report 情報処理学会第76回全国大会 イベント企画

パネルディスカッション「情報入試に期待するもの」


<司会>

 辰己 丈夫先生(早稲田大学情報研究所招聘研究員(※))

  ※実施時。現在は放送大学准教授

 

<パネリスト> 

 中山 泰一先生(電気通信大学大学院情報理工学研究科准教授)

 松永 賢次先生(専修大学ネットワーク情報学部教授)

 中西 渉先生(名古屋高等学校教諭(情報科主任))

 田中 健先生(愛知県立安城南高等学校 全日制教務部情報科主任(※))

  ※実施時。現在は愛知県立瀬戸北総合高等学校

 

辰己 丈夫先生
辰己 丈夫先生

情報入試 ~高校側の成すべきこととは

 

辰己先生:

本日は、「大学入試における『情報』入試のあり方と可能性」というセッションです。ディスカッションに入る前に、安城南高校の田中先生に「高校側が成すべきこと」というテーマで話をしていただきます。

 

田中 健先生(愛知県立安城南高等学校 全日制教務部情報科主任(※実施時)現在は愛知県立瀬戸北総合高等学校)
田中 健先生(愛知県立安城南高等学校 全日制教務部情報科主任(※実施時)現在は愛知県立瀬戸北総合高等学校)

田中先生:

私は10年ほど情報教育に関わってまいりました。今日の参加者は大学関係の方が多いですので、情報入試について高校ではこういうことになっていますよ、という内部事情をお話しします。

 

現状で情報入試が困難な理由を、便宜的に二つに分けてみました。高校生と間接的に関わる大学側という外的要因と、高校生を送り出す我々高校教員側の内的要因です。私がお話しするのは内的要因です。

 

情報入試をするために、高校側で必要と思われることが4点あります。(1)教科「情報」の校内での市民権獲得、(2)情報科教員の資質涵養と矜持、(3)他教科との連携・支援、(4)教材の充実、です。

 

まず、教科「情報」の市民権ですが、情報の教員は他教科に比べて圧倒的に数が少なく、声をあげてもなかなか校長や県教委まで届かないということがあります。私のように「情報入試をやるぞ!」という教員のいる高校があっても、特に公立高校の場合、異動があって新しい先生が着任すると、これまで積み上げてきたものがすべて壊れてしまう。人が根づかない、その人が作った文化が根づかない、情報で受験を考える教員は異端者扱いを受ける。この現状をどうにかしなければいけないと思っています。

 

二つ目が、情報教員の資質と矜持です。私は教科指導員として新しく着任された情報の先生を教える機会が多いのですが、情報の教員としてのビジョンのある先生が少ないことが哀しいところです。何を教えたいのかが明確でないためにOfficeソフトを使うだけの授業に終始してしまう。結果として教室はパソコン教室状態になってしまい、そのまま惰性的にパソコン教室のまま1年間の授業が終わってしまいます。

 

三つ目の他教科との連携・支援という点ですが、情報はどうも独立した教科としての立場が弱い。ほぼ唯一の受験機会であるといっても過言ではないセンター試験の「情報関係基礎」も、いわば数学の「亜種」扱いです。そうなると、情報の受験は数学のおこぼれにあずかるのみで、数学から見れば腰巾着のような存在です。連携どころか足手まといの存在になっていることに憂いを感じます。

 

最後に教材の問題。数学や英語などは受験に向けて定番の参考書や問題集が多々ありますが、情報にはそれがない。教科書も大学入試の過去問に触れるようなことはまず掲載されていない上、章末の練習問題すら整っていない。これでは生徒に情報で受験しようという意識も起こすことができません。

 

この4点の解決が、情報入試を進める上で、急務なのかなと思っています。

 

情報入試の可能性を探る

 

辰己先生:

これは大変だという感じがひしひしと伝わってきます。情報処理学会は、情報入試についてここ7、8年取り組んできています。随分長い道のりではかりましたが、やっとここまで来たか、という思いもあります。というのは、情報処理学会の中で、このような情報入試に関するセッションを組めて、百数十人の人に集まっていただけるというのは7、8年前には考えられませんでした。また今回、新しい学習指導要領になって、情報入試を行うかどうかということについて、多くの大学が実際に検討してくださっています。それが大学の先生方だけでなく、入試事務局の方も含まれていことを考えると、随分状況は変わってきました。もうちょっと頑張れば、夢の世界に入れる可能性もある。でも夢の世界というのは地獄の世界かもしれない(笑)。どういう情報入試を作るかによって、大きくひん曲がってしまうかもしれないわけです。そういった意味では、慎重になる必要がありますが、今日の講演者の方々の話を聞くにつけ、さらに一歩近づいてきたかなというのが、正直な感想です。

