第66回ICTE情報教育セミナー in 東京

ワークショップ「みんなで新しい大学入試問題を考えてみよう」

「入試問題を作る」ことを通して、高校の教科情報で育てるべき力とは何かを考えてみる

ファシリテーター 北海道札幌北高校 奥村稔先生

多方面からの様々な要請が「情報」に集まる

奥村稔先生
奥村稔先生

私からは、ワークショップを始めるにあたって情報科の教員として感じていることをお話します。


情報科には、いろいろな方面から様々な要請があると思います。大学の「親学問」と言われる分野からは、「もっと専門的・学問的なことを教えてほしい」と言われます。

一方、企業からは「情報リテラシーを身につけさせてくれ」「もっと統計処理のスキルが必要だ」「コミュニケーション能力やプレゼンの力が足りない」といった情報処理能力に関わることが求められます。

 

そして、我々教員の間では、情報モラルや著作権など、人間教育的なことや社会常識なども指導しろと。まさにトリレンマ(三つ巴)の状態です。しかし、このように万遍なく求められても、いろいろな教科がある中で、すべて情報1教科だけで引き受けるのには無理があるのではないでしょうか。

 

その一方で、何も要請がないというのも困りものです。不思議なことに、日頃学校に対して様々な注文をつけてくる保護者が、こと情報に関しては何も言って来られません。だから社会も動かないのです。


生徒も生徒で、まさに情報ネイティブで、自分達は様々なデバイスを使いこなしているにもかかわらず、「情報の授業をこうしてほしい、こんなことが学びたい」ということは何も言いません。とりあえず必要なものであることはわかっていても、生まれた時から身近にあるので、あって当たり前なものとして、批判的に考えようとしないのかもしれません。


そして教員自身も、学習指導要領通りにやっていればいい、と。この程度の意識では、大学や企業の要請に対して太刀打ちできない気がします。

 

入試問題を作ることで見えてくる

さて、今日のワークショップのテーマは「大学入試問題を作ろう」です。


今日の目的は、大学入試のいい問題を作るということではありません。自分達で入試問題とは何かを考え、作ることを通して、教科情報について私達が考えなければならないことは何なのかが見えて来ればと思います。たとえば、高校の情報を学んだことに対して、どのような力が問われるべきなのか。はたして学力を問うだけでよいのか。一方で大学が受験生に求める情報の力とは何なのか。高校はそれらをそのまま受け入れるべきなのか…。つまり私達の作業は、この先の議論の材料を提供することなのです。

実際の入試問題では、採点基準をどうするかが重要ですが、それに縛られては自由な発想がなかなかできないので、今回は採点は大学にお任せすることにして、オープンエンドな問題(正答が幾通りにも可能な問題)を考えていただきたいと思います。ですから出題形式も枠にとらわれない発想で、教科横断でも、個人で行っても集団でも、情報機器を使っても構いません。ご自由にお考えください。

私から一つ例題をご紹介しましょう。
選挙権が18才に引き上げられることもあり、旬の話題は民主主義でしょう。ですから、「民主的な意思決定の方法とは多数決であるか」について考えさせます。授業で扱うならば、こちらのスライドにあるような流れで、だいたい6時間くらいでできると思います。

 

このテーマで試験を作るとすれば、このプロセスを場面に切り分けて、それぞれの場面で目指す活動ができているかどうか、ということを見ればよいと思います。例えば、議論の場面では、テーマに沿った妥当な議論ができたかどうか。多数決以外の方法を提案するならば、独自の視点で提案することができたか、などです。ペーパーテストである必要はありません。

どの場面を採用するかによって、何を評価するか、という観点が決まり、評価基準が決まってきます。そうすると、評価するためのルーブリックが決まってくるので、それによって評価していくことになります。

これは一例ですので、皆さんが自由に考えていただければと思います。

ワークショップレポート<各チームの入試問題案>

ワークショップは、「高校教員チーム」「大学教員チーム」「企業チーム」に分かれて、「どのような問題で」「どのような力を測るか」について話し合い、考えた問題を各チームでプレゼンしました。


どのテーブルでも、これからの社会で求められる情報の力とは何か、そのために情報の授業の中でどのようなことを行えばよいか、という、熱のこもった議論が交わされました。プレゼンでは、穴埋めや論述といった縛りから離れ、「新しい入試」を考えるうえでも参考となるユニークな問題が紹介されました。

 

[高校教員チーム]
◆受験生を数名ずつのグループに分け、グループワークの中で問題解決を行う。予めメンバーの中に1人ずつ評価者役の学生を紛れ込ませておき、グループの中での発言や行動などをチェックする「ステルス評価」を行う。

◆グループで問題解決をする。テーマとして、
・LINEの次に台頭するSNSはどんなものになるか、特徴を考える。
・学生寮の部屋割りの仕方を考える。データとして、過去2-3年の部屋の配置と満足度のアンケートを渡し、それに基づいて最適な部屋割りを根拠とともに出す。

◆アルゴリズムを使って、自然言語処理で、辞書データを引っ張ってきて文章にルビを入れる操作の手順を考える。プログラミング言語を使わなくても、日本語のパーツを並べ替える形で行えばよい。教科情報ならではのテーマとして、コンピュータのしくみ・意味を考える問題とした。

◆ゴミの分別をどこまで行うか、保育園をどこに設置するかなど、議論の分かれる問題を賛成・反対のチームに分かれて、統計データを読み取りながら、メディアをうまく使ってプレゼンする。ディベートのように相手を論破するのでなく、相手の心情に配慮して円満に解決できることを目指す。

 

[大学教員チーム]
現代社会で様々な情報を得るためのメディアにはそれぞれ特徴がある。一次情報を持っている人から、誰が媒介してどのように自分達のところに情報が入って来るか考えさせる。現実社会の問題とメディア論、メディアリテラシーに関する問題。

 

[企業チーム]
・受験生に1週間タブレットを渡し、自分でテーマを決めて問題解決をさせる。1週間後に、自分が調べたことを15分でプレゼンする。プレゼンだけでなく、検索履歴や、GPSにより行先などもデータとして残るので行動全体を評価できる。
・テーマ設定の問題も自分で決める。シャッター街の活性化のような社会的な課題でも、時事問題でも、目的があって解決策が提示できれば何でも可とする。