オンラインイベント教科「情報」これからの一年 ~大学入試に向けた取り組み

質疑応答

Q1.高校教員 

プログラミングやデータの分析などが不得手な生徒に向けて、どのような指導や取り組み、働きかけをしていくとよいでしょうか。

 

A1-1.佐藤先生

先ほどの藤岡先生のお話の中にもありましたが、プログラミングやデータの分析には、やはり数学的な素養が影響するところがあって、それが乏しいと、時間をかけても難しい部分があるということがわかってきています。

 

プログラミングについて言えば、できれば間隔を空けて、何回も繰り返して授業することで、少しずつ定着できるようになるのではないかと思っています。もう一つ、プログラムが書けなくても読めるようにはトレーニングできるのではないかと考え、実践を始めているところです。

 

データの分析については、数学でやったことをもう一度呼び起こす形で学習できるような授業展開にしていますが、それがうまくいくかどうかは、生徒自身が頑張ってね、というのが正直なところだと思います。

 

A1-2.藤岡先生

プログラミングやデータ分析が不得手ということは、やはりプログラムのコードや数式を見ただけで拒絶反応を起こす、というこがあり得ると思います。私の授業の工夫としては、プログラミングや表計算では、コードの1行1行の意味を日本語で説明する、ということを生徒にやらせています。

 

例えば、生徒が2人ずつ組になって、ペアワークでコードを1行ずつ説明するのですね。これをすると、例えば『a=7』と書いてあるのを「aは7です」と説明する生徒が出てきます。そういうときは、「違います。これは『aに7を代入する』ということです」と説明して、一つひとつの意味を理解させるわけですね。

 

「情報」というのは意味の理解が一番大事です。それはプログラミングや表計算においても同様ですので、そのあたりに重点をおいた授業を行っています。

 

A1-3.竹中先生

私からは、先のお二人の先生と少し違う視点からお話ししますと、プログラミングのゴールをどこに設定して学ぶのかということが、大事ではないかと思います。

 

その意味で、プログラミングスキル自体を磨くことには、相当時間がかかります。

 ただ、少なくとも直近の目標である大学入試を考えると、日常的なものごとの処理をブロック化、構造化するトレーニングを行うこと、ものごとのつながりを論理的に読み取り、考えること。これを入試問題の演習だけでなく、実際に手を動かしながらいろいろな事象を捉えて普段からトレーニングすることを通して、プログラム的な「癖」を身に付けていくことが大事だと思います。

 

そういう中で、例えば先ほど藤岡先生がおっしゃった、『=7』は代入のことで、これは数学的な記法とは違うんだな、ということを理解できるようになり、プログラムの処理の流れをソースコードから読み取れるようになる、ということですね。

 

そして試作問題などの問題を解いてみて、これはどんなことが問われているのか、どういう項目を問われているのかということを、生徒自身が考えてディスカッションするという時間を取ってみてはどうかと思います。

 

 

Q2.高校教員

そもそも学校での受験指導と、予備校での受験指導とはどのように分担するのが理想的なのでしょうか。予備校からの視点でかまいません。

 

A2.加賀先生

なかなか難しい質問だとは思いますが、ある意味学校での受験指導は、「受験」というところから切り離してやる方がいいのではないか、と思います。予備校が受験指導を受験から切り離すなんてことをしたら、予備校の存在意義がないということになりますから(笑)。

 

反対に、学校が受験指導に寄り過ぎると、「学校って何なんだ」という話になってしまうわけですから、そういったところはちょっと切り分けて、学校はやはり「情報Ⅰ」のあるべき姿をとことん追求する、というのが私はいいと思います。

 

その分、予備校では模試などを通して、「学校で学んだこういう考え方は、試験ではこんなふうに問われるんだよ」ということを説明していく。そういう形で分担していくのがよいのではないかと思います。

 

できれば、先ほどから模試作成という話をしていますが、やはり河合塾の模試に対するご意見、サジェスチョンをウェルカムにしたいと思います。

 

河合塾は、模試というものを通して「情報Ⅰ」の教育に参画している、という思いを強く持っています。それを良くしていくためにも、先生方からのリクエストやサジェスチョンを大切にしつつ、やっていきたいと思っています。

 

このように、先生方と連携しつつ、先生方は学校での指導、我々は受験指導という形で、完璧に割り切ってもいい、と思っていただける感じでやっていきたいと思っている次第です。

 

 

Q3.高校教員

数学の教員です。情報の免許を持っているのですが、特に知識面で教科指導に自信がありません。「情報I」の共通テストに向けて、教員として、教科についての理解をどのように深めていけばよいでしょうか。

 

A3-1.竹中先生

もちろん、先生方が豊富な知識を持って授業に向かわれることは素晴らしいことですが、生徒の皆さんも同様にもちろん知識の差が大きくあります。

 

知識を伝達する「教える」だけの授業から脱却し、教科書に書かれている情報技術がなぜこうなっているのか、なぜこのような実装をしたのか という問いを生徒の皆さんと一緒に考えていくようにしてはどうでしょうか。

 

資料の探し方や問題解決の方法を「教員の視点、大人の視点」で助言していくことも大切かと思います。そして特に、「コンピュータネットワークとデータ活用」では、まさに「数学的見方・考え方」と数学的知識、そして「情報的見方・考え方」の融合が求められます。数学を専門とされる先生の強みを活かせるところかと思います。

 

A3-2.佐藤先生

知識については、私も元数学科ですから、専門的に詳しかったわけではありません。「情報Ⅰ」は、問題解決が軸になっているので、生徒と一緒に情報の見方・考え方を活かして問題解決するつもりで取り組めば良いのではないかと思います。

