【授業事例19】

定時制における情報科の授業 15の作戦 ~情報へのアニマシオン

神奈川県立茅ヶ崎高校 定時制 三橋健彦先生

神奈川県高校教育研究会・情報部会(2013年12月25日)での発表より


三橋健彦先生
三橋健彦先生

本校では3年生で「情報A」を行っています(2013年度)。定時制の生徒たちは、持っている知識・スキルに個人差があります。大学に進学する生徒がいれば、一方では、アルファベットの記述もあやしい生徒がいます。情報の授業に関していえば、パソコンを使いこなせる生徒もいれば、文字入力ができない生徒もいます。さらに、中学時代に勉強のやり方というものを身につけてこなかった生徒もいます。

 

そういう生徒たちに、とにかく「情報の授業は面白い」とか、「ちょっと役に立つかもしれない」とか思わせて、少しでも授業に積極的に取り組んでもらうことが大きな目標です。そのため次のことを心がけています。できるだけ実習を取り入れ、話を聞くだけの時間を作らないようにする。初心者でもできるような授業にする。スキルのある子が飽きないよう、面白いと思ってもらえる工夫をする。学校行事や他の教科とも連携していく。こういったことを考えながら授業を作っています。

 

副題の「情報へのアニマシオン」ですが、「これは何だ?」と思った方もいると思います。「アニマシオン(animacion)」というのはスペイン語で、アニマ(=魂)の活性化という意味です。『読書へのアニマシオン』というスペインの先生が書いた本があります。本が嫌いな子どもたちにいかに本を読んでもらうか、そのための75の作戦を提案している本です。

 

この本に載っている作戦で、私がよく使うのは“まちがい探し”です。読んでほしい文章の中に、例えば10のまちがいをわざと入れます。そしてオリジナルの文章と読み比べさせ、まちがいを探してもらう。そうするとかなり一生懸命に読んでくれます。生徒たちはただまちがい探しをしているわけですが、結果として文章を読んでくれる。本校の生徒で文章を読むトレーニングをしようと思ったら、それくらいのことをしなければいけないのです。この本にはこのような75の作戦が書いてあるのですが、私も情報の授業でいろいろな作戦を実行しました。

 

■マウスだけでできるゲームからスタート

 

<作戦1>まず、授業を分割します。生徒たちの中には45分の授業を受けるトレーニングを中学校で十分につんでいない生徒がいます。ですから本校では1学期の当初は25分授業で進行します。その後45分の授業になりますが、授業を明確に2分割し、前半と後半でやることを変えて退屈させないようにしています。具体的には、前半に文字入力のゲームをやり、後半は他の授業を展開します。

 

<作戦2>は、文字入力などの単純なトレーニングを、ゲーム形式にすることです。まずマウスの使用方法の確認を兼ねてマウスのゲームを実施します。曲がりくねった道をポインタでたどるようなゲームがインターネット上にいくつか公開されています。次に文字入力もネット上で公開されているフリーソフトを使用します。文字入力が得意な生徒が飽きないように今年は4つのゲームを実施しました。打てる生徒はゲーム感覚で楽しんで技術を磨いてもらい、苦手な生徒は文字入力をできるようにしていくという作戦をとっています。

 

<作戦3>文字入力のトレーニングが終了するまで、授業の課題はマウスだけを使用してできるものにしています。その間に、授業前半のトレーニングで何とか文字が打てるようにします。

 

<作戦4>文字入力に詩を打たせます。短くて面白い詩を使用しています。谷川俊太郎さんの「かっぱ」という詩で促音の練習をしたり、「かえる」という詩でひらがなで書かれた詩を漢字に変換してみようなどの練習を途中に入れたりしています。

 

<作戦5>操作方法の易しいシンプルなソフトを多用します。まずはペイントです。デジタル化の学習を兼ねて、拡大すると小さなグラフ用紙を塗りつぶして画像を表現していることがわかるねとか、RGBの数字で色を作っていることがわかるねとか、そのような話を落書きさせながらちょこっと触れていきます。将来、より詳しく勉強することになる生徒にとって、知識の足がかりになるようなことを、ところどころで残しておこうと思っています。

 

<作戦6>メモ帳。私たちは結構メモ帳を使います。ワードでは機能が多くて慣れていない生徒が困ります。文字入力だけなら一番シンプルなメモ帳がいいと思います。

 

■PPTでプロジェクションマッピングを

 

<作戦7>パワーポイントは年間の授業でもっとも多く使用します。プレゼンテーションだけでなく、デザインの勉強にもなります。またパワーポイントが使えればワードも困らないでしょう。パワーポイントの授業で必ずやる課題に、単語を一つ表示して、フォントや色、背景などを変えてその単語のイメージを表す、というものがあります。

 

