事例178

[発表1] テキストマイニングで入試問題の単語の分析をやってみた

東京都立目黒高校 中山享司先生

「教科情報」と「受験」をリンクさせるために

 

ご本人提供
ご本人提供

テキストマイニングを用いた入試分析の授業計画と、分析に必要な登録作業と素材についてお話しします。今回お話しする内容は、全て私の教材サイト(※1)に掲載しました。解説のビデオも載せてありますので、ぜひご覧ください。

 

※1 目黒高校情報科準備室

 

本校では「社会と情報」を3年次で実施しています。今回は、今年度の2学期に行った授業実践ついてお話しします。

 


この授業を行おうと思ったのは、「受験と関係ない『情報』をなぜやらなきゃいけないの?」とか「『情報』の時間が無駄すぎる」という生徒の声がきっかけです。

 

そこで、入試問題を分析させたら受験勉強の足しになるのではないかなと思い、テキストマイニングの授業を行ってみることにしました。

 


テキストマイニングの分析をやってみる

 

まずは、テキストマイニングによるアニソンの歌詞分析を行いました。

 

これは、神奈川県立茅ケ崎西浜高校の鎌田先生の実践(※2)を参考にしました。

 

※2 鎌田先生の実践「テキストマイニングによるアニソンの歌詞分析 -分析から時代背景を読み取ろう-」

 


そのあと行った入試分析では、結果をwebページで表そうと考え、プログラミングの教育サービス「Life is Tech!(※3)」の教材を使って、HTMLとCSSを4時間で学習しました。

 

※3 https://life-is-tech.com/

 

いよいよ入試分析の実践授業に入ります。トータル9時間で、およその目安がこちらのスライドの通りです。

 

分析準備の「ユーザー登録」は、webサイトから過去問をダウンロードするために必要な作業です。ダウンロードするデータの形式はPDFですが、このPDFの文字をテキストマイニングすることになります。

 

 

その文字を選択するためには、PDFの編集ソフト(※4)で開く必要がありますが、このソフトが、教員用パソコンには入っているのですが、生徒用には入っていません。この活動では、生徒が自分で文字を選択してテキストマイニングするようにしたかったので、いろいろ調べたところ、いい方法を見つけました。

 

GoogleドキュメントにデータをアップロードしてGoogleドキュメントで開くと、PDFのファイルを選択できるようになるのです。この方法で、さっそく生徒たちに登録してもらいました。

 

(※4) 

https://acrobat.adobe.com/jp/ja/acrobat/acrobat-pro.html

 


さらに、テキストマイニングをするために、AIテキストマイニングサイト「User Local」(※5)にも登録しました。

 

このサイトでは、ユーザー登録をしなくても1万文字まではテキストマイニングできるのですが、登録すると20万文字まで可能になります。英語の問題は文字数が多いため、今回はユーザー登録をすることにしました。

 

(※5) https://textmining.userlocal.jp/

 


結果活用のための表示方法

 

User Local でテキストマイニングを行うと、ワードクラウドで表した図(スライド左)と単語の出現頻度の表(スライド右)が出てきます。ワードクラウドはPNG画像で、出現頻度はCSVファイルでダウンロードしました。

 

出現頻度の表を普通にCSV形式でダウンロードすると縦1列に並んでしまうため、品詞ごとに横に並べ、条件付き書式の「データバー」という機能を使って、視覚的にどの単語がどの程度出現しているのかがわかるようにしました。

 

 

仮説を立ててから分析に入る

 

ここからは、英語の入試問題のテキストマイニングによる分析の指導と評価、そこからの反省と今後の課題についてお話しします。

 

分析を始めるにあたって、生徒たちには入試問題の傾向の「仮説」を考えて書くよう伝えました。そして、5年分の入試問題の分析を行い、結果の結論をまとめてwebページにアップしてもらいました。

 

仮説を書いてもらったのは、「きっとこういう結果になるだろう」と予想しておくことによって、テキストマイニングで得られる結果に対する理解が深まると思ったからです。このように、分析にあたって仮説を立ておくことは重要であると考えています。

 


また、分析に際しては「出現頻度の表を見て感じたこと」を書くよう指導しました。生徒たちは、きっと「簡単な語が多い」などの感想を書くと思ったので、「単に『簡単だった』だけから抜け出せると、よりカッコいいよね」と付け加えました。

 


また、特に内容把握のために「重要になる語は何か」ということを考えるよう促しました。

 