 

中山 泰一先生(電気通信大学大学院情報理工学研究科准教授)
中山 泰一先生(電気通信大学大学院情報理工学研究科准教授)

中山先生:

情報入試を個別の大学の一般入試で行うのは、なかなか大変だとは思いますが、「情報入試研究会の模試でいい成績を取ったら、AO入試で優遇しますよ」と言ってくださる大学は結構増えてきています。私の勤務する電気通信大学で「情報入試をやります!」と言えればよいのですが、国立大学では、ことは簡単にはいきません。今日の講演で専修大の松永先生が「情報入試をすることで、情報に突出して優秀な子を取ることができるのでないか」というお話をされましたが、そういうふうに情報の好きな高校生が見出せればうれしいなと思います。

 

松永 賢次先生(専修大学ネットワーク情報学部教授)
松永 賢次先生(専修大学ネットワーク情報学部教授)

松永先生:

今回の第2回情報模試で、団体受験で1000人の高校生の受験者が集まったことは、どれくらい潜在的な受験者が存在するのかを知る意味でよかったと思います。受験者が1万人になれば、周りの目も相当違ってくるのではないでしょうか。いきなり1万人は大変かもしれませんが、高校の先生方に協力していただいて、数千人のオーダーがコンスタントに出せれば、かなり市民権を得られるのでは、と思います。

 

中西 渉先生(名古屋高等学校教諭(情報科主任))
中西 渉先生(名古屋高等学校教諭(情報科主任))

中西先生:

先ほど情報の教員は各校1人いれば御の字という話がありました。家庭科とか芸術科とか、他の教科にもこういった状況はありますが、不満の声は出てこない。これは、家庭科や芸術科は歴史も長く、指導が確立しているからではないか。教科「情報」には、そういう確立された指導法がまだないのではないかということを感じました。

 

田中先生:

情報模試に関しては、本校でも70人程受験させました。結果は追ってお話ししますが、生徒の率直な感想は、8割が「やらされている」という感じでした。そういう意識を取っ払っていくことが必要ではないか、と思います。もう一つは、教科「情報」の授業を評価してくれる組織とか媒体が、なかなかないことです。情報教員の自己完結になってしまっている部分が大いにあるので、今後はそのあたりを解決していく方策を見出したいです。

 

達成度テストに情報処理学会はどうアプローチするか

 

辰己先生:

フロアの方に伺います。4人の講演者の発表を聞かれ、情報入試について意見がありましたら、ぜひ挙手をお願いします。

 

大学教員:

昨年来、センター試験の廃止も含めて、達成度テストが論議されていますが、達成度テストに対して情報入試研究会は、どのようにアプローチしていかれるのか、お聞きしたい。それに対して、高校の先生はどう思ってられるのか、合わせてお聞きできますか。

 

辰己先生:

達成度テストについて、情報入試研究会で議論していることをお答えします。これは新聞の記事ですが、見出しに「中教審:達成度テストの基礎レベル案 6教科、高1から」とあります。達成度テストは、基礎レベルと発展レベルがありまして、基礎レベルは初等教育に、発展レベルは高等教育に相当します。言い方を変えれば、高卒認定試験の看板を変えると基礎レベルに、大学センター試験の看板を変えると発展レベルになるのではないかということが見えてきました。

 

達成度テストの基礎レベルは、国語、数学、外国語(英語)、地理歴史、公民、理科の6教科からとなっています。この中に『情報』は入っていません。一方、発展レベルの方は、実は議論はまだ全然進んでいない。発展レベルについての文科省の論点をずっと見ていくと、情報に関してどうするのかということは、まったく書かれていないのです。

 

ここで注意していただきたいのは、達成度テストの実施方法についての記述です。受験方法は、Computer based Testingで実施することも考えていると出ています。これはどういうことかというと、達成度テストが実施された場合、50万人が受験するとして、iPadみたいなものを50万台配ってテストを受けるという可能性がある。たった1行の記述からでも、そういうことが読み取れるわけです。

 

また達成度テストの試験内容について、「数学・理科等、複数の教科の内容を融合した問題」という記述や、その下に「教科型の試験では評価できない能力を測る総合型」という記述があります。これなど、情報の科学でいうところの問題解決の内容とも読めます。「情報」が達成度テストに入るかどうかについて、発展レベルの方には一切書かれていませんが、達成度テストには、もしかしたら情報の能力を問うている部分があるのでないか、ということが、今の質問に対する僕なりの回答です。

 

中山先生:

