WCCE2022

“Toward a collaborative society through creative learning”

 

「教育におけるコンピュータ」をテーマとする国際会議「WCCE (World Conference on Computers in Education) 2022」が、8月20日~24日、広島市の広島国際会議場をメイン会場として、オンラインとのハイブリッドで開催されました。

 

WCCEは、情報処理国際連合(IFIP:International Federation for Information Processing)の教育に関する第3技術委員会(TC3:Technical Committee 3)が1970年から開催している、情報教育と教育へのデジタル技術利用に関する国際会議です。2001年からは4年に1回開催され、広島大会はアジアで初めて2021年に開催される予定でしたが、コロナ禍で1年延期となり、今回のハイブリッド開催となりました。

 

今回の大会テーマは、“Toward a collaborative society through creative learning”。 

 

研究者や現場の教員、企業や教育行政の担当者による研究発表やワークショップに加えて、情報処理学会による高校情報科の教員研修や、元文部科学副大臣の鈴木寛氏による無料の市民公開講座、台湾デジタル担当相のオードリー・タン氏(オンライン)や数学教育者でジャズピアニストの中島さち子氏らによる基調講演など、世界の情報教育の最先端の英知が結集した大会となりました。

 

この世界大会の開催が決まった当時は、新型コロナ禍もウクライナ侵攻もなく、会場となった広島国際会議場に世界の研究者が集うはずでした。1年の延期を経て、世界各国からの登壇者や参加者が、空間や時差の隔たりを超えて集うハイブリッド開催が実現したのは、まさに情報技術の賜物であり、この大会そのものが、新たな技術と創造性が生み出すcollaborationの形を示すものとなりました。

 

中島さち子氏とオードリー・タン氏の基調講演をレポートします。

 

 

■基調講演 

Possibilities of CoCreative STEAM Ecosystem in the 21st Century, to Democratize

 

中島 さち子氏

 

ジャズピアニスト、数学研究者、STEAMS教育者、メディアアーティストと多彩な顔を持つ中島氏の基調講演では、氏が代表を務める株式会社steAmが、日本をはじめ世界各国で手掛ける様々なSTEAM教育の実践事例が紹介されました。

 

STEM/STEAM教育は、“Project-based,Inquiry-based, Inter/Multi- disciplinary Learning Journey over Science、Technology、Engineering、Arts and Math”であり、「科学者や数学者のように考え、芸術家やエンジニアのように創り出す学び方・生き方」を象徴します。

 

S・T・E・A・Mの点と点をつなぐことで生まれる様々な活動は、多様な人や自然やAIとの豊かな共存に満ちた「場」を創り出し、子どもたちをLearning Journeyに誘います。

 

講演の中で「Democratize」という言葉が何度も登場しました。デザインのDemocratize、音楽のDemocratize、創造性のDemocratize。直訳の「民主化」というよりは、「一部の限られた人しかできなかったことを、誰もができるようにする」という意味が近いでしょうか。音楽で言えば楽器の演奏や楽譜の読み書きなど、これまでハードルになっていたものを、コンピュータのテクノロジーを使うことで取り払い、誰もがミュージシャンや指揮者になれる、ということです。

 

さらに、プログラミングによって様々なメディアやエフェクトを組み合わせることで、これまでになかった作品を生み出すことができる。Everyone is Creative, Creativity is Diverseこそが、STEAM教育の目指すものなのです。

 

 

今後、小学校から大学までの一貫した情報教育の整備が、一層求められることになります。今回の講演では、「playful」という表現がよく出てきましたが、小学校低学年からテクノロジーを使った自由な表現や創作に、楽しみながら熱中して取り組むことを通して、機器の操作や簡単なプログラミングに親しむことで、高校・大学と進む中で仕組みや理論に目をむけていく基盤が形成される可能性を感じることができました。

 

 

■基調講演

Creativity, Computing Power, and Children's Future in Civil Society of the 21st Century

 

Audrey Tang(オードリー・タン:唐鳳)氏 台湾デジタル担当大臣

 

オードリー・タン氏の基調講演は、広島のメイン会場と台湾をオンラインで結んで行われました。

 

タン氏は、「台湾の 10 人の偉大なコンピューティング パーソナリティ」の1人と言われるソフトウェアプロクラマーであるとともに、蔡英文政権のデジタル担当大臣として、市民のデジタルサービスへのアクセスを促進するとともに、オープン データとオープン ガバメントを提唱し、市民が自由なデータ利用からより多くの利益を得られる環境づくりを提唱し、民主主義のためのデジタル技術の利用を進めています。

 

基調講演は、あらかじめ大会参加者から募った質問から、多くの人から賛同のあったものに対してタン氏が回答していく形で進められました。印象的な回答のいくつかをご紹介します。

 

※同時通訳からの記事になるため、ニュアンスの違いはご容赦ください。また、タン氏の回答に合わせて質問の表現を編集した部分があります。

 

 

Q1.「創造性」というものを測定することは可能なのでしょうか。

 

A1. 教育者には、学習者がどのように創造性を獲得しているかということを測定するためのツールが必要です。私は、創造性というのはコミュニティの中で測定していくものであると思います。そして、コミュニティの中で創造性を求られる場面で、評価するためのシグナルができてきます。

