本当に「情報に向いた学生」を採るための新たな入試を目指す試み
~京都産業大学情報理工学部情報科目試験型入試
京都産業大学情報理工学部 安田豊先生
2019年6月に出された、内閣府の「AI戦略2019~人・産業・地域・政府すべてにAI」(内閣府・統合イノベーション戦略推進会議)で、教育改革の取り組みとして、「大学入学共通テスト『情報Ⅰ』を 2024 年度より出題することについてCBT活用を含めた検討」と「文系・理系等の学部分野等を問わず、『情報Ⅰ』を入試に採用する大学の抜本的拡大と、そのための私学助成金等の重点化を通じた環境整備」が示されました。昨年6月に、内閣府の未来投資会議の「未来投資戦略2018」で大学入学共通テストに必履修科目「情報I」の導入が提示されていましたが、ここへ来て新学習指導要領の施行に合わせて情報入試の実施が現実味を帯びてきました。
現在、一般入試で教科「情報(社会と情報・情報の科学・情報関係基礎)」を課す大学は全国で13大学のみで、その全てが数学や理科、国語などの科目群からの選択科目の一つという扱いです。共通テストで「情報I」がどのような形で実施されるのか、各大学の個別試験はどうなるのか、現段階では未知数です。
大学が情報入試を導入するためには、それによってどのような学生を入学させるのかという、アドミッションポリシーに基づいていることが必要です。今回は、2016年からAO入試に「情報科目試験型」という形で情報入試を行ってきた京都産業大学情報理工学部に、情報科目試験型入試の目的とその成果、今後への課題についてお聞きしました。お話は、情報理工学部の安田豊先生にうかがいました。
(2019年7月4日取材)
■情報科目試験型入試の構成を教えてください。
一次試験として60分のペーパーテストを行い、その後受験生1人に対して情報理工学部の教員3~4人で30分の面接を行っています。面接では、問題をどのように解いたのか、この解答にはどのような意図があるかなどを聞いて、部分点を与えたところがきちんと理解できているかを確認します。
情報科目試験型入試のポイントはこの面接です。点数で画一的に合否を決めるのでなく、問題分野に対する理解に基づいて、情報分野に重要な論理的な思考がしっかり積み上げられていることを測ったうえで判定するという方針です。試験の解答だけではわからなかった穴を埋めて、総合的に合否を決めています。
この面接でもう一つ確認するのは、情報分野の専門的な領域について、今までどの程度踏み込んで来たかということです。つまり、先ほど述べたような、いわば潜在的な資質を推測するとともに、既に試されて明らかになっている資質を聞き出すことも大きいのです。これは、志望理由書に受験生自身が十分に書いてくれればよいのですが、当然のことながら受験生には何が重要なのかわかりません。極端な例を挙げれば、情報系の資格をたくさん取っている人が、単なる資格マニアなのか、それとも情報に興味があってきちんと勉強してきたかを、話の中で確認するといったことを行います。
■この「情報科目試験型入試」では、どのような特徴を持った学生を採りたいとお考えでしょうか。
個人的な意見ですが、一般的な受験勉強は、背景や仕組みを考えることを避け、短絡的にコスパのよい答えの出し方を訓練することに力を入れているような気がします。背景や仕組みを知って、正しい視点で答えを推して出すとか、よくよく考えれば何が起きているのかわかるはずだという問いや解法を避けているのでないかと。結果的に、「なぜそれがよいか(それではいけないか)」を考えず、「これをやっておけばよい」ということにばかり、長けてしまうことになります。私たちは、情報に向く資質は、そういう短絡的なものではないと考えています。
AO入試では、そういった短絡的な成績の良さとは異なる「ふるい」で選抜したいと考えています。一般入試では成績下位になってしまうけれど、実際のところは情報系に関する資質を備えている、いい意味で「変わった子」を採りたいと思います。
■具体的にどのような問題を出していますか。
作問で心がけているのは、類型的でない問題であることです。安直な対策ができない、思考力を問うための試験ですから、わかっていなくても答えが出せるような問題は出題しないことにしています。
前半には比較的簡単な計算問題も出題しています。これは、先ほどもお話ししたように、教科書に載っている内容はきちんと理解できていることを確認するためのものです。対して、後半では短絡的には解けないように作った問題を出します。見たことのないクイズを頑張って解くようなもので、内容はコンピュータサイエンスに根差していて、解いていく過程が見える作題をして、思考過程によって部分点をつけ、面接で確認するようにしています。
我々は、情報系学部に向いている学生が欲しくて、そのための問題を作っています。たまたま情報教育が流行っているので、情報で問えることを問うてみようかというのでなく、あくまで専門の資質を測るための問題を作って出題するというのが、ゆるがない方針です。
■同じAO入試で、「作品提出型」で入学する学生とは何か違いはあるでしょうか。
作品提出型のAO入試は、受験生が自分で作ったプログラムや電子工作、その他何かコンピュータを応用した作品とその説明書で審査するものです。一次選考は作品審査、二次選考は科目試験型と同様に30分の面接を行います。作品提出型は、科目試験型より前から行っている試験形式で、入学者は毎年数名ですが、その半分くらいは、いい意味で非常に目立つ学生になる傾向が強いです。科目試験型の方は、作品提出型ほど指向性は強くありませんが、高校時代から勉強して入って来るので、早くから目立つ学生が出てきます。
■AO入試で入学した学生に対して、初年次のカリキュラムで一般入試の学生とは別プログラム等を準備されていますか。
