文系の高校2年生が慶應SFC情報入試に挑戦

神奈川県立柏陽高等学校 情報科教諭 間辺広樹先生

柏陽高校では、2016年に実施された慶応義塾大学SFCの環境情報学部の入試問題を、2年生32名に解いてもらいました。その結果から今後の入試対策を考察します。

 

柏陽高校の教科「情報」に関するカリキュラムは、「情報の科学」が全員必修であり、かつ、1年時と2年時に各1単位ずつ履修する分割履修と、かなり変則的です。これまでに情報モラル、情報のディジタル化、ネットワーク、プログラミングなどの各分野を学習してきた経験はありますが、授業時間数が少ないことから、どの分野も十分な学習ができているとは言えない状況でした。また、問題を解答した32名は、一般に言う“文系”で、情報にあまり興味を持っていなかったり、数学的な問題を得意としない生徒も少なからずいました。従って、今回の調査結果にはかなり偏りがあるのですが、情報が得意でない生徒たちでもこの程度の正答率があった(すなわち、特別な勉強をしなくてもこの程度の正答が得られる)という観点で見ていただければと思います。

 

環境情報学部の入試問題 大問1

 

まず、大問1の「情報モラル/情報セキュリティ」の問題については、図1のような正答率がありました。例えば、「誹謗中傷情報」に関しての正誤を解答させる(6)は90%以上の高い正答率があり、常識的な判断をすれば、解答できる問題であることがわかります。

 

一方、「パスワードリスト攻撃」や「ゼロディ攻撃」など最近になって使われるようになった用語を解答させる(1)(2)や「著作物の定義」の正誤を解答させる(7)は、50%以下であり、知識の有無が正答の可否に影響することがわかります。従って、問題の出典元であるIPA『情報セキュリティ白書』や総務省『情報通信白書』など事前によく目を通して、新しい情報技術やセキュリティ上の脅威の特徴などを理解しておくことが重要と言えるでしょう。

 

図 1 大問1(情報モラル/情報セキュリティ)の正答率
図 1 大問1(情報モラル/情報セキュリティ)の正答率

環境情報学部の入試問題 大問2

 

大問2は情報量、アルゴリズム、論理演算、符号化など情報科学に関する基本的な知識や考え方を問う基本的な問題です。合格を目指すためには落としてはいけない問題と言えるでしょう。柏陽高校では、図2のような正答率でした。全体的に正答率が低く、1人も正答しなかった問題が3問もありました。

 

実は柏陽高校の授業の中では、2進表現の原理については学習済みですが、「2の補数」や「符号化」などを学習する時間を確保できなかったため、これらの結果は当然と言えるかも知れません。特に、2の補数に関する16-18と19-21が正答率0%でした。コンピュータはどのように負の数を扱うか、という知識がなければ解くことができませんから、しっかりと事前に身に付けておく必要があるでしょう。

 

一方、符号化に関する38-39や40-42も極端に正答率が低くなっていますが、こちらは知識というよりも、問題文を読んで意味を理解し、適切に計算すれば解ける問題です。このような問題に正解するかどうかが得点の差を生むと思われます。ITパスポート試験や基本情報技術者試験の午前問題などにも同種の問題がたくさんありますから、これらをじっくりと考えて、正しい答えに辿り着けるよう、学習することが必要と言えるでしょう。

 

図 2 情報科学・基礎問題の正答率
図 2 情報科学・基礎問題の正答率

環境情報学部の入試問題 大問3

 

大問3は情報科学に関する応用的な問題で、環境情報学部ではネットワーク分野が出題されました。データベース分野が出題された総合政策学部と比べると、比較的平易な問題が多かっため、しっかりと得点することが必要な問題と思われます。柏陽高校では、図3のような正答率でした。前半の用語を問う問題は正答率が高く、IPアドレス等に関連した数値を求める問題では正答率が低いという結果になりました。

 

前半の解答であるウェブページ、URL、ドメイン名などは授業で扱ってきた内容であり、生徒自身が日常的にも使う言葉でもあるため、それが高い正答率に繋がったと思われます。一方、IPv4アドレスのビット数を元にして、サブネットマスクによって分けた場合のホスト数などが情報処理技術者試験でもよく出題されています。今回の問題ができたからといって安心するのではなく、これらの問題を解けるようにしておくことも必要でしょう。

 

図 3 情報科学(応用)・ネットワーク分野の正答率
図 3 情報科学(応用)・ネットワーク分野の正答率

環境情報学部の入試問題 大問4

 

大問4は、プログラミングの問題です。おそらくは最も得点差が生じるため、合否を左右する問題と思われます。柏陽高校では、図4のような正答率でした。生徒はプログラミングの学習経験があるのですが、一部の問題を除いて正答率が低く、改めてプログラミングの難しさが示されたと言えそうです。

 

この問題では(ア)を正しく解答できれば、(イ)の解答が見えてきます。その意味で、(ア)の正答率が12.5%というのは、多くの生徒にとって(イ)の解答をも困難にしたと考えられます。(ア)は、f(1)、f(2)、f(3)、…と順次求めていことでその規則性から答えがわかるのですが、おそらくは多くの生徒がそういった発想ができなかったか、その規則性から正答である「2進数で表した時の1の個数」と見抜けなかったと言えます。つまり、本題であるプログラミングを考える以前に、2進表現の理解の不十分さが“解けない問題”にしてしまいました。やはり、2進表現の理解は最重要課題であり、大問2、大問3、大問4のすべてで鍵となっていると言えるでしょう。

 

その上で、プログラムを読み解くことができるかどうかが大切です。これは一長一短で得られる能力ではありません。自分でプログラムを組んだり、同種の問題を解いていくことが必要でしょう。問題を解くに際しては、[1.全体の流れ]を掴み、[2. 変数]の役割を知り、プログラム内の[3. ブロック単位の処理]を整理するという流れで解いていくとわかりやすいです。また、問題文に説明のない変数が1つあり、それがプログラムの実行結果を格納・表示するために使われています。そういったことを理解できるようになると、今回この問題を解けなかった生徒も短時間に解けるようになると考えます。

 

図 4 情報科学応用・プログラミングの正答率
図 4 情報科学応用・プログラミングの正答率

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