New Education Expo2019 

【パネルディスカッション】

学習の基盤となる情報活用能力の体系的な育成~実践事例から考える育成方法

鳴門教育大学 大学院学校教育研究科 泰山裕先生

司会:安藤先生

ここまで各先生から具体的な実践の話をいただいて、それに対して泰山先生から分かりやすく解説していただきました。今後は、すべての学習の基盤となる情報活用能力を育成するための活動を、全国のすべての学校で行わなければならなくなります。ここからは、情報活用能力の体系表の作成にあたられた泰山先生から、そのあたりのポイントについて解説をいただきたいと思います。

 

泰山裕先生

学習の基盤となる資質・能力の一つとしての情報活用能力

まず、情報活用能力育成のポイントを、これまでのIE-School授業や、それを設計された先生方の取り組みからご紹介します。それぞれの学校で様々な背景があると思いますので、ご自分の学校ではどうできるのか、どの辺が参考になるのかを意識しながら聞いていただいて、気になる点があれば、その後の議論でご意見をいただければと思います。

 

情報活用能力というのは、先生方もご存じのとおり、学習の基盤となる資質・能力で、簡単に言うと、「情報をうまく活用するための力を身に付けさせておきましょう」ということになると思います。

 

学習の基盤となる資質・能力には、情報活用能力の他に言語能力や問題発見・解決能力があります。例えば、日本語をうまく扱えないと算数の問題ができないように、情報を扱えないと、どの教科もうまくできない。逆に、情報がうまく扱えるからこそ、教科の学習がより深くなるということで、学習の基盤として位置付けられたわけです。

 

IE-Schoolの取り組みは、情報活用能力とは具体的にどのような能力で、どのような範囲を指していて、それをどの教科の・どのタイミングで・どのように育てるのか、どのような子どもの姿を目指すのがよいのかということを、整理するために行われました。昨年度3年目が終わり、小学校から高校までの情報活用能力の目安を示す体系表が整理されました。図では細かいところが見えませんので、下記のサイト掲載の表をご覧ください。

 

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/05/16/1416859_02.pdf

 

まず情報活用能力とはどのような力の範囲を指すのかを整理したものが下図です。次の学習指導要領は『知識、技能』、『思考力、判断力、表現力等』『学びに向かう力、人間性等』の三つの柱で整理されていますので、情報活用能力についても、この三つの柱で整理しています。

 

※クリックすると拡大します

 

例えば、情報や情報技術を適切に活用するための知識と技能があり、さらにその中には、情報技術に関する技能、例えばパソコンの電源をつけたり、デジタルカメラで写真を撮ったりといったことから、記号の組み合わせ方の理解のようなプログラミング的な要素もあります。そして知識・技能の中にも「問題解決・探究における情報活用の方法の理解」というものがありますが、これはそもそも情報をどうやって集めるのか、集めた情報をどのように整理・分析し、発信するのかという方法の話も含まれています。

 

さらに、どうやって情報を集めるのか、何を使うかということの考え方自体も情報活用能力の中に含まれています。情報活用能力というと、ともすればコンピュータを使うということに限定されがちですが、私たちは普段からコンピュータを介する・介さないに関係なく、いろいろな情報を集め、処理しています。さらに情報モラルやセキュリティの話も当然含まれてくる。そのような力の総体が「情報活用能力」であるという構成です。ですから、各学校でもともと大事にしていることは、ほとんど情報活用能力とどこか重なってくるということになります。

 

IE-Schoolの取り組みをもとに学年段階別にステップ1~5で整理

ざっくりとこの体系表の構成を説明します。全体がステップ1からステップ5で整理されていて、ステップ1が小学校の低学年、ステップ2が中学年、ステップ3が高学年、ステップ4が中学校、ステップ5が高校を想定しています。学年でなくステップで表しているのは、パソコンがない学校にキーボードの入力の仕方を求めるのは難しいなど、学校の状況による部分が多いからです。

 

次に内容は、例えば「情報と情報技術を適切に活用するための知識と技術」は、その中が(1)「情報技術に関する技術」、(2)「情報と情報技術に関する理解」、(3)「記号の組み合わせ方の理解」の3つに分かれていて、さらにそれぞれが細分化されており、1例えば1-①-aはコンピュータの操作の仕方をステップ1からステップ5のレベルで示しています。

 

これは、IE-Schoolのモデル校の事例を帰納的に組み上げていくとこのように整理できましたということなので、まずはご自分の学校の子どもたちのレベルはどの辺りなのか、次に何をしなければいけないのかを、見ていただければと思っています。

 

