New Education Expo 2023

パネルディスカッション「教科『情報』の大学入試、どう変わる、どう備える」

京都精華大学 メディア表現学部 教授 鹿野 利春先生

工学院大学附属中学校・高等学校 校長 中野 由章先生

河合塾 教育研究開発本部 本部長 富沢 弘和氏

【コーディネータ】

日経BP 日経BOOKSユニット長補佐 中野 淳氏

 

情報入試の課題を高校はいかに乗り越えるべきか

中野氏 

今日のパネルディスカッションは、教科「情報」の大学入試をテーマに議論を深めていきたいと思います。情報入試はいきなりスタートしたと感じている教員が多いようですが、実際はそういうことはありません。今までの教科「情報」の取り組みや社会の変化を踏まえて、スタートしたわけです。

 

こちらは私が24年前に「日経パソコン」に書いた記事です。2003年度から高等学校で新教科「情報」が加わることを紹介しました。

 

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こちらは全国で「情報」の授業がスタートする直前の2002年の記事です。

 

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実はこのとき、当時のセンター試験で「情報」を扱うのか、という問題を取材して記事にしています。

当時も情報入試の導入が検討されていました。このときは、国立大学協会から「慎重に検討していただきたい」といったコメントが出ました。要は、導入に反対だということですね。それから二十数年経って、まさにその国立大学協会が、「国立大学を受験するのであれば、『情報』は必須である」というコメントを出しているのですから、隔世の感があります。この後も様々な経緯を経て、今回の共通テストへの導入につながっています。

 

ここからは、会場の皆さんとも一緒に議論を進めていきたいと思います。

最初に、私からパネリストの皆さんにお聞きします。

 

いよいよ情報入試が始まろうとしています。こうした中で、様々な課題が出てきています。それぞれのお立場から、どの辺りの課題が大きいのか、またそれをどのように乗り越えていけばよいのか、ご意見を聞かせてください。

 

鹿野先生:

はい。課題は大きく3つあると思います。1つはカリキュラム・マネジメントです。これは、要は校長のリーダーシップの下に、学校の中でしっかり情報の力を使っていく体制を作らないと、1年生で「情報I」をやって、2年生が空いて、3年生でいきなり受験ということになり、これはよくありません。

 

2つ目は、先生の問題です。例えば3~400人規模の学校だと、数学や国語の先生はそれぞれ10人はいらっしゃいますが、情報の先生は1人か2人です。そうすると、自ずと先生に頼らず、子どもたちが自学自習できるような形の取り組みができることが必要です。

 

それができていないと、例えば受験準備の年になったとき、情報の先生が破綻してしまいます。ですから、教材をどう選んでいくかということも考える必要があります。

 

さらに、大学側の問題があります。大学の教育をどこからスタートするのかをしっかり示してほしい。「情報Ⅰ」の修了レベルからスタートするのか、「情報Ⅱ」まで学んでいる前提からスタートするのか。そして大学教育の中ではどこまで進むのか。これは世間の人や企業、皆が見ています。ですから今後大学は、自分たちの進む道を入試という形で示すことが課題になり、我々大学に関わる者は、それに対応していかなければならないと思います。

 

 

中野氏:

ありがとうございます。多くの学校で、情報科の先生が各校に1人しかいないという現実があります。これは情報科の先生が担当する授業のコマ数から来る問題だと思われます。

 

そうなると、大学入試の結果をその一人の先生が全て背負い込むことになり、先生にとっては非常に大きなプレッシャーになってしまいます。これに対して何かできることはないのでしょうか。

 

 

鹿野先生

先ほども申しましたが、「情報活用能力」というのは、情報科だけでなく、学校全体で育成するわけですから、例えば「データの活用」であれば、数学と情報科が連携していくことになるので、それがうまくいっていたら、たとえ情報の入試が思わしくなくても、情報科の先生だけが悪い、ということにはならないでしょう。

 