私からは、この1、2年の動向をお伝えします。約1年前、センター試験の科目から、簿記会計と工業数理と情報関係基礎がなくなりそうだという話がありました。その時、情報処理学会の会長名で声明を出し、情報関係基礎を残してほしいという運動をしました。その結果、情報関係基礎は残りました。ちょうどそのタイミングで、情報入試研究会が発足したり、情報入試ワーキンググループができたりと、情報処理学会でいくつかアクションがあったこともよかったのではないかと思っています。

 

また、どうやら達成度テストの導入によってセンター試験がなくなる可能性が出てきました。しかも辰己先生がおっしゃったように、新たな達成度テストには情報が入っていない。その現状を、情報処理学会の理事会や会長は心配されています。達成度テストにおいても情報を入れるべきだと、会長名で声明を出そうという方向に進んでいるところです。

 

松永先生:

情報処理学会の動きは辰己先生、中山先生が詳しいので付け加えることはありませんが、個人的には達成度テストで情報が入っていればいいなと思っています。

 

中西先生:

達成度テストで数学・理科と融合した試験内容になった場合、情報はその中に入るのではないかということですが、高校現場での難しさがあると思います。数学や理科が、融合した試験内容を含むように動いてくれればありがたいですが、たぶん数学科の先生は現状から変わりたくないと思っている人たちでして(笑)。そうなると、情報の教員から埋めていかなければならないかな、と思います。

 

田中先生:

高校の進路指導の側面から話します。センター試験が廃止される平成29年度以降が、すごく不安です。情報関係基礎で受験するために頑張っている子たちに、今後どうやって目標を作っていけばいいのか。その点では、情報模試がもっと世間に知られるようになり、「情報模試で点をこれだけ取ったよ!」と誇れるような未来を期待しています。

 

辰己先生:

達成度テストに関しては、まだわからないことだらけで、何も決まっていないというのが現状です。たぶん国のほうでパブリックコメント(意見募集)を出すと思いますが、そうなった時に、情報処理学会なり個人が意見を言うのはいいことと思います。ただし、てんでバラバラに言うのでなく、大事なことは時期が熟したタイミングで出したい。そういう意味では、今日のようなディスカッションを含めてある程度議論し、この辺が我々の妥結点かな、というラインを出しておくことは必要と思います。

 

大学教員:

達成度テストで複数の教科の内容を融合した問題を作る場合、例えば「数学+情報」とか、「理科+情報」とか、「情報」という名前が入るだけで評価されるようになり、やはり情報は必要なんだという空気に変わってくれるのでないかという希望を持っていますが、高校の先生方から見て、どうお考えですか。

 

田中先生:

私はずっと情報入試が大事と言い続けているのですが、残念ながら情報で受験ができるよというものが生徒に伝わらない側面があります。ですから、今おっしゃったように「数学+情報」のように、数学の亜種ではなく、数学と同列にあるよとちゃんと明記していただけるとありがたい。それでかなり変わると思います。

 

中西先生:

例えば数学でコンピュータを使うのはもう普通のことということを思えば、情報教育は当たり前だというふうに学校の先生の考え方を変えていくきっかけにならないかと、期待しています。もちろん、生徒自身が「やっぱり情報をやらなければいけない」という意識を持ってくれれば、非常にありがたいですが。

 

情報入試 大学側の成すべきことは

 

辰己先生:

フロアにいらっしゃる大学の先生方にぜひ意見を伺いたいことがあります。自分の所属する大学で、情報入試ができていないところがほとんどだと思いますが、なぜでしょうか。

 

大学(システム情報科学部)教員:

私の大学のシステム情報科学部に情報入試がないのは絶対おかしいと学長も言い続けていますが、現状はAO入試だけ情報の科目を入れようという試験的な話がようやく出てきたというところです。情報入試ができない理由は、問題のバリエーションを維持することが難しいということがあります。先ほど高校の先生の講演にも出てきましたが、「高校で教えたこと以外は出題してはダメ」みたいなことが足かせになっています。ただ足かせになっている部分は、「情報」と言わなければOKで、「情報的思考」とか別の名前を勝手につけて出題すれば問題は少ないのではないかとか、いろいろな議論はしています。大学側も、情報入試を少しでもやれるところからやっていこうというスタンスになってきています。

 

かつて情報入試を実施した大学の教員:

