New Education Expo2023

「情報Ⅰ」の実践と課題~東京都における専門家の派遣を通じた教育支援を踏まえて考える~

東京都立小平高校 小松一智先生

東京都立小平高等学校は、全日制の普通科の学校ですが、特徴的なのが、普通科でありながら外国語コースを設置しているということです。

 

東京都の西側に位置していて、ちょっと変わったデザインの校舎です。初めてこの学校を見たときには「何てすごいんだろう。都立学校でこんなところがあるんだ」と思いました。

 

 

1学年7クラスの規模の学校で、普通科のクラスが5クラス、そして外国語コースが2クラスです。募集の段階で普通科か外国語コースかを受験生が選んで受験します。普通科に関しては男女それぞれの枠があり、外国語コースに関してはそれぞれの枠がない受験となりますが、なぜか毎年女子の方が多いです。そのため、学校全体としても女子の割合が多い学校です。

 

外国語コースでは、英語の時間数が豊富にあり、2年生、3年生になると第二外国語を選ぶことができます。他の学校よりも、ちょっと多くJETとALTが配置されている学校です。最近では東京都の「GE-NET20(Global Education Network 20)※」というグローバル人材の育成をする施策の指定校にもなっています。それ以前は、「東京グローバル10」や「国際交流リーディング校」、「海外学校間交流推進校」と、さまざまな指定を受けてきました。

 

https://global-navi.metro.tokyo.lg.jp/attempt/ge_net20.html

 

そういったこともあり、留学を希望する生徒が一定数いる学校なのですが、残念ながら、ここ数年はコロナの影響で海外に出られず、また、外からの受け入れもなかなかできませんでした。コロナが明けてこれが盛り返してきてくれるに違いないと、今思っているところではあります。そういった学校なので、常にどこかの学年に留学生が来ていまして、今も1年生に2人、2年生に1人在籍しています。今の1年生の2人は、高校1年生に入学後すぐの4月に海外から来ている同じ年代の子たちで、同じように授業を受けています。

 

よく生徒も、教員も、文系の学校だと、どうしても言いがちなのですが、そういうことも気にせずに、がんがん「情報」の授業をしていこうと思いながら授業をしています。

 

 

生徒がより興味をもって取り組む授業~東京都における専門家の派遣

 

「情報Ⅰ」の内容は、「(1)情報社会の問題解決」、「(2)コミュニケーションと情報デザイン」、「(3)コンピュータとプログラミング」、「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」の4つの分野で構成されています。

 

 

この中の「(3)コンピュータとプログラミング」では、コンピュータの仕組みなど、アルゴリズム・プログラミング、モデル化・シミュレーションを扱います。この「モデル化とシミュレーション」の内容のところで、今回の外部委託の授業を引き受けました。

 

 

「情報Ⅰ」は昨年度の1年生から始まりましたが、「情報Ⅰ」の教科書をざっと見たところ、シミュレーションではスライドに挙げたようなテーマが載っています。以前の「情報の科学」でも、似たようなテーマが多かったと思います。

 

サイコロの割合や期待値のシミュレーション、模擬店の値段の設定と売り上げの関係など、生徒の自分ごとになるようなテーマも設定されていたり、消費者教育の観点から必要だと考えられるローンの返済なども設定されたりしています。他にも入場者数の予測、クラスに同じ誕生日がいる確率、部屋のレイアウトなど様々です。

 

 

このようなテーマを、生徒に楽しく授業を行うのも良いのですが、今まで「情報の科学」で教えていた経験から考えると、どうしても決まりきった内容の授業になってしまうのですよね。そうではなく、もし専門家の人が授業を行えば、私が授業を行うよりも、もっと面白い内容になるに違いないと思い、引き受けました。

 

 

授業を行う上での専門家への要望

 

私は、これまでコロナのためオンラインの授業も行っていましたし、またいつ何時そういった状況になるか分からないので、全体を通して、最初は導入をする、そして簡単な説明をした後、生徒には課題を行ってもらい、最後にまとめや振り返りをする、といったパターンを決めて授業を行っていました。

 

