第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「2025年度情報入試のトレンド」より

令和7年度大学入学共通テスト『情報Ⅰ』の実施に向けて

独立行政法人大学入試センター試験問題調査官 水野修治先生

愛知県高等学校情報教育研究会・研究協議会より
愛知県高等学校情報教育研究会・研究協議会より

本題に入る前に、これまで情報処理学会には、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)『情報Ⅰ』の実施に関して、さまざまな発信をしていただいております。また、高等学校の教員向けの研修や、教員養成課程についての提案についても、私どもの背中を力強く押していただいております。あらためて感謝申し上げます。

 

さらに、「『情報』試作問題(検討用イメージ)」や「情報関係基礎」のアーカイブ掲載など、貴重な情報の掲載も大変ありがたく思っております。

 

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本日は、昨年11月9日に大学入試センターが公表した内容を中心にお話ししたいと思います。

 

この共通テスト『情報I』の問題作成方針の検討や、具体的なイメージを共有するための試作問題などについても、情報処理学会の多くの先生方にご尽力いただいております。厚く御礼申し上げます。

 

 

「試作問題」の問題作成方針の考え方

 

昨年11月9日に共通テストの試作問題『情報Ⅰ』(以下、「試作問題」)を公表しました。これは、令和2年11月公表の「試作問題(検討用イメージ)」、令和3年3月に公表した「サンプル問題」に続いて、大学入試センターにおいて、新課程の情報の問題を研究していただいた有識者の先生方に作成していただいたものです。

 

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最初に、有識者の先生方がどのような考え方の下で、この「試作問題」を作成したかをお伝えしたいと思います。

 

先ずは、大学入学共通テストの全教科・科目に共通の考えがあります。本日は時間の都合上、詳細は割愛いたしますか、一言で言えば、大学で学ぶために共通して必要となる基礎的な力を、新しい学習指導要領で重視されていることをきちんと踏まえて、この試験で測ろうとしています。

 

 

多くの学校では、新しい学習指導要領が求める、新しい時代に必要な資質・能力の育成や、その実現のための主体的・対話的で深い学びに向けた授業改善を進めているかと思います。大学入学共通テストでは、そうした授業を通して培われた生徒の資質・能力を適切に評価しようとしています。

 

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この共通テストの全科目共通の方向性をベースに、『情報Ⅰ』の問題作成方針に関する検討の方向性を公表しています。

 

特にお伝えしたいのは、真ん中の2点です。1つは、日常的な事象や社会的な事象を情報とその結びつきとして考えること。情報と情報技術を活用した問題の発見・解決に向けての探究的な活動の過程、および情報社会と人とのかかわりを重視しています。

 

もう1つは、社会や身近な生活の中の題材・資料等に示された事例や事象について、情報社会と人とのかかわりや、情報の科学的な理解を基に考察する力と、問題の発見・解決に向けて考察する力を問おうとしています。「試作問題」は、この方向性を意識して作成した問題です。

 

 

有識者の先生方によって作成された、今回の『情報Ⅰ』と、経過措置科目の『旧情報(仮)』の「試作問題」は、こちらのスライドのような問題構成となっています。

 

『情報Ⅰ』と『旧情報(仮)』は、学習内容としても重なるところがありますので、大問、中問、小問単位の①から④が共通問題となっています。

 

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「試作問題」の『情報I』の問題構成、および出題内容と配点がこちらのスライドです。配点のバランスは、多少違いがありますが、『情報Ⅰ』の4領域から出題しようと考えています。あくまでも「試作問題」ではこのような出題内容であったということで、令和7年度、本番の出題内容については、今後も引き続き検討していきます。

 

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■「試作問題」の特徴的な問題について

 

第1問:知っているかどうかよりも、説明文から読み取って考察できるかを問う

 

「試作問題」から、先ほどご説明した問題作成方針の方向性を具体的に表している問題を、3つご紹介します。

 

第1問は、情報社会と人とのかかわりの中で、情報および情報技術に関して科学的に理解し、適切に活用できるかを問う小問群で構成されています。

 

この中で特に紹介したいのは、問2の情報通信ネットワークに関するパリティビットの問題です。

 

恐らく、情報処理技術者試験であれば、「偶数パリティによる誤り検出方法において…」ということで、その仕組みを知識として知っている前提での問題になるかと思います。

 

しかし、この問題ではパリティの仕組みを知識として知っているかが重要なのではなく、その仕組みを説明文から読み取り、誤り検出の考え方をもとに考察できるかを問う問題となっています。

 

ここで誤解がないようにしていただきたいのは、知識はもちろん必要であります。ただ、ここでは知っているかどうかではなく、説明で与えられた知識を使ってそれを理解し、いかに思考・判断・表現等ができるかを問う問題となっています。

 

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第2問:身近な情報技術の仕組みの理解や知的財産権、探究的な考察ができるかを問う

 

次に第2問のA、2次元コードの問題です。

 

私たちの生活の中で利用されている、身近な情報技術の一つである2次元コードについて、知的財産権とのかかわりや、その仕組みの理解と、探究的な活動の中で得られる規則性や特徴について、考察できるかを問う問題となっています。

 

この中で、単なる知識ではなく、概念的な知識をもとに思考・判断・表現等をして解答を導く問題となっているのが、ここに挙げた問2の「位置検出パターンが円形ではなぜ都合が悪いのか」を問う問題です。もちろん、この内容は教科書にはなく、授業でもまず扱わないであろう、という前提で問題にしています。

