【授業事例18】

常に情報の受け手の存在を生徒に意識させる授業を~2年目の実践事例~

神奈川県立津久井高校 情報科教諭 大里有哉先生

神奈川県高校教育研究会・情報部会(2013年12月25日)での発表より


大里先生は明治大学情報コミュニケーション学部出身の唯一の情報教師。明治大学の情報入試の推進に関わってきた古屋野先生と。
大里先生は明治大学情報コミュニケーション学部出身の唯一の情報教師。明治大学の情報入試の推進に関わってきた古屋野先生と。

去年から津久井高校に赴任し、教員2年目となります。高校時代に情報を学んだ世代です。高校時代はコンピュータに触れているのが好きでしたが、大学時代は、他の教科の教員を目指していました。そんな中で、私が情報科教員を目指したのは、情報が直に人間に影響を与えること、神奈川県立横浜清陵総合高等学校の五十嵐誠先生がよくおっしゃっている「情報教育で学校を変える」といったことを聞き、何か変えられるなと思ったことなどが、きっかけになりました。学生の時からこのような研究会に来ることになり、五十嵐先生をはじめたくさんの先生にお世話になり、神奈川に来させていただきました。ちょうど2年前もこの場所で神奈川県の教員採用試験の受験報告をさせていただきました。

 

さて、津久井高校は、街の中心地の橋本駅からバスで40分かかる学校です。今年から普通科と福祉科の2つの科があります。様々な課題を抱えている生徒―中学校時代から学習が苦手、学習習慣が身についていない、あるいは、遅刻をする、授業に集中できない、というような生徒が少なからず在籍しています。

 

2年生で「情報A」を実施しています(2014年度から「社会と情報」)。40人ぐらいのクラスが6クラス分。他に、3年生の「情報B」(必修選択科目)が1講座。学校設定科目で「生活の中の情報」(自由選択科目)が20人のクラスを1講座。情報科の専任教諭は私だけで、16単位分を私がメインで、チームティーチングとして、今年は国語と地歴公民と数学と理科の先生が入って実施しています。

 

■「情報A」

 

「情報A」の1学期は、生徒の実態を踏まえ、復習的な部分、基本的な部分を中心として授業を構成しています。キーボード入力に慣れていない、ローマ字もおぼつかない生徒もたくさんいますので、1学期はコンピュータの基本的な操作、基本的なソフトウエアの活用。2学期は、LINEなどでのトラブルが起きていることも踏まえて、情報セキュリティや情報モラルも意識させ、情報を伝える授業を、3学期は、受け取った情報をどう読み取るのかという授業を行っています。

 

授業の中で、私が強調しているのが、コミュニケーション。コミュニケーションをするときには必ず相手がいるんだよと、受け手の存在を意識させることを、単元の中でも取り入れるようにしています。

 

具体的な授業を紹介しますと、広告分析の授業を2時間で行いました。新聞の折り込みチラシやテレビCMを例示して、誰が対象なのか、何のためにこの広告があるのか、受け手にとってどういうデザイン上の工夫がなされているのかを考察させます。情報には受け手が必ずいるということとともに、先入観にとらわれない、当然だと思っていることが実は当然ではないということも理解させるようにしています。

 

もう1つ紹介します。プレゼンテーションです。修学旅行の感想、学んだこと等をスライドにまとめ、発表させています。その際に、友人や先生が撮った写真を使ってもいいよとし、画像を“勝手に使ってもいいの?”と、著作権や肖像権を考えさせます。発表は、作ったスライドを元に相互評価を行い、改善策を考察したりしています。この単元では、伝える手法を習得することはもちろんですが、ここでも、他者の尊重、受け手の存在を強調します。

 

3学期は、関数やグラフを使った問題解決ということで表計算ソフトの活用をメインにしています。表計算ソフトも中学時代にやってはいるはずなのですが、わかっていない生徒が大多数です。入力ですら怪しいです。例えば、長い文章になると1つのセルに入力せず、A列が区切れるところで今度はB列に移って入力して、次はC列に移り…といった形で入力する生徒も少なくありません。そんな中で、基礎を復習し、データ入力、グラフ作成を行います。グラフの種類やデザインによる見え方の違いや、見えていない部分に情報の裏側があるといったことを教え、情報を読み取る力をつけさせたいと思っています。

