事例211 

仮説を立ててアンケートをとろう:データ分析大反省会その1

英理女子学院高校 堺 和貴子先生

ご本人提供
ご本人提供

新しい学習指導要領の「情報I」には「データ分析」の単元があります。この発表では、「仮説検証のためにデータを取って考察する課題」を最終目標に、どのような授業をしてきたかを、生徒の成果物を紹介しながら授業の振り返りを行います。

 

「データ分析、どうしよう…」~仮説からデータ集計、分析、考察を一続きで行う授業を目指す

来年度から「データ分析」を授業で扱うために、その準備のためにも今年度から、「データ分析」の授業をやりたいと思っていました。でも、果たしてどのように扱えばよいのか悩んでいました。新しい教科書にも、「グラフ」・「オープンデータ」・「代表値」など、キーワードは載っていますが、これらを単発で扱って消化不良を起こさないか心配だったのです。

 

ただ、せっかくの「データ分析」なのですから、自分でデータを取って、それをもとに何か言えるまでをやってみるのも面白いなと思い、それならば、仮説からデータ集計、分析、考察までの活動を全て経験できるように授業を組み立てることにしました。

 


最終的な目標は、「自分で仮説を立ててアンケートを作成し、データ分析をして、検証する」ことです。それを実現するための準備として、当初やろうと思っていたことが4つあります。これは、昨年度の実践事例報告で、横浜翠嵐高校の三井先生が報告されていた事例(※1)を参考にしています。

 

※1 https://www.wakuwaku-catch.net/jirei21173/

 


まず、データをまとめるにあたり表計算ソフトの話をしなければならないだろうということで、関数やグラフ化を中心に、表計算ソフトの基本操作の話をします。グラフ化の話の中では、グラフの種類として散布図が出てきます。散布図については、相関関係、相関係数などと一緒に紹介します。

 

3番目にアンケート作成と尺度について。この話については、もう一つの発表の方でご紹介します(※2)。そして4つ目が外れ値と箱ひげ図についてです。アンケートでデータを取るときに、値など回答者に自由に入力をさせる場合があるので、外れ値の扱い方にも触れることにしました。ここまでの内容を扱った上で、自分で仮説を立ててアンケートを作成し、データ分析をして検証する課題を行おうと考えていました。

 

ただ、これで最後にいきなり「何かアンケートを作ってデータ分析しなさい」という課題を出しても、ちょっと生徒には苦しいかもしれない、という気がしたので、最初に考えていたことにプラスアルファして授業を展開していきました。

 

 ※2 「グラフと尺度とアンケート:データ分析大反省会その2」

 

 

オープンデータで仮説検証をする~表計算ソフトの基本操作、散布図と相関関係を学びながら

実際の授業の展開は二段構えで行いました。

 

最初に、「オープンデータで仮説検証をする」という目標のもと、表計算ソフトの基本操作や散布図と相関関係の話をして、その後自分で仮説を立てて、オープンデータで考察しようという課題を出しました。

 

 

ここではグラフ化から分析までの流れの部分に重きを置き、そこに時間を取れるようにしました。ですので、オープンデータの整理は私のほうで行い、分析対象の項目も決めました。ある程度のお膳立てしたうえで生徒に課題の着手をさせたのです。すでに準備されたデータで仮説を立て、散布図を作り、相関係数を出して考察するという課題となりました。

 

この課題は、昨年度の実践事例報告会の、清教学園高校(当時)の勝田浩次先生の事例(※3)を参考にさせていただきました。

※3  https://www.wakuwaku-catch.net/jirei21172/

 

アンケートで仮説検証を行う~アンケート作成と尺度、外れ値と箱ひげ図

次に、アンケートで仮説検証を行うことに目標を持っていきました。「検討したいことを、すでにあるオープンデータからではなく、自分で質問を考えてアンケートを取ってデータの整理をすることで、検証することもできるよ」という説明のもと、アンケート作成と尺度の話、外れ値と箱ひげ図の話をしています。

そして、最後に「自分で仮説を立てて、データをとって考察しよう」という課題に入りました。 


 

調査計画書で仮説とその理由を明確化した上でアンケート作成と回答、データ集計と分析に進む

この最終課題でやったことは大きく3つです。1つは調査計画書を作らせたこと。何について検討するかという青写真がないと、何をしているのか、何のためにやっているのか分からなくなるおそれがありますので、これを事前に書かせました。

 


調査計画書に関しては、まず仮説とその理由を明確化します。そして、それを踏まえて質問項目を決定し、その回答結果をどんなグラフで表現したいのか明確にさせました。仮説とその理由の書き方などに関しては、その書き方の例を提示して行いました。

 

