緊急企画 来春スタートの慶應新入試「情報」の参考試験問題公開
~大学生が挑戦

細かい知識の多さよりも、数学的計算力と情報処理能力が試される。
対策次第では、「情報」受験が有利になる可能性も


慶應義塾大学の総合政策学部・環境情報学部では、16年度入試より、「情報」での受験が可能になりました。「英語」や「数学」の代わりに「情報」が選択可能になり、「情報」と「小論文」で受験できます。

◇入試科目

数学または情報」あるいは「外国語」あるいは「数学および外国語」の3つの中から1つを選択(200)、小論文(200)
(「情報」の出題範囲は「社会と情報」「情報の科学」)

 

その参考試験が、7月30日に行われました。午前中1回、午後1回、各40分で合計2回が行われ、計4問が出題されました。

一般入試「情報」参考試験の問題・解答、実施結果についてはこちら(慶應義塾大のサイトへ)

その参考入試に、大学1年生(文系)が挑戦しました。彼の体験記を紹介します。まず、どのような情報に関するバックグランドを持つ学生か説明し、その上で、問題を解いてみた解説、感想を述べてもらいました。

慶應参考試験問題に大学生が挑戦

■中高時代の「情報」について(受験大学生のバックグランド)

科目名は「情報」(中学では「技術家庭」の「技術」に相当する教科が「情報」という名前だったと思われる。高校では、「情報A」として学んでいた)。中高を通して教科書を使わずに教師独自の授業が行われた。中学2年、3年、高校2年、3年で週1コマの授業が実施された。また、いずれの学年においても期末試験は行われなかった。

中学2年時、キーボード操作やインターネット検索などパソコンの基本的な使用方法から学習し始めた。学年末には、「読書レポートの書き方」や「MMDの使い方」などの幅広いテーマが各生徒に与えられ、自分のテーマについてインターネットで調べ、pptを用いて発表した。


中学3年時、「炎上」について学んだ後、心理学について学習した。学年末には数人のグループで「心理学を用いて○○をする」というプレゼンを行った。筆者は「集団心理でハーレムを作る」というプレゼンを行い、見事に滑った。


高校2年時、チーム対抗の討論について学習した。学年末には6人の班ごとに討論のテーマを決めて、3人対3人で互いにppt資料を示しながら討論を行った。筆者は「東京オリンピックとコミックマーケットのどちらを優先させるべきか」という討論を行い、大声でオリンピックを罵って顰蹙を買った。


高校3年時、数学で「統計と分析」を学習したことと連動して、1学期はエクセルの活用法を学習した。2学期は「情報」とは名ばかりの、パソコンでのリスニングの授業が行われていた。

情報機器やSNS、プログラミングの知識・スキルについて

スマホやパソコンなどの情報機器の工学的構造に関してはほとんど理解していないが、人並みには扱うことが出来る。SNSはTwitterを始めとして頻繁に利用し、スパム等に関して詳しくはないが注意するようにはしている。前述から分かる通り中高でプログラミングを学んだことはなく、個人的にも学んでいないため、経験は皆無であり、興味は少しあるという程度である。



■今回の参考試験に際しての、事前準備(対策)について

前述の通り情報の知識が十分であるとは言えないが、昨年の参考試験の問題を見ると自分でもある程度解けそうだと思い、腕試しのつもりで今年の参考試験に挑戦してみることにした。

 

ただ、最低限の準備(入試対策)として、事前に昨年の参考試験の問題を自力で解き、この「キミのミライ発見」の解説を読んでおいた。また柏陽高校の間辺先生の解説にも一通り目を通した。この際、解説に書かれている中で自分が知らなかった知識はインターネットで検索することで補った。

 

また、自分の一つ下の学年、つまり16年度の卒業生からは「情報」が、「社会と情報」と「情報の科学」になるそうなので、教科書を読むべきであったが、事前に読むには間に合わなかったため、試験後に読むことになった。

 