 

■「情報B」

 

「情報B」は3年生の30名限定の必修選択科目ですので、意欲的な生徒が選択しています。情報系の専門学校、大学に行きたいという生徒もいますし、2年生の「情報」が楽しかったから取ったという生徒もいるので、操作スキルのばらつきは少ないと思いますが、学習内容はほとんど定着していません。そこも踏まえて、情報と人間や社会の関係が理解できるよう進めています。

 

ここでは、実習中心にプログラミングの基礎も行っています。例を示して、見本のとおりに打ってね、といっても間違いがかなり出てきます。1行の間違いでSuicaの自動改札機が止まってしまった事件が何年か前にありましたが、1行のミスで情報社会すべてが止まってしまうんだよ、実際の情報社会の現場では許されないこともあるんだよ、と事例を示し、難しさを理解させています。専門学校や大学に行く生徒はそういうところも考えるとっかかりになればいいと思います。

 

■「生活の中の情報」

 

学校設定科目の自由選択の「生活の中の情報」ですが、これは主にビジネス文書実務検定、旧ワープロ検定と呼ばれていた検定の対策として開講された科目です。ワープロソフトの活用・習得がメインになってしまいますが、ほとんどの生徒が頑張って、全商のビジネス文書実務検定の3級までは取得していきます。合格証書をもらってうれしくて、他の情報系の資格はないのか聞いてくる生徒もいます。そこで、ITパスポートなどの問題にも取り組ませています。情報のさまざまな分野に触れさせて、ワープロやセキュリティが全てではないと、情報の幅広さを見せています。「生活の中の情報」という授業に最初は懐疑的でしたが、ビジネス文書実務検定取得による達成感が、他の情報系の検定を受けてみようという学習意欲の向上につながって、そういう勉強をしながら日常生活と情報の関係性を学ぶことができているのかなと、今は思っています。

 

 

■1時間の授業で様々な活動を

 

情報の授業で私が心がけていることは、1時間の授業で様々な活動を行うこと。本校の生徒は1時間丸々授業を聴き続けるのは苦痛で苦痛で堪らないと思いますので、様々な活動を取り入れて1時間を楽しくすることを考えています。

 

例えば「情報B」で情報セキュリティの授業。まず、情報セキュリティの概念に簡単に触れた後に、4ケタの暗証番号のパターン数や処理時間を計算します。4ケタだと1万通りあって、“あれって多いの?少ないの?”と。“実は多くないんだよ、コンピュータに計算させればほんの一瞬で計算は済んでしまうのだよ”と。じゃあiPhoneではどういう工夫がしてあるの、パスワードを自分で作るのだったらどういうふうにする、といった考察も入れる。あるいは、iPhone5sに指紋認証技術が搭載されたという話題から、生体認証を調べる。最後に、本当に簡単に解読できてしまうの?と、数字だけのパスワード解読ゲーム。このように1時間の授業の中に、座学があって、計算や考察があって、調べる時間があって、実習があってというように、いろんな活動を入れる工夫をしています。

 

■技術と人間性の交差点

 

“情報科ってコンピュータについて勉強する教科じゃないの?”と他教科の先生がたまに言います。“授業に筆記用具なんていらないんじゃないの?筆記用具を今日は持ってきていないよ”というような生徒もいます。が、そうじゃないんだよ、ということをかなり授業の中で触れています。そのときにスティーブ・ジョブスの言葉を紹介します。“…we want to stand at the intersection of technology and humanities”。ジョブスは、技術と人間性の交差点に立ちたいと。情報という教科も、技術の側面もあるけれど、コンピュータを使った先には人間がいるのだから人間のことも考えましょうよと、そういうことをいつも強調しています。

 

そして、何より大事と思っているのが、情報への興味・関心を引き出すような授業であったり、情報に興味のある生徒がもっと発展的に学習してみたいなと少しでも思ってくれるような授業。特に情報科は流行に左右される教科で、媒体やネタも時々刻々と変わっていきますが、変わらない想いもあると思うのです。そういうことを大事にして今後も授業を行っていきたいと思っています。