生徒は1学期中このような流れで授業を進めていたため、2学期に引き受ける外部委託の授業でも同じような流れでお願いしたいと要望を出しました。

 

 

また、本校では、この直前まで「プログラミング」の授業を行っていました。

 

2学期の授業から「プログラミング」に入り、最初はデジタル化を扱った後、Pythonを使って授業を行っていました。プログラミング言語を習熟するよりも、そこでどういうことが行われているのかを理解してもらうため、あえて特に難しいことはやらずに授業を進めていました。

 

そのため、最初はExcelや他の言語を使って「モデル化とシミュレーション」を行う、という話もありましたが、せっかくPythonを使っているのだから、ぜひPythonを使ってくださいとお願いしました。

 

あとは周りと協働することが生徒にとっては学びになるので、ぜひグループワークも取り入れてほしいこと、「モデル化とシミュレーション」を目的ではなくあくまでも手段として使うような内容の授業で、最後に成果物を作成してほしいといった要望を引き受けてもらいました。

 

 

全3回のプロジェクト学習~広告代理店の社員として広告をつくる

 

授業の内容としては、山口さんが作成してくださったものに加えて、私のほうでもこのようなスライドを用意しました。

 

テーマとしては、「東京に来てもらうために、どの地方に・どんな広告を出すか」について、費用対効果をシミュレーションしながら考え、広告を作るということです。

 

吹き出しの部分が、「モデル化とシミュレーション」としての内容の一番のポイントです。どのようなコンテンツを選んで、どの地域にPRして、どんな媒体でPRして、というところを考えるために「モデル化とシミュレーション」を行うというお話です。プロジェクト的に全3回でこのような内容を進め、必ずポスターを2つ作ることを最後のお題にしました。

 

 

どこをターゲットにするのか、また、今の時代ですからWebは必須で出すとして、その他にどんな媒体に・何を出すかも考えて、それに向けたポスターも作りましょう、としました。そのため、生徒たちにとっては「モデル化とシミュレーション」の授業というよりは、デザインを扱った授業として印象に残っているかもしれません。

 

 

実際の授業の中では、これらのスライドを見せながら「こういうことをするために、さあ、今は何をするのでしょう。全部で3回の時間のなかで完成させられるように、自分たちでペースを決めて進めてください」としました。

 

 

値を変えて結果を吟味し、根拠を示してポスターをつくる

 

こちらは山口さんのスライドの中にもありましたが、シミュレーションの値を変えて、いろいろといじった結果がどうなってくるかをちゃんと考えつつ、根拠を示して、その上でポスターを作りましょうとしていきました。

 

ポスター作成では、Adobe Expressを使い、授業の中だったので自由に画像など取ってきて使ってもいいよ、として作成させました。生徒は、異なる用途をイメージして縦型・横型を変えたり、Webのバナーに使えるように考えて作っていたりしていました。また、同じテーマについて、違う視点で2つのポスターを作成したチームもありました。

 

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実は、そもそも根本的なテーマを間違えていて、「東京都のお金を使って地方に行く」ためのポスターを作成してしまったチームもありました。ただ、その中でも「人を勧誘するためには、何か突出したものがないと難しい」といった、広告制作上の課題を考えることができたのはよかったかなと思います。

 

 

その他の生徒の振り返りを紹介します。

 

「ポスターを見て観光客は来るか来ないかは決まると思うので、かなり重要だと思いました。」とありますが、このように、シミュレーションよりもデザインのほうに、意識が向いてしまった生徒もどうしても出てしまいました。

 

 

また、おそらくこのチームは、最終的なアウトプットはデザインであっても、そこに至るまでに、さまざまなシミュレーションや根拠をもとに考えることを理解できたのだろうと思います。

 

 

その中でも、広告によってシミュレーションの結果が変わってくるところから、「どの媒体の広告にするかによって紙の大きさや文字の大きさ、配置なども変わってくる」と、さらに突っ込んで考えていたのかなという振り返りもありました。

 

 

また、「シミュレーションした結果、埼玉から来た人が1人1万円使ってくれれば広告の元が取れることが分かった」という振り返りがありました。ここが一番シミュレーションの授業として理解をしてくれたのかなと思います。

