事例71

高校での「情報科」における思考力・判断力・表現力の教育方法/評価方法

兵庫県立西宮今津高校情報科 白井美弥子先生

私が所属している兵庫県高等学校教育研究会情報部会は、平成20年12月に設立された教科部会です。実習助手や非常勤の先生も含めた、兵庫県内の国立・公立・私学の情報科の先生を対象とした部会で、本日はそちらの代表ということで参りました。

 

この部会は、学校単位の加入ではなく、個人単位の加入になります。まだまだ人数が多いとは言えず、これからも研鑽して、もっと人数を増やさなければいけないと思っています。私自身は、平成16年、兵庫の教員採用試験で初めて情報科の教員が採用された際の1期採用の1人です。

 

情報科は最初から「観点別評価」を実施していた

平成12年に文部科学省から、指導要録の改善に関する通知が出て、「観点別評価を実施する」ということが明示されました。観点別評価自体は以前からありましたが、「このように評価しましょう」と、はっきり通知に書かれたのはこのときが初めてでした。

 

その後、平成15年に情報科が創設され、各学校で、評価基準を作りなさい、それを基に観点別評価をしなさい、ということになりました。評価基準は非常に多岐にわたるため、観点別評価をしたことのない教科の先生にとっては、集計が非常に大変らしく、皆さん苦労されたという話を聞いています。

 

幸いなことに、情報科については、教科ができたときには既に観点別評価をしなければならなかったので、比較的この形の評価は入りやすかったと言えます。

 

下図は、西宮今津高校情報科(専門科目「情報システム実習」)の学習指導案です。表が、単元別の評価の観点になります。最初に単元の中でおおまかに観点を分けて、評価基準を作っておきます。そこから、さらに細かく目標を設定して、評価する点を分けていくというのが、観点別評価の大きな流れです。

 

ちなみに、情報科における観点というのはこの4つです。国語などは5つ観点があるということで、教科によって多少違いがあるようです。

 

本校における情報科の実際

ここから、本校の実施事例をお話しします。本校は兵庫県の南東部、甲子園球場がある西宮市にあります。甲子園から物理的には最も近い公立高校の1つです。

 

本校では、入学時に簡単なガイダンスを行って、「社会と情報」「情報の科学」の両方、あるいは、いずれか一つを生徒に選択してもらいます。生徒の選択をもとに、今年度は「社会と情報」を6講座、「情報の科学」を3講座、開講しました。

 

総合学科の単位制の高校なので、さらに、専門科目の「情報」を全部で6科目開設しています。情報科における評価は、主に実習の成果物、講座ごとの提出物、さらに、授業態度を含めて総合的に判断し、評価を行っています。これは、情報科が創設された折に、当時本校にいらした佐藤万寿美先生が、非常にきちんと整備された項目を立てて評価をしておられたので、私たちはそれを引く継ぐ形で、今も運用することができています。

 

特に気をつけているのは、普段のテストや定期考査や実習で、知識、理解の部分に偏らず、思考力や判断力が必要となる問題を必ず入れるようにすることです。

 

実践事例~共通教科・専門教科・実習過程における評価

こちらが、共通教科情報における取り組みの事例です。提出物については、「提出物を期限内に提出できているか」「提出物(問題集)の完成度」「答え合わせが出来ているか」といった観点で評価を行います。

「丁寧に書けている」という部分について、「丁寧とはどこで判断するのか」と聞かれることがあるのですが、これは、事前の打ち合わせで、どのレベルだったら「丁寧」と見なすかという基準を決めておき、それにしたがって教員が確認して判断する、という手順で進めています。

 

こちらは、専門教科「情報デザイン」の実技試験での評価です。

 

Illustratorでこのハートマークを描きましょう、という問題です。デザイン系の先生はどのような評価をなさるかはわかりませんが、この授業でははじめに描き方について一斉で指導し、その上で観点評価を行います。

 

例えば、「左右対称になるように」という条件がありますが、これは、反転させることによって、左右対称かどうかがすぐわかるようになっていて、容易に評価ができます。

 

また、実際の技法の部分については、コントロールキーが押せていない、単にコピーしただけ…といったことがないかどうか、授業中に見回っています。いわゆる机間指導をして、どの程度できているかを確認し、評価するようにしています。

 

 

それから、もう一つ、実習過程での評価ですが、「情報と問題解決」という専門科目で行っている取り組みを紹介します。ちなみにこれは、「情報の科学」にも応用できる課題だと思います。ちょっと変わっていますが、なかなか面白いので毎年楽しみながらやっています。

 

基本は「短文を伝送しなさい」という課題なのですが、この短文をメモ用紙に書き写し、一文字ずつばらばらにしてカプセルの中に入れます。カプセルというのは、スーパーなどで100~200円入れてグルグル回すとガチャッとおもちゃが出てくる、いわゆるガチャガチャのカプセルです。集めたカプセルに書き写した文字を入れ、それを箱の中に入れておきます。箱の中からどのカプセルが取れるかはわからないので、結果的に文字が順番にならないような仕組みになっています。

 

そのカプセルを目的地まで持っていくわけですが、伝送経路は1階の端の部屋から4階の端の部屋まで、建物の対角を進んでいくような形になっています。階段は2本あり、各フロアーの踊り場のところに、門番が6人立っていて、そこでじゃんけんをして勝てば進める、負けたら帰らなければならない、という活動です。

 

(生徒たちは、楽しくなってしまって、どうしても盛り上がってしまいます。そのため、実習を行う前には、その棟で授業をしている担当者全員にことわりに行かなければならないのが少し大変です。時には、60メートルぐらい離れた隣の棟からうるさいという苦情が来るので、そちらにもことわりにいかなければなりません。あまり、棟と棟が密集しているところや、たくさん授業のあるフロアーで行うのは難しいかもしれません。)

