センター試験国語で出題『キャラ化する/される子どもたち』筆者、筑波大土井隆義先生、入試を語る

~入試問題では問えなかった、若者と教育をめぐる「宿命主義」

vol.2 成長物語が成り立たなくなった 

〜若い世代の幸福観の光と影、そして「みらいぶ」への期待

2月2日の大阪・羽衣学園高校での学問オーサービジットにて
2月2日の大阪・羽衣学園高校での学問オーサービジットにて

そういう中で先生が出題者なら、ここを出したいというところはどこでしょうか。

 

土井先生:あくまで主観的に私自身が言いたいことという面から見るならば、成長というものに対してリアリティがなくなってきている、というところ辺りが現代社会の問題であると、今私が思っているので、その辺りを高校生には読んでもらいたいなと思いますね。

 

本で言えば、第2章の27ページの2の『内キャラという絶対的なよりどころ』ですね。ここの「成長しないキャラクター」。それから「人生の羅針盤としてのキャラクター」や「新しい宿命主義の登場」、ここまでですね。

 

キャラと言っても、2つあるのですよ。センター試験で出されたのは「外キャラ」の話です。でも、その後続くのが「内キャラ」の話なのです。内キャラというのは自分の自己イメージです。その自己イメージがキャラ化されていくということなのです。それは、自分の特性や資質というのは成長していく中で変わっていくものではなくて、生まれ持ったもの、固定されたもの、初期設定され変わらないもの、そういうキャラ的なものとして自分の人格を考えるようになっていくということです。それは成長物語の崩壊につながっていくわけです。そこから登場してくるのが宿命主義ですね。

 

今、私は、この宿命主義が今の若い人には強まっていると思っています。だから、今の若い世代で幸福感が増していると考えています。

 

自分の資質は持って生まれたもので、その本質であるキャラのように変わらないもの、固定的で変化しないものだと思っていると、今後自分が大きく飛躍するとか、自分がこれから大きく成長できるといったことにリアリティがなくなっていきます。今のキャラによって自分の人生が決まってくるのだから、成長物語が成立しなくなる。自分の人生に対してあまり大きな期待を持たないので、現状との間にあまりギャップが生まれません。不満も生じないのです。だから、相対的に現状に対して満足度が上がっていくのです。だから今、若い世代で幸福感、生活満足度が上がってきているという現象は、なにも社会が良くなったからではなくて、むしろ期待値が下がってしまったから、という面があるだろうと私は思っています。

 

若い人が自分は幸福だと思っている、満足度が上昇している、積極的な意味での大きな要因は、人間関係です。まさに、今回センター試験で使われた箇所の外キャラを使い分ける話につながる部分です。

 

しかし、問題なのは、その満足度を支える人間関係というのが、実は自分の周りにいる身近な同質的な人間関係になっているということです。異質なものを排除して、同質な仲間同士で固まっていますから、その中で外キャラを演じ合ってうまく人間関係が回っている時は、それが幸福感を増し、満足度を上げてくれる。けれども、この人間関係の中で躓いてしまうと、もう自分の居場所がなくなってしまうのです。そうしたことが昂じると、この本でも挙げたように、2008年に静岡の自動車工場に時間勤務をしていた派遣社員の若者が、日曜日の秋葉原にやってきて、10人近くの通行人を刺し殺したという、秋葉原通り魔殺傷事件のようなことも生じてくるのですよね。

 

若手の社会学者であり、評論家の古市憲寿さんが、最近の若者の幸福感が高さを、『絶望の国の幸福な若者たち』という本で指摘し、大きな話題になりましたが、私が伝えたいのは、幸福に見えて、実はその裏に大きな落とし穴があるということなのです。

 

『幕が上がる』(C)2015 O.H・K/F・T・R・D・K・P ■配給:ティ・ジョイ/配給協力:東映
『幕が上がる』(C)2015 O.H・K/F・T・R・D・K・P ■配給:ティ・ジョイ/配給協力:東映

以前に、先生に、ももいろクローバーZ主演の『幕が上がる」の映画評(→詳しくはこちら)を書いていただいた時、演劇部のメンバーたちと吉岡先生との出会いにスポットを当てていらっしゃいました。あの話も、一つの出会いが「宿命」から逃れるきっかけの例ですね。

 

土井先生:まさにそうです。宿命主義だからこそ、異質な他者と出会えなくなってきているのです。

 

だから意図しない出会い、意外な出会いが大切なのです。予定調和の関係が崩されると、人はそこで守りの態勢に入ってしまいがちですが、その時こそが新しい自分に出会えるので、それをチャンスととらえてもらいたいと思います。

 

今、大人たちは子どもたちが異質なものと出会うことを抑制しようとしています。例えば、この本にも書いたように、ネットの中で異質な他者と出会うことを極力排除しようとしているのですね。その結果、同質的な他者との関係でしか人間関係を作れないようになってきているのです。そんな状況を変え、異質なもの、異質な他者に出会えるような機会を提供する場に、「みらいぶ」や「みらいぶプラス」が、なっていっていただければと期待していますし、その意義もあると思います。

 

こうした、宿命主義、人間関係と満足度については、今度、オーサービジットで訪問する大阪の羽衣学園高校や静岡の知徳高校でお話しします。試験問題に出た内容のさらに踏み込んだ内容として、高校生自身はどう思うか、ぜひとも実際に考えてほしいと思っているところです。

 

◆2016年度 大学入試センター試験 国語

問題

正解

分析<河合塾>

 

◆2015年度 大学入試センター試験 国語

佐々木敦さんの評論文の出た国語問題

正解

高校2年生向けの解説速報講義 動画<河合塾〜菊川智子先生>

分析<河合塾>

 

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ももクロ映画『幕が上がる』を観て

人と人とのつながりこそが、人生の幕を上げる

~日常知としての社会学

⇒本での分析に続いて、実際の行動について「みらいぶプラス」読者の高校生に向けて書いていただきました。

 

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その他、土井先生のこれまでの記事から

 

【みらいぶ・連載】 AKBから読みとく今日の人間関係

第1回 AKBの人気と現代社会

第2回 フラット化する人間関係

第3回 多元化した価値観の交差

第4回 当事者主義の時代の到来

 

【今こそ学問の話をしよう〜東日本大震災 復興と学び 応援プロジェクト】

SAVE IBARAKI~機能停止の大学で学生が起こした奇跡