2013ジョーシンパネルディスカッション

「情報教育の重要性と情報入試」


[司会] 中野由章先生(神戸市立科学技術高等学校)

[指定討論者] 谷川佳隆先生(千葉県立船橋芝山高校)

[パネリスト] 辰己丈夫先生(早稲田大学情報教育研究所)

       井上勝先生(八千代松陰高等学校)

       植原啓介先生(慶応義塾大学環境情報学部)

       萩谷昌己先生(東京大学大学院情報理工学研究科)

       奥村晴彦先生(三重大学教育学部情報教育課程)

 

ジョーシン2013の締めくくりのパネルディスカッション「情報教育の重要性と情報入試」では、中野先生の巧みな司会のもとで、熱い議論が繰り広げられました。午前と午後の講演終了後に、参加者が質問事項を書いたカードを回収し、それぞれ担当のパネリストが回答する、という形で行われましたが、中でも、高校の現場の先生方の、情報入試の模試という新しい試みへの関心は高く、フロアの先生方からも活発な質問も相次ぎました。

1.情報教育では何を教えるべきなのか

~教科情報を取り巻く環境をふまえて、高校・大学それぞれの視点から

中野 由章先生
中野 由章先生

司会:中野先生)

最初に教科「情報」をめぐる背景をお話しします。情報の教員採用は、今まで累計で二桁(10人)以上採用した都道府県はごくわずかで、大半は過去一度も実施していません。さらに毎年採用試験を実施している県は非常に少なく、それも年1人程度です。どうしてこんなことをお話しするかというと、そもそも情報教育の重要性を、教育行政側はどう認識しているか、情報教育の重要性は世の中でどう認識されているか、がこの数字に表れていると思うからです。

 


つい最近、センター入試を5年後に廃止して、到達度テストに移行するという話が出てまいりました。読売新聞の記事によると、基礎レベルと発展レベルの二段階に分け、高校在学中に複数回受験できるようです。到達度テストになれば、当然そこに情報を入れようという議論になってくると思います。

 

教科「情報」をめぐる問題でもう一つ気になるのは、高等学校卒業程度認定試験(高認)つまり昔の大検です。学習指導要領に沿った高校の教科「情報」は、必須の履修科目です。履修認定には、3分の2以上の出席が必要です。ところが、高認では、情報の履修は一切問われずに、大学の入学資格を得ることができます。到達度テストが導入され、情報がその中に入ってきたら、高認で大学進学を考える人はどうなるか気になります。

さて、今回実施された情報入試の模擬試験について、今から皆さんに議論するにあたり、まず指定討論者の谷川先生からお願いします。

 

谷川佳隆先生
谷川佳隆先生

谷川先生)

私の高校は、今回の模試で3人が団体受験をしました。受験志願者の募集のために、コンピュータ室に模試のポスターを貼り、あと各クラスにも掲示してくださいとお願いしました。この会場にも団体受験された高校の先生がおられると思いますので、事前募集を含めてどういう工夫をしたか、教えていただければと思います。また大学の先生には、大学はこの模試にどのように対応されたかをお聞きできればと思います

 

高校教員)

うちの学校からは、40人以上の団体受験が出せるのではないかと思っていました。しかし、うちでは「社会と情報」を教えているのですが、模試の出題範囲に「情報の科学」も入っていたので、結果的に団体受験の数は数名に減っていました。2つの分野を分けた受験ができればよかったと思いました。

 

大学教員)

もし入試で使う場合どうするかという点を、うちの大学でも検討しました。もし情報入試が始まった場合、たとえば「情報の科学」が0点でも、「社会と情報」は7割は解けているとか、共通問題ではそこそこできていることが認められれば、よいように図りましょうということに決めました。

 

工業高校教員)

うちの高校は工業課程ですので、そもそも教科「情報」をやっていません。その代わりに1年で工業の「情報基礎」という授業を行い、それで情報を学んだのと同じ効果があったとみなしています。そういう学校でも、情報入試が採用となった場合、どういう問題が出題されるか、つまりうちの情報基礎で何が足りないか考えるようになりました。私は情報でなく電気の担当ですが、校内の情報の先生と協力しあって、この情報入試問題に取り込んでみたいと思っています。

 

司会)

会場の参加者の方からパネリストに質問はありませんか。

 

高校教員)

