事例246
アンケート設計はグラフを描いてから:データ分析大反省会2022
相模女子大学高等部 堺和貴子先生
この発表は、「アンケート設計」に関する授業実践の報告です。昨年のこの実践事例報告会で、「アンケート作成」に関する事例発表を行いました(※)。
※ https://www.wakuwaku-catch.net/jirei22211/
そのときに感じた反省点を踏まえ、今年もアンケート設計の授業にチャレンジしました。この授業がどのようなものだったかをご報告します。発表の流れはこちらのスライドの通りです。
昨年度のおさらい~「アンケートを作ってみよう」で見えたもの
まず昨年度のおさらいです。昨年度は「アンケート調査」のためにGoogle Formを使って質問を作るという練習を行いました。
この時は、「平日に学校以外の場所で勉強をする時間」と、「平日にゲームをする時間」の関係を見たいとき、どんなアンケートを作ればよいかという問題をもとに、質問と回答項目を考えさせました。
すると、例えば数値の答えさせ方として、ある程度の時間の幅で選択肢を作り、ラジオボタンで表現させる形や、テキストボックスで自由に答えさせる形が出てきました。どちらも答え方としては問題ありませんが、データの取り方によっては、例えば散布図を作ろうと思ってもできない、ということが起こる場合があります。
また、答え方に困る質問もありました。こういった質問は、場合によっては無回答になったり、あるいは集計から除外せざるを得ないデータが発生したりする可能性があります。
これらのことから、アンケートを作る際には、まず仮説を書いて、その仮説が立証できるグラフを想像していけば、回答のさせ方に工夫ができるのではないかということ、そして、アンケート作成者と回答者の視点は違うので、あらかじめ回答項目の相互チェックを行うことで、アンケートの質問内容のブラッシュアップが行えるのではないか、という2つの反省点が出てきました。
今年度やったこと~「アンケートはグラフを描いてから」実践編
これらを踏まえて、今年度の授業のご報告をしていきます。まず、今年度のデータ分析の単元計画はこちらのとおりです。ちょうどこの6番と7番のところでこの授業を行いました。1.5時間ほどで、紙ベースでアンケート設計を行う実習です。
生徒には、「尺度水準」が登場するタイミングで、事前に尺度水準について教科書を読み、そして教科書に沿った用語の穴埋めプリントにも取り組むよう指示をしています。授業で生徒に共有したスライドやプリントも公開しますので、ぜひご参照ください。
まず、アンケート設計実習の前置きとして、生徒にはGoogle Form上でこの問題1問だけを提示して、「思ったとおりに答えていいよ」とだけ伝え、自由に回答させました。この回答は、すぐにクラス内で共有しました。
回答を見てみると、いろいろな答えがあることがわかります。答えやすさなどを聞いていくと、答え方に戸惑う発言があったりもしました。
そして、このとき、「実はアンケートを作った人は、平均の睡眠時間を調べたくてこういうアンケートを作ったとするならば、本当にこの質問でよかったのだろうか」という質問をします。そうすると、生徒たちからは渋い反応が出てきます。
ここから本題に入っていきます。アンケートで取りたいデータを取るためには、適当に文言を考えてしまうと、せっかくとったデータが使い物にならなくなってしまうかもしれません。
そのためには、まず仮説を立てて、どのようなグラフになっていれば仮説が立証されているのかを考えて、そしてグラフが表現できるような質問項目を作っていかなければ、うまくデータが取れなくなってしまうかもしれないよ、という話をしていきます。
たとえば、「身長と睡眠時間の関係」を調べるためにどのような質問を作ったらよいか
以降は、それぞれの流れについて「身長と睡眠時間の関係」を例に、アンケート設計の流れをご紹介していきました。
最初に「仮説を立てる」というプロセスです。仮説を立てないと、何をどう調べるのかという方向付けが明確にはなりません。「身長と睡眠時間の関係について」という表現では、質問として何を聞いたらよいかわかりません。
ですので、「睡眠時間が長い人は高身長である」のように、量的な表現をして要素間の関係を比べられるように言葉を考えていくということに注目をさせます。
そして、その仮説に合ったグラフを作ります。量的な表現であれば、グラフでの可視化ができるはずです。ここでは「睡眠時間の長い人ほど身長が高い」という仮説をグラフで表現しました。2つのグラフを紹介します。
ここまで来て、ようやく質問内容を考えることになります。こちらの記載のものを授業で紹介して、睡眠時間を知りたいとき、どちらの質問が答えやすいか、自分にとって必要な情報はどちらの質問が集まりやすいか、ということを考えさせます。
