【授業事例29】

「水の分配」教材を使った問題解決学習の授業実践

~教科「情報」で行う問題解決学習にふさわしい題材を求めて

大阪府立東百舌鳥高等学校 稲川孝司先生


稲川孝司先生
稲川孝司先生

本日は「水の分配」という教材を使った問題解決学習の授業の話をします。

 

本題に入る前に、教科「情報」の目標について少しお話ししたいと思います

 

左図は「コミュニケーション英語Ⅰ」の学習目標なのですが、赤字のところがなければ「情報」と変わりません。つまり、「コミュニケーション」というのは、教科「情報」以外にもいろいろな教科で行われているのです。

コミュニケーションや協同学習、問題解決学習……教科「情報」の目標とは何か?

「教育の情報化ビジョン」(文部科学省・2011年)には、21世紀を生きる子どもたちに求められる力として「コミュニケーションを通じて協働して新たな価値を生み出す教育を行うことが重要」と書かれています。この中には「コミュニケーション」「協働学習」というキーワードが出ています。

一方、高等学校学習指導要領で、教科「情報」の目標は、「知識と技能を習得させ、科学的な見方や考え方を養い、社会の情報化の進展に主体的に対応できる能力・態度を育てる」ことになっています。それを目指して、言語活動や問題解決を取り入れていきましょうというわけです。しかし、言語活動に重きを置き過ぎると他の教科と内容が重なってしまいますから、やはり教科「情報」ではICTの利活用や情報学が重要だと思っています。

 

教科「情報」で行う問題解決の授業では、ICTを活用したい!

「社会と情報」の目標には、「情報機器や情報通信ネットワークを適切に活用して情報を収集、処理、表現し、コミュニケーション能力を養うこと」と書かれています。「社会と情報」では情報機器を適切に活用して情報を集め、処理し、表現し、コミュニケーションすることが必要だ、ということです。

また、「社会と情報」の内容の最後に「情報社会における問題の解決」という項目があります。ですから、教科書の中でも、問題解決のやり方を教えなさい、あるいは、こういうことを授業でしなさい、と書かれているわけです。

一方、「情報の科学」の目標は、「情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度を育てる」と書かれており、態度も育てなければいけないわけです。

そして内容の方では、「問題解決」という言葉が全部で13か所も出てきます。言い換えれば、「情報の科学」では問題解決をしなさいと言っているようなものです。

もちろん問題解決学習では問題を解くのが目標ではなく、問題解決を通して物の見方、考え方、態度を育成することを目指しており、問題解決の方法と手順として、『問題を発見し、問題を分析し、解決案を考え、実際に解決する』ことが必要です。

 

しかし、問題解決の「問題を発見すること」が難しいのです。実際、問題解決の題材になるような模範的な問題というのはなかなか無いのです。

 

もう1つの課題は、その問題がICTを活用できるような内容かどうかということです。情報機器を活用しない問題解決もあるかもしれませんが、「情報」の問題解決の授業では、情報機器やインターネットを活用したいと思います。

 

そして最後に、解決案の提示をどのように生徒に還元するかが大切です。いろいろと問題解決を探るのですが、結局最後はお茶を濁して終わりということはよくあるわけです。どうしたらいいのだろうか悩んで、協働学習の形での授業にしました。

 

Bowland Mathsの問題解決学習教材

この問題解決の教材で参考にしたものに、Bowland Maths(※1)というイギリスの教材があります。数学的思考力や問題解決能力を伸ばすことを目指して開発されたものですが、東京学芸大学の西村圭一先生が中心になってボーランド・ジャパン(※2)という非営利団体を作り、日本語への翻訳と開発をしています。ここが提供している教材を見ると、教科情報と他の教科がコラボレーションしなければならないということがよくわかります。2013年から実施された学習指導要領では統計の扱いが大きくなっていますから、今後、情報と数学がお互いに行き来しながら授業を行うことが必要でしょう。今回、この中からICTを活用して問題解決ができる教材を選びました。

(※1)Bowland Maths: イギリスで開発された数学教材。中学生や高校生の興味・関心を惹く題材を取り上げ、ケーススタディ方式で解決していくもの。団体HPはこちらから