 

 

ここでは、このパターンが3つあることと、説明文から読み取った際の判断の基準と、このパターンの形状の知識、つまり解像度と画像に関する概念的知識をもって、「円形であると都合が悪い」ということを類推しながら答えを導き出す問題となっています。

 

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第3問: アルゴリズムやプログラミングの基本的な考え方の理解、問題解決に向けて考察する力を問う

 

最後にプログラミングの問題です。

 

第3問は、日常的な題材である、お店でお金を払うときに、お釣りの硬貨の枚数がより少なくなるように考えるという問題解決を題材としたプログラミングの問題です。

 

問1で、ここが重要なところですが、この問題の中で、この場面で提示する「上手な支払い方」をきちんと理解する必要があります。問2では、問1において必要となる考え方をプログラムで考えさせ、問3では問2で作成したプログラムを関数として利用し、この場面で言うところの「上手な支払い方」をした場合の最小硬貨交換枚数を求めるという展開になっています。問題文でこの場面での考え方を丁寧に示し、最終的なプログラムに導くようになっています。

 

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問題の中のプログラムの表記は、授業でどのプログラム言語を学習してきても有利・不利なく対応できるよう、共通テスト用のプログラム表記を用いています。

 

重要なのは、それぞれのプログラム言語を扱うことにどれだけ習熟しているかではなく、アルゴリズムやプログラミングの基本的な考え方の理解や、この場において問題解決に向けて考察する力であり、それらを問う問題を出そうとしています。

 

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「共通テスト用プログラム表記の例示」でプログラム言語の特徴をつかむ

 

今回の公表資料の中に、「共通テスト用プログラム表記の例示」というものがあります。問題の中のプログラムは、特に説明がなくても理解できるような表現にしていますが、必要に応じてこの資料をご活用いただければと思います。

 

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加えて、プログラム表記例として二分探索のプログラムも示しています。このプログラム表記と同じ処理をフローチャート、Python、JavaScript、VBA、Scratchで記述した部分も載せています。どの部分がどこに対応しているか分かるようにした資料ですので、ご指導の参考にしていただければと思います。

 

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出題方法と得点調整は…

 

あらためて、『情報Ⅰ』と『旧情報(仮)』の出題方法を確認します。

 

『情報Ⅰ』と、経過措置科目の『旧情報(仮)』は、ともに60分で配点100点の試験となります。旧課程履修者は『情報Ⅰ』『旧情報(仮)』の2科目のうちから、その場で1科目を選択することになります。

 

新課程履修者は、『旧情報(仮)』は選択できません。また、『旧情報(仮)』は、先ほどの問題構成のように『社会と情報』『情報の科学』のどちらを履修していても不利益が生じないよう、両科目共通の必答問題とそれぞれの科目に対応した選択問題で構成する予定です。

 

『情報Ⅰ』と『旧情報(仮)』で著しく平均点に差が出た場合は、得点調整の対象とします。これまでと違うのは、受験者が仮に1万人を下回ったとしても得点調整の対象とすることを決めております。

 

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大学の情報リテラシー・データサイエンス教育も変わる必要がある

 

今後のスケジュールをご説明します。今年の6月頃、文科省が「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱」を公表し、大学入試センターが出題方法や問題作成方針を公表いたします。

 

その前に、各大学においては、令和7年度の共通テストにおいて利用する科目を変更する場合は,遅くとも令和4年度中には,各大学のアドミッションポリシーに基づいて公表することになっています。

 

既に多くの大学がWebサイトで令和7年度の入学者選抜の予告を公表しており、国立大学の多くが、国立大学協会の「原則『情報Ⅰ』を課す」という方針に沿った利用を示していると思います。また、公立大学や私立大学での利用も広がりつつあります。

 

 

こちらは、ある国立大学の1年次で学ぶ「情報リテラシー」という情報基礎科目のシラバスの項目です。

 

青い文字の項目は、おそらく高校の『情報Ⅰ』で学ぶ内容ではないかと思います。

 

 

こちらは、同じ大学の「データサイエンス」という科目ですが、おおよそが『情報Ⅰ』で学ぶ内容ではないでしょうか。

 

もし、これらの内容が大学入学時にすでに身に付いているとすれば、大学であらためて学ぶ必要もなく、さらに深い内容から始めることができることになります。

 

 

『情報Ⅰ』は情報に関する大学教育を受けるために必要な力を測る試験ですので、それを課すことによって、当然、大学の情報基礎教育も変わってくることになると思います。

 

 

最後に情報をご専門にされている大学の先生方にお願いがあります。

 

令和7年から始まる共通テスト『情報Ⅰ』は、情報社会に生きる生徒にとって欠かすことができない基礎科目となります。本日ご説明した方向性の下、共通テストにふさわしい良問といわれる問題、つまり大学入学の選抜試験として必要な識別性を確保しつつ、さまざまな学術的な視点からの検証や批判にも耐え得るような堅牢性の高い問題を、今後何十年も作り続けていかなければなりません。

 

問題作成は、多くの時間と労力を必要とする、大変かつ神経を使う作業です。しかし、大学の先生方のご協力なしでは共通テスト『情報Ⅰ』は持続できません。今後、ご協力をお願いすることになりましたら、ぜひお力添えいただきたいと思います。

 

第85回情報処理学会全国大会 イベント企画「2025年度情報入試のトレンド」より