「情報入試」やりましょう!

京都産業大学AO入試「情報」試験 実施報告と今後の展望

安田豊先生 京都産業大学コンピュータ理工学部

今日のお話は、タイトルは「実施報告」になっていますが、内容は「お勧め」です。情報入試はやりたいけど、ちょっと踏み切れないという大学の方に向けた、ある意味洗脳ですね(笑)。本日の目論見としてはこんな感じです。京産大がAOで情報入試を行った、その実装について紹介したい、またこの情報入試の実装をした時の設計を開示・共有したい、と思っています。そして我々のメッセージをプッシュできればいいかなと思っています。

 

そのメッセージはこのスライドの下の3つです。 

・継続的な作問は可能だ

・様々な面でAOへの情報入試導入は「良い」ことがある

・「踏み切れない」人はスロースタートとしてのAO情報入試でいかが?

 

(言うべき事はすべて言ったので)これで話は終わってもいいのですが(笑)、それは駄目だと思いますので今からちゃんとお話しします。

 

京都産業大学自体は創立51年になります。8学部、学生数12000人の総合大学です。創立から数年で、現在のコンピュータ理工学部のもととなった学科、理学部計算機科学科(開始時は応用数学科だったがすぐに改称)ができています。ここも含めると我々の歴史は非常に長く、AO自体も2002年から行っています。

 

コンピュータ理工学部は、1学年の定員が135人、学部全体で600人弱です。2008年の開設以来、改組前の学科で行ってきた形を受け継いで「作品提出型」というAO入試を行ってきました。

 

それに今回「情報科目試験型」を追加しました。つまり情報入試を一般入試としてではなく、AO入試として実装したというわけです。今回は、9人受験して6人合格し、5人が入学しました。 

作ったものを提出させ、作品について徹底的に議論する「作品提出型入試」

まず「作品提出型」の入試について説明します。これは、何か作ったものを提出してもらい、それを審査します。まず一次選考の書類審査として、作品と、資格等の実績の書類を送ってもらいます。作品は見たらわかるものに関しては、ビデオを撮って送ってもらいます。さらに説明書を付け、コードも出してもらいます。

作品の応募数自体は非常に少なく、年間10件来ることはほとんどありません。そして、書類審査の段階で半分ぐらいが落ちます。

 

合格ラインを偏差値など数字で表せないので、来るもののレベルを調整することは困難です。書類審査には「これでは通らないだろう」というものも来てしまいます。ホームページにも幾らか情報を出していますし、いろいろ広報の工夫はしていますが、過去の応募作品の実物を出すわけにはいかないので、「明確にここらへんまでないとダメだろう」というのが出せません。ただ、募集の時期が夏なので、落ちてもそれほど大きな問題ではない。こちらもまともに良い子が採りたいというのが目的なので、容赦なく落とします。

 

二次選考は、書類審査で絞られた人たちに対して面接を行います。1人30分ぐらいで、内容は、ほぼ技術的な話です。つまり、「作品のここってこんなことしていたけど、なんで?」とか「もうちょっとましな書き方あるんちゃう」といったことを、まともに議論します。議論した中で、受け答えも含めて面白い(優れた資質がある)と思ったら採ります。専願ではなく併願なので合格しても来ない可能性があります。そうは言いながら結構入学しますけどね。

 

今回追加した「情報科目試験型入試」では、一次選考として書類審査に加えて、今配布した「情報」の筆記試験を行い、その後面接をします。問題の内容は、情報入試模擬試験でも出題されているものに近いと思います。試験時間も60分ですし。

※リンク先の最下部で2016年度入試問題とサンプル問題を見ることができます。

 http://sgc.kyoto-su.ac.jp/exam/type/ao/cse_point.html

 

 

情報に強い尖った学生を採る方法としては成功

ここで少し非常に主観的な話をしますと、一般に行われているAO入試には残念な話があまりにも多すぎるので、誤解をされると冗談にならないというのがあります。我々は、尖った学生が欲しくて、AO入試を長くやっています。そしてとても面白い学生が採れています。もともと応募が少ない上に書類審査でだいぶ落としますが、実際面談するとびっくりするような人が来ますし、またそういう人を採ります。併願ですから、入学率は50%ぐらいと思えばいいでしょう。だから僕らとしては、本当に優れた学生が採れているという自信があります。そういう状況で、今後も継続しようとしています。もちろん教授会では、「そうはいっても数学の能力がない子たちが入ってくるのはまずいのではないか」といった話は必ず出ます。しかし実績として優秀な子が採れているから、といった議論を経て、今も続いています。

