字入力などですね。中学・高校になってもタイピングが全くできていない子がいるようでは、教科・科目の中でICTを活用する以前の話になってしまいます。まずその部分を小学校の早い段階である程度身に付けられるようにしてほしい、と。また、プログラミングについては、小学校では「体験」という形がよいだろうという話が出ました。

 

中学校の「技術・家庭科」については、計測・制御に加えて動的コンテンツに関するプログラミングも入れ、ディジタル情報の活用と情報技術を中心的に扱おう、という検討が進んでおります。

 

高校では、まず「情報科の見方・考え方を働かせる」とあります(この「見方・考え方」につきましては、後ほど改めてご説明します)。その上で「情報技術を活用して、問題の発見・解決を行う学習活動を通じて、次のとおり資質・能力を育てる」となっています。そして具体的に挙げた①~③ は、資質・能力の「三つの柱」に沿って作ったものです。

 

①は「情報と情報技術およびこれらを活用して問題を発見・解決する方法について理解を深め、技能を習得させるとともに、情報社会と人間との関わりについての理解を深める」。つまり、問題発見・解決の方法について学び、情報と情報技術を活用するということについても学ぶ。それから情報社会と人間との関わりについての理解も深めるということで、現行の「社会と情報」「情報の科学」で学ぶものを、しっかり知識・技能として取り込んでいます。

 

②は見方・考え方に関わるもので、「問題の発見・解決に向けて情報技術を適切かつ効果的に活用する力を育てる」。 ③が「情報を適切に活用するとともに、情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与しようとする態度を育てる」です。

 

■高校の情報科における「見方・考え方」

上記で出てきた「見方・考え方」とはどのようなことかを示したのが、こちらのスライドです。

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情報科の特有の見方、考え方には、モデル化があります。問題の発見・解決を学ぶ時、世の中にある事象をそのまま扱うことはできません。それでは解決すべき問題をどのように捉えるかというと、情報という抽象化された形で見ることになります。さらに、その情報どうしの結びつきとして把握することが、問題の発見・解決の入り口になります。扱う問題は狭義の「情報」だけでなく、社会・産業・生活・自然・地域等様々な事象に及びます。

 

次に、問題の発見・解決に向けて情報技術の適切かつ効果的な活用についてどのように思考するか、ということになります。そのための情報科としての考え方の枠組みが、見通しを持った試行錯誤と評価・改善を行うことです。プログラミングもその一つですが、プログラミングだけではありません。大事なのは「問題の発見・解決に向けた」というところ、問題解決能力です。そこに、情報科ですので、情報技術の適切かつ効果的な選択・活用が入ってきます。

 

その時、情報そのものや情報技術の特性を知らなければいけない。問題の発見・解決の手法に関する科学的な理解も必要です。一方で、情報モラルにも配慮しなければいけない。このように、問題の発見・解決に向けて情報技術を適切かつ効果的な選択・活用をするという形で、「見方・考え方」の整理を行っております。

 

■学習のプロセス

これをどのような形で学習していくのか、「学習プロセス」の例がこちらのスライドです。

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一番上の問題の発見・解決のプロセスに合わせて、活動や手順が整理してあります。赤い○で囲んだ部分が、先ほどの「見方・考え方」が具体的な活動とどのように対応するかを示したものです。最初の「社会などの問題の把握」では、「見方」を働かせてそれぞれの事象を情報、あるいは情報の結びつきとして捉えます。次に抽象化された情報を情報技術によって取り扱います。さらにそこで終わるのでなく、最終的にはそれを社会の問題へ適応し、解決していく方法を考えます。

 

この活動の流れに合わせて、情報の収集・分析、問題の提起を行う中でいろいろ試行錯誤をしたり、解決方法を考えたりします。そして解決方法を決めたら、手順を決めて計画を立て、情報技術などを使って解決にあたります。

 

そういった活動の中で手順や結果の評価・改善を繰り返します。その中でいろいろな学びがあって知識が構造化され、技能が磨かれ、思考力・判断力・表現力が身に付いていきます。さらに自分の活動を振り返ることによって、身に付けた力を確認するとともに、次の問題解決や現実の問題に向かえるようになることがこのプロセスの目指す形です。

 