「どう答えてもらうか」も重要
さらに回答項目も考えていきます。
ここでは、あえて2つの回答項目を紹介します。聞きたいことは両方とも一緒ですが、どちらの回答項目がよいのかというのは、描いたグラフによって決まってくるよ、という話をします。
例えば、集めたデータを散布図で表したいということであれば、数値をテキストボックスで入力するスタイルの方がよいということになります。
逆にラジオボタンで答えてしまうと、散布図にできないということが起こってしまいます。
そして、この答えさせ方と、事前に学習した尺度とのつながりも紹介します。だからといってラジオボタンでの回答がダメかというとそうではなく、むしろ、今記載しているグラフのような表現が欲しいときは、こちらでのデータ収集もできるよね、ということを補足もしています。
アンケートを自分の手で設計してみよう
ここまでの流れを確認した上で、実際にアンケートを設計していきます。
テーマは2つの要素の関係を調べるというものです。
手順も紹介します。自分で考えたグラフや、質問項目の相互チェックも行えるようにしました。また、回答項目に関してはGoogle Formで使用できるものを想定し、この課題と一緒にどういった回答項目があるのか、という資料も生徒に渡しています。この資料もリンクをしていますのでぜひご覧ください。
こんなことになりました~「グラフにできない問題」と相互チェックの有効性~
次に、生徒の成果物などを通して、この授業を概観していきます。
まず、全体的な印象として、「グラフにするのが難しい」という言葉をあちこちで耳にしました。質問内容についての回答し易さは生徒によって様々でした。
相互チェックについては、特にグラフへの指摘は少なく、改善できるポイントをすり抜けてしまっているものも多かったです。ただ、チェックをしてもらったり、他の人のチェックをしたりすることにより、何らかの気づきを得た生徒もいました。それらは質問項目の改善につながるような内容でした。
それ、グラフとして成立している?そしてチェックをすり抜ける・・・
一つずつ見ていきます。まず「グラフが難しい」という問題についてです。
生徒の書いたグラフでよく見られたものを、私の方で事例としてまとめたのがこちらです。
ここでは散布図や棒グラフで、適切ではないと思われる軸の表現の仕方をするケースが見受けられました。
また、生徒の中には、積み上げグラフや帯グラフにすればわかりやすくなるようなグラフでも、教科書を確認しただけでは自分の作った仮説のグラフ化とつながらなかった様子も見受けられました。つまり、グラフは知っているけれども、どのように表現すればよいのか、どういったときに使えばよいのかということがよくわかっていない、という印象です。「こうやったらできるんじゃない?」と声を掛けるような場面もありました。
この部分の反省点としては、事前に表計算ソフトでグラフ化の操作は扱ったものの、操作方法にとどまったということ。また、尺度水準と、それに合わせた適切なグラフの表現といったところに、十分触れることができなかったというところがあります。
また、生徒同士でグラフの表現についての改善点の指摘はほぼない状態で、こういったところはどうしたら気付いていけるのかということも、考えていかなければならないなと感じました。
生徒の感想にも、グラフをどうするかが難しかったという声がかなりありました。
質問項目の設計は様々
次に質問項目です。
これは生徒によって様々で、もともとわかりやすく回答しやすい項目になっていたものや、相互チェックにより改善されたもの、またチェックを素通りしてしまったりしたもの、三者三様でした。その中で印象的なものを1つ紹介します。
これは、「スマホのホーム画面がアプリで埋まっている人は、整理整頓が苦手である」と仮説を立案した生徒のワークシートです。
この生徒は、仮説から質問文は考えられたものの、「スマホの整理ができているのか」ということの判断基準が人によって違う、つまり自分では整理できていて「はい」と答えたものであっても、他人にはそうではないと思うこともあるので、結果として「整理されている」という状態はどういった状態を指すのか、その定義はどうしたらよいのか、といったことを考えていたようでした。
このワークシートから、この生徒は、測定したいものがきちんと測定できているのか、「整理されている」という概念をどのように質問に落とし込むのか、というところに気付きを得られたのかなと思っています。このような考え方ができていくと、聞きたいことをきちんとと聞けるような質問項目を、正確に設計できるようになるのではないかと思います。
相互チェックはその行為そのものに意味がある?