まず、本来、情報系の学部にはこういった作品提出型の入試が向いていると思います。つまり、情報系の資質というのは、数学や英語では測れない、全く独立したベクトルの資質があるのではないかと考えています。実際には数学でも離散数学をしっかりやってくれるとよいのですが、入試の問題では離散数学や複合的な問題は短答式の問題にならないために排斥されがちです。そうすると、(情報に強い学生を)採る方法が僕らに残らないという結論が出ます。だからこそ、この形(AO)の入試をやるという感じです。実際、優秀なだけではなく周りにいい影響を与えるような学生が入って来ます。つまり友達と一緒にやるとか、いろんなものを創って外に出していくので、それを見て周りの子が「おもろいことやってんな」と思うという、そういうことが起きています。

 

 

数学は低空飛行でも、卒業制作でずば抜けた学生も

結果はと言うと、やはり情報系科目は当然好成績ですが、数学に関しては苦手です。これは予想通りです。それでも3分の1が大学院に進学します。学部全体での進学率はもっと低いので、かなり高い数字です。一方、留年者も普通のレートで出ます。ただし、入学時の数学の能力が低めなために、必修の数学で引っかかる子がどうしても出てきます。そのため、1回生の秋の時点で退学する子が出てきたりもして、そのあたりが問題です。内申書で数学にあまり自信がなさそうな、あるいは数IIIなど高等な数学に触れる機会がなかったような子たちには、面接の時に「うちは数学がカリキュラム的には必修になっているから、頑張ってやらんとあかんよ」とは言いますが、うまくいかない子は出ます。

 

成績一般にも大きなバラつきがあります。本学は124単位が卒業要件ですが、140単位オーバーで成績優秀者として卒業する学生もいます。GPAは低空飛行であっても、単位数は目一杯取る人もいます。もちろん124単位とか126単位ギリギリで卒業する子もいます。逆に今の普通の学生は、昔のように、自分の興味で科目を履修するといった指向性はなくて、何を学ぶかとか学費を払って何を得たかということに関係なく、楽勝科目を並べるとか卒業単位ギリギリで出るのがよいとか、よくわからないゲームをやっている感じがします。

 

AO入試の学生は、卒業研究などで目立っているなと感じることが多いです。もちろん学年で1人とか2人しかいないので統計的なものではなく、主観的にこうだとしか言えないですが、それでもずば抜けた学生がいたりします。

 

結局のところ、こういうバラバラな子たちが入ってくることを覚悟することが必要です。そして、僕らはそういう子たちを採るんだと意識してやっているところが大きいです。尖った子を入れるとは、そういうことです。

 

 

作品提出以外に情報で尖った学生を採るには

今回追加した「情報試験」型のAO入試に関しては、そこ(作品応募で長くやってきたAO入試)から先(将来)をどうするか、という話です。つまり、作品提出型の志願者が増えるかというと、増えないのですよ。作品応募のAOというのは他の大学でもありますが、同様です。一定数、こういうことが好きな学生がいるということはわかり、そういう子を採りたいとは思うし、実際、現在の作品応募AO入試が機能しているとは思いますが、近い将来、学部全体に大きなインパクトを与えるほど増えはしません。

そうなると、AO以外の入試で、特に数学の合格最低点付近の(つまり数学が苦手な上に、情報の専門科目でもつまづく可能性があるような)学生をどう考えるか、ということになります。理学部数学科であれば、そういう(専門分野への興味が薄いのにたまたま入試で通ったから来るなどという)命知らずの子はなかなか来ないと思いますが(笑)、情報系はどうもそういう認識をされていないようで、非常にカジュアルに、何も考えずにひょいっと入って来るという感じがします。しかし、実際には入学してから問われる資質への要求の厳しさにおいては、たぶん数学科とあまり変わらないくらいきついのではないかと思います。たぶん、情報系に入って絶望する学生の数は、数学科や物理学科以上に多いように思います。

 

そういう意味では、数学でボーダーラインにいて、情報系の専門でいいところがない学生というのはどうしても出ます。そこを採りたいのか、あるいは数学はボーダーラインであっても、先ほどお話ししたように数学の入試では測れないところで情報系の資質がある子が入ってほしいか、どっちなのかいう話です。この問いに対して、僕らは何とか答が出ないかと、情報入試で下位の学生を置き換えようとしているわけです。このための手段として、2008年から推薦あるいは一般入試の選択科目として「情報」の検討を開始しています。長期的には数学もできる子に情報系を選択してほしいと思っています。でも、残念ながらそうなってないというのが僕の結論です。

 

 

作品提出でなく試験で情報に強い学生を採れないか?