スライドの下の方の青いところに「知識・能力の育成と主な評価場面」とあるのが、具体的にどんな場面でどのような知識や能力を育成するか、というところです。例えば、学習プロセスの前半の活動では主に個別の知識を習得すること、それ以降の場面では、獲得した知識を、活用を通して概念化する、ということになります。そして、評価においてはこういったことができているか、ということを評価するための問題を考えなければならないことになります。

 

■高等学校の情報科で育むべき資質・能力

高等学校の情報科で育むべき資質・能力とはどのようなものかをまとめたのがこちらです。

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一番左の「知識・技能」は、身に付けなければいけない、あるいは理解しなければいけないものです。理解すべきこととしては、情報と情報技術を適切に活用するための知識・技能や、問題を発見・解決するための方法などが挙げています。さらに情報社会の進展が社会に果たす役割や及ぼす影響、そして法制度、マナーの意義、情報社会において個人が果たす役割、責任についても理解する必要があります。

 

真ん中の「思考力・判断力・表現力」は、先ほどお話した「見方・考え方」をどのように働かせていくか、ということになります。例えば「様々な事象を情報とその結びつきの視点から捉える」というのが「見方」。そして「問題の発見・解決に向けて、情報技術を適切かつ効果的に活用する」というのが「考え方」です。先ほどの学習プロセスのところでお話したことがここにあたります。さらに「複数の情報を結びつけて、新たな意味を見いだす力」というのは、新たな技術を生み出し、産業を興すためにも当然必要な考え方、あるいはその力です。

 

そして「学びに向かう力、人間性等」ついて、情報を多角的・多面的に吟味し、その価値を見極めようとする態度は、ただ吟味するだけでなく、その価値を見極めるところへ踏み込んでいくことまで目指しています。そして自らの情報活用の振り返りは、先ほどお話した、学習プロセスの最後のステップとしての評価・改善にあたります。そしてこのプロセス、あるいは解決を考える時に、情報モラルや情報に対する責任ということが当然考えられていなければならず、最終的には情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与しようとする態度の形成を目指す、とまとめております。

 

その評価の観点が下図です。「知識・技能」については、ここに書かれていることはだいたい評価できるだろうと思っています。

「思考・判断・表現」の「新たな意味を見いだす力」をどのように評価するかについては、少し難しいので、ここでは観点としては挙げていません。今後の検討で補完するということもあり得ます。

 

「主体的に学習に取り組む態度」は、評価できるものとできないものが当然あるので、評価できるものは積極的に評価し、今は評価できないものは、その方法の研究をしなければいけません。ICTを使った評価についても、今後検討を進めていきます。

 

■情報I・IIの具体的な内容

ここからが具体的な各科目の説明になります。

まず必履修科目の「情報I(仮称)」は、科目の目標を、「問題の発見・解決に向けて、事象を情報とその結びつきの視点から捉え、情報技術を適切かつ効果的に活用する力を育む」としています。そして、一番上の「(1)情報社会の問題解決」を導入として位置付けています。中学校までに、技術・家庭だけでなくいろいろな教科で問題解決の手法や情報モラルなどを学んできていますので、それを振り返って整理することが必要です。さらに、それを情報社会の問題の発見と解決に適用して、情報社会への参画について考えるという、今まで学んできたことを活用して、高校で新たな問題解決に取り組むことをここで行います。

 

以下の(2)(3)(4)は、具体的にどんな力を付けて問題を解決していくのかを示す形になっています。

「(2)コミュニケーションと情報デザイン」ですが、コミュニケーションは当然必要ですし、そのために必要な決まりを学ぶことも必要でしょう。また情報デザインについては、ウェブデザイン等も含まれるであろうと考えています。

 

「(3)コンピュータとプログラミング」については、プログラミングによってコンピュータを活用する力とともに、事象をモデル化して問題を発見したり、シミュレーションを通してモデルを評価したりする力も育む、ということになっています。情報I(仮称)は共通必履修科目なので、2022年にこの科目が導入されれば、高校生全員がプログラミングなどを学ぶことになります。

 

(3)を学ぶ時には、当然中学校で学んだ計測・制御の経験を広げたり深めたりするような活動が必要です。また、同じく中学で扱うことになる動的コンテンツについてもここに入って来なければいけません。これらの一部については、先ほどの(2)で扱うことになるかもしれません。