カリキュラム上では、特別なプログラムは用意していません。入学当初の学部教育は、入学したもののついて来られない学生を作らないことが重視されるため、伸びるのが早い人やAO入学生のように最初から助走が付いていた人には、特に初めは退屈であることは否めません。しかし、本来学部教育は専門性を高めるのが目的ですから、そこでスローダウンされてしまうのも困ります。
そういった学生のために、情報理工学部には「インターン」という仕組みがあって、ゼミ配属とは関係なく希望する学生を受け入れています。担当の教員がOKすれば、動きのいい1、2回生はできるだけ研究室に入れて、設備を使わせたり、何らかのプロジェクトを一緒にしたりすることも可能です。そういった機会を通して、教員や上級生のやっていることを見て学んだり、自分たちのやりたいことを見つけて発展させたりすることができます。情報入試を実施して、受け入れる大学側も、力のある学生を入れたら、彼らに対するフォローの体制が必要だと思っています。
■今後共通テストに情報科が入ってきても、この形のAO入試は続けられますか。
入試は大学全体の経営方針の一つなので、私一人で決められるものではなく、また簡単にやるとかやめるとかいうものではありません。ただ、今現在はやめるという話は出ておらず、我々としても継続するつもりでいます。
我々の情報科目試験型入試は、現在共通テストなどで検討されている全学部・学科を対象とした入試ではなく、典型的な情報系学部向けの入試問題です。そこで問おうとしているのは、ストレートに我々情報理工学部のためのものなので、その意味では共通テストが目指すものとあまり重ならないと思います。ですから、我々の問題が共通テストの代用になるとも、逆に共通テストのスコアを代用できるともあまり思えませんし、面接にうまく使えるとも考えられません。今後も作問はあくまで面接を前提にするという方向で続けていこうと思っています。
我々の学科の一般入試に情報Iを入れて、面接を行わずに試験だけで合否を決めるためには、受験生と我々の間で、もう少しどのくらいの難度の問題を出したらどの程度できるかという、お互いの見極めが必要でしょう。現段階ではまだそこまでの蓄積はないと思います。
■情報科目試験型入学の学生に聞きました
実際に情報科目試験型入試で入学した学生の皆さんに、高校時代どのような勉強をしたのか、今後どのような進路を目指すのか、お話を聞きました。
◆情報科目試験型のAO入試を受験したのは、高校が資格取得に熱心な学校で、高校時代資格試験の勉強をずっとしていたので、その流れです。僕たちは科目試験型入試の初年度で、ホームページに載っていたサンプル問題をやってみたらこれならできそうだと思ったので、受験したら合格しました。
高校時代は、高1でITパスポート試験、高2で基本情報技術者試験と応用情報技術者試験、高3で情報セキュリティスペシャリストを取りました。
もともと興味があったのはセキュリティです。大学に入ってからは、1年生の頃から研究室に参加させてもらって、セキュリティ以外を一通り勉強してみましたが、やはりセキュリティが一番おもしろかったので、セキュリティを専攻することにして今勉強しています。
(4回生・2016年(情報科目試験型AO初年度)入学)
◆もともと情報には興味がありましたが、僕の高校では情報の授業はあまりきちんと教えてもらえなかったので、独学でITパスポート試験、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験を勉強して合格しました。プログラミングもやってみましたが、独学ではやはり難しかったです。でも、アルゴリズムは自分で勉強したので、AO入試で出てきたプログラミングの問題も、アルゴリズムの考え方で補完できたと思います。
情報科目試験型AO入試を受けたのは、ホームページに載っていた過去問が意外に簡単だったからです。もともと受験勉強はあまり好きではなかったけれど、これだったらいけるかなと思って受けてみたら、合格しました。面接では、30分先生と目一杯テクニカルディスカッションでしたが、ちゃんと考えて解いたのか、どんな手順でこの答えになったのかを問われている気がして、特にたいへんとは思いませんでした。将来はセキュリティやハッキング対策の仕事に就きたいと思います。社会を陰で支えるということに魅力を感じています。
(3回生・2017年入学・普通科高校出身)
■取材を終えて
要領よく試験で得点を取れるかどうかではなく、あくまで情報学という専門の資質を見極めて採るためという、目標が非常に明確な入試であることを強く感じました。試験問題を解かせるだけでなく、面接でテクニカルディスカッションをすることで、情報分野を学ぶために必要な考え方・意見の組み立て方について教員自身が確認するのは、AO入試、さらにアドミッションポリシーの真髄であると思います。
共通テストに情報が入って来た時、さらに小学校からプログラミングを経験した学生が入学してきた時、真価を問われるのは情報系の学部・学科教育であると思います。プログラミングの経験値や能力をどのように評価するのか、情報分野に向いているかどうかをどうやって判断するのか、これまで導入教育で行って来た内容やレベルをどのように組み替えていくのか。「AI戦略2019」には、「文理を問わず、全ての大学・高専生(約 50 万人卒/年)が、課程にて初級レベルの数理・デー タサイエンス・AIを習得」することが、具体目標として掲げられています。初中等教育における情報教育の動きを見据えながら、大学教育も大きな転換を図ることが必要になるでしょう。
共通テストの全容が見えてきた時、高校は、大学は何をすべきか。これまでの授業以外に受験対策が必要になるのか。これからも注意深く見守っていきたいと思います。