New Education Expo 2023

セミナー「情報Ⅰ」の実践と課題~東京都における専門家の派遣を通じた教育支援を踏まえて考える

【議論のまとめ】

ご本人提供
ご本人提供

山口氏:

 

今日はありがとうございました。私の感想として、この授業に関わることができて、本当によかったと思っています。その理由としては、先ほどもお話ししましたが、これから社会に出ていく子どもたちが、社会の問題の解決のために情報技術を使うということに関する認識を持ってくれたと感じられたことです。

 

途中で小松先生もおっしゃっていたように、「目的」と「手段」という考え方でいえば、情報技術はあくまで「手段」であることに気づいてくれた生徒さんがたくさんいらっしゃったのは、素晴らしかったと思います。次年度以降も、この取り組みが続けられるとよいなと思いました。

 

小松先生:

受け入れ側という立場から言えば、結構大変な部分はありましたが、結果的に受け入れただけの価値はあったと思います。現場の人間としては、実際のビジネスで何が行われているかは知らないので、そういった観点では、実社会、ビジネスの現場でどのように情報技術が使われていて、そのために学校でこういったことを学んでおくことが必要だよ、ということを気付かせてあげることができたのは、本当によかったと思います。

 

ただ、いろいろと改善の余地はあります。学習指導要領の中でも、外部人材の活用が謳われているので、今後も続けていくことにはなると思いますが、一つひとつ改善点をつぶしつつ、苦労もあるけれどなかなか面白いぞという気持ちでやっていけたらと思います。

 

岡村先生:

もう少ししたら、この専門家派遣モデル校の授業動画を一般公開することができます(※)。ご協力くださった皆様には、本当に感謝を申し上げます。

 

私自身、この授業をやって一番よかったと思うのは、皆さんがおっしゃる通り、「情報」の授業で学ぶ内容が実社会のどんなところで使われているかということを、現場の生々しい話も含めて子どもたちに話していただけたこと。そして、それを動画として都立学校の先生方が見られることによって、その学校の子どもたちに対しても、情報技術が実際にどんな場面で使われているかということを、話していただくことができるようになると思いますので、授業力向上に非常に大きく寄与できたのではないかと思います。

 

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    ※ 授業動画はこちらから

 

 

情報科に限らず、どの先生も一番悩んでいるのが、例えば数学で言えば、生徒から「微分積分ってどこで役に立つの」と聞かれてもなかなか答えられなくて、「受験で出るんだよ」と逃げてしまう先生が多いかと思います。

 

情報科は、これまで受験科目でもなかったので、どうやって子どもに興味を持たせるか、学習内容の意味づけをどうするか、というのは大きな課題の一つであったところに、学習要領の改訂も重なって、今回このように専門家を活用した授業という形の授業を行いました。

 

実際にやってみて、いろいろな課題も見えてきました。まだまだ現場の先生方は、いろいろなお困りを持っていると思います。特に、数学や英語であれば、1校に4人から5人、多い所はもっとたくさんいらっしゃって、若手の先生も先輩の先生からいろいろ教えていただくことができますが、情報科は基本各校1人なので、新任で採用されて学校に行っても、先輩がいないのです。そういう意味で、指導の方法を学ぶこともなかなか難しいという課題があります。

 

こういった動画アーカイブをたくさん作って、先生方に見てもらうことによって、そういった困り感を少しずつ解消していければと思っています。

 

 

【質疑応答】

Q1.民間企業社員:

私は民間の人間ですが、今日は、高校の「情報」の授業はどんなものかということに興味があって参加させていただきました。実は、今日の午前中の高専の情報教育に関するイベントにも参加したのですが、そちらはすごく理系寄りのお話でしたが、こちらはどちらかというとマーケティング寄りなお話もあって、興味深かったです。

 

今、STEAM教育など横断的な教育もいろいろ出てきていますので、この実践の中でも、もう少し理系的なところを入れて、生徒さんに興味を持ってもらえたらな、と感じました。

 

最近、非常に質問できる仕組みもできていますで、そういったものも取り上げていただけるといいかなと思います。すみません、質問というより、こんなことをしてはどうかという要望です。ありがとうございました。

 

 

A1.岡本先生:

ありがとうございます。「情報Ⅰの通常の授業の中でも、今おっしゃったような理系的な部分を入れていくことはできるかなと思います。

 

あと、「カリキュラム・マネジメント」といって、教科横断的に問題解決に取り組むなどということも、学校によってはかなり取り入れていますので、そういうところではそういた取り組みもしていけたらと思います。

 

我々も、民間のいろいろな学習教材で、取り入れられるものがあれば、積極的に先生方に紹介していきたいと思っております。もし何かありましたら、教えていただけると助かります。よろしくお願いします。

 

 

Q2.私立高校教員:

実際に授業をされた山口さんと小松先生にお聞きします。

 

私はもともと数学科の教員をやっていて、今年度から情報科の免許を取った上で「情報I」も教えるようになりました。そこでびっくりしたのが、「情報Ⅰ」は教える内容が多いなということです。

 

その中で知識だけを伝えていくと授業自体がつまらなくなってしまうので、探究的なものを盛り込みながらやっていきたいと思っていますが、その一方で知識を全て伝えられているのか、このまま知識が少し足りない状態で共通テストに向かっていけるのかというところで、葛藤しています。

 

実際にこの授業を実践されて、そのバランスをどのようにお考えになっているか、お聞かせください。

 

 

A2.小松先生:

バランスということでは、私自身もよく課題を設定して生徒にやらせる活動をするのですが、「学んだ知識を使った課題」という形にしていくのがよいかと思って、なるべく授業の初めに新しい単語なり知識なりをやって、前の時間に使ったものも活用しながら、それを活用した課題をするように心掛けています。これが継続的にできるようになるといいなと思いますが、実際にそれが生徒のためになっているかどうかは、まだ検証できていないというところです。

 

 

A2.山口氏:

今のご質問は、すごくいいなと思いました。そう考えると、生徒さんが自分で探していく能力というのも大事かなと思っています。おっしゃるとおり、知識として完璧に授業の中で覚えるとこも大事ですが、こういった知識やスキルが存在しているということを知っておいて、何か問題あったときに、このスキルって使えるはずだと気づいて、そこから先は自分で考えていく力というのも必要であると思います。

 

確かに、おっしゃるとおり教えるべきことたくさんあると思いますが、それを深く教える必要というのはあまりないのではないかと思います。表面的かもしれませんが、とりあえず知っておいて、その後に調べていって自分でできるようになるというところも、一つの方向性としてあるのではないかということは感じました。

 

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