高校教科「情報」シンポジウム2014春in関西「ジョーシンうめきた」

特別講演 「情報科の観点別評価」

関西大学総合情報学部教授 黒上晴夫先生


黒上晴夫先生
黒上晴夫先生

最近の教育をめぐる動きと、今回お題としていただいた観点別評価の話は、実はけっこう背景でつながっていると思いますので、今日はその話をいたします。

 

次の指導要領の改定では、「何を教えるか」から「どんな力を身につけさせるか」へ

 

先頃新しい学習指導要領が動き始めましたが、実はもう次の指導要領の改定に向けたいろいろな作業が行われています。文科省の当初の予定では、2018年改定で、高校では2019年施行なのですが、それが某首相を筆頭とする、「早く改革を」、具体的に言うと「早く道徳を教科化したい」という意図が強く働いて、予定より早まりそうですね。だいたい2016年の12月頃に出そうな気配があるという話です。

 

「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」の一番新しい資料が3月末に出ています(「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会-論点整理」(文部科学省 平成26年3月31日))。ここでは、何を「資質・能力」と考えるのか、というのが焦点になっています。

 

学習指導要領というのは、学習すべき内容を領域・評価・科目に分けて、シークエンス、つまり何年生でやるかというのを表にしたものを文章化したものだったわけですが、そこに資質・能力をどれだけ入れられるか、というのが次の指導要領のポイントです。つまり、どのような内容を教えるかではなく、どのような資質・能力を身につけさせるか、という視点で書いていきますよ、ということなのです。キー・コンピデンシー、21世紀型スキル、ジェネリックスキルなどの育成が世界的潮流としてありますが、あらゆる教科に入ってくるということなのです。

 

教科を横断してどの教科でも使われる汎用的なスキルというのは、例えば、問題解決力。論理的思考や、コミュニケーション力、それから最近よく言われるようになってきたメタ認知もこれにあたります。各教科から今例に挙げたものを出していったときに、逆に教科の方には、その教科ならではの応用の知識、個別のスキルといったものがディシプリン(discipline)として残るわけで、これらはおそらく能力ではなく内容の方で扱うことになるだろうと思います。

 

教科を横断する汎用的能力の考え方 ~オーストラリアの例より

 

ここでに参考になりそうなのがオーストラリアの統一カリキュラムです。オーストラリアには4つの州があり、かつてはそれぞれのカリキュラムがバラバラでしたが、最近ようやく全州が統一カリキュラムにしたがって教育をするようになりました。学習領域としての教科には、国語(英語)、数学、科学、歴史がありますが、他にデザインやデジタルテクノロジーというものも学習領域と考えられています。学習領域と、横断的能力を掛け合わせてマトリックスを作っているのが特徴的です。例えば、読み書き=リテラシー。国語の読み書きは当然ですが、数学にも科学にもリテラシーがあります。OECDの調査には科学的リテラシー、数学的リテラシーがありますが、そういったものにも関わっているわけですね。

今話題にしている資質・能力に関わるものとしては,ICT能力、批判的論理的思考=ロジカルシンキング、創造的思考が入っています。さらに、内省・対人的な能力、知的理解というような枠を作っているわけです。日本で行うとしても、横軸の学習領域は教科・科目、縦軸にはもちろん別なものが入ってきますが、こういう感じの指導要領のフレームワークを考えていけばよいのではないかと思います。

 

評価の仕方も大きく変わる

 

このように指導要領が変わってくると、評価の仕方も当然変わってきます。知識なら、ペーパーテストで測れたわけですが、「何ができるか」を測るとなると、やはり、実際にできるかどうかを見る必要が出てきます。

 

それが日常の評価、あるいは、高大接続の評価とどのようにつながるか、というのがとても大きな問題です。教科「情報」は、大学入試センター試験では実技がやれないのでセンター試験の枠組みに乗ってこないという話がありましたが、その理屈でいくと、他の教科・科目でもパフォーマンス評価が要求され、入試とつながってきた時には、現行のセンター試験だけでは評価はできない、ということになるでしょう。

 

高大接続についても大きく変わる見通し

 

ご存知だと思いますが、センター試験に替えて「達成度テスト(仮称)」が導入されようとしています。中央教育審議会高大接続特別部会の「審議経過報告」(3月25日)では、大学入試も含めて高大連携の在り方の方向性を取りまとめています。

 

それを見ていくと、改善の方向として、まず、主体的に学び考える力を育成できるように変えたい、別の言い方をすると、「イノベーティブなグローバル人材を作りたい」ということがあります。そのためには、小・中・高の各段階で必要な力をきちんと身につけさせなければなりません。受験生が勝手に必要な力を大学の受験科目に絞って、必要ないとしたものを全く勉強しないという状況は極めてよろしくない、ということです。

 

そして、意欲を持って主体的に学習に取り組むことを後押しする大学入試にするという理想が書いてありますが、これはすごく重要なことです。

 

