第10回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会)

パネルディスカッション「来るべき情報入試を考える」

[パネリスト]

萩原兼一先生(大阪大学大学院情報科学研究科)

神藤健朗先生(東京都市大学付属中学校・高校)

三井栄慶先生(神奈川県立横浜翠嵐高校)

加藤光先生(大阪府立岬高校)

[コーディネーター]

小原格先生(東京都立町田高校)

 

小原先生:昨日の基調講演で、萩原先生から情報入試に向けた取り組みが現在どのような形で進んでいるのかというお話をいただきました。このパネルディスカッションでは、私たち高校の現場の人間が、それに対してどのように考えているのか。例えば、情報入試というものを我々はどのように評価しているのか。入試問題で生徒の学力を評価できると思うか。情報入試を行うとするならどうあるべきなのか、などといったことを、高校の現場の立場から意見をたくさん出して、それを建設的な方向につなげていく機会にしたいと考えています。

 

ですので、一つひとつの案に対して、いいとかダメとかいうのではなく、ブレーンストーミングのように、ちょっとしたいいところをたくさん集めて、より現実的な、実りあるものにしていきたいと思いますので、先生方も趣旨をご理解の上、かしこまらずに「うちはこうしているんだ」とか「こんなのどうかな」というラフなもので構いませんので、ぜひご意見をいただければと思います。

 

パネルディスカッションの進行です。最初にパネリストの先生方にお話しいただきますが、まず現場からのご意見ということで、東京都市大学付属中学校・高校の神藤先生からは私立高校の立場から、神奈川県の三井先生には進学校という立場から、そして大阪府の加藤先生には、萩原先生と一緒に研究されているということで、実際に先生方への調査をなさった結果も踏まえてお話ししていただきます。

 

そして、お一人5分程度で一回りしたあと、フロアの皆さまからもご意見をいただきます。最後に、それをもとに萩原先生からコメントやご意見を頂戴できればと考えております。フロアからもぜひ積極的なご意見をくださいますよう、お願いいたします。

 

「広報的な意味」が重視される私立学校の現状とこれから

東京都市大学付属中学校・高校 神藤健朗先生

東京都における私立学校の大きな特徴

本日は、ふだんなかなか知っていただく機会のない、東京都の私立学校の状況をまとめてお話します。

 

私自身は大学院を出たあとに、システムエンジニアとSEのインストラクターを、それぞれ3年弱ほどいたしました。そのあと、武蔵工業大学付属中高(現:東京都市大学付属中高)に数学で採用され、情報科教諭となって13年目を迎えています。

 

東京都の私学は、公立に落ちたから入るということではなく、そこを第一志望として入ってくる生徒が多いという位置づけにあります。実際、東京都の私立中学は184校、私立高校にいたっては238校もあります。これは、東京都の大きな特徴と言えるでしょう。

 

クラス規模は平均7クラスですが、それ以上の学校も多くあります。私学の専任教諭は、週あたり約15.1時間、授業を担当しています。情報の科目は週2時間ありますので、7クラスあれば、週あたりの担当時間を7×2=14時間確保することが可能になります。その意味で、情報科専任の先生を配置しやすい状況と言えます。 

東京都の私学における情報科教諭の教育条件は下図の通りです。非常勤講師を含めた期限付きの教諭が非常に多いことがわかります。では、情報の授業で、どれだけのコマ数を専任教諭が教えているかというと、35.2%と非常に少ないのです。数学の専任率は63.1%ですから、その差は歴然です。専任が教えることは一切ないという学校は、66校の調査のうち40校。つまり、6割近い学校が、情報を非常勤講師の先生に丸投げしている状況なのです。

都内の私立高校の授業実施状況は、下図のようになっています。都内238校を調べたところ、公開されていたのは155校でした。

次に、都立高校との比較です。都立高校では約40%の学校で「情報の科学」を実施していますが、一方の私立高校は約12%です。カリキュラムを公開していて、科目名がはっきりわかる私学144校分のデータではありますが、都立とは3倍近い開きがあることがわかります。クラスの規模によって、実施している科目に大きな差はありません。「情報の科学」は、クラス数が多くても少なくても、やっている学校はやっているということです。

 

私学における「情報科」の現状とは

以上からわかった、私学における問題点をまとめました。

まずは、科目そのものを、非常勤講師や年契約教員へ丸投げしてしまっているということ。また、他教科と情報科を兼任している教諭が多く、メインとなる他教科の準備の負担が大きくなって、情報は適当に流しておけばいいという状況になってしまっていること。

 

その原因はやはり、情報科という科目が軽視されていることにあります。なぜそうなるのかというと、結局のところ、進学実績に直接関係ない科目だからです。本校でも、少しでも子どもたちに負荷をかけようとすると、「あまり情報で課題を出さないでくれ」と言われてしまいます。

 

一方で、最近はICTに力を入れていて、生徒一人ひとりにタブレットを配るという学校もあります。そういった学校は、情報科に力を入れているかというと、必ずしもそうとは限らず、逆にすべてを非常勤講師に任せていたりするのです。「タブレットを使っています」という、広報的に意味があることには力を入れますが、逆に情報科の授業そのもののように進学実績に直接つながらず、広報的にはそれほど意味がないことに関しては軽視されてしまう、というのが私立学校の大きな特徴です。

 

また、都立高校の方が「情報の科学」の実施率が高いのは、東京都立の高校の情報科の専任率が100%であるということが影響しているのではないかと思います。また、大学の附属校で「情報の科学」の実施率が高いのは、上の学校につながるからという意識があるためと考えられます。私立高校のクラス規模は意外と大きいので、情報科の専任の教員が対応する余地があるのではないかと思います。今後、情報入試が始まることで、各学校において情報科の立ち位置が変わり、専任率の向上につながることを期待します。

 

情報という科目が入った当初、「いつかなくなるでしょう」という雰囲気がありましたが、今後もそれと同様の位置付けだと、いつまでも学校が本腰を入れて対応しないという状況になる恐れがあります。その意味でも、継続的に、情報の入試を行って欲しいというのが、情報科教員としての要望になります。

 

また、「社会と情報」を実施している学校が非常に多いのですが、新しい学習指導要領の情報科が始まれば、より専門性が高い内容を学習しなければいけない状況に追い込まれていくでしょう。教員自身が指導方法に関する勉強会に参加し、技術を高めるとともに情報入試に対応するためには、知識理解中心の内容から、思考力・判断力・表現力の活用を意識した指導が必要になってくるはずです。

 

例えば、私がシステムエンジニア時代にデータベースをメインに扱っていたという立場で、実際どういう問題を作るかと考えてみると、データモデルを提示した上で、考えられる問題点を指摘するという設問を作ると思います。その場合、利用場面を想像する力や、問題点に気付く力が求められるでしょう。あるいは、機能追加をするために方法を変更させるという設問や、要求されたデータを取り出すための条件記述というような形で、思考力・判断力を問うような問題が作れると思います。

 

こういった問題に答えるには、データベースの基本キーワードの理解や、リレーションシップの意味の理解、選択・射影・結合などといった一つひとつの言葉の意味がわかならければなりません。さらに、それをどのように利用していくのかという理解が結び付いていかないと、今回紹介されたような情報入試の問題は解けないと思います。