2004年から情報入試を実施していましたが、結局撤退しました。情報入試が廃止された理由は、今もあったように、問題のバリエーションを作ることが苦しく、どうしても教科の枠から外れてしまうということでした。それで、総合問題という仮面をかぶせて、情報の問題を潜り込ませるというやり方を取りました。でも総合問題というのはたちが悪くて、何が出題されるかわからない。高校の先生からも「傾向が全然読めない」と文句を言われました。ですから、情報とは別の名前で出題するというのは、私は疑問です。問題のバリエーションが困難ということについても、振り返ってみれば、作問した先生の中には様々なバリエーションの情報の問題を考えだせる人は何人もいらっしゃいました。やはり大学側が、情報の問題を作っていこうという姿勢が大事ではないかと思います。

 

私立大学教員:

私の大学の理工学部のある情報テクノロジー学科では、数学、物理、化学の先生が入試問題を作成し、情報の先生は関与しません。どうして情報の問題を作らないかというと、情報の教員の仕事が増えるから(笑)。あまり公にしたくないですが、そういう事情があります。逆に情報の先生側から「情報の問題を出しましょう」と提案したとしても、物理でなく情報で受験した学生が合格した場合、物理の先生から「大学1年の物理の授業は大丈夫ですか」と責められる可能性があります。

 

私立大学教員:

全国の大学には、学生募集しても定員ギリギリか、定員割れしているところもあります。そういう大学で情報入試をしても学生は集まるのか、という大きな問題があります。私は、その問題をあるところで指摘したことがありますが、「センター試験でも情報関係基礎で受験する高校生は毎年全国で600人くらいでしょ」と一蹴されてしまいました。大学側から言っても、まだ市民権がないから情報入試を設けられないという事情があります。

 

中山先生:

ちょっと過激なことを言っちゃいます。数学や物理、化学の先生はどこの大学にも潤沢にいますが、大学名や学部・学科に「情報」の名のつかないところには、情報の教員はほとんどいません。情報入試をすることは、もしかしたらこれだけ仕事があるんだから、もっと情報の教員を増やそうという方向に進むんじゃないか、と。それから、情報入試の今後のために頑張ってみようかという大学は増えてきています。先ほど松永先生がおっしゃったように、情報入試の第2世代とそれ以降のグループも頑張っている。現状は情報入試が困難な大学にも、情報入試の問題を作る能力のある先生はたくさんおられます。たぶん、やる気があればどこの大学でもできる。最初にどこかが取り組んでみるということが、重要だと思います。もちろんそのためには、情報入試の需要がもっと高まらないとダメなのですが。

 

再び高校現場から、情報入試を考える

 

中西先生:

先ほど講演で、「教科書の範囲を逸脱しないで」という高校現場の声を無視してください、と言いました。あれは自分でも無茶なことを言っていると思っています。そんなことをすれば受験生が来なくなる恐れがあるわけですからね。でも私立の有名大学、例えば早稲田、慶応大学などであれば、そういう無茶をしても受験生は集まるかもしれない。少々の無茶は許されるのかなという大学が突破口になり、情報入試が広がってくれたらなという期待は正直あります。

 

田中先生:

教科書の範囲を逸脱しないで、ということに関して、私はむしろ、ぜひ逸脱してくださいと言いたいですね。逸脱するなと文句を言うのは、生徒にこの問題を教えて欲しいと質問を受けても、答える気がないか、答える能力のない教員だと思いますから。逆にやる気のある教員であったら、逸脱した問題でも生徒と一緒に考えるはずです。ですから、逸脱していようと、受験生にこのレベルに達して欲しいという問題をぜひ作ってください。問題の水準を一定、高品質に保つことが、情報の未来につながると思います。

 

辰己先生:

ありがとうございます。非常に心強い発言と思います。が、それで終わらないところが現実の厳しいところである(笑)。

 

大学教員:

今の逸脱の話は、高校の先生でなく文科省の人が、もっと執拗に責めてくるでしょう。そういう意味では、もう少し問題は大きいと思う。

 

辰己先生:

私は数学出身なのでよくわかりますが、数学だったら教科書からの逸脱に関して、ものすごくうるさく言われます。情報はまだボリュームが小さいから、多少逸脱しても誰も話題にすらしてくれない(笑)。

 

中山先生:

教科書を見比べてみるとわかりますが、例えば数学はどの教科書を見ても、だいたい書かれている内容は同じです。ところが情報は、教科書ごとに全然内容が違っていて、ある教科書に書いてある内容は、書いていない教科書から見れば逸脱になっちゃう(笑)。情報という教科ほど、教科書に統一性のない科目はないのではないか。その意味で行くと、いくつかの情報の教科書の和集合をとって、その範囲で出せる問題であれば、怒られないだろうなという気がします。情報入試がもっと広がれば、統一されたものが出てくると思います。

 

