【授業事例31】

自由なテーマで考えることから、さらに一歩踏み込んだ活動へ

「グループで行う問題解決」実践報告

東京都立町田高等学校 小原格先生


問題解決の流れを意識して、自由なテーマで課題発見→解決を体験する(~2011年度)

小原格先生
小原格先生

今回お話しするのは、グループで問題解決を行う「総合実習」の授業です。これは、昨年度末に東京都情報研究会の研究大会で発表した内容から、さらにプラスαの内容となります。

 

本校は普通科全日制、1学年7-8学級規模の高校です。東京都教育委員会指定「進学指導特別推進校」であり、ほとんどの生徒が大学進学を目指しています。情報は1年生で2単位、2012年までは「情報A」を、2013年からは「情報の科学」を行っています。

 

情報Aでの問題解決学習は、授業全体を通して「問題の発見」「問題の分析」「解明・解決法の考案」「プロジェクト形式の実習」という形式で、順序性を意識しステップアップしつつスパイラルになるように構成しました。

 

総合実習はこの最後のステップにあたります。情報Aでの問題解決学習は、情報機器を積極的に用いるということが中心の1つでしたから、それぞれの過程で積極的に情報機器を活用できるように配慮していたので、年度末の総合実習の時には、ほとんどの生徒が大きな不安なく情報機器を活用できるようになっていました。

2011年度までの「総合実習」は4人グループで行っていました。情報A自体が日常的な学習課題を題材として、情報活用の実践力を切り口に学習を進める科目であったため、テーマは自由としていました。何でもよいから、身近な問題で困っていることをブレーンストーミングで挙げさせて課題を発見し、解明するためにアンケートやインタビュー、実験、実地調査などを行いました。

 

「総合的な学習の時間」のような位置づけにもとらえられがちだったので、「情報機器を意識的に使い」「必ず最後にスライドを用いて、全体にプレゼンテーションを行う」という縛りを付け、評価観点ではオリジナリティ(フィールドワーク)や深まり(探究)を重視しました。

 

実際に彼らが行ったのがこのようなテーマです。例えば、「ホットケーキミックスの多目的使用・いかにきれいにおいしそうに焼けるか」に取り組んだ生徒達は、実際にいろいろな方法でホットケーキを焼いてみるなど、非常に楽しそうに取り組んでいました。

 

このような活動を通して、問題解決場面の「事実(現象)」「想像(原因)」「解決策」「実践」という流れをイメージできたのは、論理的思考力を養う上で効果があったと考えます。

 

「情報社会」にテーマを決めて行ってみたら…(2012年度)

しかし一方で、「テーマが自由ならば、情報の授業とは関係が薄くなるのではないか」という思いがありました。できれば情報技術につなげたテーマを考えさせたいが、生徒達の「身近な疑問」とはギャップがある。何とかそこを工夫できないか、という問題意識がありました。

 

そこで2012年度は、基本的な流れはそのままで、総合実習のテーマを「情報社会」に関する5つに絞り、その中から選ばせることにしました。すると、まず生徒の進め方が変わりました。例えば「情報技術は高齢化社会を救えるか」と言われても、生徒達は「高齢化社会」に関する知識や理解が不十分なので、まずそこから調べなければなりません。さらにその調べる時間の中で、サブテーマを自分達で決めなければならないので、テーマを決めるための予備調査がさらに必要になってきます。テーマが自由だった時は、課題を決めて計画を出すまでを3時間程度で行っていましたが、どのチームも時間内ではとてもできません。中には、予備調査だけで終わってしまうチームや、とにかく調べたことをスライドに詰め込んで発表してしまうチームも出てきてしまいました。事前の学習の段階で、問題解決を意識し、マインドマップやロジックツリーなどの発想を展開するような授業をおこなったところ、それなりの成果はあったと思っていますが、なかなか総合実習でその成果を発揮することは難しかったように見えました。

 

評価項目もがらりと変わりました。テーマをこちらで決めたので、それまで評価項目にしていた「オリジナリティ」ではなく、「具体的な提案」としました。また、「フィールドワーク」ではなく、「なぜ自分達がそのように思うのかという合理的な根拠をきちんと言えるか」ということにしました。生徒の感想では、授業アンケートで「新たな発見や驚き」という項目がガクッと減りました。全体として、サブテーマは生徒にきめさせるにしても、この形式はやはり少し厳しいかなというのが、昨年度の感想です。なお、この時はまだ「情報A」で、「情報の科学」の内容を意識して行っていたことになります。

 

日常の「困ったこと」から「情報科学・情報技術を社会に役立てる」解決提案を考える(2013年度~)

そして2013年度、「情報の科学」の1年目です。「情報の科学」の教科書の問題解決のところには、「問題とは理想と現実のギャップである」と書かれていますから、まず、理想と現実をはっきりさせなければいけません。

 

