【授業事例6】

他教科との連携を図る題材選択 ~生物基礎とのコラボ例

山口県立岩国高等学校 山下裕司先生


他教科と連携することで教科情報の理解を深める


教科情報と他教科と連携を図るということが学習指導要領で掲げられていますが、これをどのように解釈するのか、あまり議論されていないように思います。具体的な方法として他教科の実習部分を情報科が担う、授業の相互乗り入れ、人的交流などがありますが、大切なのは、他教科と連携することによって、その教科と教科情報それぞれに対する理解を深めることができることです。

生物のバランスをシミュレーションしてみる~生物基礎とのコラボ例


今回は、本校が実践している生物基礎の題材(生態系のバランス)のシミュレーションについて説明します。


本校で使用している、数研出版「新編 生物基礎」p144~p145には次のような記述があります。

「・・・生態系はそれぞれ、それを構成するいろいろな要素の総合的なバランスのうえに成り立っており、これを生態系のバランスという。」「生態系のバランスは、極相に達した森林などのように、構成する生物の種類が多く、複雑な食物網をもつ生態系ほど保たれやすく、農耕地など、生物の種類が少なく比較的単純な生態系では、バランスが崩れやすい、と考えられている。」

 

大変興味深い内容です。この内容を裏付けるようなシミュレーションができないかと考えました。授業の流れは以下の通りです。

 

【指導の手順】
(1) 問題提示
「生物基礎」の教科書を準備させ、単純な生態系と複雑な生態系における生命個体数をシミュレーションしてみる。パラメータを変化させて、生命個体数の変化を調べて、どのような生態系がバランスが保たれやすいか考えることを示す。


(2) 設定の提示 
・生物の種類が2種類の生態系
・生物の種類が5種類の生態系
各種類は食物網でつながっているとする。

 

(3) モデルの作成
表計算上の離散モデルを作成する。 
一例として
n+1月目のBの個体数
  =(n月目のBの個体数-被捕食数 )
    × ( 1 + 出生率 )
    × ( 1 - 死亡率 )
死亡率=|1-個体数/適正個体数|

 

(4) シミュレーションの実行
パラメータを変化させてシミュレーションを繰り返す。
パラメータとしては、例えば、適正個体数、初期個体数、出生率など。

(5) 結果の考察
いくつかの生物が絶滅したり、安定した数を維持したりといった状況を読み取り、結論を導き出す。また、複雑な生態系の方がバランスが保たれやすいことに気づかせる。


例えば、AはBとCを食べ、BはDを食べ、CとDはEを食べる、食物連鎖がこういう構造を持てば、AがEを食べるという単純な構造に比べて、ある年、爆発的にある種が増えたとしても、元の安定した数に戻りやすい、ということを目指して授業でシミュレーションしてみました。捕食者と非捕食者の関係をシミュレーションするのは、わりと単純な作業だと思っていましたが、結構大変でした。

 


失敗しては原因を考えて修正し、再試行できるところにプログラミングの良さがありますが、かなり時間はかかります。生徒が困っているときは、「環境が良くなったら、死亡率は下がる、けれど、そんな単純なものではないよね、実際は違うんじゃないの?こうかもしれないよ。」というように誘導します。

 

このように実際のシミュレーションを通して、生物基礎の理解もより深めることができるのです。シミュレーションの目的は特定のプログラミング言語へ精通することではなく、問題を解決するためのモデル化を自分で試行錯誤できるようになることです。

 

題材を集めるだけでなく、共同実践者になってもらう連携


本校では生物基礎だけではなく、以下のような他教科とのコラボレーションを行っています。これには他教科との連携が不可欠です。

 

1.プレゼンテーション
生徒自身が先生になったつもりで、他教科の授業の内容(情報に限らない)をパワーポイントを利用して他の生徒に伝える。生徒が作成したパワーポイント資料の優秀なものは、他教科の先生方にも幅広く広め、使ってもらう。


2.数学の統計学の実習部分を情報の授業で担う


3.物理基礎の題材(物体の運動)のシミュレーション

 

他教科に題材を求めるだけではなく、他教科の教員を共同実践者として授業指導案の構築に一緒に取り組めればいいと感じています。これによって情報科への理解を深めてもらうことになり、他教科とのより深い意味での連携が実現します。

 

※本記事は、日本情報科教育学会第6回全国大会(2013年6月29日・30日、東海大学 高輪キャンパスにて)での研究発表でお話しされた内容です。