第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「2025年度情報入試のトレンド」

情報入試をめぐる動き

河合塾教育研究開発本部 富沢弘和

私からは現在公表されている入試情報の状況をお伝えするとともに、それに伴う影響や考えられる受験生の動向の変化をお話しします。

 

共通テスト「情報」利用方法

 

まず、大学の2025年度入試の出題科目に関する公表状況です。

 

水野先生のご講演でも、令和4年度中に各大学がアドミッションポリシーに応じて公表することになっているとありました。河合塾の調べでは、2月末時点で、部分的な公表を含めて200大学が公表しています。国立大学は9割近くの大学が公表済みで、ついで公立大学の公表が先行しています。一方で、私立大学は約1割の公表にとどまっています。

 

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大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の教科「情報」の利用方法については、国立大学協会(以下、国大協)が2022年1月に、現行では、国立大学の一般選抜で、共通テストは5教科7科目を課すことを基本としていますけれども、2025年度入試からは「情報」を加えた6教科8科目を基本方針とすると示しました。

 

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そうした中で、各大学の教科「情報」の利用状況がどのようになっているか、現時点での公表状況をまとめました。

 

国立大学については、教科「情報」を基本的に必須にするよう示されています。一部の大学では選択科目としての利用、または大学内の一部の募集区分において選択科目や「情報」を課さない、というケースがありながらも、基本的には国大教の方針にのっとって必須としている大学がほとんどです。

 

スライドの表は左側を国立大学、右側を公立大学と分けています。示している数値は、利用方法を公表している大学数を母数とし、各大学内で1つの募集区分でも「情報」を必須としていれば、カウントして集計をしています。ですので、大学内で1学科でも「情報」を必須として利用する大学は95%となっています。

 

国立大学では、必須とする大学がほとんどの一方で、右側の公立大学では、大学によって対応が分かれており、必須科目として利用する大学以上に、選択科目として利用する大学の割合が高いです。また、大学によっては「情報」を利用しない大学も一定数あります。

 

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ただ、国立大学の中でも必須としながらも「情報」を点数化しない、または配点比率を下げる、という大学もあります。

 

例えば北海道大学は、出願資格としていて受験は必要ですが、点数化しないという形を取りました。合否判定の成績同点者の、順位決定の際にだけ利用します。徳島大学も同様の利用の仕方をします。さらにスライド右に示しているように、配点比率を下げる大学もあります。このように、新しい教科の導入ですので、スモールスタートの形を取る大学も散見されています。

 

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あらためて、共通テストの教科「情報」の利用方法をまとめました。

 

国立大学はスライド左側に示しているように、原則必須です。国立大学志望者には基本的に受験が求められ、教科「情報」の受験者数は20万人を超える規模になると考えています。

 

一方のスライド右側の公立大学は、先ほど申し上げたとおり大学によって対応が分かれています。私立大学については、利用する場合、他教科との選択が基本でしょう。私立大学は、複数の入試方式を設定している大学が多いですので、一部の方式で「情報」が必須となることもありますが、基本的には「情報」を受験しなければ出願ができないという状況にはならないと考えています。

 

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今後の「情報」個別入試の状況

 

続いて、大学の個別入試について確認をします。

 

2023年度入試で、「情報」を出題している大学は、実は一般選抜では14大学にとどまっています。出題されている大学でも、必須として出題している大学は、現在はないと認識をしています。選択科目としての出題か、もしくは複数方式の中で、「情報」を必須とする入試方式を1方式設けて、出題をしている大学がほとんどです。こうした状況からも、現状では「情報」が入試で出題されている、という印象は薄いと考えています。

 

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では新課程入試、2025年度入試以降はどのようになっていくのでしょうか。

 

個別入試での出題は、共通テストで出題がされますので、大幅に増えていくということはないと考えています。しかし当然、大学によって、共通テストの内容では少し物足りない、または情報系学部などで特定の分野の領域を深く問いたい、といった明確な意図がある大学では出題がされていくでしょう。これは一般選抜だけではなくて総合型、推薦型選抜も同様です。

 

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こちらのスライドは、既に2025年度入試で「情報」の出題を公表している大学をまとめました。

 

本日の会場である電気通信大学では、一般選抜の前期日程で「情報」を出題することを公表していますし、総合型、推薦型選抜ではCBTを利用した「情報」の出題を予定されています。

 

広島市立大学では一般選抜の後期日程で必須科目として出題をされます。さらに共通テストでも「情報」を必須としていますので、共通テストと個別試験の総点900点中500点を「情報Ⅰ」が占めます。非常に「情報」を重視しているということが、ここから見て取れます。

 