 

「(4)情報通信ネットワークとデータの利用」については、ここでデータの利用の仕方を学ぶことになります。これまで「情報の科学」ではデータベースという形で扱っていました。実社会ではデータベースは単体よりもネットワークと結びついた形で現れることが多いので、データ活用には、情報通信ネットワークとつないだ形で見ていくことが必要です。必履修科目としてこのような形で提案しています。

 

選択科目の情報II(仮称)の目標は、「情報I(仮称)において培った基礎の上に、情報の問題の発見・解決に向けて、情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用し、あるいは情報コンテンツを創造する力を育む」となっています。

 

「(1)情報社会の進展と情報技術」は情報I(仮称)と同じように見えますが、情報I(仮称)は中学校で習ったことや今までに身に付けたことなど、過去を振り返っています。一方、情報II(仮称)の「情報社会の進展」というのは、過去も踏まえ、これからの技術や社会の在り方など、未来についてもしっかり見ていこうということを言っています。さらに、新たな情報技術は社会にどのような影響を及ぼしていくのか、どう扱っていくのかといったところも含めて展望していくというところがこの(1)です。

 

(2)(3)(4)は、それを含めた技術的なところをさらに見ていくものです。例えば「(2)コミュニケーションと情報コンテンツ」では、文字、画像だけではなくて音や動画なども組み合わせて、豊かなコミュニケーションを行ったり、あるいは使いこなしたりしていけるようになろう、ということです。

 

「(3)情報とデータサイエンス」では、データサイエンスの手法を活用して、情報を精査する力を育むことを提案しています。データサイエンスでは統計的な力が当然必要になってきます。今までの教科「情報」では、相関係数であるとか、データのグラフ化までは扱っていました。これらについては、情報I(仮称)に入れます。情報II(仮称)のデータサイエンスでは、今までは複雑で見ることのできなかった事象についても扱っていこうと考えています。そのためには、現在開発されつつあるデータサイエンスの技法も含めて、いろいろな統計の手法が必要です。当然ビッグデータも扱いますし、さらにその社会的な影響も含めて見ていく必要もあると思います。

 

それから「(4)情報システムとプログラミング」です。情報II(仮称)でもプログラミングを行いますが、情報II(仮称)のプログラミングは、いくつかのシステムが統合された形の、いわゆる情報システムのプログラミングを扱います。具体的には、IoT(Internet of Things)のようなものもここに入ってくるだろうと思います。

 

そして「課題研究」と書いてありますが、これは(1)~(4)のような項目ではありませんが、(1)~(4)のようなことを学んできたら、これらを統合して、問題の発見・解決や新たな価値の創造を目指した活動があるべきだとして、設けています。

 

情報I・IIに共通した学び方についてまとめました。

 

(1)については、まず情報社会との関わりについて考える。それから、問題の発見・解決に情報技術を活用することの有用性について考えます。そして、子ども達にこの教科でこういうことをやってみたい、学んでいきたいという思いを持ってほしいという導入的な位置付けになっています。

 

(2)~(4)については、その思いを受け止めて、各項目に応じた情報、情報技術や問題解決の手法を理解し、問題の発見・解決に情報技術を活用するとともに、それを評価・改善するという学び方をしてほしい。さらに情報IIでは、これらをすべて総合した課題研究も設けたいと思っています。

 

■高校での統計教育の充実

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高校での統計教育の充実に向けて、数学科と情報科が協力していくことも検討しています。例えば数学で散らばりや相関を学んだら、情報ではそれを活用して、グラフを書いたり相関を求めたりする、といったことです(※2)。

 

ただし数学で扱う統計にはサンプル数の問題などで限りがあり、ビッグデータを扱ったり、原因を追及したりするような問題は難しいと思います。情報では情報機器を活用して取り組み、式の上だけでは見えないことも、情報機器を使えばこんな形になる、こういうふうに仕事を進めていけると気付いたり、実際の問題の発見や結果の評価、モデル化で統計手法を使ってみよう、ということにつながっていったりできればと思います。

 

※2 中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ

平成28年4月18日 資料6-2

 

次期学習指導要領における共通教科情報科の新科目のイメージの詳細版は、下記のサイトをご覧ください。具体的な学習活動等については、後ほど変更になる可能性はあります。

 