それでは、高校ではどんな力をつけて欲しいか。まず将来学び続ける基盤。知識、技能だけではなく、意欲もこれにあたりますね。どんな職に就いても使える汎用的能力をつけたい。それから市民として求められる能力もつけたいと書いてあります。

 

また、そのためには、多面的な評価が必要だとして、ルーブリックやポートフォリオなどいろいろな評価手法があげられています。

 

達成度テストの話が出た時に、情報処理学会がこのままでは美術や音楽と一緒にされて危ない、と提言を出したのですが、入試が今のまま同じような形態で行われることを前提にすると確かにそうかもしれません。が、入試のやり方が大きく変わろうとしていて、文部科学省もかなり本気で考えている気配があるので、多様な評価が入試と絡んできたら、話が変わってくると思います。つまり、先ほど言ったパフォーマンス=実際にやることを通して力を測るということが、入試と関係してくれば、その方がいいでしょう、ということになります。

 

達成度テストの発展レベルは、大学教育の質的転換を促すか

 

「達成度テスト(基礎レベル)」では、知識・技能だけではなく、思考力や知識・技能の活用力を見る、教科融合型のものも検討する、と言っています。「基礎レベル」は高校卒業を認定するというレベルで、大学に上がるためには、「発展レベル」が別に用意されます。やり方としては、記述式も導入を検討するようですが、記述のテストを国レベルで行った時に、どのように・誰が採点するかが大問題となるでしょう。

 

一方、「発展レベル」については、導入の趣旨は、大学教育の質的転換を促すものである、と考えられています。要するに、高校生がより高い能力を持って入学してくれたらいい、マッチングがうまく行けばいいということです。そして、個別入試は多面的、総合的能力評価に転換していきましょうということです。

 

ここで重要なのは、「高等学校での指導改善を促進する」という点です。先生方がそれぞれの教科をしっかり勉強して欲しいと思っていても、入試が妨げになっていて、生徒は入試に出るものしか勉強しない、という構造を止めることだと思います。だから、一つひとつの科目を本気で単位認定するような仕組みに構造的に変えなければならない。それは、科目ごとに国家テストを行うのではなくて、それぞれの高校で認定する仕組みを作り、その認定の基準はどこかがスーパーバイズするという体制を作らなければならないと思います。

 

一方、高等学校における指導改善というのは、学習者の側から見れば、全部しっかり勉強しないと卒業できない、ということです。ヨーロッパの大学進学について言えば、だいたい15くらいの科目についてクレジット(履修証明)を取って、その上でさらに科目の口頭試問形式の試験を受けて、そこで点数を取れば進学できる、という仕組みになっています。達成度テストの「基礎レベル」と「発展レベル」の両方を合わせて、ヨーロッパのいいところを上手く持ってきた仕組みになればと思います。

 

今後の課題は、技能の他に、活用力や汎用的能力を含めてどのように測定するかということです。そこでは教科・科目型に加えて総合型のテストを考えるということのようです。そこでイメージとして出てくるのは、どの科目かよくわからないようなPISAテスト、すなわち理科や数学の問題でありながら相当量の文章を読まなければならない問題、国語の問題と言いながら図表を読み取ったりする問題といったものです。こういったもので資質・能力を測るような試験を行うようなことも見通しておく必要があるでしょう。

 

観点別評価を高校でも

 

一昨年の2012年10月頃に出た中教審の高等学校教育部会の資料に、高等学校で観点別評価をどのくらい実施しているかという調査結果が出ています。観点別評価の観点というのは、原則「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識・理解」の4つです。

高校では、簡単に言えば、全然やっていません。それはそうです。小学校・中学校では、学習指導要録に観点別に書くところがあります。しかし高校の場合、観点別評価をしても、それを書き出す場所がどこにもないのですから。ところが、指導要録の書き方も改めるという話も出てきているようです。指導要録に多面的評価をきちんと反映するためには、観点を明確に表わしていく必要があります。先生方の仕事が増えて大変だと思います。でも、そのことが一人ひとりの大学進学、あるいは社会に出るときの判断材料に直結するのであれば、やりがいもありますよね。そうなって欲しいと思っています。

 

その際、業者テストで「これは関心・意欲・態度、これは思考・判断」などと割り振られたものも使ったとしても、それだけでは充分ではなくて、もっと生徒を観察する、インタビューする、ノートを見る、作品進度を比べるといったことをしながら、いろいろな観点に振り分けて評価をしていく必要があるでしょう。

 

教科「情報」の評価の観点

 

情報に関して、観点別評価の観点は下図のようになっています。

情報教育の3つのねらい、「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会へ参画する態度」に、8つの要素がありますが、これを「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識・理解」に対応させてみました(下図)。例えば、「課題や目的に応じた情報手段の適切な活用」というのは「情報活用の実践力」の中にありますが、これは活用とあるので「技能」だろうと。「必要な情報の主体的な収集・判断・表現・処理・創造」はかなり頭を使うということで「思考・判断・表現」としました。このように一応分けてはみたものの、細かく見ていくときちんとは分けきれないですね。

