New Education Expo 2023

高校現場における情報入試への対応

工学院大学附属高等学校校長 中野由章先生

今回のタイトルは、「情報入試への対応」としましたが、これは「対策」ではありません。「対策」はする必要がないし、またするべきでないと思っています。ただ「対応」はしなければいけないと思っています。

 

私は、現在は私立中高の校長をしておりますが、その他情報処理学会ではこのような仕事、また情報オリンピック日本委員会でもお仕事をいただいています。

 

今日は、まず「情報Ⅰ」について。そして情報入試の動向、それから高校での対応について、という3つについてお話ししたいと思います。

 

 

「情報I」とはどんな科目か

 

そもそも初等中等教育における情報教育の目的というのは、結局この「情報活用能力」、つまり「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の3本柱をバランスよく育成しよう、ということです。

 

これが大学になると、つい情報科学や情報工学につながる「情報の科学的な理解」に重きが置かれがちですが、初等中等教育では3つともバランスよくやりましょう、ということです。

 

 

では、情報科の教科目標はどうなっているかというと、この3つがちゃんと入っています。この中に「問題の発見・解決に向けて」と書かれています。

 

この「問題の発見・解決」というのは、学校教育における教育活動全てであると思います。

 

 

まず、読み書きの土台としての「国語」が必要です。そして、スタディスキルズとしての「情報」が要る。そして、今言ったものの上に、国語の専門、「情報」の専門、数学の、理科の、といったそれぞれの専門が載っている、というのが学びのイメージです。

 

これが、先ほど鹿野先生がおっしゃった「いろいろな教科で応用していく」につながる話であると思います。

 

 

「情報Ⅰ」には、ここに挙げた(1)から(4)の4つの内容があります。それぞれの中で、よく出てきそうなキーワードを書いてみました。

 

ここで分かっていただきたいのは、「情報Ⅰ」の内容は非常に高度で、かつ多いということです。しかもそれが2単位しかありません。2単位というのは、授業が週に2回しかないということです。

 

高校で1単位というのは、表向きは週に1回・年間35回の授業をすることになっていますから、「情報I」の授業は70回です。ただ、定期テストや学校行事で授業がつぶれることはありますから、2単位の科目の授業数は、実質年間五十数回です。そこで大事になってくるのが、他教科との連携です。

 

 

この「情報活用の実践力」は、「総合的な探究の時間」や各教科で情報科と十分連携して育成していただかなければなりません。

 

「情報の科学的な理解」は、「情報」の中核であり、「情報」しか担えないところではありますが、あとは数学科と連携しなければいけない。

 

そして「情報社会に参画する態度」は、公民科や家庭科と連携しなければいけないと思います。例えば、現在家庭科では消費者教育を行っていますが、これは「情報社会に参画する態度」に大きく絡んでくるので、ここでは連携しなければいけないと考えています。

 

 

情報入試を取り巻く動向

 

次に、情報入試の動向をざっとまとめてみました。2016年3月に、高大接続システム改革会議の最終報告が出ています。また、2018年6月には、「未来投資戦略2018」が安倍内閣の下で閣議決定されています。

 

 

その後様々な動きがあって、今現在、最後の2つが残っています。予定では今月、文科省と大学入試センターから2025年の共通テストの大綱や出題方法および出題方針などの発表があります。さらに、1年後には実施要項が出る見込みです。

 

 

先ほど紹介した、2016年3月の高大接続システム改革会議の「最終報告」には、具体的に何が書かれていたか、というお話をします。

 

共通テストへの「情報」の導入が正式に決まってから、「まさか『情報』が(共通テストに)入るとは思わなかった」といった話がいろいろ出てきましたが、まったく何言ってんだと思います。

 

2016年、まだ「大学入学共通テスト」という名前ではなく、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」と言われていた頃から、「教科『情報』に関する中教審の検討と連動しながら、適切な出題科目を設定し、情報と情報技術を問題の発見と解決に関係する諸能力を評価する」と書かれていました。

 

つまり、2015年度末には、2025年度の大学入学共通テストに「情報」が入ると言っているのですから、そこで「そうなんだ」と思わなければならないのに、「いやあ、入るわけないじゃん」と悠長に構えていた人が多かったということですね。