英語科の先生からは「重要な単語がわからないと、文章が正確に読み取れなくなるということに気づいてほしい」という話がありましたが、今回はそこまで求めませんでした。

 


そして、大学はここで出題した問題で学生を選抜し、入学させようとしているわけですから、分析結果から「大学側がどういう生徒を求めているのか」「合格するためにはどんな勉強をしたらいいのか」といということを結論として導き出せるように考えてみよう、と生徒たちに伝えました。

 


テンプレートを使ってwebにまとめる

 

分析した内容をwebサイトにまとめる作業では、テンプレートは私が用意しました。

 

 

大学名のところは、自分の志望する大学を記入します。また、赤丸で囲んだ箇所のように、仮説や分析の内容は、生徒が自分で考えたコメントで上書きすれば、サイトの形になるようにしました。

 

Htmlについては、この活動の前に4時間かけて学習しましたが、この時間数では、コンピュータが苦手な生徒には、全てを一から構築する力はなかなか付けられませんでした。ですから、テンプレートを書き換えていくという方法は、そういった生徒たちにも効果があったのではないかと思っています。

 

 

「相互評価」で時間の無駄を省く

 

できたものは生徒同士で相互評価をしました。一人ひとりが皆の前に出て3分程度発表すると、40人学級の場合5、6時間使ってしまうことになり、最初に発表した生徒は、6時間目の最後の方はもうほとんど聞いていないという状態になってしまいます。

 


一方、相互評価では、ルーブリックを作成し、その評価基準に従って評価します。およそ20分で、1人が6~7人を評価することが可能になります。

 

40人学級の場合は、発表1人について39人が評価を付けますが、この39人評価の平均値と6~7人評価の平均値はそれほど変わらないだろうと考え、この人数で相互評価を行うことにしました。

 

評価の付け方は、ご覧の通りです。

 

1番の生徒は、隣の2番の生徒の席に移り、2番の生徒が作った作品を、ルーブリックに基づいて3分間で評価します。3分たったら、隣の席に移動して3番の生徒の作品を3分間で評価します。

 

 

ルーブリックがこちらです。

 

D段階は『不適切な表現がある、または記載がない』というものです。全員B段階が取れることを目指したいので、テンプレートをもとに、自分なりにサイトを書き換えることができたらB段階、としました。

 

また、それでは少し物足りないような、パソコン操作が得意な生徒のためにA段階とS段階を用意しました。

 

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スムーズに進めるための工夫

 

この授業をスムーズに進めるために、工夫したことを紹介します。

 

まず、サーバーにバッチファイル(コマンド列を記述したテキストファイル)を作っておきました。ショートカットに相当するものです。バッチファイルの中身は、このようになっています。

 

 

そして、これから何をするのか、それをどういう観点で評価するのか、などをまとめたワークシートを作りました。このシートを見れば、今から何をすればよいのか、何ができたらどういう評価が付くのかがわかるようにするためです。

 

しかし、これを配って実施したところ、1枚に入れる情報量が多かったせいか「どこまでやったのかがわからなくなった」と、投げ出す生徒がクラスで数人出てしまいました。

 

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1枚で全てがわかるのはよいのですが、やはり改善の余地があると考え、一度に提示する情報量を少なくして、六つに分けました。それぞれのワークシートのQRコードがこちらになります。もし、やってみようと思う方がいらっしゃいましたら、ぜひご利用ください。

 

 

分析にもっと時間をかけられる授業設計が必要

 

さて、実際にテキストマイニングを行ってみたあとの生徒たちの感想ですが、これがなかなか厳しいものでした。

 

『英単語だけを見てもよくわからない』『テキストマイニングをして、入試問題の何がわかるのか最後までよくわからなかった。ならば、問題文を自力で翻訳する方が理解につながると感じた』…ということで、テキストマイニングでわかった内容をどのように役立てたらいいのか、という今後の課題となるような感想がありました。

 


授業時間は、作業に8コマあて、授業評価のアンケートでは、「これが適切だったかどうか」「核となる『見抜く力』がついたと思うか」「合格に向けてどんな勉強をすればよいかわかるようになったか」「進路活動の助けになったか」を、「良い」の4から「良くない」の1までの4段階評価で聞きました。

 

見方によっては7割が好意的とも見えますが、反省という視点からいえば、およそ3割の生徒がなにかしらの不満を持っているということになります。

 