また、数学だけでなく、理科や社会科でも連携することがてきる場面はいろいろあります。そうやって学校全体で取り組んでいけば、「情報」の成績も良くなりますし、学校全体の雰囲気も良くなるでしょう。「『情報』のことは情報科の先生に任せておけばいい」というのはいけません。そして、ここには校長のリーダーシップが強く関わってくると思います。

 

 

中野先生

先ほどから鹿野先生が、校長のリーダーシップが大事だとか、けっこう耳の痛いことをおっしゃっていますが(笑)、ただ、今の話で、情報科の教員が各校に1人しかいない状況というのは、私は逆にチャンスだと思います。

 

学校の中に複数の教員がいたら、そこで相談して終わってしまう可能性もあります。1人しかいないからこそ、この授業のままで本当によいのか、自分の授業をもっとよくするために、何か参考になることはないか、といったことを考えて、例えば各都道府県レベルの教科研究会に参加して、他の人の成功事例を聞く。あるいは、聞くだけでなくて、失敗事例を積極的に発表して、「こう思ってやったけれど、うまくいかなかった。これのどこが悪かったのか、アドバイスをください」といった発表をするべきだと思います。

 

学校に担当教員が1人しかいないのであれば、誰かと連携しようとするなら、校外に出ていくことが必要です。

 

例えば、各都道府県の情報科の教科研究会が集まって、毎年夏休みに2日間、全国高等学校情報教育研究会が全国大会を行っています(※1)。そういうところに積極的に参加して、他の人の実践からいろいろなことを学んだり、逆に自分がやっていることが他の人に役に立ったり、といった経験をしていただきたいと思います。

 

先生自身が生徒と一緒に学ぶ。そして、この新しい教科・科目を楽しむ。自分の足りない部分に挑戦する。そういった皆さんの挑戦が、他の先生や他の学校の役に立ち、学校の枠を超えて広く貢献することになります。情報科というのは、そういう教科かなと思っています。

※1 全国高等学校情報教育研究会

 

そして、学校というのは、結局「人」が大事だと思います。立派な設備があればよいのか、立派なカリキュラムがあればよいのか、と言えば、そういったものは立派な方が良いに決まっていますが、一番大事なのは、やはり生徒であり、先生なのです。

 

ですから、先ほど鹿野先生がおっしゃったように、学校全体でカリキュラム・マネジメントを行っていくというのは、「情報科を皆で助けよう」というだけでなく、「情報科でこういうところをもっと担当してくれよ」といったことも含めて、本当に全体のバランスを見て行っていく、ということが極めて重要です。

 

そして、こういったことができるかどうか、というのは、校長先生や教務主任といった人たちの人間性に依るところもあると思います。「あの人に言われたらしょうがないね。やってやろうか」とか、「困っているみたいだから、手伝うよ」と言ってもらえるような先生であるかどうかというのは、まさに「学びに向かう力・人間性」であると思います。

 

その意味で、学力の3要素というのは、まさに先生にこそ備わってなければいけない。先生が率先垂範して、教え諭すのでなく生徒と共に成長していく姿を見せるということが、一番大事ではないかと思います。

 

 

富沢氏

高校での課題は、今、先生方にお話しいただいたので、受験生目線に立ってお話すると、先ほどもお話ししたように、一つは生徒の負担感をいかに取り除くか、というのが大きな課題だと思っています。

 

2025年度の共通テストは、情報科だけでなく、様々な変更点があります。国語や数学は試験時間も分量も増えます。受験生から見ると、まさにあれもこれも、といった状況になっており、その中でさらに「情報」という教科が1つ増えるということは、非常に大きな負担を感じることになります。

 

これによって志望を変えてしまうといった不幸な結果にならないように、大学や高校の先生方がそれぞれいかにメッセージを発信していくか、ということは非常に大事だと思います。せっかく幅広い生徒が情報入試に取り組める新しい枠組みが作られているので、その理念に対応した形にしていく必要があります。

 

