神奈川県情報部会

令和5年度情報科導入テスト結果報告

神奈川県立湘南高校 林健児先生

ご本人提供
ご本人提供

本日は神奈川県情報部会が2005年から行っている情報科導入テストの概要、活用事例、集計結果と問題分析、そして皆様からいただいたご意見とまとめについてお話しします。

 

 

情報科導入テストとは

 

情報科導入テストの目的は、高等学校で「情報」を学習するにあたり、情報に関する知識がどの程度あるかを測定し、その結果を授業の改善に活用することにあります。

 

問題の内容は中学校技術科での履修事項を中心とするもので、試験時間は40分間。マークシート式の4択問題50問(各2点)で、共通教科「情報」を初めて履修する学年の最初に実施します。

 

 

導入テストの活用事例紹介

 

本校での導入テストの活用事例についてご紹介します。本校は全日制普通科で、1学年9クラス。国公立大を目指す生徒が多いです。私は数学科の教員で、情報科を兼任して1年生の「情報1」を9クラスと、2年生の数学B・Cを1クラス担当しています。

 

本校では、導入テストを教科「情報」に対する意識を変えるという目的で活用しています。

 

本校は、国立大学を受験する生徒が多いので、導入テストは、まず「『情報』は受験科目だよ」というメッセージを込めて行っています。また、生徒によっては中学校で「情報」の分野をきちんと学んでいない場合があるので、入学前に中学校の範囲を復習してもらうきっかけにしています。

 

 

本校での導入テストの具体的な実施方法をご説明します。

 

まず、合格発表時に配布する入学前課題で予告して、中学校範囲の復習を促しておきます。

 

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導入テスト用にGoogleフォームで問題を作成し、解答を入力する形としました。

 

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このURLをコピーして、Windowsショートカットを作成しています。

 

神奈川県立高校は、CAI教室のコンピュータに「e黒板アシスタント」というソフトがインストールされています。これを使用してURLを表示しない形で問題を配布しました。

 

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テストの細かい設定はこちらのスライドのようにしました。

 

 

導入テスト 今年度の結果集計

 

ここからは、今回の導入テストの集計結果についてご説明します。

 

まず、今年度は神奈川県内21校、東京都内8校の合計29校で、受験者数が8094名でした。ご協力いただいた先生方、ありがとうございました。

 

 

ここからは集計にご協力いただいた22校、4462人の生徒のデータについて分析結果をご紹介します。

 

度数分布と平均点はスライドのとおりです。

 

全体の平均点は約61点ですが、学校ごとの平均点は、40.5点から78.1点と、かなりばらつきがありました。

 

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次に、問題ごとの分析です。設問別正解率はスライドのとおりです。この中から、特徴的なものをいくつかご紹介します。

 

※以下、問題と選択肢・解答が掲載されているスライドは掲載いたしません。全てのスライドはこちらからダウンロードしてご覧ください。 

■23joho donyu test.pdf
PDFファイル 2.3 MB

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まず、生徒の苦手な問題です。「情報」の知識を問う問題は苦手、という傾向がありました。

 

例えば、(4)ソフトウエアとハードウエアの役割に関する知識を問う問題は、正答率が21%と、ワースト3位でした。

 

ワースト2位が(40)メール送信の「TO」「CC」「BCC」の意味を問う問題で、正答率は15%。この問題は、単純な知識に加えて、問題文を読んで考える力が必要となるものでした。

 

そして、正答率が最も低かったのが、(42)音声・静止画・動画の拡張子の知識を問う問題で、正答率15%です。今どきの生徒は、普段から拡張子というものに接する機会がないことが伺われます。

 

一方、正答率の高かった問題もあります。

 

全体に、情報モラルに関する問題や、問題文を読めば正解が得られる問題を得意とする生徒が多い、という結果になりました。

 

(22)IDやパスワードの設定でセキュリティを高める方法を選ぶ問題、(20)個人情報の扱いについて適切なものを選ぶ問題がそれぞれ正答率90%、(28)インターネットを適切に利用する視点として、最も正しい行為を選ぶ問題が、全問中最も正答率が高く、94%でした。

 

 

先生方からの評価が高かった問題

 

次に、先生方が「良い」と評価した問題です。一番票が入ったのが(32)の、文章を読んで著作権法に違反する行為・違反しない行為を選ぶという問題でした。その他、

 

(40)メール送信の際のTO/CC/BCCの使い分け

(15)データの分析(グラフの読み取り

(45)(46)アルゴリズムの問題 

(31)著作権の発生のタイミングを問う問題

(42)拡張子を問う問題(→「良くない」という評価も)