<作戦8>作ったデザイン系の作品は必ず全作品を授業内で公開し、相互鑑賞しています。みんなに見てもらえるということで頑張ってくれる子もいます。

 

<作戦9>クイズ。パワーポイントで生徒にクイズを作らせます。また一方で、検索クイズとか著作権クイズとか、情報を学ぶいろんなクイズを出しています。

 

<作戦10>プロジェクションマッピング。大層な名前を付けていますが、文化祭の宣伝を屋外で行いました。パワーポイントで生徒が作った文化祭の宣伝を、かたっぱしから繋いで流していくというものです。定時制でないとできない企画です。近所の人にも文化祭を見に来ていただきたいので、文化祭の1週間前から、校外からも見えるところに投影しました。今年初めてやりましたが、生徒はかなり喜んでいました。ディズニーランドみたい、と言っている生徒もいました。

 

<作戦11>HTML。コマンドを打ってコンピュータを動かすという体験をさせたかったので、HTMLを授業で扱いました。しかしローマ字入力や英単語が苦手な生徒もいるので、タグは打たせません。タグはコメント文の中にすべて用意しておき、それをコピー&ペーストでコメント文の外に配置し、ちょっとしたホームページを作ろうということをやってみました。また、<body bgcolor=”blue”>で背景色を出させますが、色の名前の所に自分の氏名を入れると、色が表示されることがあります。例えば私の名前takehikoと入力すると、きれいな明るいグリーンが表示されます。生徒には、パーソナルカラーが表示されるなどとウソをついて、この作業させると盛り上がります。実際には半数以上の生徒が黒になります。ネタをばらすと、十六進数で使用するアルファベットが名前に含まれていると色が表示されるのです。これをキッカケに十六進数について少しだけ説明します。これも将来、詳しく勉強したい生徒がいたときに足がかりになればと思ってやっています。

 

■つまらないエクセルの授業を少しでも面白く

 

<作戦12>エクセル。これが情報の授業の大きな障害になっています。中学校時代にエクセルの授業で辛い思いをしている生徒もいます。エクセルへの恐怖心をいかに取り除くかです。10月に時間割が変わります。この時、エクセルを用いて時間割を作らせます。時間割は、エクセルの行と列の関係を理解するのに適しています。具体的にはエクセルで配布した時間割の書体や文字の大きさなどを変え、色や罫線の装飾を加えます。この時間割は、カラープリンターで出力し、生徒に配布します。これが結構ウケていまして、小さく作ってお財布の中に入れたりしている生徒もいます。社会に出てから使う機会も多いので、せめて、エクセルが「なんとなく使えるかな」という気分で高校を卒業してもらいたいと思っています。

 

<作戦13>エクセルの授業の進行に合わせて、エクセルのドリルを生徒にやらせています。ワークシートを何枚も用意し、文字の色を変えましょうとか、列幅を変えましょうとか、すごく簡単なドリルをワークシート毎に並べています。式を教えたら次の授業では、またワークシートで式のドリル。すごく簡単な練習を繰り返させることで、何となく使えるようにしてしまおうという作戦です。

 

<作戦14>アンケートのデータ処理。エクセルは何がつまらないかと言えば、生徒がこのソフトを使って便利だと感じる点がなかなかないことです。この対策にはアンケートのデータ処理が一番いいかなと思っています。生徒にアンケートの質問を作らせます。この時の制限は、人を傷つける質問はしないということくらいにします。アンケートは「REAS(リアルタイム評価支援システム)」というサイトを利用します。以前はアンケートを実施するのに、エクセルでマクロを組んだり、データベースを使ったり、いろいろ苦労をしてきました。しかし「REAS」では、簡単にアンケートのサイトが作れ、結果もcsvで出力できます。今年は生徒が考えた質問が52個になりました。“自分は進級できると思いますか?”とか、“学校はつまらない?”とか、他人に聞きたいことをどんどん質問しています。それらをREASに移した上で、生徒に回答させます。生徒は、アンケート結果を集計し、グラフ化した上で分析します。興味のあることには多くの生徒が前向きに取り組みます。このように少しでも生徒が面白いなと思う題材を用意したいと思っています。

<作戦15>最後は文集です。本校では国語科が年度末に『ともしび』という文集を作成しています。生徒の様々な本音がつづられている文集です。情報の授業では、この文集の原稿を生徒がパソコンで作成します。年度末ですので、ある程度打てるようになって生徒たちが、自分の思いを打ちこんでいきます。

 

以上のように技術的にはあまりすごいことは行っていません。しかし定時制は、生徒をしっかりと理解し、丁寧に指導しなければならないので、教員として求められる様々な指導力が鍛えられます。若い先生で2校目はどこにしようかなと思っていらっしゃいましたら、定時制も考えていただけたらと思います。