 

 

さらに決定打になったのが「未来投資戦略2018」です。ここには、「大学入学共通テストに『情報Ⅰ』を追加」とはっきり書かれています。それでもなお、「いや、そんなことはない。絶対入らない」と言う人もいました。もう、何をかいわんやです。

 

 

大学別の共通テスト・一般入試の「情報I」への対応は…

 

こうして、大学入学共通テストに「情報」が実際に入ってきました。そして、国立大学は原則受験、公立大も課す大学が多く、私立大学は共通テスト利用型入試で利用できるところが多いです。さらに、私立大学の中には、一般入試で利用できるところもあります。これは、先ほどの富沢さんのご説明にあったとおりです。

 

 

こちらも先ほど富沢さんのご説明にありましたが、大学入学共通テストの配点と、その試験範囲が何単位かを書き出したものです。

 

国語は200点満点ですが、試験範囲になるのは4単位です。「情報I」が2単位なのに100点では配点が高すぎる、という声もあるようですが、これは国語の配点比率と同じです。

 

全部合わせると、最大このスライドのような配点・単位数になります。選択の仕方によって変わりますが、6教科・8科目で、テスト範囲となるのは大体40単位です。

 

40単位で1000点満点ということは、「情報I」は2単位ですから5%、傾斜配点すると50点ということになります。そうであれば、国語も100点にしてね、と言いたいところではありますが。

 

ただ、この5%を下回っている中にはとんでもない大学もあります。配点しないというのは、大学のアドミッション・ポリシーですが、必須で課しておきながら配点しない、というのはいかがなものかと思います。さらに、ある大学は、前期855点満点中の5点、後期1105点満点中5点という、極端な傾斜配点をしています。「情報」は白紙で提出しても合否にはほとんど影響ないということですね。これでよいのでしょうか。

 

 

逆に、得点比率を上げている大学もあります。

 

 

興味深いのは、東京藝術大学です。美術学部デザイン科は、共通テストで国語、外国語、「情報」の3教科が必須となっていますから、「情報」をきちんと学んでいないと入学できないということです。

 

 

さらに、早稲田大学は一般選抜で共通テスト使いますが、その中で「情報」を選択できます、「情報」を選択すると、政治経済学部は200点満点中25点、文学部であれば200点中50点、人間科学部は150点中40点の配点です。つまり、早稲田大学は情報に強い学生がどんどん増えるだろうということです。

 

 

そして日本大学文理学部です。ここは、文理学部だけで学生が8486人います。ちなみに、私の工学院大学は全学部で6000人です。

 

文理学部は、人文系・社会系・理学系の学科がそれぞれ6学科、全部で18学科ありますが、ここの共通テスト利用型入試では、18学科全てで「情報」が選択できます。

 

それだけでなく、社会学科は「情報」が必須ですから、日大文理学部の社会学科に共通テスト利用型で入学するのなら、「情報」を使わないと入れないのです。さらに文理学部は、共通テストだけでなく「情報」の個別試験も実施しますが、これも全学科で選択可能です。

 

 

こちらは、個別試験で「情報」を課すことを表明している大学の一例です。先ほどの富沢さんの説明の中でもあったように、国公立の電気通信大学や広島市立大学以外に、私立大学でもいろいろな大学が個別試験を実施する、としています。

 

さらに慶應義塾大学のSFCは、現在は小論文と「情報」で受験できるのが、2025年からは小論文と「情報および数学」になります。

 

これは後退だと思われる方がいるかもしれませんが、実はSFCの「情報」の出題範囲は「情報Ⅱ」までですから、全く後退ではありません。

 

さらに、東京都立大学は、「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の両方を履修した生徒しか受験できない方式を用意しています。ですから、「情報」は今やらなればいけないのです。

 

 

高校での情報入試への対応は

 

私は高校の教員なので、高校での対応についてお話しします。

 

そもそも、高校の授業は大学入試のためにやっているわけではありません。ただ、一方で大学入試に対応できないような授業をしていては駄目です。

 