 

さて、この流れを聞いておわかりだと思いますが、どうしてもゴールまでたどり着けない、という子も当然出てきます。じゃんけんに勝てなくて、いつまでたっても帰って来られないので、結局そのカプセルは迷子になってしまうのです。これは、情報を伝達する際に、漏れが出てきてしまうということを表します。

 

つまり、この実習で、生徒たちが学んでいるのは、「パケット通信の原理」「ルータの役割」ということになります。時に迷子になってしまうカプセルはパケットを、そして、「あちらへ行け、こちらへ行け」と言って行き先を決めている門番はルータの役目をしている、ということです。今はパケット通信という言葉はあまり使わなくなりましたが、通信の初歩的な原理を学ぶには、そうやって自分で体験するのが一番だと考えています。

 

この実習の評価ですが、なかなか複雑なため、様々な要素を組み合わせて行うことになります。

 

問題解決のためにはどうしたらよいのかを、生徒自身が考え、それをプリントに記入していきます。書き込んだものを友達同士で共有して、解決方法の改善すべき点などについて意見を交換します。

 

また、プリントは全てノートにつづらせるので後で見返すことができ、生徒が自分で振り返って「ここが間違っていた」と気付くことができます。同時に、私たち教師が、後でまとめてチェックをすることもできます。

 

これは簡単なポートフォリオと、ちょっとしたパフォーマンスも含みますので、そういった評価も合わせてできるという利点があり、私たち教師の側も楽しみながら、授業の導入で使っています。

 

ルーブリックに対応した問題作り

このように、本校では従来から観点別評価がしっかりと行われていたので、その流れを今後も踏襲していくつもりです。評価項目をもっとわかりやすく、具体的なものにすることが、ルーブリックを作る上で役立つのではないかと考えています。

 

 

【参考資料】情報科の評価問題.pdf
PDFファイル 341.3 KB

 

実技試験や、実習の成果物の評価は、ルーブリックも作りやすく、評価もしやすいといえます。一方、ペーパーテストの評価は少し難しい面があり、工夫が必要です。例えば、「短い文章で答えてください」とか、「計算過程を考えて書いてください」といった問い方なら、思考過程や判断力・表現力を見ることができるでしょう。

 

2~3年前になりますが、こんな問題を出したことがあります。「圧縮したときにデータ量が小さくなるのは、図AとBのどちらですか」という問題です。答えはAかBしかありません。解答は、Bの方です。

 

この問題を、図は同じものを使って「どちらのデータが小さくなるのか、その根拠を示しなさい」という問題にしてみました。選択するのに加えて、理由を文章で表現させることにしたのです。

 

このような発問にすると、いろいろな観点のルーブリックで評価をすることができます。

例えば上図の3段目の「置き換えた符号を用いて、圧縮ができる」に対応した、さらに細かいルーブリックについてですが、「思考力・判断力」のところは「並んでいる符号を、同じ符号同士で一括りにできる」ということに気付くことができる、また、「表現力」については、一括りにした符号を用いて圧縮ができれば、この段階はクリアできていると見なせます。こういうことが書かれていれば、それぞれの要素の力が付いているということで評価が可能になるのです。

 

ばらつきのない採点と評価の準備のために

先ほども申し上げたように、本校の観点別評価は、情報科が立ち上げられた以来行っているものなので、それを踏まえつつ、さらに、評価の項目をできるだけ細かく分けるようにしていきたいと考えています。

 

実技テストの場合、授業中に細かいスキルを先生がたくさん教えているので、何を教えたかということをメモして、それがきちんと使えているような問題を作ればいいのです。授業の内容が理解できて、技術もしっかり身に付いている、そして、思考も判断もできているということがわかります。

 

こちらは、「情報デザイン」の授業で実際に出した「左右対称のものを作りなさい」という問題です。でき上がるまでのステップを3つに分け、それぞれのステップをクリアしているかどうかで、評価できるようになっています。

 

1個ずつの点数を1点として、1個できていれば1点、2個できていれば2点……そういう形で50個ぐらい積み重ねて、50点満点のテストになる、というような問題を目指しています。

 

今後気を付けたいことについての問題点と、その対応についてまとめます。

 

まず記述式の問題では、採点する人が複数いたときに、採点基準がぶれることがあるという点です。採点する人によって、評価が異なってしまうのは困るので、きちんと合わせられるような基準をしっかり作っておく必要があります。

 

それから、生徒の読解力が非常に落ちているのも問題です。「120円の3割引と、180円の半額はどちらが安いか?」 と聞くと、生徒は皆、簡単に「180円」と答えるのです。先生方はびっくりされるかもしれませんが、実際にあった話です。それぞれ、「120円の3割は何円?」「じゃ、120円からその金額を引いたら何円?」「180円の半額は何円?」といったように個別の質問には答えられるのですが、複数の要素のあるものを聞いて、整理して答えるということができなくなっているのです。そんな生徒が40人いたら大変です。

 

そういう状況があるので、やはり、日常から問題をきちんと読んで考える能力を子どもたちに付けさせていかないといけない、それは、私たち教師の役割だと思います。

 

本来は、全ての教科で取り組むべきものですが、情報科だからこそできることもあるはずです。例えば、今、生徒たちは、情報科は受験に必要ないと思っていますが、それを逆手に取って、社会に出ていくときに必要な読解力を、日ごろの授業の中でつけていけばいいのではないかと思います。できるだけ授業の内容に沿った問題作りや評価ができるように、心がけていきたいです。