高校教科「情報」シンポジウム2014秋

教員免許更新講習を担当して 3

ICトレーナーによる論理回路演習と研究協議を中心に

東京大学教育学部附属中等教育学校 長嶋秀幸先生


デジタル回路を実際に組むことでコンピュータの仕組みを実感する


長嶋秀幸先生
長嶋秀幸先生

 私が担当したのは、講習3日目です。この日の前半は、東京大学の萩谷昌己先生のご講義、その後質疑応答と討論を行っていただきました。その後、私と千葉県立柏の葉高校の滑川先生と2人で「ICトレーナーによる論理回路の演習」を担当しました。ICトレーナーというのは、初めてでも短時間で簡単にデジタル回路を組むことができる実験キットです。今日は、このICトレーナーについてお話しします。

講習では、最初に私が勤務校の「情報の科学」で取り組んでいる論理回路についての授業内容を紹介し、次に滑川先生が、東京大学教養学部1年生の「情報」の授業で使われている「ICトレーナーを使った組み合わせ回路実習」という、演習用のサイト(※1)にしたがって実習を進めました。セット数自体は、2人で話し合いながら進める方がより理解が深まるのではないか、ということで、2人1組でペアになって行いました。


(※1) 「ICトレーナーを使った組み合わせ回路実習」

http://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/johzu/joho/Y2014/ICTrainer/ICTrainer/

この演習で使用したのは、サンハヤトのICトレーナーCT-311Rという機種です。ブレッドボードに7セグメントLEDが2個、LEDが10個、トグルスイッチが10個、プッシュスイッチが2個搭載されています。また、附属品としてロジックICが9種類11個、ジャンプワイヤーが20本ついています。東大の授業で使用しているICトレーナーのブレッドボードには、もともとゲートICが4つセットされた状態になっており、それを使って回路を組みました。


東京大学「ICトレーナーを使った組み合わせ回路実習」HPより
東京大学「ICトレーナーを使った組み合わせ回路実習」HPより

最初に滑川先生から、受講者に基本的な使い方を知ってもらうために、回路の接続方法やロジックICのピン配置を説明した後、NANDゲートの回路を作ってもらいました。まず、右下と左上にあるグランドと5Vの電源をつなぎました。そして、4つあるゲートのどれかを使ってNANDゲートの回路の配線をしてもらいました。
この時、ICトレーナー上のトグルスイッチはロジックICへの入力で、LEDはICからの出力として使うことになっているので、入力がONかOFFかは、この下にあるトグルスイッチが上がっているか下がっているかでON・OFFを判断します。このスイッチをONにすると、上にあるこのLEDも光ると誤解されている方もいて、実際の授業でもそこの注意が必要だと感じました。

 


ANDゲートとXORゲート、ORゲートを使って全加算器を作ってみる


NANDゲートができたら、次は応用としてNOTゲートを作成し、動作を確認しました。実は、NANDゲートを使うとANDゲートとORゲートを作ることもできますが、これらの回路を理解するためにはブール代数の知識が必要になります。今回の受講者の方がどの程度ブール代数を理解しているか不明だったので、今回はNANDゲートを利用したANDゲートとORゲートの作成は割愛しました。

次に、ANDゲートとXORゲートを1つずつ使って、1ビットの半加算器を作成し、動作を確認しました。先生方は、とても熱心にこの演習に取り組んでいました。作成にかかる時間には多少バラツキが見られました。実際に高校の授業で生徒が行う時を考えると、バラツキが出ることは想定されます。
半加算器自体は指示通りに配線すれば簡単に作成できますが、意外なことが問題になりました。指示書の真理値表では、Sが左に、Cout が右に書かれていますが、このつなぎ方を見ると、Sに対応するLEDが右に、Cout に対応するLEDが左に来るので、真理値表とは左右が逆になり、「正しく配線されているのに、正常に動作しない」と誤解する方がいました。

最後に、ANDゲート2個、XORゲート2個、ORゲート1個を使って1ビットの全加算器を作り、動作を確認しました。半加算器を二つつないで全加算器を作るという流れです。


この時は、セットに入っている20本のジャンプワイヤーを全て使わなければならないため、配線がかなり複雑になります。回路を配線する時のコツとして、滑川先生が「電源GND端子は青、電源+5V端子を赤のジャンプワイヤーで配線する、というように色を揃えるとわかりやすい」と助言されました。最終的には、ほとんどの受講者が全加算器までの課題をこなすことかできました。


高価な教材を使わないで同様な活動をする工夫も必要


受講者はとても熱心に取り組んでいました。ほとんどの受講者がICトレーナーを使うのは初めてでしたが、とても簡単に論理回路を組むことができました。ですので、高校生でも十分に取り組める教材だと思います。ただ、全加算器はジャンプワイヤーの本数が多く、配線がやや複雑になるので、生徒がどこでつまずいたかを探して特定していくのはたいへんだろうな、と感じました。


また、この教材は1セットが19,958円(2014年10月現在)とけっこう高価ですので、同じような効果を狙った安価な自作教材を代替にすることも考えられます(※2)。

講習3日間のまとめとして、最後の1時間を使って研究協議を行い、今回ICトレーナーの講習に参加された先生方の意見交換を行いました。論理回路を学ぶ上で、コンピュータ上でのシミュレーションよりも、実際に物を使って回路を組んでいく方が教育的な効果が高いという意見が複数出た一方で、電気は見えないから生徒は難しいと感じるのではないか、という意見もありました。また、ICトレーナーで作った全加算器と実際のコンピュータの回路にはギャップがあるのではないか、そのギャップをどのように埋めるのか、という意見がありました。これについては、放送大学の辰己先生が東大の授業でこのICトレーナーの演習の次の時間で行った授業の内容について説明してくださいました。


(※2)参考 
動画教材による学習を支援する仕組み作り~「社会と情報」で論理回路を学ぶ
早稲田大学高等学院 金田千恵子先生<第62回ICTE情報教育セミナーin武蔵大学>