 

情報科で学ぶ領域は幅広く、場面によっては生徒の方がより高度な知識を身につけていることもあります。すべて教えなければと考えるのではなく、適切に学ばせる方法を考えるようにすることも大切だと思います。

 

A3-3.藤岡先生

まずは、教科書、指導書、文部科学省の教員研修用教材をご活用いただければと思います。それと合わせて、私からはやはり、基礎情報学のエッセンスを学ぶことを強くお勧めしたいと思います(西垣通「生命と機械をつなぐ知-基礎情報学入門」)。

 

数学科でもそうだと思いますが、学問分野を体系的に理解し、その本質を捉えることではじめて、自信を持って情報科の最も重要な部分を生徒たちに伝えられるようになるのだと思います。よろしければ私のサイト(*1)も参考にしていただければ幸いです。

 

(*1)藤岡先生のサイト 教材(基礎情報学関連)

 

 

 

Q4.高校教員

 問題演習こそが大学入試対策という考え方が根強いですが、『模試の活用によって、授業が、本質よりも問題を解かせることに終始することになる』といった矛盾が発生しないでしょうか?

 

A4.加賀先生

こういった矛盾は、おそらく他の科目の先生方も抱えているものだと思います。

入試という一つのゴールに向けて、問題を解くことができるようになるというのはすごく大切なことですし、受験生もそれを期待しています。

一方、教員としては、入試の先にある面白さを伝えたいというのもあると思います。この間の矛盾というよりも「乖離」「差」といえるものは、どの科目でもあると思います。

 

言い換えると、受験生の思いと教員の思いとの接点を探ることこそが、大切なのかもしれません。

講演でもお話ししましたが、情報というのはやはり日常生活や社会と強くつながっているものです。そして、そのつながりを考えようとする生徒ほど、実は問題に取り組みやすい、共通テストはそんなものになっていると思います。

 

例えばスマホの使用時間と睡眠時間、勉強時間の関係というのは、極めて身近な題材ですよね。そこから、「勉強時間に影響を与える他の要素はないかな」といったことを考えてみるのも悪くないでしょうし、そういった疑問を解決するには情報で学んだことをどのように用いていけば良いか考えてみよう、と促していくことなどは、先に述べた接点を探ることになっていくと思います。

 

「解けた・解けなかった」を客観視し、「なぜ解けたのか・なぜ解けなかったのか」を考え、さらに「関連する事柄としてどのようなことがあるか」といったところへ展開していくことが、「乖離」「差」「矛盾」の解消の一助になるのではないかと考えます。

 

 

 

Q5.高校教員

他教科と比較して、情報科は教科書による違いが大きいように思います。共通テストに向け

て、どのように対策していったらよいでしょうか。

  

A5-1 藤岡先生

私は、複数の教科書や学習指導要領、教員用研修教材を見比べるようにしています。情報科として重要な内容はどれにも必ず記載されていますし、複数の説明を比較することで理解も深まると思います。

共通テスト対策という文脈にあえて限定して申し上げれば、一部の教科書でしか扱われていない内容は出題されにくい、もしくは仮に出題されたとしても必ず本文内にその説明が書かれており、予備知識がなくても考えられるように配慮されているはずです。

 

生徒たちには、はじめて見るような内容であっても本文をしっかり読み、その意味を確実に理解して、焦らずに思考することが求められると思います。

 

A5-2 竹中先生

情報科は、まだまだ扱う具体的な例や学びの手順が画一化してきていない教科ですが、逆に見れば、「いろいろな見方で『情報の科学的理解』から問題解決を促す教科である」と言うことができると思います。

 

従って「教科書に書かれている内容や例を学ぶ」のではなく、学習指導要領に書かれた内容で行った授業の理解度を測る「大学入学共通テスト」向けの対策として、学習指導要領に書かれた内容の意図は何か、どんなことが求められているかを読み解きながら「思考力・判断力・表現力等」「問題発見解決能力を育成」する考え方を伸ばす対策を行っていくことが肝要かと思います。

 

「情報の科学的理解」に関しては、さまざまな参考書が発刊されており、技術解説はオンライン記事や動画でたくさん公開されています。また、ITパスポート試験の問題なども「情報I」の内容に寄せて作られるようになってきました。

 

このような教材を活用しながら「生徒が知識を自ら統合し、その上で問題解決につながる学び」を目指したいものです。

 

A5-3.佐藤先生

基本的にはすべての教科書が検定を通っているので、大分違いがあるように感じますが、学習指導要領に沿って作られていると考えて良いと思います。

 

共通テストでは「『情報Ⅰ』で学ぶべきこと」が問われると考えられます。これを理解するために一番良いのは、学習指導要領をしっかり読み込むことだと思います。

 

学習指導要領は[理解するようにする]と書かれていることは、理解させるようにすべきなのですが、[考えられる]というのは例示であり、扱わなくても良いこととして書かれています。

教科書はこの[考えられる]の部分の扱いと、[理解するようにする]の程度の違いによって難易度が作られています。まずは[理解するようにする]をしっかり理解させられるようにすることが大切だと思います。

 

 

Q6. 高校教員

今までセンター試験や共通テストで行われていた「情報関係基礎」は、「情報Ⅰ」の共通テストの対策教材となり得るのでしょうか。

 

A6.事務局

大学入試センター試験問題調査官の水野修治先生が、情報処理学会 高校教科「情報」シンポジウム2023秋(ジョーシン2023)のご講演の中で、「情報I」と「情報関係基礎」の違いについてご説明されています。こちらをご参照ください。

https://www.wakuwaku-catch.net/kouen231201/01/