【授業事例8】

問題解決の流れを意識させた統計グラフポスターの制作

~統計グラフ全国コンクール パソコン統計グラフの部で入選

千葉県立柏の葉高等学校 滑川敬章先生

尚美学園大学 小泉力一先生


千葉県立柏の葉高等学校には、理工系、情報系大学への進学に対応したカリキュラムを行う情報理数科(情報に関する専門学科)があります。情報を活用する力、分析する力、問題を解決する力を身に付けさせるために、問題解決型学習やゼミ形式の授業などの教育スタイル、理数科目と融合した独自の情報科目の実施などユニークな教育を行っています。情報理数科の1年次の「情報と表現」(3単位)の授業では、統計グラフポスターの制作を行っていますが、この授業の中に「問題解決」のプロセスを意識させる指導を取り入れることで、生徒たちの問題解決への意識や、グラフの表現に向上が見られました。この取り組みについて、滑川先生にお話をうかがいました。

 

滑川敬章先生
滑川敬章先生

これまでの統計グラフ作成指導では


授業は平成19年度から行っています。統計グラフポスターの制作は、1学期に8~10時間ほどかけて実施しており、これまで(平成23年度まで)は、表やグラフなどの表現について学んだ後に作成を行ってきました。

 

従来の手順は、

(1)一人ひとりが表現したい・伝えたいテーマを考える(問題認識)
(2)伝えたいことに関する統計情報を収集する
(3)集めた情報から、受け手に伝えたいことが伝わるように工夫してグラフを作成する
(4)キャッチコピー、デザイン、イラストなどを加えてポスターを完成させる

というものです。

 

情報収集の場面では、どうすれば必要な情報が検索できるかを考えさせたり、情報源や情報の信憑性の確認、作品への出所の明記など、授業で学んだことを実際に活用しながら作業を進めます。

 

授業を始めた当初は、かなり手探りな状況でした。多くの生徒は、グラフ作成機能を使ってグラフを作り、文字で長い説明をつけるといった作品を作るのがやっとでした。


それらの作品を見て、ポスターを通して人に伝えるためには、彼ら自身に「伝えたい」ことをはっきり意識させて表現させることが重要だと考えました。その後、伝えたいことを意識させてグラフやデザインなどを工夫させることにより、だんだんよいポスターができるようになってきました。


しかし、それからしばらくして、大きな問題点に気付きました。この授業で作成した統計グラフは、毎年県の統計グラフコンクールに出品しているのですが、小学生部門の優秀作品と比べても、構成比を円グラフで表現したり、度数分布を棒グラフで表現したりとグラフや表現方法に大きな差がないのです。これをどのように改善したらよいか、考えました。

 

「問題解決のストーリー」を意識させることで、具体的な解決策まで考えるようになる

 

そこで、平成24年度の授業からは、単純に伝えたいことを伝える、ということではなく、高校生らしく問題解決のためのプロセス=ストーリーを意識させるように変えました。自分が課題として捉えていることをテーマとして設定させ、それを解決するために自分はどう考えるのかということを、グラフでいかに伝えるかを考えさせました。

 

変更後のポスター作成の手順は
(1)問題認識=解決したい問題を設定する
(2)データ収集=着目すべき事象を絞ってデータを収集する
(3)データ分析=データから要因を絞り、仮説を立てる
(4)解決策を検討し、提案する
というものです。

 

ポスター作成の前には、大学や企業から講師を招いて、統計的な問題解決に関する特別授業も行いました。しかし、1年生には難しいところもありますから、個々の生徒の作品のテーマや制作状況をみながら一人一人に声をかけ、問題解決のストーリーを具体的に考えさせるように指導しました。

 

平成23年度の作品(図1)と24年度の作品(図2)を比較すると、23年度のものは、きれいにまとまっていますが、「問題認識→データ収集→現状把握→提案」といったもので、集まったデータで現状を把握し、提案は従属的なものであったのに対し、24年度のものは、集めたデータからさらに要因を絞ってどうすればよいかという仮説を立て、解決策を検討し、提案する、という問題解決のストーリーが表現されていることがわかります。まだ始めたばかりで、改善の余地はいろいろあると思いますが、さらに実践を重ねていきたいと思います。

 

図1:平成23年度の作品
図1:平成23年度の作品
図2:平成24年度の作品
図2:平成24年度の作品

新しい学習指導要領では、「問題解決」が重視されていますが、実際にどのような活動を通して行うか、という授業の設計には、生徒に合わせた工夫が必要となります。この授業は専門学科の授業ではありますが、「伝えたいテーマに合わせてデータを集め、グラフを作る」というオーソドックスな活動も、工夫次第で、表現力、プレゼンテーション力に加え、問題解決力も高める活動になりうるという意味で、普通科の授業でも応用できる事例であると思います。どうか参考になさってください。

 

 

■参考サイト
統計グラフ全国コンクールの入賞作品集
http://www.sinfonica.or.jp/tokei/graph/g60_iist.html
パソコン統計グラフの部に柏の葉高等学校の生徒の作品が掲載されています。
「大雨を超越した『ゲリラ豪雨』猛烈・急激・局地的な直上型豪雨」
http://www.sinfonica.or.jp/tokei/graph/list/PC/PC_02.html

 

※本記事は、日本情報科教育学会第6回全国大会(2013年6月29日・30日、東海大学 高輪キャンパスにて)でお話しされた内容です。