もう一つは、先ほどの中野先生の話にもありましたが、大学によって共通テストへの対応がバラバラで、配点比が大きく異なることです。「情報」の配点比率を下げることは、一見すると受験生の負担をやわらげる措置にも見えますが、受験生はその大学だけを目指すわけではなく、様々な選択肢の中で最終的に志望大学を選んでいくことになります。大学によってここまで対応が分かれるというのはどうなのかなと思います。

 

大学に対しては、先ほど鹿野先生からも話がありましたが、大学の情報教育をどこからスタートするのか、ということを明確にしていただきたいと思います。高校までの情報教育がこれだけ変わっていくのですから、そういった情報の学びをしてきた生徒さんたちを受け入れる体制をきちんと整えた上で、大学教育の中身の方も変えていただきたいと思います。

 

また、例えば総合型・推薦型の選抜で情報に特化した学生を入学させたなら、そういった学生のためのカリキュラムを用意することも必要になってくるのではないでしょうか。これからは、高校だけでなく、大学も目線を変えて情報入試に取り組んでいく必要があるのかなと思っています。

 

 

中野氏

ありがとうございました。

 

私どもはメディアとして教科「情報」の情報発信をするとともに、我々が持っている様々なコンテンツを教材として提供しています。その中で、現場の先生方から、情報入試に向けてこんなものがほしいという声をいただいています。

 

こちらに整理してみました。

 

まず、基本的に教科書の内容を踏まえた「用語の理解」が必要だという声を聞きます。「情報」にはいろいろな用語があって、教科書にもしっかり出てきます。これらがきちんと頭に入っていないと、問題にうまく対応できなかったり、いたずらに時間がかかったりします。 


 

次に、入試テクニックの習得が学びの目的ではないとはいえ、n進法や論理回路など、各分野の基本的な解法のパターンを理解することは必要です。こうしたパターンに慣れることで、入試に対する自信も生まれます。

 

そして、おそらく一番大事なのが、3つ目の「社会の中の『情報』に関心を持つ」ことでしょう。

 

今、世の中で起きている様々な事象を、情報の切り口で見るとどうなるのか、ということについて先生方が授業の中で話題にすることで、子どもたちが「情報」に対して関心を持てるようになるのではないでしょうか。大学入学共通テストの問題案を見ると、社会の動きを意識した出題が多くあります。普段から社会の中の「情報」に関心を持って接することは、入試対策にもつながります。

 

検定教科書は非常によくできていますが、何年もかけて作るものですので、例えば「生成AI」のような最新の話題に関する記述はありません。しかし、生成AIが社会にどのように関係していくのか、それは情報技術とどう関わっているのか、といったことを授業の中で触れられると、生徒の将来にとって間違いなくプラスになるでしょう。

 

日経BPでは、デジタル教材サービス「日経パソコンEdu」(※2)を提供しています。教科「情報」の学びや情報入試に対応する多彩なコンテンツを提供するサービスです。日経BPが発行する書籍も100冊以上収録しています。発展的なプログラミングや、AI・データサイエンス、情報倫理、セキュリティなどのコンテンツも提供しています。コンテンツは権利処理をして提供しているので、コンテンツの一部を利用して独自教材を作って、学内のネットワークで提供することも可能です。

 

※2 https://nkbp.jp/npcedu

 

 

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また、「日経パソコンEdu」では、「情報Ⅰ」に対応した、いろいろなテスト問題や、受験にも教科書の理解にも使える用語集のコンテンツも掲載しています。

 

先週、新たに共通テスト対応として、DNCLの解説のコンテンツと、DNCLに対応した自動採点の問題も掲載しました。

 

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情報入試 この先どうなる?