そこで、「問題の明確化」で「問題とは何か」「問題をしっかり発見しよう」「どのようにしたら問題を発見できるか」ということを、ブレーンストーミングをしたり、ロジックツリーを描かせたり、と4~5時間かけて、かなり丁寧に行いました。また、高校生には解決そのものはかなり難しいと思われるので、解決提案を必ず出すという形に変えました。

 

テーマの選び方については、前の年のように5つから選ばせるのはやめて、「情報科学・情報技術を社会に役立てる」をメインテーマとし、ここを切り口にしてサブテーマを自分達で考えさせました。具体的には、「身近なことで、何でもいいから困っていることを挙げてみよう」と問いかけて、日常場面の「困ったこと」いろいろ出させます。その中で、例えば「ロッカーの鍵を忘れて困る」とか「財布がじゃらじゃら重い」といった問題を、情報技術を使って何とかできないか、という切り口で迫っていくと、本題にスッと入って行くことができました。やはり高校生には身近な疑問から入っていくとよいということを実感しました。

IE図で「理想」と「現実」のギャップを明確にする

そこで便利だったのがこのIE図です。理想と現実のギャップが明確化されるので、まずこれを描かせることがとても大事でした。特に、この図の左側の『理想』と『現実』の部分が重要です。右側は下に4W1Hの「なぜ」を書いて理由を展開していきます。例えば、「いい点を取りたいけどテストの点が悪い」。ではそれぞれを具体的にしよう、ということで、『理想』は「数Iで80点」、でも『現実』は40点。ではそれはなぜか、ということで「基礎学力がないからじゃない」「勉強方法が悪い」といった理由を展開させていきます。そういう形でまず原因を考えて、これに対する対応策を上の方に同じような形で展開させていくのです。これは、問題を具体化し、課題として落とし込んで、何をすればいいのかを明確化するという手順を理解させるのに、とても効果がありました。

生徒の様子を見ると、「具体的な理想」が明確になっていないグループが多いように感じています。調べ学習で終わってしまうほとんどのチームが、「なぜそうなるのか」の部分だけで終わってしまうのです。ですから、この図を描かせて「具体的な理想は何なのか」ということをまずはっきりさせると、自分達が何をしようとしているのかがわかってきます。

 

実際にどのようにこの手順を教えたかと言いますと、まずブレーンストーミングでおおまかな現実を意識させながら身近な疑問を挙げさせます。そして、いろいろと出てきたものを評価して、実際にどれを自分達の大まかな問題として設定するかを考えさせます。

例えば、財布の中に会員カードがたくさんあって邪魔だから何とかしたい。すると理想は、「持ち運びを楽にしたい」ということがあったとしましょう。それは実際どういう状況なのか。これが具体的な現実になります。「会員カードが10枚もあるから嫌だ」ということであれば、「なぜカードが10枚もあるのか?」とツリーで展開していくわけです。「店ごとにカードが違うから」「ポイントを貯めたいから」「財布に入れて置かないと使えないから」等など、様々な理由が出てきます。それらの原因を探りながら、大まかな「理想」である「持ち運びを楽にしたい」を実現するための具体的な「理想」を決めていくわけです。

 

この「具体的な理想」を、会員カードを減らす方向で行きたいのか、一つのカードを多機能にするのか、それともそもそもカード自体が要らないような形にしたいのか、ということによって解決策の方針は全く変わってきます。そして、自分達はどのような解決策を考えるのか、さらに本当にそれが有効な解決策になるのか、ということを本調査で調べる、という展開で行っています。

 

生徒の意欲も戻り、問題解決の要点が身についた

生徒の授業アンケートを見てみましょう。「とても思う=4」~「全く思わない=1」で答えたものです。「楽しく学べたか」という質問に対しては、一昨年5つのテーマから選ぶ形で行った時はかなり下がりましたが、昨年は随分盛り返しました。「意欲的に取り組めたか」という質問も、自由テーマで行った時とほとんど同じポイントになり、よかったと思っています。

 

また、「成功するために最も重要と感じたものは何か」という質問に対しては、「理想と現実の明確化」「サブテーマ決め」「解決策を考えて提案する」を選んだ生徒が多かったのは、大きな成果だったと思います。

全体のまとめです。2011年→2012年→2013年と難易度は上がりました。

 

自由テーマの時は、わからないことがあれば、とにかくそれを問題として調べて解明すればよかったのですが、「問題解決」の流れを意識させることで、解決のために予備調査があって、そこで問題点を明確かつ具体化しなければならないということが、かなり大変でした。

また、生徒達にとって理想と現実の明確化がとても難しいので、IE図などを使ってもっとトレーニングをすることが必要であることがよくわかりました。そして、テーマにはある程度の自由度が必要です。例えば、大上段から「少子高齢化を解決する」など、大人でもなかなか解決が難しい問題から入っていくのは生徒の手におえなくなることが多いので、身近な疑問から入っていくのが効果的かと思われます。いずれにしても、問題解決においては合理的な根拠と具体的な提案を示すことに重点を置くことが必要であると思います。