逸脱に関してもう一つ言わせていただくと、河合塾の「キミのミライ発見」サイトで、情報模試のそれぞれの問題が学習指導要領のどこに対応しているか、ちゃんと示してくれています。逆にいうと、どこが逸脱しているかも示せるということですね。将来的には高校の先生が使いやすいような情報入試の「赤本(過去問題集)」を作る必要があるのかなと思ます。

 

大学教員:

パネリストの中西先生、田中先生のような熱心な高校の先生がもっと増えれば、情報入試は変わると思いますか。

 

中西先生:

転勤のない私立高校の場合、その学校の情報の先生次第という面があります。私の高校の情報は正直、私がワンマンでやっているところがあるので、情報入試になっても対応できます。対応できると答える高校は、その先生がやめて次の先生が引き継いでも継承できると思います。逆に、officeばかりやっている学校は、次に引き継ぐ先生がよほど意識を変えて取り組んでいかないと、変わらないと思います。

 

田中先生:

公立高校では先生が変わればやり方は変わります。そこが公立高校のいいところでもあり悪いところでもあります。その学校にやる気のある先生が配属されたかどうか。それが生徒のニーズに合致したかどうかです。私はどの学校に異動しても、情報入試をやれやれと言っていきますし、そういう同志を増やしたいですね。

 

公立高校校長:

高校の情報の先生の多くが、情報の入試問題を解いたことがありません。自分自身がそういう入試を学生時代に受けておらず、経験のない方が指導をしているのです。神奈川県の情報部会で、情報の導入テストを毎年作っていますが、かなり問題があって、私が添削し直すというような状態です。今後は、自分たちで問題を作り、自ら解くような力をつけるようにさせていきたいと考えています。

 

都内附属高校教員:

私の立場は、情報入試を子どもたちに積極的に受けさせていきたいと考えています。でも、地方の私立高校というのは、公立高校の受け皿的な位置づけの学校が多いんですね。また卒業後、大学でなく就職するという生徒が多いため、情報の授業でofficeソフトを使って検定対策を行い、検定を取ることによって子どもたちに達成感を与えて、就職につなげるという話をよく聞くんです。情報入試が広がると、そのあたりの高校の立場も変わってくるかもしれないと思います。一方、都内の私立高校は進学意識が高いので、情報入試が広がることで、情報科の教える内容もかなり変わってくるのでないかと、淡い期待をもっております。

 

まとめ~情報入試に期待するもの

 

辰己先生:

議論はまだ出尽くしていないと思いますが、それでもいろいろな意見が出ました。私自身はこのパネル討論で、情報入試が現実にそこまでやってきているということを、ひしひしと感じてもらえたらうれしいと思います。それが今日一番狙っていたことでもあります。このあと、パネリストの先生に一言ずつ、まとめのご意見をお願いします。

 

田中先生:

さきほど追々お話しすると申し上げた本校での、センター試験での情報関係基礎と、情報模試の受験結果についてです。情報関係基礎は6名が、情報模試は72名が受験しました。このうち、双方受験した生徒の結果を散布図に表してみましたので、ご覧ください。相関関係は高そうです。あまりにサンプル数が少ないために統計にはならない、統計学を知らないのかとお叱りを受けるかもしれませんが、こういった受験機会や結果の分析を今後も続けていきたいと考えております。

 

中西先生:

入試問題の難問というのはよく批判されますけど、実は難問というのはその教科が積み上げてきた一種の文化のような側面があると思います。情報入試も、これからどんどん積み上げていかなければと思っています。

 

松永先生:

高校の先生方と親しくなり、推薦入試やAO入試でいい生徒を送っていただけるようになったのがこの1、2年の成果と思います。情報の一般入試は、今のところ、なかなか難しい面がありますが、こういった情報入試のための地道な活動を水面下で続けていけば、ある時バッと花開くのではという印象を持っております。

 

中山先生:

ある高校の先生から「情報模試の団体受験は残念ながら無理でしたが、一般受験で教え子を1人受験させました」というメールを個人的にいただいたのがうれしかったです。今日ここに来てくださった中西先生や田中先生のように、団体受験をしてくださった高校の先生には本当に頭が下がります。僕を含め、学生時代、情報という教科はなかったわけですから、どうやって情報を教えていけばいいのだろうと、悩んでおられる高校の先生方は多いことでしょう。でも、ああ、こうやって情報入試の問題って作られていくんだと興味を持っていただけるのなら、ぜひこの活動を続けていきたいと思っています。

 

辰己先生:

情報入試研究会からは、今後もいろいろ情報発信していきたいと思います。皆様には、継続的にご支援をいただきたいと思います。ありがとうございました。