などが「良い」という評価を得ました。

 

逆に、「良くない」と評価された問題が(9)(10)のローマ字入力のタイピングの問題です。テストをCBTで行った先生からは「入力を試してみることができてしまう」というご意見をいただきました。

 

また(47)アクチュエータの役割を問う問題は、高校ではアクチュエータの扱いがほぼないので、この問題が必要かどうか、というご意見もいただきました。

 

 

全体の難易度、テスト時間については、こちらに挙げたようなご意見をいただきました。

 

 

問題分析から見えてきたことをまとめたのがこちらです。

 

生徒にとって、情報モラルに関する問題や、文章を読んで正解を導く問題は苦手ではないということがわかりました。また、機種に依存する知識を問う問題は出題しにくいことも明らかになりました。この2点は、大学入学共通テストに向けてどのような授業を展開すればよいのか、というヒントになりそうです。

 

 

先生方からのご意見と今後の改善に向けて

 

先生方からいただいたご意見をご紹介します。

 

「導入テストは広範囲を一気に復習できて、なおかつ一定量は前年と同じ問題になっているので非常にありがたい。今後もぜひ継続していっていただきたい」というご好評をいただきました。

 

 

他にも様々なご指摘がありました。時間が限られているので、ここでは詳細なご説明はいたしませんが、次年度以降の作問の参考とさせていただきます。

 

 

また、「Googleフォーム形式で配布してもらえるとありがたい」というご意見をいただきました。

 

これは、技術的には可能と思われますが、制度的にはどの程度活用できるかが未知数です。また、神奈川県立の学校では、クラウド上に生徒の成績の材料となるものを置くことはできないことになっています。

 

今後、どのような条件が整えばGoogleフォームで提供できるか、検討していくことが必要になります。一緒に問題を作ったり、テストの運営をしてくださる先生を募集しています。教科「情報」が好き、問題を作ってみたい、他の学校の先生方と交流してみたい、という先生方をお待ちしております。

 

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生徒の反応と今後の指導に向けて、本校の事例をご紹介します。

 

まず、生徒はテストに敏感で、「情報」が大学入学共通テストで出題されることを意識付けられたことがわかりました。

 

 

共通テストに向けての授業としては、授業における座学と実習のバランスを考えること。知識の理解も大事ですが、思考力・判断力・表現力に加えて、学習の過程を踏まえた問題が出題されることが予想されるので、生徒には「一番の共通テスト対策は、普段の授業を大切にすることだよ」と伝えています。また、自分自身それに応えられる授業を考えることが必要であると思っています。

 

 

今回参加された先生から、「定期試験について、授業づくりについて、他の先生との交流についてご興味がある」という声をいただきました。情報科は、各学校先生がおひとりということが多いので、ふだんから気軽に相談できる場があったら、と思っておられる先生方がいらっしゃることがわかりました。今日は、この後座談会もありますので、ぜひ引き続きご覧いただければと思います。

 

また、この導入テストの作成を通じて、普段の授業や評価、定期試験、いろいろ気軽に相談できる取り組みにしていけたらと思っています。現職教員以外の方でもけっこうです。よろしくお願いいたします。

 

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[質疑応答]

Q1-1.導入テストは、「情報I」が行われる学年でテストをしているという理解でよいのでしょうか。

 

A1-1.林先生

はい。初めて「情報」を学ぶ学年が対象となっています。

 

 

Q1-2.ということは、例えば高3生が受験する、ということもあるということですか。

 

A1-2.林先生

はい。高3生ということもあり得ます。今回は実際にはありませんでしたが。

 

 

Q2-1.知識を問う問題は苦手ということでしたが、誤答に偏りがあったり、目立ったりした問題はありましたか。

 

A2-1.林先生

今すぐにはお見せできないですが、確かに問題によっては、ある選択肢に誤答が集中したものもありました。

 

 

Q2-2.そういった分野を、「情報1」で改めて丁寧に扱っていく、ということもありますよね。導入テストと「情報1」の内容は大きく絡んでいると思いますので、ぜひ詳細な分析結果も見てみると面白いかなと感じました。

 

A2-2.林先生

そうですね。各校の結果を見ていただいて、「この分野が弱いから、ここは手厚く説明しよう」とか、「ここはよく理解できているから、そんなに時間をかけなくてもよいかな」ということで使っていただける構成になっています。

 

令和5年度神奈川県情報部会研究大会より