ルーブリックでの評価

 

そこで、観点別評価と日常の学習活動を絡めるために、ルーブリックチャートというソフトを作ってみました。

 

例えば「情報」で、「スマートフォンの利用が自分たちの生活にどんな影響を与えているかを考えて生活改善の提案をする」という授業をしたとしましょう。プロジェクト学習的なものです。学習のプロセスを、下図に挙げたように8つほど考えていきます。

最初に、(1)グループでどんなことを調べるか計画を立てます。次に、(2)自分たちがどんな時にスマホを使っているかという記録を取ります。(3)取った記録をグループでデータ化し、(4)データを分析して、それぞれ利用目的別に整理をしていく。(5)スマホがなかったら、その目的を達成しようと思う時どうやっていたのか、あるいは、(6)スマホがあることによってどう便利になったのか、逆に何が失われたのか、を検討させて、(7)を踏まえてよりよい利用の仕方を提案し、(8)最後に報告書を作る、というような流れを考えてみました。そして、それぞれのプロセスでどんなことが評価できるか、というのが、一番左の赤い所です。

 

(1)のグループで計画を立てるときは、本来の目的と各グループで立てた計画がうまく整合しているか、「目的の計画と整合性」を見ます。(2)の利用記録を取るときは、その期間中の記録はきちんと取れているか、「記録の精度」を見ます。他に、「分析の明確さ」、「議論への参加度」、「提案の内容の質」、「発表のわかりやすさ」というような評価の項目を作ります。

 

そして、それぞれがどういう状態になっていたら、どんな点を与えるかを決めます。例えば、(1)の「目的と計画の整合性」では、スマホの影響を明確にできる見通しがしっかり立っていれば 3、とりあえず利用状況がわかるだけの調査計画では 2、そもそもの計画がずさんだったら 1、と点をつける。このようにルーブリックを作っていくわけです。

 

このルーブリックができたら、この通りにやるように指導するのもいいのですが、具体的にどういうことができたらいいのか、ということを生徒と一緒に議論をしたりして、みんなで了解しあいながら内容を見直すと、さらにルーブリックの効果が上がります。最近は大学の、特に初年次教育などでこのルーブリックが非常によく使われています。自律的に学習させようと思ったときに、何をどうしたらいいかわからない人たちに、何を目指すかという基準を具体的に示してやるわけです。

 

こうしてできたルーブリックに従って採点したら、生徒A,B,Cがそれぞれこんな評価になったとします(右図)。これを合計すれば、C君が一番よいことになります。それはそれでよいのですが、これだけでは多面的な評価ではあっても、観点別評価ではありません。

 

では、これにどのように観点を持ち込むかと言うことですが、各項目に4つの観点を対応付けるのです。例えば「目標と計画の整合性」で言えば、「思考・判断」が重要ということで、これと対応する。「分析の明確さ」では、分析をしっかりやるためには知識もいるし、思考力も必要だから、ここは「知識・理解」と「思考・判断」の両方と対応します。「議論への参加」は「関心」の深さに関係ありますが、議論のスキルも必要だ。「提案の内容」は当然「知識」ですが、もしかしたら「思考」と関係するかもしれない。これは先生方の定義次第です。

 

ここに、先ほどの評価点を入れていきます。「分析の明確さ」のところは、「思考・判断・表現」と「知識・理解」の2つに分かれますが、この子は「分析の明確さ」の評価点が2なので、この「2」が両方に入るという仕組みです。「発表のわかりやすさ」のところも同様です。

 

そして、平均点をもとにプロファイル化すると、このような形になります。そうすると、この子は「思考・判断・表現」については頑張っているようだけど、「関心・意欲」がもう一つかな、ということが見えてくるわけですね。

 

こうした評価の機会を学期に何回か設けると、評価が次々に蓄積されていくわけですから、その生徒の1年間の学習のプロセスと結果が記録として数値化されて残っていきます。同時に、プロファイルとして観点別に見えてきます。単元ごとに比較することもできれば、1年間の総合的な評価をすることも一応できるようになります。

 

今までのペーパーテストは一定の割合を残しつつ、それ以外に何パーセントかはこのようなパフォーマンス評価をルーブリックを使って行う、ということを組み合わせることができるようにしておくと、これから指導要録に入ってきそうな観点別評価にも対応できるでしょう。それが達成テストの基礎レベルに、さらにひょっとしたら発展レベルにも繋がっていく、というような方向性を持っているのではないか、というのが今日のお話です。

 

これがどれくらい発展し、他の教科も大学入試も含めて変わっていき、それが高校の授業や子どもたちの学習姿勢をいい方向に変える、というところを今後20年くらいかけて見ていかなければならないと思っていますし、そうなればいいと思っています。

 

 

高校教科「情報」シンポジウム2014春in関西(2014年5月17日 大阪工業大学うめきたナレッジセンター)講演