質問が2つあります。模試問題の中に、暗号化の問題が出題されていなかったのはどうしてでしょう。もう一つ、プログラミングの問題はうちの生徒もできなかったのですが、やはり教える側としても、「あれくらいのレベルはできてほしい」という気持ちで生徒に接したほうがよいのでしょうか。

 

辰己 丈夫先生
辰己 丈夫先生

辰己先生)

一度の模試ですべてをカバーできるわけではありません。暗号の問題が入れられなかったのは、情報の学ぶべき分野が膨大だからです。なので、暗号の問題はもしかしたら次回の模試に出るかもしれない。あるいは、どこかの情報入試の本番に出るかも…(笑)。

 

奥村 晴彦先生
奥村 晴彦先生

奥村先生)

大学で情報を教えていると、入学してくる生徒にはプログラミングはできてほしいか、という質問をよく受けます。ぼく自身、昔はできてほしいと思っていた時期がありましたが、やはり向いていない子はいます。でも、プログラミングってこんなものだということを、苦手な子でも何となくわかるような教え方はあると思うし、それは「社会と情報」の枠内でも教えることはできると思います。プログラミングにあまりこだわらなくてもいいのではないか、というのが最近ぼくの思うところです。

 

萩谷 昌己先生
萩谷 昌己先生

萩谷先生)

「情報教育の重要性を議論する前に、まず社会に出て情報教育は役立つのか、明確にしてほしい」という質問がありました。私は、先ほど講演でお話ししたジェネリックスキルがそれに対応できると思っています。ジェネリックスキルには、社会において危険を読み解く能力とか、ルールを遵守しつつ情報を活用する能力などがあります。これは初等教育、高校教育の情報教育とも共通すると思います。

 

大学教員)

ジェネリックスキルは、他分野の学問でも言われていることだし、これぞ情報ならではといった売り物になりにくいのではないでしょうか。

 

高校教員)

今後の高校の教科「情報」を考えたとき、ジェネリックスキルにウエイトが置かれるのか、教科の専門教育にウエイトが置かれるのかというのは、現場教師としては悩ましい問題です。一口にジェネリックスキルといっても、情報の授業をやっていて、これって国語でできることだとか、音楽でも同じだとかいう話になってしまうと、非常に混乱します。ジェネリックスキルが大事なのはわかりますが、ならば実際にどのように指導したよいのか、考えさせられます。

 

高校教員)

確かに、ジェネリックスキルは何の役に立つのかというと、戦略的に情報を充実させる武器になると思いますが、高校教員の立場としては、そこにとどまっていてはまずいかなと思います。もちろん社会出たらこんなふうに役立つよというのは、今の高校生にとてもアピールポイントになるとは思う。だけど直接、就職云々というのでなく、人間力の涵養といいますか、人間全体の総合力、自分という人間全体を作るうえで情報学が必要というアピールは必要と思います。

 

萩谷先生)

そうですね。私も、そこがまさしくジェネリックスキルだと言いたいです。

 

辰己先生)

それに関して補足ですが、たとえば今役立つとされる能力や仕事が、4年後に必要とされなくなるかもしれないわけです。だったらむしろ、役に立たないことを教えたほうが、将来、自分たちが知らないような問題を解くとか、使ったことのない技術を使えるようになり、自己学習能力とか自己改革力をちゃんと身につけた人が育つのではないか。だからすぐに役に立つようなことなんて教えちゃだめだと、最近思うようになっています。

 

司会)

高校の先生いかがですか。一言もしゃべらないで帰らないでくださいね(笑)。

 

もと高校教員)

「役に立たないことを教えるべき」とおっしゃいましたが、実は広い意味では将来役に立つことを教えていると思います。例えば学生に「10年前のことを知っているか?」と尋ねるとします。10年前にはiPhoneもAndroidもなかったんだよ、という話を私はします。あるいは20歳の大学生に「20年後、君はエンジニアになっていたとして、どんな仕事をしていると思う?」と尋ねます。その時、今習っていることが使えることもあるかもしれないけれど、もっと新しいものが出てきて、今の知識は全然役に立たなくなっているという可能性の方が高いんです。そういう状況になった時、何が必要と思うかと学生にぶつけると、いろいろ考え深い顔をするんですね。

 

司会)

この話は情報入試の重要性という観点からまだまだ続けたいのですが、このあたりで、実際に情報入試を導入したらどうなるのか、という議論に移りたいと思います。