配布資料 資料3-1 情報ワーキンググループとりまとめ(案)

 

■情報科におけるアクティブ・ラーニング

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情報科におけるアクティブ・ラーニングのイメージも出しております。アクティブ・ラーニングには、これというパターンがあるわけではなく、「知識を概念化したり構造化したりする」「問題の発見・解決に情報技術を活用する」「情報社会に参画する態度を身に付ける」といったことが育つ学びがアクティブ・ラーニングであると言えます。

 

プログラミングやコンテンツ制作では、「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」のそれぞれでアクティブ・ラーニングの要素を満たす活動が可能だろうと考えております。新しい学習指導要領でも、今の学びの発展としての授業改善の考え方として、提示されると思います。

 

[質疑応答]

Q1: 2つ質問があります。1点目は、この共通教科「情報」はほとんどの生徒が学習するということでしたが、現在の学習指導要領では工業高校や商業高校の生徒は共通教科ではなく専門科目で履修することになっていると思います。工業高校や商業高校でも、この情報I(仮称)や情報II(仮称)は必修とするのでしょうか。

 

2点目は、「情報科新科目のイメージ」で示された(1)~(4)の項目は、偏りなく勉強するような指定がされるのでしょうか。例えば(1)だけ90%時間を割いて、あとはさらっと流すようなことがされないかと心配なのですが。

 

鹿野先生A1:工業高校等では、現在、「社会と情報」、「情報の科学」の内容の代替科目が置かれています。今後もこれらの学校については、情報I(仮称)の内容を含んだ代替科目を置き、これを発展・展開していく時には、例えば工業であれば工業の、看護であれば看護の内容で展開していくというような形で進める、ということを検討しています。

 

私は、共通教科情報科とともに専門教科情報科も担当しています。専門教科の範囲でもこの(1)~(4)の項目をしっかり入れてくださいとお願いしており、大方の理解はいただいています。

 

時間配分について言えば、(1)に9割はあり得ません。ただし、(1)~(4)をすべて4分の1ずつ教えてくださいと私どもからは指導はできないですが、新学習指導要領の解説で学習例を作る時、個数的にも分量的にも偏りがないようにして、「どれか一つをやって後は流す」ということはないようにしたいと思います。教科書会社の方もそこはきちんとやっていただくよう話をするつもりです。

 

ただ、プログラミングが入る(3)は、若干重くなるのかなという感じはしております。しかし、どこに重点を置くかは、各学校におけるカリキュラムマネジメントや方向性にも関係しますので、明示はいたしません。要は、基本は均等で、若干(3)が重くなるのではないか、というのが今のところの見方です。

 

 

Q2 「情報科新科目のイメージ(詳細版)」の「(1)情報化社会の問題解決」の中の「(1)中学校までに学習した知識・技能の再確認」という文言が気になります。というのも、中学校の技術・家庭でフローチャートやビットなど、教えられているはずのものがなされていない学校が散見されます。「高校で再確認」といった文言があると、中学校での履修の格差を高校が穴埋めすることになってしまわないか、と気になりました。

 

鹿野先生A2:「再確認」という文言はまだ検討中ですが、中学校での履修を確認するようなことにはならないと思います。ただ、小学校、中学校、高校の、それぞれの段階でしっかりやる方向性や仕組みを作っていかなければいけないということにはなりました。特に、文字入力は早い段階でやらなければならないし、プログラミングであれば、小学校、中学校ならこのくらいのレベル、というものは、ある程度作らないといけないと思います。

 

 

Q3:プログラミングをやらずに済ませるのは許されないということが確認できて、少し安心しています。そこで確認させていただきたいのですが、教員向けの研修会はどのように行われるのかということです。プログラミングはいろいろな団体の研修がありますが、それ以外の分野のものはないですよね。また、数学科と情報科の兼ね合いというところで、例えば統計は数Iでやるから、情報I(仮称)は2年生に設定したほうがいいという話にはならないでしょうか。

 

鹿野先生A3:当然研修は必要ですが、どういう形で行うかは、今後の検討です。プログラミング以外の分野の研修も当然バランスよくやらなければいけないですが、プログラミングについては、今現在、「情報の科学」を教えている学校が2割しかないので、少し重めにはならざるを得ないでしょう。

 