 

中野氏

もう1点、皆さんに質問したいと思います。大学入学共通テストのほかに各大学の独自のテストについても、いくつか動きが出てきました。これについて、皆さんはどうご覧になっていますか。

 

特に、この動きが一部の大学だけに留まるのか、あるいはもっと広がっていくのか。また将来的に「情報Ⅰ」だけでなく「情報Ⅱ」までやるのが当たり前になっていくのか。皆さんの思いや読みのようなことも含めてお話しください。

 

鹿野先生

思いというより状況のお話ですが、18歳の若者の50%が大学に進学するとしたら、50万人は就職したり専門学校に進学したりします。今日は大学入試の話ですが、そのことばかり考えてはいけないのです。

 

大学に進学しない人は、例えばITパスポート試験などを受けていただいて、企業も採用時にそれを見てあげる、というように、要は大学に進学する人もしない人も、全員が「情報Ⅰ」の力を身に付けて、それを国民的素用として使っていく、という世の中にならないといけない。それが今後「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」という形で広がっていってほしい、というのが私の希望です。

 

先ほど、大学の情報教育はどこからをスタートとするか、というお話をしましたが、学部・学科によっては、「情報Ⅱ」を学んだ前提から始めないとよくない、というところもあるのではないかと思いますが、今現在、まだそこまでには至っていない、という状況があります。

 

ただ高校の先生方も、「情報Ⅰ」は教えられるようになったけれど、「情報Ⅱ」はまだちょっと難しいという方もいらっしゃるので、この研修も進めなければならない。この辺りも問題の一つです。

 

最後ですが、「情報」の授業でいろいろな経験をしたら、そこをきっかけにしてもっと伸びていく子が出て来るはずです。そういった子ども達をさらに育てて、Jリーグの選手や野球の大谷選手のような人が生まれるシステムを日本でも作っていきたい。これは学校の授業だけではできないので、授業外のデジタル活動を強力にサポートする体制が必要になると思います。そのベースとして「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」という科目は役に立つと思っています。

 

 

中野先生

まず、質問にお答えする前に一つ、言い訳をします。「試験対策」と言うと私に怒られるかもしれない、という話がありましたが(笑)、皆さんは、TOEICを受けたことはありますか。TOEICは、いつ受けても、何回受けても、ちゃんとそのときの実力が出るという謳い文句になっていますが、実際受けてみると、初めて受けた時と比べて、2回目、3回目の方が、たいてい点数が上がります。

 

これは、最初はテストの形式に慣れていないからです。つまり、テストの形式に慣れるというのは絶対必要で、その意味の「対策」は必要だと思います。

 

もう一つ、情報入試がこの先どうなっていくかということですが、実は現行の学習指導要領の国語の選択科目は、標準単位が全て4単位です。今年の高3生(旧課程生)が学んでいる学習指導要領の選択科目は、2単位のものがたくさんありました。これによって、いわゆる理系のクラスで学ばなければいけない国語の授業が増えました。ですから、今まで理系だから英・数・理を中心にやっていればいいだろうということになっていたのが、実は学ぶべき内容が増えたのですね。

 

また、現行課程では「歴史総合」があります。歴史総合は日本史と世界史が合わさったものですから、2単位ではありますが、学ぶべき内容は増えているのです。

 

一方で以前の文系で必要とされる数学は、数学Ⅰ、数学Ⅱ、数学A、数学Bまででしたが、2025年から共通テストの範囲が数学Cまでになったので、文系でも数学Cまでやらねばならなくなりました。つまり、理系と文系の受験科目が非常に似通ってきているのです。

 

大学には「アドミッション・ポリシー」「カリキュラム・ポリシー」「ディプロマ・ポリシー」という3つのポリシーがあります。このうちアドミッション・ポリシーを、われわれが目に見える形で受け取るのが、入試の科目や内容です。つまり、この大学がどのような力を重視しているのか、というのは、入試の内容を見れば明らかです。

 

ですから、「うちの大学はこれから情報に力を入れていくよ。この先、情報に強い学生を育てなければならないと考えているよ」という大学は、個別試験に「情報」を入れる、あるいは個別入試は負担が大きいので、共通テストの「情報I」は必須にしよう、というところから入ってくるかもしれません。

また、一般入試で課すことは厳しいけれど、総合型選抜に「情報」の要素を入れる、という形も出て来ると思います。

 