 

実際に1万円使わせるのは大変ですが、300万円をもとに広告を打ったとしてシミュレーションした結果、300人は来てくれるという結果があり、1人1万円を使ってくれれば元が取れる、というところに落ち着いたと思うのですね。そういったところまで考えてもらえたことはよかったです。

 

 

「難しかったけれど、面白かった」授業

 

私は毎回の授業の中で振り返りとともに、授業の内容に対して、「とても面白かった」「面白かった」「とても難しかった」「難しかった」、そして「もっと他のものにも取り組んでみたい」と思ったか、というデータを取得しています。

 

このクラスは、初回がこのようなデータになりました。41人クラスですが、複数選択可にしていますので、総数が異なります。今回は、一概に、「とても面白かったところが多いからよかった」ではなくて、「難しかったけれども面白かった」と認識してもらえたようです。

 

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また、授業の内容によっては、回数を重ねるごとに、授業っぽい内容になってしまうと「もっと他のものにも取り組んでみたい」と答える人が少ないこともあります。

 

今回は最終的に、全3回の授業で、最後は「とても面白かった」がかなり増えました。なおかつ「難しかった」も増えていますが、実感として「難しいけれども面白かった」と感じてもらえたのかなと考えています。結果がこのようについてきたというのは非常によかったと感じます。

 

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良かった点と今後に向けた検討について

 

このような授業を行ってみて、良かった点ともう少し検討する必要があると感じた点をまとめました。

 

良かったのは、このテーマを与えられた授業を、生徒がすごく楽しく受けていたことでした。これは私が普通に「モデル化とシミュレーション」の授業を行ったときには得られない内容なのだろうと思います。

 

現場を知っている人が考え、持ってきたテーマだからこそ、そのような結果になったと思いました。お見せした振り返りは一部ですけれども、さまざまなことを考えてもらえたことが非常に分かると思います。そして、全員ではないとしても、「モデル化とシミュレーション」はあくまでも手段である、と理解してもらえたのではないのかと考えています。

 

また、最終的に「他のものにも取り組んでみたい」と思ってくれた生徒がいるのは、嬉しいですよね。「難しいから、もうやりたくない」ではなくて、「難しかったけれど、もう少し他のものにも取り組んでみたい」と思えたというのは、この授業を行ってよかったことであると感じています。

 

ただ、もう少し検討する点もあります。

 

この外部委託の授業は、最初は全8回の授業を行ってもらうことになっていましたが、特にモデルプランなどはなく、何もないところから授業内容をまず考えることが必要で、これは非常に大変でした。

 

その後、打ち合わせをして、詳細を詰めていくのですが、当然ながら山口さんは、この仕事だけではなくて並行して他の仕事もされているので、資料が直前まで来なかったりしたときは、正直ちょっとドキドキしました。また、いただいたPythonのプログラムが、実際に学校のパソコン室で動くのかどうかの検証もしなければいけません。当日の朝これをしなければいけなかったときは、これもドキドキでした。

 

あと、今回の授業は、全クラスを担当してもらうわけではなくて、1クラスだけでしたので、残りのクラスでは、山口さんが作ったスライドをもとに、私が作り直して、自分の授業として行いました。正直、全部やっていただけたらありがたかったですが、さすがにそこまでは言えませんから(笑)。

 

そして、これは高校の事情として、どうしても行事で授業がつぶれることがあります。最初に山口さんに先行して授業を行ってもらうように組んだのですが、途中で逆転するところが出てきてしまって、そこは本当に苦労しました。

 

なので、受け入れる側にも大変な部分はあります。

 

ただ、私の今の話を聞いていただいて、この内容にするためには、私の要望を相当聞き入れていただけたからこそであることは、お分かりになったと思います。逆に、最初から全てかちっと決まっていて、こちらの要望を聞いていただけなかったとしたら、果たしてどうなってしまったかなと思います。そういう意味では、逆にノープランで来ていただけてありがたかったこともあると思います。このように、いろいろな意味でメリット・デメリットはそれぞれあるということを実感することができました。