そして、「ITパスポート試験」という、ITに関わる仕事の初心者に必要とされる知識・スキルを問う認定試験があるので、多少関係するかと思い、ホームページで問題・解説に一通り目を通してみた。ただ、これは仕事につながるITの知識・スキルであるため、SFCの情報参考試験との関連性はないと思った。


以上、全体5時間程度の準備をして臨んだ。


■各問題の簡単な解説と感想

一般入試「情報」参考試験の問題・解答はこちら(慶應義塾大のページへ)

〔第1問〕情報セキュリティやSNSの危険性、知的財産権保護など情報モラルを学べる問題


昨年の参考試験では第1問に相当する。教科書では、「社会と情報」第3章第1節および第3節に該当する。正確な知識を持っていなければ解けない問題もあるが、常識的判断や文脈からの読み取りによって解ける問題も多い。難易度は昨年と同程度である。(ア)~(オ)ではコンピュータを扱う際の危険性について、(カ)~(ク)では知的財産に関する法的措置について問われている。全体としては、現代の日常の中で触れることの多いコンピュータやSNSに関する危険性、知的財産を扱う際に必要とされる法的義務について普段から意識できているかを見ていると考えられる。また、(エ)の選択肢(5)における「既読無視」による「いじめ」のような、知人同士の人間関係に関する日常的な問題まで扱われていることにも注目したい。

〔第2問〕数学的分野から集合と論理、2進数の問題


(ア)は、数学で扱われる典型的な集合と論理の基本問題である。昨年に相当する問題はない。教科書では、「情報の科学」第1章第2節『コンピュータと情報処理』の『CPUと論理回路』に関係する問題である。「論理積」「論理和」という言葉そのものを知らなくても、‟AND”、‟OR”からその意味を推測することができるため、集合と論理の基礎さえ知っていれば簡単に解くことができる問題である。


(イ)は、プログラミングの基礎である2進数の基本問題であり、昨年の第4問の(ア)に相当する。教科書では、「情報の科学」第1章第2節『情報のデジタル化』に該当する。変換方法についての知識があれば簡単に解くことができる。2進数への変換方法を知らない場合、「ビット」という言葉を「桁」に置き換えられれば、数学で習う2進法の知識を用いて1つ目の空欄は解ける。しかし、高校の数学では、2進数における負の数は習わないため、補数表現について知らなければ2つ目の空欄以降は解くことができない。よって、この問題ではITの基礎を身につけているかどうかが試されており、本番でも基礎力の差が出る問題であろう。


(ウ)は、2進数を利用した暗号通信の問題である。教科書では、「情報の科学」第2章第3節『情報セキュリティ』の『情報の暗号化』に関係する問題である。排他的論理和を知らなければ、一見難しそうだが、その実は2進法による足し算引き算の応用であり、数学の基礎さえあれば解くことができる。「排他的論理和」や「暗号」などの言葉に惑わされずに、平文と暗号鍵の足し算、または暗号文と暗号鍵の引き算を行い、下8桁を取ることがポイントである。最後の暗号方式についても、文脈から推測して素直に選べば正解することができる。

〔第3問〕エンドノート間のパケット送受信についての問題


これは日常的に利用している技術の基礎知識と計算に関する問題がセットになっており、昨年の第2問に相当する。教科書では、「社会と情報」第2章第3節『情報通信ネットワークのしくみ』に該当する。(ア)の知識問題の難易度は変わらないが、(イ)(ウ)の計算問題は易化している。


(ア)は、エンドノート間のパケット送受信の際に使用されるプロトコルについての問題。プロトコルやバージョンについての知識がなければ解くことができない。世界中で利用されているエンドノートとの親和性が試されていると言える。


(イ)(ウ)は、エンドノート間のパケット送受信量を計算する問題。一見難しそうに思えるが、序文をしっかりと読み、図から正しい情報を汲み取ることで正しい答えを簡単に得ることができる。序文にある通り、「『SYN,ACK送信』というのが『SYN,ACK』という情報を1つのパケットで送信することを示している」という点に注意しなければならない。パケット送受信に関する知識以上に、正確な情報を汲み取り、処理する能力が問われている。