また、この研修については公立高校だけでなく、私立や国立高校、さらに専門高校で代替科目を担当する先生も対象に入れる必要があると思っています。

 

もう一つの数学との兼合いでの情報の履修時期の問題ですが、これはカリキュラムマネジメントの問題です。例えば、情報I(仮称)を1年生で履修する学校で、数学では統計を1年生の3学期にやる、ということでは不適切だと思います。数学で学んだことを情報で応用して使いたいのであれば、統計の部分は先に済ます必要があります。これは学校の中で連携を取り、習う時期を調整することでうまくいくと思います。

 

 

Q4:「(3)コンピュータとプログラミング」 についてお聞きします。(3)の資質・能力の説明のところには「プログラミングによるコンピュータを活用する能力」とありますが、具体的にどのようなことを想定しているかをお聞きしたいと思います。先ほど来からのお話を伺うと、時間的な制約があるので、実際にはプログラミングまで行かないのではないかなと考えられるのですが。また、中学校のプログラミングでどこまで学んで、高校の情報I(仮称)や情報II(仮称)では目標としてどこまでやるか、先生のお考えをお伺いできればと思います。

 

鹿野先生A4:プログラミングは、正しいコードが書けなければいけないとか、全員技術者になるための基礎訓練としてやるぞとか、そういうことではありません。論理的な思考力を付けていくとか、問題に合わせてコンピュータを活用するというのはどういうことかを学ぶ、というのが「コンピュータを活用する力」であると思います。

 

また、中学校の技術・家庭で計測・制御を扱いますが、高校のプログラミングはさらにその先にあるものと考えています。具体的な内容は今後検討することになりますが、実際に動かしてみる・使ってみるところまでやってほしいと思います。

 

そうなると、どこまでの活動ができるのか、例えば言語をどこまで学ぶか、どんな素材を使って何をさせるか、目標をどこに置くかなどは当然学校によって違ってくるでしょう。ただ、事象をモデル化してシミュレーションするであるとか、アルゴリズムをきちんと書くとか本質的なところはきっちりとやっていただきたいと考えます。

 

情報II(仮称)でどこまでするかと言えば、情報I(仮称)は中学校でやったことの応用で、1つの単独で完結するプログラムを想定しています。情報II(仮称)は、いくつかのサブシステムがあって、それが統合されたようなもの、例えばお年寄りを見守るというシステムを考える時に、お年寄りが動いているのをどうやって感知するか、それを知らせるのにどういうことをしなければいけないか、などのいくつかのユニットをそれぞれ作りつなげる形で、システムを統合していくこともできれば思っています。

 

 

Q5:今のお話では、情報IとIIの間にはとても大きなギャップがあるように思います。その間を埋めないと情報II(仮称)で先生がおっしゃったようなところまで到達しないように思ってしまいますが、いかがでしょうか。

 

鹿野先生A5:例えば今、情報II(仮称)の内容として挙げたことを、今あるプログラミングの技術でやろうと思うと、かなり大変だろうと思います。ただし、これからの技術であれば、もう少し楽になるかもしれません。あるいは、学校の状況によっては、「全体の設計はするけど、実際にプログラムを書くのはある部分だけ」ということもできるかもしれません。もちろん、全部作って組み合わせられる学校も、当然あると思います。到達のレベルにはある程度の幅はあると思いますが、こういう方針でできればと思っています。

 

 

Q6:先ほどプログラミングの扱い方の話を聞いていると、「役に立てる」という傾向がすごく強くなっていているように感じました。役に立つためのことばかりしていると、子ども達がプログラムの面白さに接する機会が損なわれるのではないかという危惧が一つあるのですが。

 

鹿野先生A6:一番私が危惧しているのは、全員にプログラミングをやらせた時に、プログラミングが嫌いになる子がたくさん出てくることです。当然ここは面白さということを体験させながらやっていかなければならないでしょう。ただ、学習指導要領に直接「面白さ」という言葉を書くというのは、なかなか難しいため、学習指導要領解説などの中で、そういう事例を挙げる形になるかと思います。

 

面白さを理解できなければ、当然意欲も生まれません。面白いということと、自分がやったことについて結果が現れる、あるいはそれが実際に役に立っているということを感じることで、プログラミングの有用性についても理解してほしいと思っております。