これらの意見を考え合わせると、「そもそも分析作業に行きつくまでの準備が大変すぎた」という点に課題を感じました。これは、もっと細分化したワークシートで実施することによってスムーズに作業を進め、分析にかける時間を確保できるのではないかと思います。

 

また、「単語の出現頻度を出してどうするのか」という生徒への指導については、これからさらに研究していかなければいけないと考えています。

 

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[発表2] 教材サイトを用いたブレンド型教育

家で予習を行い、学校で演習やプレゼンなどを行う「反転授業」は、ICTの進歩でより行いやすくなりました。そこで今回は、教材サイトとワークシートを併せて活用することによる「反転授業」の実践と、対面とオンラインのブレンド型教育についてお話ししたいと思います。

 

ブレンド型教育の基本は「対面」

 

「ハイブリッド型教育」は、授業を対面で受けるかオンラインで受けるかを学生が選択して受講できるもの、それに対して「ブレンド型教育」は対面とオンラインを組み合わせ、あくまでも対面で授業をするというものです。

 

私が実施したのは、後者のブレンド型の方です。

 


ブレンド型では、YouTubeにアップロードした動画とワークシートを活用します。この動画やワークシートには、家でやってきてほしいことがまとめられています。そして、最終的には全てを教材サイトに集約し、教材置き場にする、というのが大きな考え方になっています。

 

目黒高校情報科準備室

 


個別最適化に役立つ教材サイトを作る

 

教材サイトは、構築も更新も簡単にできるGoogleサイトを利用して作りました。教材サイトを作るメリットの、一つは個別最適化ができることです。また、教員にとっては、指導の振り返りができるというのもよい点です。自分が授業で話したところを見る機会は、これまであまりなかったので、自分の話し癖もよくわかります。ちなみに、私自身は「えー」がとても多いと気づきました。

 

 

こちらは授業に使ったワークシートです。ポイントは、動画の内容について生徒自身が穴埋めを行うこと。さらに、単元全体のルーブリックを作っておくのも重要です。必要に応じて、動画や教材サイトのQRコードを作っておけば完成です。

 

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学習内容を「座学や活動に必要な知識」と「活動的な内容」に分ける

 

実施した時の様子を紹介します。

 

まずは、単元全体を見渡して、「知識」「技能」を身に付けさせたいところと、「思考力」「判断力」「表現力」を身に付けさせたいところを分けます。これは学習指導要領の文言で少し難しいのですが、要するに座学や活動に必要な知識と、活動的な内容、これで分けてみるとよいということです。この座学や活動に必要な知識の部分を撮影し、YouTubeにアップして教材サイトに埋め込んでおきます。

 


ワークシートには、課題をはっきりと提示します。スライドでは「はっきりと」と赤字で書きましたが、生徒に渡すプリントは白黒で印刷するので、四角で囲ったり下線を引いたりして、目立つようにするとよいでしょう。

 


次にYouTubeでアップした内容について、重要語句等を適宜穴埋めにしたワークシートを作ります。

 

YouTubeのアドレスや教材サイトをQRコードにしてワークシートに付ければ完成です。QRコードを作るときはこちらのサイトが使いやすいので、紹介しておきます。

 


生徒の質問に対する答えは動画にしておき、「わからないところは動画を確認する」という習慣をつける

 

ワークシートを作ったら、印刷して生徒たちに配布します。座学に関する動画は既に撮影してありますが、「動画を見るように」だけではなく、「動画ではだいたいこんなことを話している」ということは、対面授業で説明しておくことをお勧めします。実際に対面で説明した方が、生徒たちにとっては理解しやすいようです。

 


 

概要の説明を終えたら、課題に向けての作業に移ります。そのときに、生徒から「これはどうやるんですか」という質問がいろいろ来ると思いますが、そういったところは全て動画にしておきます。後から同じ質問があったとき、「そこは動画を見ればわかるよ」と指示することができるからです。こうやってわからないときには自分で動画を確認するという仕組みを作っておくのが理想です。質問がたくさん来そうな内容は、あらかじめ先回りして動画にしておく、というのもポイントになると思います。

 

教材サイトで授業や解説の動画、説明に用いたスライド、配布したワークシートやプリント類など、授業に必要なもの全てを掲載しておくことで、学校でしかできなかった学習が家でもできるようになります。このようにして、効果的な反転授業の実施ができるようになりました。

 

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