New Education Expo 2023

「情報Ⅰ」の実践と課題 ~東京都における専門家の派遣を通じた教育支援を踏まえて考える~

東京都教育庁 岡村健先生

私は、数年前まで都立高校の情報科の教員でした。現在は、東京都教育庁の教育委員会の事務方を務めております。

 

現在の主な仕事は2つです。1つは、高等学校情報科の指導主事として、都立高校の情報科の先生方に、情報提供や勉強会の開催をしています。

 

もう1つは行政の立場から、都立学校のデジタル環境の整備をしています。小学校、中学校はGIGAスクール端末が入っていますが、高等学校は自治体によってまちまちであるため、東京都としてどんな形でどのような機種を導入し、教室のネットワーク環境はどうするか、などといったことを検討しています。

 

現在、環境整備は一段落しており、今メインで取り組んでいるのは、教育ダッシュボードの開発です。さまざまなデジタルツールを使うことで溜まっていく生徒の学習ログや、校務系の成績・出席データなどを1つのデータベースに集約し、それらを掛け合わせて分析することで、エビデンスベースの指導が行えるのではないかと考えるものです。

 

教育ダッシュボードの開発は、データの活用方法の研究も含めてこれから数年かけて都立学校に導入していく予定です。

 

「情報I」の抱える課題を解決するために

 

本日お話ししたいのは、昨年度の新学習指導要領のカリキュラム改訂でスタートした「情報Ⅰ」の科目についてです。

 

この件については、私たちも多くの課題があると認識しており、今回その解決のために内田洋行様に業務委託をしました。まずその委託事業の背景からご説明します。

 

高等学校では、改訂された学習指導要領が、令和4年度から全科目で実施されました。

 

改訂前の情報科の授業では、学校ごとに「社会と情報」と「情報の科学」の2科目から、その学校や生徒の実態に合ったものを1つ選択して実施していました。

 

1年生で「社会と情報」、2年か3年で「情報の科学」をする学校もありましたが、学習指導要領上の高校卒業の必履修の条件としては、どちらか1つでよいとされています。

 

学習指導要領の改訂で、情報科は新しく「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の2科目となりました。「情報Ⅱ」は「情報Ⅰ」を終えた生徒しか履修できないため、昨年度は「情報Ⅱ」を実施する学校はまだありませんでした。

 

一番大きく変わったのは、「情報Ⅰ」が必履修科目として、卒業に必須の科目となったことです。「情報Ⅰ」の内容には『プログラミング』や『データの活用』があり、『プログラミング』は改訂前の「情報の科学」では扱っていたものの、「社会と情報」では必須でなかったため、先生によっては、あまり教えた経験がない方もいます。今回の必修化により、そのような先生方が困っているのではないか、ということが、本事業の1つ目の背景です。

 

※クリックすると拡大します。

 

本事業のもう1つの背景は、学習指導要領の「情報Ⅰ」の目標にあります。

 

「情報I」の目標は、「情報に関する科学的な見方・考え方を働かせ、情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し,情報社会に主体的に参画するための資質・能力を育成することを目指す」とあります。

 

これは、「全教科を通して、問題の発見・解決を行う学習活動を多く取り入れる」という新学習指導要領全体のスタンスにつながります。

 

すなわち、「情報I」では、教科の専門的な知識習得にとどまらず、それを使って世の中の問題を解決するような実習を多く取り入れることが求められます。

 

これはもともとあった内容ではありますが、今回学習指導要領で特に強調されたことで、私たちもその重要性を認識しました。学校の先生は、教科書の知識などを教えるのは得意ですが、その技術が実社会でどのように活用されているかという観点からは遠いため、問題解決のための実習が難しくなります。そこで今回、民間の専門家の方を派遣する形をとりました。

 

 

さらに、この新しい学習指導要領に対応して、令和7年度入学生の大学入学共通テストから「情報Ⅰ」が科目として加わることになりました。

 

まだ少し先ではありますが、今までほとんどやってこなかった受験対策についても、新しく対応する必要があります。

 

※クリックすると拡大します。

 

東京都立の高校では、幸いにも現在情報科の授業は100%、情報科の免許を持つ先生で行われており、臨時免許や免許外教科の先生が教えているということはありません。

 

ただ、課題はあります。

 

一つ目は、「社会と情報」しか教えた経験のない先生も多く、「情報Ⅰ」で扱う『プログラミング』や『データ活用』を十分に指導できるようにならないといけない、という点です。

 

もう1つが、問題の発見や解決を学習活動に取り入れるために、社会の中で情報技術がどのように活用されているかを知る、ということ。そして3つ目は、情報科の先生ご自身が情報科の受験指導が初めてということで、勉強会などを通じて指導力向上を目指す必要がある、という点です。

 

 

専門家の派遣により、実社会で情報技術が使われる現場を知る

 

これらの課題に対応した「情報科目の充実を図るための教員支援モデル校事業」として、昨年度行ったのがこちらの3つです。

 

1つ目が、このあと詳しく説明する専門家派遣モデル校です。

 

2つ目は、プログラミングのオンライン学習や実習のための民間教材を導入し、使い勝手などを検証した上で、その検証内容を都立学校全体に展開する取り組みです。

 

そして3つ目として、他教科で受験指導していた先生方に向けて、そもそも受験指導はどのようなものか、ポイントはどこか、生徒に必要なメンタルケアなど、情報分野の専門知識とは異なる受験指導に特化した講演会などを行いました。

 

 

1つ目の専門家派遣モデル校事業について、詳しくお話しシステムます。

 

実際に都立学校の教室で、民間IT企業のプログラミングやデータ活用などの専門家の方々に、世の中での最新事例の説明をまじえながら、「情報Ⅰ」の授業を行っていただきました。

 

モデル校は、都立高校と中等教育学校の合計13校です。この中で、それぞれ『プログラミング』と『データの活用』、『モデル化とシミュレーション』を一つずつ指導していただきました。

 

 

派遣していただいた講師がこちらです。委託事業のご紹介を通して、ご協力いただいた企業で実際の現場で『プログラミング』や『データ活用』、『モデル化とシミュレーション』を使って仕事をされている方々に講師を勤めていただきました。

 

このあと、この専門家派遣モデル校事業にご協力くださった山口さんと、小平高校の小松先生に、具体的な授業の内容についてお話しいただきます。