第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「2025年度情報入試のトレンド」
総合型選抜(人間科学部FACT選抜)と情報入試/総合的な探究の時間
早稲田大学人間科学学術院 尾澤重知先生

私からは、早稲田大学人間科学部の事例をご紹介します。
私は早稲田大学におりますが、慶応義塾大学と国立大学の大学院を修了し、国立大学、私立大学のいずれも勤務経験がありますので、バランス感のあるご説明ができると思います。
専門は学習支援で、今回の全国大会では、コンピュータを使った学習支援に関する発表の機会をいただきました。人間科学部では、カリキュラムに関わる仕事を長く務めており、高校と大学の接続について意識する立場にあります。

人間科学部は、早稲田大学の中ではややマイナーな学部かもしれません。1987年に設立され、2003年に現在の学科構成になりました。学際系学部という位置づけで、生命、生態系、教育、情報、認知、心理など、ほぼあらゆる領域を学べる学部です。
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人間科学部の入学試験制度がこちらです。私立の大学の特徴として、我々も多様な入試形態を持っています。ここでは、いわゆる一般入試と「FACT選抜」と呼ばれる総合型選抜について、「情報」と絡めてご紹介します。

2025年入試から個別試験の一部を共通テストの高得点科目で代替。「情報」も選択可能に
2025年以降、人間科学部の一般選抜ではこのような入試形態を採用していきます。
従来の「文系方式」「理系方式」から「国英型」「数英型」という名称になり、それぞれを定員化します。従来行っていた個別試験の一部を共通テストで代替するという内容です。

それぞれの方式の具体的な内容をご説明していきます。内容の詳細です。国英型・数英型とも、共通テストが60点、個別試験が90点の配点です。
国英型の場合は、共通テストでは国語が必須(20点)、選択科目としてほぼ全ての科目から1科目(40点)を選択します。「情報」ももちろん選択科目に入っています。
本学独自の個別試験は、外国語(英語)と国語で、外国語50点、国語40点の配点です。

数英型では、共通テストで数学を選択(20点)、選択科目(40点)は国英型と同様で、こちらも「情報」が選択できます。
本学における個別試験は、外国語(英語)50点と数学(40点)です。

共通テストは、事前に選ぶのではなく、高得点の科目が選択できます。そのため、たまたま「情報I」が高得点でった場合は、「情報I」のスコアが採用されます。
例えば「情報I」や数学が得意な生徒が数英型で受験する場合、まず「情報I」が占める割合が150点満点中の40点、数学を含めると150点中100点になるため、かなりウエイトが高いことになります。これは共通テストを採用せず、個別試験の独自性が非常に高い慶應義塾大とは真逆の戦略となります。

得意分野の深掘り(=探究的学習)と苦手領域の克服(=リメディアル)を両立させる
早稲田大学の入学者は従来から多様でしたので、初年次教育を充実させて、得意分野はいわゆる「探究的な学習」で伸ばし、苦手なものや、高校であまり勉強して来なかったものはリメディアル科目で復習もしてきました。2025年以降はその多様性の幅がより広がると考えており、この方式については、より加速していきたいと考えています。
例えば、数学が苦手な学生の中には、Σの記号の意味がわからなかったり、√の意味はわかっても計算ができない人もいますので、そういった学生にもたいおうできるカリキュラム設定を考えています。
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一方で、より進んだ学生向けには、従来必修のデータサイエンス教育に加えて、新しい情報リテラシーの一つとして、ここに挙げたような、いわゆるComputational Thinking(計算論的思考)を導入したいと考えています。
具体的には、協同問題解決や協調的問題解決研究を踏まえたアクティブラーニング型の実施を視野に入れているます。
こちらについては、まだ確定してはいませんが、人間科学部としては、大学のこのカリキュラムとアドミッションが連携することを描いています。