ですから、もし今、世の中の流れで「情報」が過去の遺物になっているのであれば、情報入試もこれから減っていくでしょうが、そうではないですよね。ということは、今後情報入試は増えてくる、と確信を持っています。

 

 

富沢氏

ほとんど中野先生と同じ意見ですが、今後「情報」を武器にしたいという受験生、高校生は増えてくると思います。大学も、そうした状況をきちんと活用できる枠組みを考えていくようになるのではないでしょうか。ですから、この新しい教育課程への移行は、本当に大きな転換期になると思います。

 

充実した授業によって「情報」に強い生徒が増えて、そういった学生を大学も受け入れていく、という方向になるのが望ましい形でしょう。

 

個別試験で「情報」を出題する大学は、今後恐らく増えていくと思いますが、新課程初年度の入試で、実際に情報入試が行われる様子を見た上で、今後本当に導入すべきかと検討を始める大学もあると思います。そのためにも、初年度の入試を成功させる形に持っていけるとよいですね。

 

 

中野氏

ありがとうございます。このところ、生成AIがいろいろなメディアに取り上げられていて、我々のメディアでも、生成AIの情報を出すと、非常に関心を集めます。教育分野も同様です。

 

世の中の関心が、「情報」分野の話題と非常に密接につながっていくことで、これからの私たちの生活の中で「情報」の素養は不可欠だ、というイメージがどんどん広がっていくと思います。

 

情報系の新しい学部は人気があります。そういった流れの中で、「情報」を重視する動きが広がっていくのは、世の中にとっても良いことであると思います。

 

ただ、1年目に「情報」を課した大学の志願者が大きく減ってしまった、ということになると、こうした流れにブレーキがかかります。我々も動向をしっかり取材して、情報発信していきたいと考えています。

 

このあとの時間は、フロアの皆様からご質問やご意見をいただきたいと思います。パネリストの皆さんへのご質問もお受けしますし、コメントでもけっこうです。

 

 

Q1.大学教員:

私は、ある大学で情報科教育法を担当していますが、情報科の、特に新しく採用される先生にはこんな資質を持っていてほしい、あるいはこういったことができるような人であってほしい、というイメージがありましたら、教えていただければと思います。私も、教員を養成する側として参考にしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

 

A1.鹿野先生:

資質としては、まず謙虚な人で、かつチャレンジ精神を持って学び続けることができること。学びの対象というのは、子どもに対してでもあります。各クラスに、自分よりコンピュータができる子どもが何人もいるだろう、という前提で授業をすること。そして、仮に自分が100%分かっていないことがあっても、子どもと一緒に学んでいくことが大事です。

 

もし自分のできることしか教えないとすれば、それは自分の縮小コピーをつくることになりますので、それでは世の中は全く発展しないことになります。

 

ですから、謙虚に、でもチャレンジ精神はたくさん持って、子ども達からも世の中からも学んで、いろいろ伝えていく。新しいものが出たら真っ先にやってみるという好奇心もある。そういう先生がいいなと私は思います。

 

 

A1.中野先生:

こんなこともあろうかと、情報科の教員に必要と思う資質を書いてきました。

 

先ほど申し上げたように、今の教員は、教え導く立場ではなくて、生徒と共に学んでいく、学習者の伴走者であるべきだと思います。

 


生徒の方がよく知っていることもたくさんあるし、興味・関心について言えば、ひょっとすると生徒のほうが先生より高いかもしれません。そうであれば、「何がそんなに面白いの?教えてよ」と生徒から教えてもらったり、生徒と共に学んだりすることができること。

 

そして、先生としては、とにかく授業を楽しむということです。「失敗したら、うまくいかなかったらどうしよう」と心配する先生もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことは心配しなくていいです。挑戦することこそ大事だと思います。

 

挑戦すれば、うまくいかないことのほうが絶対多いです。でも、失敗を恐れず挑戦するということが大事ですし、そういう姿が結局、生徒に勇気を与えることになると思います。

 

