第10回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)

パネルディスカッション「来るべき情報入試を考える」

[パネリスト]

萩原兼一先生(大阪大学大学院情報科学研究科)

神藤健朗先生(東京都市大学付属中学校・高校)

三井栄慶先生(神奈川県立横浜翠嵐高校)

加藤光先生(大阪府立岬高校)

[コーディネーター]

小原格先生(東京都立町田高校)

「考える力」を育てる情報科の授業とは

神奈川県立横浜翠嵐高校 三井栄慶先生

進学校における情報科の実施状況

私は私立学校に6年間、数学専任という形で勤めていました。その後県立高校に移り、情報科専任となって現在に至っています。いわゆる進学校の経験は今年で7年目になります。そこで気付いたこと、考えていることを、この場でお伝えしていきます。

 

下図は、2017年度における、東京大学への進学率が高い学校が、教科「情報」でどの科目を使っているかをまとめたものです。インターネット上にある教育課程表を見てまとめたものなので、正式な数値ではないかもしれませんが、だいたいの様子がつかめます。

 

「社会と情報」と「情報の科学」の比率がだいたい半々になっています。一般には「社会と情報」が8、「情報の科学」が2という割合と言われますが、進学校ではやや「情報の科学」が多いようです。しかし、逆に言えば、進学校でも半数は「社会と情報」をやっているという現状がうかがえると思います。

 

「情報科」は受験科目ではないという認識

このように、情報科はまだまだ重く見られていないという現状があります。学校によっては、今後検討というところもあるのでしょうが、進学校においても、先ほど私学についてご説明いただいた神藤先生と、だいたい同じことが言えてしまっています。

 

また、生徒の方の問題としては、思考・判断・表現する力が不足しているということがあります。要するにあまり「考えない」わけで、答えが一発で出ないことについては、考えることを避けるという傾向があるのです。

 

そのような生徒たちにどう対応するか、ということで、私は「ルーブリック評価」を行っています。ルーブリック表に沿って、生徒たちが自分で考えられるように工夫しながら授業を進めていますが、なかなか一番良いAの結果まで、行き着いていないというのが現状です。

 

 

思考力・判断力・表現力を伸ばす問題とは

そこで、どのような問題がいいか、ということを考えてみました。例えば、このスライドのような問題はどうでしょうか。

 

……答えは「解像度」です。このような、覚えていれば書ける、考えなくても解けるという問題では当然だめです。

暗記だけでは解けない、考えないと解けないというところが、思考力・判断力を伸ばすポイントです。「考える」ことを、どのように段取り付けるかということについては、昨日の大阪大学の萩原先生の基調講演の中からヒントをいただけたように思います。

 

次に、思考力・判断力・表現力を問うという意味で、2種類の問題を提示します。

 

こういった問題がよいのかどうかというと、正直ベストな問題だとは思いませんが、先ほどお見せした「解像度」という単語を答える問題に比べればベターであるということで提示いたします。

 

「解像度を上げるべきか、下げるべきか」という、一見単なる選択問題に見えますが、この問題に答えるためには、きちんと解像度のしくみをわかった上で判断することが必要になっているからです。

 

さらに高度にした問題がこちらです。「解像度を下げると、なぜ写り具合が粗くなるのか論ぜよ」という記述問題です。記述問題であれば、なぜそのように書いたのか、ということが問えるはずです。

 

記述問題は、採点する上で教師の負担が重くなるという現実がありますが、それを踏まえた上でどのようによりよい授業や問題を作っていくのか、先生方と考えを共有していきたいと思っています。

 

調査結果から考える「思考力・判断力・表現力」の評価方法

大阪府立岬高等学校 加藤光先生

情報科の評価手法~その実態について

まずは、大学入試選抜のもととなる高校での「情報科」の評価手法の実態についてお話しします。こちらは、3月の「文部科学省大学入学者選抜改革推進受託事業シンポジウム」で萩原先生と一緒にパネリストとして発表いたしました。

 

調査結果は、大阪の高等学校情報教育研究会のWebのほうに全て載っておりますが(※1)、その中からいくつか抜粋した上で、今回のテーマにつなげてお話していきます。

 

※1:文部科学省 大学入学者選抜改革推進受託事業シンポジウム 発表資料

 