調査計画書を踏まえたうえで2番目のアンケート作成と解答集計、結果のまとめと分析に進みます。アンケートはGoogle Formsを使用し、作成したアンケートはクラス内で答え合う形にしました。

 

データの集計と整理が終わったところで、3番目のレポートフォームの作成と提出に入ります。レポートには、タイトル、仮説、質問項目がわかるようにアンケートURL、外れ値の除外件数、グラフとその所見、考察を書かせました。

 

計画書とレポートフォームは下記ダウンロードしてご覧ください。

調査計画書.pdf
PDFファイル 46.7 KB
レポートフォーム.pdf
PDFファイル 105.4 KB

 

 

調査計画書はよく検討されていた

最終課題で一体どんなことが起きたかをご報告します。

 

まず、調査計画書はとても順調で、かなり手堅く書けていたと思います。

 

仮説に至る理由ははっきり書かれており、検証するための質問内容もしっかりしていたという印象です。 


 

こちらが調査計画書の一例です。仮説に関しては、生徒が自分なりに考えていたことが書かれていました。

 

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アンケート集計・グラフ化の場面で、思ったとおりのものが描けなかった生徒も…

ただ、アンケート作成やグラフ化のところでは、様々なことが起きたという印象があります。アンケートの質問に対して、回答の仕方に迷うものが出てきてしまったり、回答項目の尺度が異なっていたために、当初想定していたグラフにできるような形のものではなかったりしていました。グラフについては、一目見て分かりやすいものになっていない、というものも見受けられました。 


 

アンケート集計・分析に奮闘した生徒も

そんな中でも、集計においてとても工夫した生徒もいます。これは「生活の質と生活環境についてのアンケート」です。最初に「生活していて楽しいと感じますか」という質問で、楽しいか、楽しくないかを4段階評定をさせます。そして1、2と答えた人を「生活が楽しくない群」、3、4と答えた人を「生活が楽しい群」として群分けしています。

 

また、「あなたは何時間スマホを使いますか」という質問の結果について、2時間30分未満と答えた人たちを「スマホを触る時間が短い群」、2時間30分以上と答えた人たちを、「スマホを触る時間が長い群」として分けて、生活が楽しい人/楽しくない人の中で、スマホを触る時間が長いか短いかをそれぞれグラフ化する、という集計をしています。

 

特にスマホを触る時間に関しては、2群に分ける理由や明確な根拠はなかったにせよ(※3)、描きたいグラフがあって、仮説に従って言いたいことがあったことから群分けした意図があったのかなと感じました。

 

※3 事前に仮説立案段階で群分けの根拠を明確にする指導が必要でした

 

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「どんなグラフを作りたいか」、「どんな質問項目にするか」を決めて、振り返る機会をとることが必要

一連の流れの授業をやってみて、最終課題の改善点を考えました。

 

調査計画書に関しては、質問項目は書いていましたが、どのように回答させるかということを明記させるタイミングがありませんでした。ただ、これは最後にどんなグラフを作りたいかと連動させる必要があると思うので、もう少しアンケート設計に関して、詳しく書かせる部分が必要でした。 


 

グラフに関しては、凡例やグラフタイトルなど、グラフの表現の仕方が、見る人に対してわかり易いものになっているのかを、授業の中で考えさせる必要がありました。また、アンケート作成も同様で、生徒の様子を見ていると、「これどうやって答えればいいの?」と、アンケートを作った生徒に質問する場面も見られました。ですので、「その質問は答えやすいか」ということについても、どこかで考えさせるタイミングがあれば良かったです。

 

事例ベースでデータ分析の手順を追い、全部のつながりをイメージさせる工夫を 

そして、もう少し大きな視点での改善点、反省点としては、例えば「情報の科学」の教科書を見ると、問題解決の単元では何かしらの事例をベースに話を進めていることが多いです。今回の授業でも、問題解決の場面において、とデータ分析に関する手続きがどう絡み合っているかという観点で、事例ベースでデータ分析の手順を追っていくことができるのではないかと考えています。

 


 

さらに、自分の中での大きな反省点になっているのが、振り返りのタイミングを作れなかったということです。アンケートのデータの収集の前や、考察を書く前のタイミングで、相互評価をする機会を設けることが必要でした。それによって、例えばアンケートの答えやすさやグラフの見やすさなどが改善できたのではないかと考えています。

 

生徒主導で仮説検証を行ったからこその気づき

 最後に、生徒の感想です。「自分の思うことというのが、他人も同じように思っているとは限らないことが分かった」とか、アンケートの答えさせ方への気付き、そして、データ集計の仕方や、見せたいグラフをイメージしながらデータを取るということの大切さをはじめ、「自分がどの情報を使ってどんなグラフを作っているのかを意識していかないと、よく分からなくなってしまう」という感想もありました。一連の課題の中で、生徒の中でのデータの扱いで注意しなければならないことに対する気付きがあったことが見えてきました。これは生徒に課題を委ねなかったら生まれて来なかったものであると感じています。