次に相互チェックをする、ということに対してです。
実際、グラフや質問項目で改善点があったとしても、相互チェックをすり抜けてしまうという状態も、それなりにありました。ただ、その行為自体は無意味なものではなく、何がしか得るものがあったのかなという感触もあります。
質問文に対してフィードバックする記入欄に関しては、入力のルールの記載を「良いところ」として指摘するものが多かったと思います。感想欄にも、チェックをした上の感想を書いてあるものもありました。
画面下の感想欄は、スライド上のワークシートとは異なる生徒のものですが、「回答の補助となる情報があると答えやすいんだな」という気付きを得たものが多かったように思いました。
チェックされる側の視点でも同様です。ここに挙げた感想は、左上の質問を書き、回答項目について改善点の指摘を受けた生徒のものです。このように、作っている自分と他人の視点が異なるということに気付けた生徒は多いようでした。
また、このような感想もありました。
人にチェックしてもらうことが、実は一番の突破口なのかもしれません。これも、自分の視点だけで考えていると限界があるということとつながっているように感じます。
まとめ(大反省会)~改善点とこれからに向けて~
最後にまとめです。
昨年度の反省点を踏まえ、今年もアンケート設計の実習を行いましたが、結論を言えば、まだすんなりとはいっていないかなという印象です。
グラフ化の難しさや相互チェックの精度など、まだ改善の余地はあります。グラフについては尺度水準によってできることとできないことがあるということを、さらに明確にしなければいけないと思いました。また、実際に様々なグラフが使われている場面を紹介したりすることも必要であると感じました。
そして、相互チェックの精度をどのように上げていけるのかは、まだよくわかっていません。ただ、少なくとも生徒自身の経験が反映される部分なのかなとも思います。そうなると、何がしか試行錯誤するような過程を、もっと取り扱っていく必要があるのかなと感じました。
とはいえ、やってよかったと思うこともあります。自分の視点は他人の視点と同じではないことへの気づき、つまり、人のものを見て、あるいは人から言われて気付くこともあるということです。
質問項目に関する感想から、他者の視点を取り込むということの必要性を感じ取ることができた生徒がいたという点で、非常に意義深いものとなれたかなと思っています。
また、ちょうど「総合的探究の時間」でもアンケート調査を行う機会もあるため、ここでの気付きをさまざまな時間で活用してほしいと思っています。
最後に、改めて生徒の感想をご紹介します。
「アンケートは思いやりのかたまりなんだな」とか、「思ったよりアンケートって作るのが大変なんだな」とか、「受け手が嫌になる聞き方をしていないか」とか、「これまでアンケートを作ったことはあるけど、うまく工夫をすることで相手にも自分たちにも負担のないデータの集め方ができるのではないか」など、今回の課題に対して、それぞれがそれぞれの角度で得られたものがあったのかなと思います。
最後に、昨今「情報I」には共通テストなど、何となく気になるトピックはある中ですが、これからの学習活動とつながっていく内容を考えることも必要であると感じます。
昨年度も感じたことですが、こういったアンケート設計の授業をすると、どうしても探究の時間との関係を意識します。生徒たちがここで考えた事や悩んだ事が、次につながっていけばと思っています。
私自身も昨年度の反省を踏まえ、今年度もアンケート設計にチャレンジしましたが、これ自体も試行錯誤の過程であり、授業運営の今後につなげられれば、と思っています。これは生徒に要求したいことと変わらないなと思いつつ、この発表を終わりにしたいと思います。
神奈川県情報部会実践事例報告会2022オンライン オンデマンド発表より