表の一番左の列は、A「知識、技能」B「思考力・判断力・表現力等」C「学びに向かう力・人間性等」に分かれていて、その詳細な内容は、見ていただくとわかる通り、非常に多種多様なものが含まれています。例えば情報モラルで言えば、「知識・技能」にも「思考力・判断力・表現力」にも、「学びに向かう力」にも入っています。これは資質・能力の3つの柱の定義からすると当然のことですが、情報モラルも一面だけではないということです。

 

つまり、どのような状況になったら、どんな動きをするのが正しいかというのは、知識として教えていかなければなりませんし、それを守るかどうかという態度も身に付ければならない。さらに、実際にそのような場面に出会った時に、適切な判断や行動ができるかという思考力も想定しなければならない。このように、資質・能力の3つの柱で整理したことによって、類似した言葉がたくさん出てきています。

 

ですから、カリキュラムを作る際に全部をチェックして埋めていくとなると非常に大変ですので、学校の状況に合わせてうまく活用していただくことが大事であると思います。また、これはIE-Schoolの先進校の事例から作ったステップなので、学校の現状に照らした時に、どこにギャップがあるかといったことは、ぜひその辺りもお知らせいただきたいと思います。

 

情報活用能力の育成~「学習の基礎となるもの」と「教科等の目標と重なるもの」に大別して

ここからは、情報活用能力をどのように育成していくかという話をします。情報活用能力には、大きく分けると、基本的な操作技能に関するもの、問題解決や探究における情報活用能力(プログラミングもここに含まれます)、そして情報モラルや情報セキュリティに関するものという三つの領域に整理されています。

 

この中で、基本的な操作や、情報モラル・セキュリティについては、全ての教科等の学習の基盤となる要素がたくさんあります。

 

例えば、タイピングの技能を習得すること自体は、何とかローマ字の学習と紐付けることはあるとしても、個別の教科の目標と位置付けることは難しい。しかし、これが身に付いていると学習活動が効率的になりますし、逆に知らないと困ることでもあります。ですから、例えば下敷きを敷くとか、ノートの書き方などのように、どこかできちんと機会を作って教得る時間を取り、その後は教科の中でたくさん活用させることによって育成することが求められてくるのではないかと思います。

 

一方、問題解決・探究における情報活用能力については、教科の目標に重なる部分がかなり多いのではないかと思います。つまり、いろいろな教科の中で、どのように情報を集め、それをどう判断するか。これは次の学習指導要領では「見方・考え方」という言葉で表現をしていますが、教科ごとに情報の処理の仕方・表現の仕方というものがあります。

 

 

つまり教科の学習を「情報の扱い方」という視点で見ると、かなりいろいろな目標がこの部分につなげられるのではないかと思います。このように、情報活用能力育成のポイントとしては、まず情報活用能力を大きく二つに分けて捉えるのがわかりやすいと思います。

 

一つは、教科等の学習を円滑に進めるための、まさに学習の基盤となるような情報活用能力です。これについては、どこかで習得する機会を持ち、たくさん活用させる場面を作ることが必要になるものです。私たちがタイピングのやり方を学んだ時、最初にホームポジションなどを学びますが、あとは実際にやってみることでうまくなっていくと思います。このように、最初にどこかで「こうやってやるんだよ」というようなことを教える時間を取って、あとはどれだけたくさんの場面で使わせるかということになると思います。

 

もう一つ、先ほどの教科等の目標と重なる成果が目指されるものについては、目標と関連付けて、今まで特に意識せずに行ってきた情報活用を、意識的に指導するということがポイントになると思います。

 

 

以上のような育成のための体系表の使い方として、まずその教科等の学習で、最終的にどのような情報活用をしてほしいかという子どもの姿をイメージして、その活動に必要な情報活用能力とは何かをチェックしていくためのリストとして活用していただくのがよいかと思います。

 

 

 

体系表を使って学習活動に必要な情報活用能力をチェックする

例えば、「子どもたちが身近な問題を発見して、その解決のためのウェブデザインを考えることを通して問題解決能力を育てる」という目標があったとします。そうすると、この学習活動をうまく進めるためには、事前にどんなことを知っていないといけないかを、この体系表からチェックをしていただくことができます。

 

 

 

例えば、今日ご紹介いただいた授業で、「問題解決に向けて計画を立てて評価・改善しながら実行する」という活用であれば、キーボードで十分な速さで入力できることや、アプリケーションをきちんと選択できることができてほしい。あるいは、メディアの特殊性や種類についてもちゃんと知っておかないと、インターネットのどの媒体が適切か選べない。さらに、調査はどのようにするのかということも、きちんと知っておかないといけない。そのためには情報モラルも知っていってほしい…というように、学習の基盤としてどのような能力が前提になるのかを、この体系表の中からチェックをして、それが子どもたちにまだ身に付いていないのであれば、その活動までのどこかで教えておかないといけないということになると思います。