 

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今回、「データ分析」を初めて授業で扱いました。「仮説を自分で決めて、それに合わせてデータを取って、考察させる」というやり方もいいかな、と思ってスタートしたものが、今日お話しした結果になりました。データ分析の授業を、すでにたくさん実践されている先生もいらっしゃると思います。こうしておけばよかったね、という点をぜひご指摘いただけたらと思います。

 

これから初めてデータ分析の授業される先生方には、「生徒に委ねる」という方法もアリなのではないかな、と思っています。これが何かのヒントになれたら幸いです。

 

 

グラフと尺度とアンケート:データ分析大反省会その2

新学習指導要領を見据え、「情報の科学」の時間に「仮説検証のためにデータを取って考察する課題」を行うことを目標として、データ分析の授業にチャレンジしました。その一環で、アンケート作成の授業を行いました。この発表では、アンケート作成の授業実践を紹介し、生徒に作らせたアンケートを通して授業の振り返りをします。データ分析の一連の授業に関しては、「その1」の記事で説明していますので、よろしければご覧ください。

 

「アンケートをとって仮説検証もできるよ」~授業の大まかな流れ

データ分析の授業全体の流れはこちらです。今回は、この中で「アンケート作成と尺度」のトピックに話を絞り、ご報告していきます。

 

事前の流れとして、生徒には表計算ソフトの基本操作や、グラフについて話をしています。さらにオープンデータを使って仮説検証的に散布図を作り、相関関係を算出して、考察するという中間課題を行っています。

 


その後に、アンケートと尺度の話をしました。当初は1時間で行う予定でした。生徒には、オープンデータ以外にも、個人でアンケート取ることが可能であること、Web上でアンケート集計がしやすくなり、例えばGoogle Formsで簡単にアンケートができることを紹介し、質問項目や選択肢の作り方、回答のさせ方などについて説明しました。 


 

アンケートはやみくもに作ればよいというものではないので、回答項目を作るに当たっては、尺度をよく考えなければいけないことも説明しました。例えば、尺度には名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比例尺度の4種類があって、折れ線グラフの横軸に名義尺度を置くことはできないね、といった話をしました。

 

試しに問題を作ってみたら…

また、質問についても、回答者が回答に困らないような作り方をしていかなければいけない、という説明をした上で、試しに問題を作ってみることにしました。「平日に学校以外の場所で勉強する時間」と、「平日にゲームをする時間」の関係を見たいとき、どんなアンケートを作ればよいか、というものです。これ以外には特に細かな指示はせず、質問を作らせました。 


 

生徒の作った質問には、大きく2つのパターンがありました。

 

1つ目は数値を入力回答させるパターンです。これは比例尺度として集計ができるものになります。グラフを作るなら、散布図がよいですね。

 

 

2つ目がラジオボタンで回答させるパターンです。こちらは名義尺度として集計するパターンになり、円グラフや棒グラフなどで、表現ができます。ただし、この2つのデータの関係を知るためには、一度クロス集計が必要になります。

 

 

回答項目の設計によって集計の仕方、グラフの表現が変わることに気づかせる

パターン1にしても、パターン2にしても、回答項目の設計自体は間違ってはいません。ただ、集計の仕方や、グラフの表現が異なってきます。授業としては、この質問を作らせるタイミングで、ちょうど1時間終わってしまいましたが、このままやりっぱなしにしてはいけないと思い、次の時間に、急きょこの2つの形式のアンケートに答えてもらい、数値を入力させるパターンに関しては散布図を、ラジオボタンで回答したものに関しては、クロス集計からグラフ化する手続きの解説を行いました。

 


自分の意図した通りに答えてくれていない…

アンケートの回答は生徒にさせて、私の方でデータをまとめたものを生徒に渡して、グラフ化の手続きを行うという形を取ろうとしていたのですが、回答データをまとめる段階でこんなことが起きていました。

 

こちらは数値を入力する形式のアンケートですが、回答が必ずしも指示通りになっていません。この回答データは生徒に見せたいと思い、データの整理においては、生徒に私の画面を見せながら、データの修正や除外を行いました。

 

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「平日に何分ゲームをしますか。分単位で答えてください」という質問では、「1時間」とか「2時間」という回答は「60」「120」に変更しなければいけません。「0分」のように単位がついているものは単位をカットします。「2時間未満」とか「10分くらい」といった回答は明確に数字にできないのでデータから除外せざるを得ません。そういった説明をしながら、データの整理をしていきました。

回答者がキーボードで入力をする場合は、ある程度回答に幅が出てきてしまう部分もあり、質問文に「半角数字で入力してください」と注意書きがあったにもかかわらず様々な答え方が出てきてしまっているということも、実際のデータを見せながら説明しました。

 

今回、ラジオボタンを使った質問は必須回答になっていたので、未回答のデータはありませんでした。ただ、設定に注意しないと除外するデータも増えてきてしまうよね、という話もしました。

 

その質問項目は、集計しやすい?答えやすい ?