情報入試の検討の経緯をお話しします。検討自体は2008年ごろに開始しました。情報収集しながらいろいろ検討するのですが、一般入試に選択科目として情報を入れるのは非常に難しくて、特に入試部からはさんざん叩かれました。大きな理由は、やはり見込まれる受験者が非常に少ないからです。それがわかっていて1科目増やすというのは非常につらい。実施している大学はいくらかあるのですけど、よくやっていらっしゃるなと思います。結果、この検討は1回潰れて、2013年からもう1回仕切り直して検討を始めました。その時、どんな形なら実施可能か、というところに視点を戻して、AOでスモールスタートするならいけるのではないか、という実装案が上ってきました。入試部もこれに関しては、打って変わって好反応でした。そこで合意をして、作問して、実施したというのが今のところです。走り出してから7年ですね。

当初検討した時議論になったのは、「多数の受験者に対して公平な採点ができるのか」ということです。つまり、そういう(公平に採点できるような)問題を出題するのかということですね。結果が線形に並び、それで評価できそうな短答式の問題で、果たして僕らが欲しい学生が採れるの?という、さっき言った命題が出てきたわけです。それではやはりあかんだろうと思います。この点に関しては、一般的・標準的な情報入試のひな形を作ろうとしている方々のご意見を聞きたかったりします。結局、公平な結果が出せそうな試験は僕らの目的には合わないという結論を出しました。

受験科目として選択する者が、果たしてどれだけいるかというのも、実施上は非常に大きな問題です。センター試験の情報関係基礎というのがありますが、27年度の選択は462人です。数学I、IIの受験者数が40万に対して400人。この中の何人がうちを受けに来てくれるのか。選択科目の1つとして用意したとして、(受験者側の心理とすれば)数学であれば大体の結果(何点取れるか)予想が立つとしても、情報を選択したらどのくらいになるか、予測が難しい。そういう状況で、果たして受験してくれるのか。やはりこれは効果が期待薄だということで、議論としては一旦スタックしました。

 

(注:私の発表の後、奥村晴彦先生から少し言及がありましたが、この受験者数のレートは工業数理基礎などと同様に専門学科の生徒に限定された科目であるからで、一般の学生を対象として用意される情報入試の選択肢とは異なった結果になると思われます。私の視点は「今年、情報科目を受験対策として勉強しているであろう生徒の数」を推定することにあったのですが、説明が良く無かったと思います)。

 

 

面接を行うことで、短答式では測りきれない能力を見ることができる

ターニングポイントとなったのは、スモールスタートとして情報科目試験をAOで行う形を採ったことです。AOには面接がありますが、これが非常に大きい重みがあるわけです。つまり、(筆記試験で)客観的・固定的な正解というのは出なくていい。例えば、うまく解けなかったとしても興味深いところがあれば部分点的なものを与え、その受験生は一次審査合格として、面接で詳しく聞けばよいのです。そこで考え方を説明させて、それが妥当かどうかをよくよく聞けばいいのですから。しょうもないところで減点をする理由もないし、わからんなと言いながら加点をする理由もありません。今回の問題の中にも入れましたが、初めから面接で思考過程を聞くための問題が出せます。これは、実際作問しているときずいぶん助かりました。時期が早い上に、うちの大学は併願が多いので、腕試し的に受けてもらえるという可能性が上がります。

後で面接で聞ける上に、もともと受験者数が少ない(多くの受験者を精度良くふるいに掛けるようなことを考えない)ので、作問はそれほど大きな負担になりません。僕らの狙いは、一般入試の合否のボーダー付近で、数学は全然駄目で、専門性もどうやらダメらしいという層と置き換えるための何人かを採ることがゴールですから、受験者数の母数がそれほど多くないことは、それほど問題ではありません。

 

問題全体の構成としては、まず「情報の科学」の範囲内で実施するとしています。ただ、「情報の科学」の検定を通った教科書にちょっとでも載っていればいいよね、というくらいのつもりです。どの教科書にも必ず出ているかどうかとか、そんなことは関係ないので、非常にカバレッジは広いです。実際、高校の教科書のカバレッジというのは相当なもので、本当にあの範囲を全部やったら、うちの1回生よりよっぽどまともですね(笑)。 

出題形式は、「○×問題」と「考える問題」の2つで出しています。○×を用意したのは、全部を「考える問題」にすると受ける方がへこたれるのと、(高校に戻った)後で「ありゃ難しいや」と言われたりすると逆宣伝なので、前半はある程度すらすらできて、後半に引っかかる問題やじっくり考えなければならないものがあって、不十分な解答や別解は僕らが面接で確認すればいい、というポリシーでやりました。ボリュームとしては、60分のうち最後10分は振り返る時間があったほうがいいよね、と言ってくれる先生がいたので、そのくらいにするかということにしました。この辺りの調整は簡単で、作ってから多すぎれば削るというぐらいでいけます。最終的な問題の構成としては下のとおりです。

実際にやってみると、ほぼ全員ができた問題、できる人とできない人が分かれた問題、様々でした。プログラミング(ロボット操作)の問題については○×がはっきり出ず、部分評価が多くなったのは目論見通りで、面接で聞きました。