また、慶應義塾大学は現在2学部で既に「情報」が出題されていますけれども、新課程以降も「情報」の出題を継続すると公表しています。やはり注目は「情報Ⅱ」を出題することだと考えています。その他にも、スライド右下に挙げた大学で、新規の出題が予定されています。

 

このように新課程以降、高校生の「情報」の取り組みは変化していくと思います。恐らく、こういった個別試験での「情報」の出題に伴って、「情報」に関するスキルを強みとする受験生も今後増えていくでしょう。それにあわせて、大学の入試での出題状況も変わっていくと考えています。

 

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2025年度大学入学共通テスト 「試作問題」から見えてきたこと

 

ここから、あらためて新課程初年度の共通テストの全体的な状況を確認します。

 

本日のテーマとなっている教科「情報」だけではなく、2025年度からは新課程入試となり、それにあわせて出題教科・科目の構成が変わる教科もあります。さらに、スライドの②に示しているように、数学②・国語は試験時間が10分延長されたり、国語については現在、大問4問で構成されているところに、現代文の問題が1問追加されたりといった変更があります。加えて、教科「情報」が出題されますので、受験生の視点から見ますと、全体的に負担感が増していると感じます。

 

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2022年11月に「試作問題」が、正式に配点も決まり、本番を想定した大問構成で公表されました。これにより、既に公表されていた「サンプル問題」等を含めて、共通テストの全体的な概要がつかめる状況になってきました。

 

河合塾では「情報」の他、全ての新課程の新科目について問題分析を行い、河合塾ホームページ(※1)や『進学情報誌Guideline2・3月号』(※2)で、新課程を特集した記事を掲載しています。

 

『進学情報誌Guideline2・3月号』の教科「情報」の記事では、本日ご登壇の神代高校の稲垣先生にもご協力いただきまして、先生方と情報交換もさせていただきました。ぜひご覧ください。

 

※1  https://www.kawai-juku.ac.jp/exam-info/research/

※2  https://www.keinet.ne.jp/teacher/media/guideline/index.html

 

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2022年11月の「試作問題」公表、そして、共通テストは実施3年目を今年終え、その状況から少し見えてきたことをまとめました。

 

共通テストの特徴として、センター試験に比べ、問題文が全体的に長くなっています。また、複数の図、資料、リストが提示されたり、場面設定が重視されていたりというところも特徴的で、かつてのセンター試験と比べて、状況や課題の把握が求められる問題になっています。それから、課題解決、問題解決を意識した出題がされていまして、知識を単純に問うのではなくて、思考力・判断力が重視されています。

 

いかに、その知識を活用できるのか、といった出題がされていると考えられ、日頃の高校生、受験生の学習活動のあり方や姿勢も非常に重要になっていると感じています。

 

そして、全体的に問題文が長くなったため、結果として分量が増えています。さらに、先ほど申し上げたとおり、新課程入試では試験時間の延長や大問の追加等もあります。現行の共通テストと比較しても、2025年度以降は総量が増えていくでしょう。受験生の目線から見れば、情報処理力と長時間の集中力がより問われる形になっていくと考えています。

 

 

入試環境の変化に伴う受験生の動向

 

こうした中で、受験生の動向には、どういった変化が起こりそうなのかを見ていきます。

 

まず1点目は、共通テストの変更とは少し関係のない話になるかもしれませんが、今、受験人口は減少の一途をたどっています。恐らく2025年度入試では、大学入学定員を大学志願者数が下回る、いわゆる数値上の全入時代が到来しているだろうと考えています。

 

そのため、全体的には大学入試は易化しています。一方で、大学も総合型・推薦型選抜で、きちんと受験生を確保したいという意向もあり、そうした選抜方法にシフトする動きも加速していくと考えています。

 

一方、センター試験から共通テストへの移行では、先ほどから申し上げているとおり、受験生の負担感が増えます。懸念しているのは、受験生が安易な受験校の選択をしたり、共通テストを敬遠したりといった動きです。

 

 

具体的な数値をご覧ください。

 

全入時代の到来を示すものとして、スライド左のグラフには、入学定員と大学の志願者数の推移をまとめています。恐らく来春入試辺りで、その数値が逆転すると河合塾では予測をしています。

 

それからスライド右のグラフは、少し古い話なのですけれども、2004年度に国立大学がセンター試験を5教科6科目から5教科7科目に増やしたときの、国立大学の志願者数の変化をまとめたものです。

 

グラフのオレンジ色の部分をご確認いただきたいのですが、この2年間で志願者数が大きく減り、国立大離れが起きました。新課程入試で、6教科8科目になることが、同様に受験生の敬遠につながる可能性もあるのではないかと考えています。

 

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第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「2025年度情報入試のトレンド」 講演より