では、大学入学共通テストとは何かと言えば、大学入試のためでもありますが、高校卒業時に広く一般の国民が備えておくべき素養の一つの基準だと思っています。

 

つまり、高校卒業時には共通テストで60%ぐらい取れるようになっていればいいなということです。これは「情報」に限った話ではなく、英語や国語、数学についても同様です。

 

各高校にはいろいろな特徴があって、当然それは同じではありません。地域性や生徒の気質、学力など様々なことを鑑みて各校の教育内容を決めるとき、この共通テストをベースとして、どの部分に力を入れて、どのように特徴づけるかを考える必要があります。生徒を見ないで、「共通テストで○○が出るから」などと言っていては駄目なのです。自分の学校は、生徒はどうあるべきかを考えて教育内容を変えていかなければならない。共通テストでその基準ができたというのは、非常に大きいことだと思います。

 

高校での情報入試の対応としては、先ほど申し上げたように「情報Ⅰ」は2単位しかないので、3年生で「情報活用」のような名称の学校設定科目を用意して、共通テストへの対応をしようとしている学校があります。もちろん、「情報Ⅱ」もあります。例えばある都立高校では、1年生で「情報Ⅰ」、2年生で「情報Ⅱ」をやって、3年生に学校設定科目を置いて、1年生で学んだことを共通テストまで途切れなく学べるようなカリキュラムを組んでいます。この学校のように、校長先生がリーダーシップを発揮してきちんと考えているところは、対応できているわけです。

 

 

では、具体的に指導するための材料として、どんな教材があるのか、ということについては、情報処理学会が「教科『情報』の入学試験問題って?」というnote(※1)で解説しています。すでに記事が二十数本公開されており、なぜこのような力が必要なのか、この問題で何を問われているのか、どういった背景があるのか、ということまでかなり細かく解説されています。単に問題を解説するだけでなく、必要性についてもしっかり説明しています。

 

※1   https://note.com/ipsj/

 

 

同じく、情報処理学会の情報入試委員会が、「情報関係基礎アーカイブ」(※2)を公開しています。これは、1997年からセンター試験で出題されてきた「情報関係基礎」の全ての問題と解答を、大学入試センターの許諾を得て公開しているものです。

 

※2  https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/ipsjjn/resources/JHK

  

このサイトで大事なのは、問題と解答だけでなく、「問題作成部会の見解」も公開されていることです。これは、大学入試センターで「この問題はどのような意図で、何点くらい取れるだろうと想定して作りました。実際にやってみたら、こういう結果でした」ということを振り返って、毎年6月頃公開しているものです。これを読んでいけば、来年、再来年の出題傾向はこういった感じだな、ということも見えます。これは全ての教科・科目で公開されていますから、入試の担当者は必ず目を通すべきものです。

 

 

こうやってみると、「情報関係基礎」で「情報Ⅰ」の内容は結構カバーできます。ただ、「情報デザイン」と「データの活用」の一部は、残念ながらカバーできていません。そういったところに工夫は必要ですが、「情報関係基礎」の過去問は、結構使えます。

 

 

学校全体のカリキュラム・マネジメントで情報教育の意義を共有する

 

情報科の学びというのは、総合的な探究力をつけることであると思います。これは、鹿野先生がおっしゃるとおり、体験的な学びでこそ養える力です。

 

「共通テストで出るのなら、座学で知識問題が解けるようになればいい」とか「プログラミングは共通テスト用プログラム表記さえやっておけばよくて、Pythonなんかやってる場合じゃない」などと考えるのは、心得違いも甚だしいことを認識してください。

 

 

最後に、学校としてどう対応するか。何と言っても大事なのは、校長のリーダーシップ、カリキュラム・マネジメントです。学校全体で情報教育の意義を共有しなければいけません。目先のことではなく、10年先を見据えた教育をしなければならないし、さらに入試に対する理解が必要です。

 

ですから、どういう形式の問題が出るのか、なぜこのような力が問われているのか、ということは、指導する側も指導される側も理解していなければいけないと思います。

 

New Education Expo 2023  セミナー「教科『情報』の大学入試、どう変わる、どう備える」より

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