 

受験した人はオープンキャンパスのAO説明会に来ていた人が多かったようです。ですから、わりに自信のある子が継続的に関わった入試だと思います。時間としては十分で、開始20分でほぼ全員が問題4に着手していました。ただ問題4はいろいろ考えなければいけないので、時間を食っていました。質問はほぼなし。ですから、十分クリアな設問だったというふうに思います。分布的にはちゃんとばらけていて、そこはうまくいったと思います。総合的に見て、比較的いい問題だったと思います。あるいは、(この種の試験は)もともと能力がはっきり出るもので、誰が作ったとしても、こういう作りをしたら同様の結果になるかもしれません。

最終的に、9人受験して6人合格しました。得点分布も割合にはっきりと分かれました。資格等で優秀そうな人は、やはり満点でした。得点と能力がちぐはぐだとまずいですが、そういうことはなさそうでした。ただ、応募者が増えた場合に、今回のレベルだと絞りきれなくなるので、もう少し難しくてもよかったかなとも思いました。

 

継続的な作問も可能。情報入試をやってみよう

最後に、継続的な作問が可能かという話をしようと思います。この点が、大学の関係者には必要だと思いますので。

 

最終出題は4問です。事前公開のサンプルは6問作りました。受ける人たちにとって、何も指標がないと困ると思ったので、事前公開をしました。没問題も同じぐらい作りました。作問に関わったのは4人ぐらい。作った問題の半数程度は、来年度向けのストックになっています。没になったもののうち、いい問題は次年度に持ち越して、ちょっとあかんのがサンプルになっています(笑)。数名で3カ月ぐらいかけ、およそ10回のラフなミーティングでガーッとブレーンストーミングをして、という感じで作りました。 

僕らの結論は、作問は可能だということです。もちろんこれは、面接というセーフティーネットがあるからで、SFCのような短答式でも果たしてこれが可能か、つまり短答式で過去問と衝突しない問題で、それなりの難易度がばらけるような問題をずっと作り続けることが可能かどうかは僕らにはわかりません。ただ、僕らの実装だと、継続的な作問は可能だというのが我々の結論です。よほど特殊な才能を持った人ばかり4、5人集まって作ったとはとても思えないので、たぶん可能です。そこを注意して聞いていただけたらありがたいかなと思います。

 

[質疑応答]

Q1.先ほど、入学してから数学でついていけなくなる学生がいるというお話がありましたが、

 大学のカリキュラムで数学を厳しくしないということはないのでしょうか。

 

A1.ハードルを下げるだけではダメだと思います。というのは、ハードルが乗り越えられない理由が見えてきていませんので。もう一つは、大学の数学で教えられる内容のレベルは年々下がってきています(教えるレベルを引き下げつつある)。必修をやめる、というつもりはありません。

 

Q2. 一次選抜の試験と面接の間の時間で、他の人に答えを聞いてしまうことができるのではないか、ということはどう考えられますか。

 

A2.面接で質問するときには、それこそ根掘り葉掘り聞きますので、心配していません。

 

Q3.長期的に見て、AO入試の学生と一般入試の学生をどのくらいの比率にしたいと考えていますか。

 

A3.はっきりこのくらい、とは考えていません。はっきりした戦略が立たない、というのが正直なところです。ただ、情報分野は芸大と同じようなものだと思っています。大学に入ってから学ぼう、教えてもらおうとするのでなく、自分で経験してから入ってきてほしいと思います。

 

受験生の皆様・高校の先生方へ

 

京都産業大学コンピュータ理工学部では、情報系の資質があり、まとまったプログラミングなど、ある程度以上の経験がある受験生さんたちに向けて、この記事で示した形でのAO入試を用意しています。

 

もし「自分はそうしたパターンのひとりだ」と感じたら、ぜひ受験を検討してください。あるいはそうした資質のある生徒さんをご存じの高校の先生方は、ぜひ受験をお薦めください。

 

既に何か作品として出せる人はぜひ作品提出型を検討してください。なによりもそれがあなたの実力を示してくれます。まとまって出せるものはないけど、プログラミングなど情報系の経験があって自分の資質を試してみたい、といった方はぜひ情報科目試験型で実力を試してください。昨年度入試の問題が Web で公開されていますから、まずはそれをやってみるとよいでしょう。

 

我々のAO入試は時期的に早く、併願可能です。本格的な推薦・一般入試前の腕試しのつもりで受けてもらっても結構です。情報関連の具体的な経験がなにもないまま受験し、入学してしまった学生がその後の専門課程に興味が持てないまま苦しむのは、やはり受験時のミスマッチです。我々の学部はそれを少しでも減らそうとしています。情報系に対する指向性のある学生の入試を、それをストレートに測る方法で行いたい、と思っています。