〔第4問〕シミュレーションによって期待値の近似的に求める問題


数学的な計算が正しいかどうかを確かめる手段としてコンピュータによるシミュレーションがしばしば用いられる。この問題では、数直線上の点Pの位置の期待値を求めるシミュレーションの方法を考える。確率の計算や方法論を求めるという点で、昨年の第5問に相当しており、昨年よりはやや難化している。教科書では、「情報の科学」第6章第1節『モデル化とシミュレーション』に該当する。


(ア)では、d(t)が時刻tの点Pと原点との距離|x(t)|、つまり「絶対値」であることに注意した上で、d(t)が-3、-1、1、3となる場合に場合分けしなければならない。これはある程度数学の問題を解くことに慣れていなければ解けない問題であろう。また、下手に漸化式を使えば間違った答えが出てきてしまうため、要注意である。


(イ)では、各変数が何を意味しているのかを理解し、処理の始まりと終わりを正確に把握しながら全体の構造を捉えることが重要である。永久に繰り返す処理が「ランダムにd(100)を求める処理」であり、100回繰り返す処理が「点Pを1回移動させる処理」であることを読み取ることが求められている。シミュレーションの経験があるか、または文章と選択肢からシミュレーションの構造を理解するための十分な処理能力があるかが問われている。

   
■全体講評


情報に関する知識がない場合でも、1回目の試験では、第1問が10分、第2問が15分程度で解き終わり、2回目の試験では、第3問が15分、第4問が15分程度で解き終わるため、時間には余裕があると考えられる。


自己採点で160点(200点満点)であった。準備時間と元々の知識量を考慮すると、相応の点数だったと思われる。事前の準備としては、参考試験の過去問を解いていたことが有効であった。また、教科書に該当箇所のある問題が多かったため、教科書は読み込んでおくべきであった。一方、ITパスポート試験の過去問はする必要がないと思われた。


また、簡単な数学的計算や情報処理が必要とされる問題が多いため、数学IA、IIBの基本的な問題を解くことで、慣れておくことも有効であろう。


さらに、教科書にはない知識や常識的判断に基づいて解く問題もあったので、上記のような準備だけでなく、普段からエンドノートなどのソフトウェアやSNSを利用することで、必要な知識や判断力を身につけておくと有利ではないかと思われた。

各問題の講評


第1問では、日常的に利用するコンピュータにおけるセキュリティ面での脅威や知的財産に関する法的義務に対する関心度が試されていた。普段からこれらの問題に関心を向け、考えておけば、簡単に解けるのではないだろうか。


第2問では、集合と論理、2進数というプログラミングで必要な数学的基礎知識の有無を問われていた。難易度の高い問題ではないので、基礎を身につけておくことが問題を解く鍵となる。


第3問では、エンドノートパケット送受信に関する知識問題と計算問題が出題され、ソフトウェアに対する関心度と文章や図から得た情報を処理する能力が求められた。自分が使用している様々なソフトウェアの構造について詳しく知っておくようにすれば、かなり解けるかと思われる。


第4問では、数学的に期待値を求めた上で、シミュレーションの概要を把握する能力が問われていた。知識がなくても要領が良ければ解ける問題であるが、シミュレーションの経験、もしくはこのような問題を解いた経験の有無が重要になり、差がついてしまう可能性がある。実際にコンピュータで期待値を近似的に求める経験をしておくといいだろう。


全体としては、ITパスポート試験ほどの細かい知識は必要とされておらず、細かい知識の多さよりも、基礎力と高い情報処理能力が試されていた。このような能力重視の問題なので、慣れと最低限の知識を得られれば、案外簡単に解ける問題であり、「情報」で受けることが有利になる可能性は高いと思われた。


◇緊急企画 来春スタートの慶應新入試「情報」の参考試験問題公開
新「情報」入試のための参考試験の問題や村井学部長のインタビューほか、慶應新入試情報をまとめました。

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