そして、自己の成長のための研鑽が大事です。研鑽しなければいけないと言われると、負担感、義務感を持たれるかもしれませんが、先ほど中野さんもおっしゃったように、教科書の内容というのは、どうしても古くなり、最新のことは載っていないわけです。

 

ChatGPTが世の中に出てきて、私が使い始めたのが、11月20日ですから、まだ半年そこそこです。そんな新しいことに常に興味・関心を持って、それを楽しむこと。そして生徒と共に教え合って学んでいくというのが、鹿野先生がおっしゃった謙虚さかもしれません。

 

私がよく生徒に言うのが、「謙虚で素直でポジティブシンキング。これができれば人生、幸せだ」ということです。謙虚に教えを請う。そして、言われたことを素直に受け止め、それを自分にとってポジティブに、いいように解釈していく。情報科の先生も、そうあるべきではないかと思っています。

 

 

A1.富沢氏:

予備校の一職員の私が、「先生方に持っていてほしい資質」を申し上げるのは恐れ多いのですが、1点だけ感じていることを触れさせていただきます。

 

本日、先生方がおっしゃられたとおり、情報教育は入試のためのものではないと思います。今回の共通テストの試作問題やサンプル問題を見ても、いかに体験的な学びを通して、問題解決・問題発見をしているかが問われるような内容になっています。

 

そんな体験的な学びを通して、「情報は楽しいものなんだよ」というメッセージをきちんと伝えていただけたらありがたいなと感じています。

 

 

Q2.高校教員:

今回のお話をうかがって、情報科の教員にいろいろなことが求められていることが、改めてよくわかりました。私たちが明日、明後日の授業からすぐできることを、皆様から一つずつアドバイスをいただきたいと思います。よろしくお願いします。

 

 

中野氏

ありがとうございます。それでは、会場の皆さんへのメッセージも兼ねてコメントをいただいて、締めにしたいと思います。富沢さんから順にお願いいたします。

 

 

A2.富沢氏:

入試が大きく変わるのは、当然教える高校、受け入れる大学、そして一番に生徒本人にとって非常に大きなことだと思います。河合塾では、これを成功させるために、常に受験生の目線に立ったサポートを作っていく形を取りたいと思っています。

 

先ほど手を取り合って、という話がありましたが、そういった形で盛り上げていければと思っております。よろしくお願いいたします。

 

 

A2.中野先生

今、「情報」にすごいビッグウェーブが来ています。これは、我々にとっては千載一遇のチャンスです。ビッグウェーブに飲まれるのが嫌だから、そこから逃れようというのではなく、せっかくビッグウェーブが来ているのだから乗っちゃおう、という感覚でまいりましょう。

 

 

A2.鹿野先生

流れをつくっておきながら、流されそうになって必死に踏みこらえている私ですが(笑)、1人では無理なので、デジ連 (※3)という社団法人を作りました。ここでいろいろなコンテンツを出しています。ITパスポート試験のための教材も無料で提供しています。 


 

明日からできることと言えば、ここを見ていただくといろいろなコンテンツがありますし、研修で講師を呼ぶことも可能です。私も講師に入っています。

 

また、デジタル系のコンテストに関する情報も約160件載せています。こういった場は、子ども達が活躍する大きな機会ですので、ぜひ総合的にサポートしていきたいと思っています。まずはサイトを見ていただいて、いろいろ活用していただければと思います。

※3 https://dle.or.jp/

 

 

中野氏:

ありがとうございます。我々もメディアの立場で、先生方にビッグウェーブに乗っていただくための情報発信を進めていきたいと思います。先ほどご紹介した「日経パソコンEdu」には、生成AIの活用に関するコンテンツも入れていますし、教育現場で参考にして使っていただけるようどんどん新しい情報も出しています。

 

話題は尽きませんが、本日の議論はこれで終了といたします。ご登壇の皆さん、ご参加くださった皆さん、本当にありがとうございました。これからも皆で力を合わせて、ビッグウェーブをどんどん大きくしていければと思います。

 

New Education Expo 2023 セミナー 「教科『情報』の大学入試、どう変わる、どう備える」より