 

つまり一つ目の使い方としては、子どもの情報活用の姿を想定することで、指導しておくべき事項をチェックするということです。北海道教育大学附属釧路中がうまく進められていたのがこの辺りかなと思います。各教科の前提となる情報活用能力とはどこかということを、きちんと共有して、教科等を横断して進めていくための事例としても見られるのではないかと思います。

 

もう一つの教科等の目標と重なるものについては、これまで無意識にやっていたことを意識化するための枠組みとして、この体系表を使うということです。

 

例えば、小学校中学年の国語科の学習指導要領には、図のような目標が示されています。

 

実は、国語科は唯一学習指導要領の文言がそのまま情報活用能力の体系表に含まれている教科です。このように、国語科における情報の扱い方や情報と情報の関係の理解に関する項目は、情報活用能力の一部でもあるのです。

 

 

体系表の赤枠で囲んだ部分がこれにあたります。国語の先生にこれを見せると、「これなら今まで国語科でやっているよ」ということが見えてきます。そうすると、国語の先生は情報活用能力を育成しているという意識はなくても、実は国語で大事にしていたことは情報活用能力にもつながるということが見えてきます。

 

他の例では、中学校の理科には、図に挙げた文言があります。理科の学習指導要領の特徴として、対象がどんどん変わりながら同じ表現が何回も出てくるのですが、これを見ても、調査の設計や情報収集、選んだ情報をどう分析するといった、一連の情報活用能力の発揮のプロセスが想定されていると言ってよいと思います。

 

 

情報活用能力の育成を軸に、学校全体のカリキュラム・マネジメントへ

このように、目標とする活動を円滑に行うためには、どのような力を身に付けさせておけばよいかを見るためには、教科の目標と、それと重なる情報活用能力の項目を探して、それを活動に組み込むことになります。これがカリキュラム・マネジメントということになりますが、これを非常に上手に実施されたのが、先ほどの長野県教育委員会の事例で、教科等を情報活用能力という横の視点で串を通すということです。

 

こうして各先生が体系表を見ながら、自分の専門の教科に重なる部分を見つけていくことが、学校全体でのカリキュラム・マネジメントにつながり、これも体系表の一つの使い方になると思います。つまり、教科等の学習と情報活用能力との接点を、この体系表を使って見つけるということです。こうして、例えば国語でやったことが、2カ月後の理科で出てくるといったことがわかれば、それを意識して指導できる。それがまさにカリキュラム・マネジメントになるではないかと思います。

 

これまでお話ししたように、情報活用能力は、教科等を横断した資質・能力であるため、おのずと学校全体でやっていくことになります。情報活用能力は、学習の基盤であるとともに、育成を目指す資質・能力でもあります。そうすると、学習の基盤は事前に指導して、それを育てるためには発揮する機会をたくさん準備するということになります。つまり、パソコンの使い方の技能を習得させるなら、同時にそれを使う場面をたくさん準備する必要があるということです。

 

 

そして、教科等の目標と重なるような情報活用能力については、教科等の学習との対応をきちんと検討するということが、一つのポイントであり、そのために体系表をうまく使っていただきたいと思います。ただ、体系表を全部チェックしてつぶしていく必要はなく、これを枠組みとしながら、自分の学校の子どもの姿を捉えたり、カリキュラム・マネジメントをうまく進める材料として使っていただくものであろうと思います。あるいは、指導が必要な能力を検討するためのチェックリストとして使うというやり方もありますし、教科等の学習とのつながりを見つけるために使うこともできると思います。

 

次の学習指導要領では、知識というのは先に教えてから使うという順番でなく、使う中で高度化していくことも想定されていると思います。情報活用能力も、まさにそういった側面が強くあり、教えたからすぐにできるようになるものでもないし、使っていく中で高度化していくというようなことが想定されていると思います。そのためには、例えば中学校の技術科の情報領域だけで情報活用能力の育成をするのは、土台無理な話で、全ての教科でどのような役割があるのかを考えていただきたいと思います。

 

全ての教科等の学習が情報活用能力に結び付くということは考えにくいとは思いますが、どこかでつながる場面があるのではないかと思います。各教科の学習指導要領と情報活用能力を照らし合わせてみると、関係がかなり明示的になっているところが増えていると思います。例でいうと、算数や数学のデータの活用の領域は、まさに情報活用能力と関係が深いところだと思います。ぜひその辺りの視点で、各教科の教育課程を見直していただき、学校全体を通した情報活用能力の育成につなげていただければと思います。