テストの方法と実習の割合

大阪には高校が300校ほどありますが、そのうち、今回の回答は75校です。研究会の加入率もそれぐらいですので、あくまでもその範囲内の結果であり、全ての学校がこう思っているわけではないということは、ご承知置きください。また、今回の調査は、情報処理学会の先生方にも協力していただきました。

 

まずは、テストのやり方です。授業の中で実際にどういう形でテストをしているか、複数回答をしてもらいました。半分以上の学校は、何かしらの課題を出していることがわかります。

 

 

次に、実習の割合です。

 

実習は、半分以上の学校で行われています。「情報A・B・C」時代の流れを汲んでいたり、課程によって実習を行う割合を決めたりしている可能性もあります。今回調査に入っていない学校の実習の内容が、知識や技能の習得だけに終始していないか、という面は気になります。ここは今後、もう少し詰めて調査していきたいところです。

 

状況によって評価方法は異なる

評価方法については、何における評価なのか、ということを考える必要があると思います。それは、毎日の授業・単元ごと・定期考査・単位認定・大学入学者選抜など、それぞれの段階で求められるものが異なるからです。

 

下図は、よくいろいろなところで目にするものですが、パフォーマンス評価やポートフォリオ評価など、様々な評価方法があることがわかります。情報入試では、最終的にCBTで問うことになりますので、この中からどういう評価が合っているかということを、私たち教員は考えていかなければいけない状況です。

 

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平成25年に文科省で、教育課程・編成実施状況調査を行いました。こちらがその中の観点別評価の実施状況です。7割から8割程度の学校が、「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識・理解」の4観点での評価は実施できていると回答しています。

 

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一方で、評価技術の問題、それから教員の意識や学校体制の問題、授業計画・評価計画などについては、多くの教員が不安を感じているということが読み取れます。

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大阪府の調査においても、評価テストで思考力・判断力・表現力が問えるかという質問に対して、「問えるだろう」と答えた先生が意外に多かったです。

 

ではどのようにして思考力・判断力・表現力を評価するか、という質問に対しては、提出物や実技発表で評価するという回答が圧倒的に多かったです。この辺りは、先ほどお話ししたように、日々の授業の実践の中で評価をするのと、大学入学者選抜という観点で評価するのとでは、少し違うところだと考えます。

 

思考力・判断力・表現力を評価するには

ここで、自分なりに「思考力・判断力・表現力を評価すること」について考えてみました。萩原先生の基調講演では「情報科の試験問題を『知識・技能』だけでなく『思考力・判断力・表現力』を評価するものにしたい。解がユニークでないものも含む」という、お話がありました。ここが、今までは解が一つしかない、正答という形で評価していたのと異なるところです。この評価を幅広く求めていきたいという面が大いにあります。

 

下図は中央教育審議会の次期学習指導要領の総則の評価特別部会の資料です。まだ検討中となっていますが、教科に関係なく、問題を発見した上で情報に基づいて問題を理解し、情報を抽出してその中から必要なものを選択するという流れで、思考力・判断力・表現力を問う、というものです。

 

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それから、こちらは本大会において、専修大学・松永先生が発表された、文科省の大学入学者選抜改革推進委託事業で、情報科で入試問題を作る際に評価観点とする13の分野です。


これらをもとに、具体的にいくつか問題例を紹介していきます。

 

こちらが、記述式の問題例です。国語科でも50字程度で記述するということが検討されていますが、情報科でもこういった記述問題の出題が考えられます。

 

こちらは、昔の事象を見て、問題点を解決するため、どのように技術が進化していったかを説明させる問題です。

 

そして、未知のことに対応するための思考力・判断力・表現力を発揮するという意味で、架空の事例を挙げて考えさせる問題です。

 

さらに、表現者としての対応や判断を問う問題です。例えば、高校生にとって身近な存在であるYouTuberになったとき、今まで培ってきた知識・技能を、どういう思考力・判断力・表現力をもって、どのような行動に移していったらいいかを考えさせます。

 

「思考力・判断力・表現力」を問う問題を作っていこう

今回の文科省の事業では、同じ問題を繰り返し使用する可能性があるというCBTの性質上の制約などがあって、今どういう問題を作っているかということを公表できません。そのため、私自身は今後、自分でこのような問題を作っていこうと考えています。先生方も、定期考査などで、こういった問題を意識して作ってみてはいかがでしょうか。また、お互いに協力しながら、問題作りに取り組むのもよいでしょう。そういった取り組みが、次の未来を創っていくことにも関連してくると思うのです。