(※2) ボーランド・ジャパンのHP

 

「水の分配(Water Availability」教材

「水の分配(Water Availability)」という教材を使った実践についてお話しします。今年の1年生の「情報の科学」で、6月末に1コマ(50分)で行ったものです。

 

生徒達は、中近東および北アフリカに水資源を提供する任務を負った国際支援機関の事務官になるという設定で、「各国の水の利用可能量を公平に比較して、どの国が一番水を必要としているかを決める」、ということを考えます。

 

具体的には、「国際支援機関のWWRBから水不足に悩むアルジェリア、ヨルダン、トルコの3か国へ水を公平に分配します。どうしたらいいでしょうか」というものです。こういう問題は、そのまま生徒に与えても難しくて解けません。

そこで、この「公平に」というところに目をつけて、最初に私の方から、クラス全体に対して「3つの国に1:1:1に分配したらどうですか」と生徒に提案しました。そこから生徒の意見を引き出すためです。すると生徒は「3つの国は人口が違うんじゃないか。それなら全部同じではダメだ」とか、あるいは「面積や気温、降水量など、いろいろなものを考慮しなければならない」と意見を出してきます。

 

次に、個人ごとにインターネット上でそれぞれの国について調べます。また、白地図に色を塗って国の位置を確認します。そうすると位置が地中海の周りで、雨が少なく砂漠がありそうだ、ということもわかってきます。Google mapで調べると、砂漠か森林かがわかります。そのあたりを確認した上で、人口や国土の面積、農業に従事する人の数や耕地面積、1年間の利用可能な水の量などが載ったExcelデータを授業用のポータルサイトからダウンロードさせます。

 

今回がExcelを初めて使う授業だったので、シート上で人口、面積、利用可能な水の量の合計と比率の計算方法を説明したり、人口密度を算出するためにはどのようにすれば求められるかを考えさせて、計算式を作らせました。このデータをもとに、「自分なら1:1:1ではなくこのように分配する」という意見を紙に書きます。

 

その後、4人のグループで集まり協働学習の形で授業を進め、互いに意見を出して話し合った上で、最終的に自分の意見をまとめさせました。このあたりは、全て紙ベースで行います。そして最後に振り返りを行いました。

 

※上記のExcelデータです。授業でご活用ください。
water.xls
Microsoft Excel 26.0 KB

短時間の実施で問題解決の考え方を意識することができた

生徒の意見をまとめました。人口に着目して「水の使用量が一人一人同じだとしたら、使用量に人口をかけたものが国全体の必要量になる」と書いた生徒がいました。利用可能な水の量に注目して「降雨量が違うから1年間に利用可能な水の量が違う。だから、利用可能な水の量を人口で割ったものを基準にしたらよい」とか「水の量を人口で割ったら一人あたりの利用可能な水の量になる」と書いた生徒もいました。彼らは問題解決的な考え方ができていると思います。

また、人が使う水の量よりも農業や工業に使う水の量に注目した生徒もいました。さらに人口、農業、水の使用量の全てを考えた生徒もいました。このうちのどれが正しいかということは簡単には言えませんが、それぞれがデータをもとに問題解決の最良の方法を考えることができたと考えています。

そして授業の最後に「他人の意見を聞いて思ったこと」「自分の意見を正確に伝えること」「正解のない問題を考えることの大切さについて」の3つについて振り返りを行いました。生徒の感想の一部を左に示します。

まとめ

実施した結果をまとめると、「問題解決の考え方ができたか」という点では、問題点を発見し、分析のために必要なことを考えることができたと思います。「協働学習になっているか」については、グループでの意見交換で、様々な他人の意見の違いを実感させることができました。また、授業の目標とした「正解のない問題を解くこと」の意味についても、十分理解してくれたと思います。

 

教科「情報」で問題解決学習を実施するに当たり、Excelやインターネットを使って情報を得たり処理できたことは、情報通信ネットワークを活用して問題解決できたことになります。一連の授業の流れは、問題解決の手法そのものであり、短時間で問題解決学習の意義を理解し、自分の意見を持ち、相手を説得させることで、問題解決的な視点が育ったと感じています。