また、こんな質問項目もありました。これは実際の授業中には扱わなかったのですが、紹介しておけば良かったなと思っているものです。

 

この質問項目に関して、上の「平日に学校以外の場所で勉強しますか」という質問で、「しない」にチェックしたとしても、2番目の「そこでどのくらい勉強しますか」という質問に解答を記入してしまう可能性があります。こちらも場合によっては、分析除外をしなくてはならないデータが増えることも考えられます。

 


さらにこういった質問もありました。「平日に学校以外の場所でどれくらい勉強しますか」という質問ですが、どのように回答すればよいでしょう?1時間、2時間とか、30分、0分、あとは「まあまあ」とか「そこそこ」といった答え方もできてしまいますね。

 


 

「平日に何分または何時間ゲームしますか」という質問では、分単位で答えればよいのか、時間単位で答えればよいのか…回答者が困ってしまう質問になるかもしれません。こういった質問を見ていると、質問された側が回答に困らないような質問を作ることや、集計のことを考えた設問も必要だよ、ということを伝えていく必要もあると感じました。

 

仮説を立案する時点で自分の主張ができるグラフを想定し、グラフが表現できるように質問項目を作成することが必要

生徒に質問を作らせるという授業を通して見えてきたことを次にお話しします。

 

 データ分析は、「情報I」においてそもそも問題解決の手法という位置付けになっています。そこでは、仮説を立案する時点で、自分の主張ができるグラフを想定していくことも必要です。そこで、そのグラフが表現できるよう、適切な質問項目と尺度を選んでデータを収集するということを考えさせたいと感じました。アンケートでどんな回答をさせるかを決めるには、もっとその先まで見通せている必要があるのです。

 


ですので、アンケート作成の際には、例えば、「どんなグラフで表現するか」から逆算して、質問項目や尺度を考える時間があるとよいなと考えています。さらに、名義尺度で集計をすれば散布図は作れないですし、散布図にしたいのなら、どのように答えてもらうのがよいか、といったことを検討する機会を置くのもよいと思います。

 

自分の意図通りに答えてくれるような質問項目の設計も必要

そしてもう一つが、アンケートを作った人の視点と、回答者の視点は異なるということです。生徒の中には、アンケートのデータをまとめる際に、「回答者は必ずしも設問の指示通りに答えてくれるとは限らない」ことを感じるかもしれません。実際に回答してもらう前に質問項目に不備がないか、チェックをする時間があれば良かったです。

 

あるいは質問項目に仮に不備があったとしても、まずは表計算ソフト上でデータをどう配置するのかを目で見て確認し、そこで何かおかしいなと感じるといった経験をすることも大事ではないかと思いました。

 


グラフと尺度とアンケートをつなげることの重要性

まとめです。グラフと尺度とアンケート、この3つは、非常につながりが深いものです。自分の伝えたいことをはっきり伝えられるようにするためにグラフがあり、それを打ち出したいからこそ、アンケートを作る際には、質問項目と、それに応じた回答形式を考えていかなければいく必要があります。

 

 

尺度というのは、どう見ても定期試験などに出しやすい話題ではあると思いますが、それはあまり大事な話ではないと思います。それよりも大事なのは、グラフから尺度を考えるということです。尺度を間違えると、思った通りのグラフにできない、ということが起きるからです。

 

そしてアンケートに関しては、調べたいことが確実に調べられる聞き方になっているか、ということと、回答者が困らないような質問になっているかどうか、ということが最も重要です。ここを間違えると、仮説を支持するための証拠集めができなくなってしまいます。この3つの関係をつなぎ合わせた形で授業をしていくのは、問題解決の場面で非常に大事になるのではないかと考えています。

 

グラフと尺度とアンケートの3つをまとめて授業で取り上げたのは、今回が初めてでした。机上の話になってはもったいない単元だなと思っていましたし、生徒に質問を作らせて、そこで見えてくるものがあったことは大きな収穫であったと思います。教科書を見ると、この3つはそれぞれ単発で説明されていますが、今回の授業を通し、今後も3つの関係を意識する授業の展開をしていきたいと感じた次第です。

 

お気づきになった改善点や、もっとこうした方がよいということがあれば、ぜひ教えていただきたいと思います。

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会情報科実践事例報告会2021オンライン オンデマンド発表より