文系・理系の区別を問わず科学に対する親和性と探究する姿勢を問うFACT選抜
続いて、FACT選抜をご紹介します。2017年の開始当初は学校推薦型選抜でしたが、2023年から総合型選抜に変更しました。
1次試験は事前課題で、実験等を含む課題の書類審査です。これは他の人に相談してもよい、という新しいスタイルです。
2次試験は個別実施で、1次試験の事前課題を踏まえた資料の読み取りや発展的内容に関する論述試験に加え、面接試験を行います。

この事前課題について、いくつか事例をご紹介します。
こちらは、いわゆるモンテカルロ法を使った実験で、ペンを落としてランダムに点を打たせ、その点からなる面積を推測するという問題です。
コンピュータシミュレーションでは一瞬でできてしまうものですが、ここでは実験を通して試行錯誤することを重視しており、必ず実際に手を動かして実験しなければいけません。
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ステップが進み、最終的にはこのような円の面積をどう推定していくのかを実験して明らかにし、レポートとしてまとめるという課題になります。多くの高校生は10ページ程度を書くようです。
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事前課題をパスすると、これに関連した内容の論述と筆記の試験があります。事前課題1・2と同様な文脈の中で、欠損値をどう計算するかを問う課題が出されています。これに加え、面接試験で選抜しようというのがこのFACT選抜です。
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FACTはFundamental Academic Competency Testの略で、いわゆるコンピテンシー重視型の試験です。なぜFACT選抜なのかについては、受験生向けの資料でもかなり詳細に説明しているため、かいつまんでご説明します。

ここには、探究的な姿勢、つまり「理科的な科学的思考法」と「国語的な論理的表現力」との両方を伸ばしてほしいという意図が含まれています。
前述の通り、実験を通してデータを客観的に読み解きしたり、科学的知見と結び付けたり、それをうまく表現するということも含まれます。学際系学部であるため、このようなことが総合的にできるかどうかを見ることがポイントです。

情報と関連付けるなら、Computational Thinkingで総合的に問題発見、解決ができるような人を育てていくということです。

一方で、FACT選抜で入学する学生は全体のかなり少数であるため、大学の教育プログラムの中でもFACTを取り上げるということも行っています。
例えばFACTの最初の受験生へのメッセージとしてアドミッションポリシーと関連する内容として、FACTにあたって必要な要件を述べています。
また、これは珍しいことかもしれませんが、必修授業の中で入試問題と同じ問題を扱っています。人間科学部のFACTに関わる能力は全員に身に付けてほしいということを、FACTを受けていない学生に対しても提供したいからです。

科学的な探求の「型」を持つこと、探究的な考え方の「型」を持つなどを必修授業の中で繰り返し説明することで、情報的なことや総合的な探究を学んできた学生も全部含めて、学生全体を育てていくことに取り組んでいます。

差し障りのない範囲で申し上げると、先ほどのFACT型の入試では、コンピュータの使用は禁止でしたが、大学生には当然コンピュータで面積を予想させています。
授業回数は大体4回で、先ほどの実験などもコンピュータのシミュレーションで行っています。
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さまざまな知見を活かして新しい学びの場を創る
また、高校から大学への接続を意識したカリキュラム構成を重視しています。問題発見・解決型、対話型の授業は全てのどの型の入試で入学した学生であっても、経験して力を付けていくようにしており、探究型の得意な学生はプロジェクト型学習をたくさん経験させます。
逆に、探究型の経験が少ない学生は、初歩的なプログラムに取り組ませています。

私立大学ですから、入試ではできるだけ窓口を広げて入学してもらい、入学後はある程度同じスキルや能力が育成できるように学生を育てていくことになります。
私たちの新しいカリキュラムは、eスクールの知見を活かした密度の高い講義、新しい学びの場、図書館やデータベースの3つの組み合わせで行いますが、一番重視するのは「新しい学びの場」です。さまざまな知見を応用してカリキュラムを組んでいるとご理解いただければありがたいです。