 

これが1対1であると、創造性を測ることは難しくなります。なぜならモダリティ(modality: 話している内容や聞き手に対する話し手の判断や態度(attitude)に関する言語表現の概念体系) がいろいろ異なるからです。

 

創造性のモダリティはたくさんありますが、先⽣はそれに対して、すべてのモダリティを知っているとは限りません。

 

そのための学びは、目標ベースのPBLであるべきです。ただ、この目標のためには、それぞれのコミュニティがもう一度リバイタライゼーション(revitalization:再活性化)することが必要です。これは台湾でも日本でも同様に必要です。共に学び、知識を共有していく世界です。個人ベースの競争よりも、お互い協力し合っていくという世界が大切なのです。

 

 

Q2.将来的に、例えば10年後を考えると、どういった世界になると思いますか。

 

A2.これには、インターネットがとても重要なポイントだと思います。10年後にはインターネットでは6Gが出てくると思います。様々な技術の中でも、インターネットが最も将来の⽅向性を規定してくると思います。

 

例えば、私たちは今、同じ会場にいなくても話し合うことができます。10年後には、私たちはあたかも同じ会場にいるかのような雰囲気を感じることも、ある程度できるようになるでしょう。

 

そうすると、私たちの、人と人との結びつきも変化します。これまで、私たちはインターネット越しでも、ある種の距離感というものは感じていたと思いますが、10年後、6Gが出てきて、様々なものがインターネットを介して共有することができるようになってくると、私たちがある国に存在することによって感じていた「市⺠」という感覚も変わってくると思います。

 

私たちが今、存在している場の境界線というものがどんどん変わってきます。私たちは今もインターネットを通じて、時間軸を超えて昼間はアメリカへ⾏って、夜はインド、⼤⻄洋の地域、あるいはヨーロッパへ⾏ったり、ということができますが、それがさらに現実的な形になってくると思うのです。

 

このネットワークの技術は、これから更に進展すると思いますし、それに重なる形でプルーラリティ(plurality: 複数存在すること)という感覚が、さらに現実化してくると思います。

 

 

Q3.デジタルの開発において、重要なことは何でしょうか。

 

A3.デジタルの開発で重要なのは、⼈権です。⼈権に対する考え⽅、その価値観は、私たちは⽇本と共感するものがあります。「誰も取り残さない」ということです。

 

そして同時に、デジタルリテラシ―、デジタルコンピテンシーについても教えていく必要があります。リテラシ―というのは消費者としまして重要なこと、そして、コンピテンシーとは私たちを⽣産者にしてくれるものです。

 

これらは、協力し合う中で学んでいく必要があります。ですので、⼩学校から協働でものを作ったり学んだりする環境を作っていくということが重要だと思います。そうすることによって、学⽣たちはモチベーションを得て、テストで良い成績を取るだけでなく、⾃らが旗振り役となって、主体的に創造していく。そして、国のために、また国際的にも新しいマテリアルを創造していこうという意識になっていくと思うのです。 

 

 

Q4.学⽣の時に身に付けておくべきことは何でしょうか。

 

A4.私はまず、「良く睡眠を取りなさい」と⾔います。私は8時間寝ないとうまく働くことはできません。⾼校生であれば、9時間くらいは睡眠が必要ではないでしょうか。もちろん、⼈によって違いますが、私は6時間しか寝なければ、必ず昼寝をして8時間を確保しようとします。睡眠が不足すると、短期記憶がうまく働きません。そして、短期記憶がうまくいかないと、⻑期記憶もうまくいきません。

 

 

Q5.人生において、最も重要なゴールは何でしょうか。

 

A5.私が死ぬ時に、⽣まれた時よりも世界をより良いものにしていきたい、より良い先⼈になっていきたいと考えています。

 

大事なのは、⾃分たちの⼦どもや孫の代とかではなく、7世代先の⼦孫のことを考えていくことです。私たちはともすれば、将来の⼦孫について考えることを忘れてしまいがちです。

 

しかし、たとえば、今この社会の18歳の⼈々が、目先の⾃由主義や市場経済といったことばかりに集中して⾏動を起こしてしまったら、遠い将来の先の⼈に対してツケを残してしまうでしょう。ですので、将来の世代の⼦孫に対して選択肢を残していく、という意味で良い先⼈になることが重要だと思います。

 

 

※オードリー・タン氏の基調講演

https://youtu.be/uObtiTjCpbU

 

■大会運営に活躍した高校生たち

WCCE  2022twitterより
WCCE 2022twitterより

この国際会議は地元広島と大阪の高校生がボランティアスタッフとして会議運営の重要な役割を担っていました。

クラーク記念国際高等学校広島キャンパスの高校生のみなさんは、「総合的な探求」の時間にプロジェクト型の学びとして、海外からの会議参加者にむけたマップづくりを行い「海外のゲストがどんな情報が有益か」ペルソナを考え、「広島の魅力を伝わる場所」「ヴィーガンの方向けの料理やハラルフードを提供しているお店、英語で対応できるお店、日本食を提供しているお店」などを実際にフィールド調査をしながらまとめたそうです。

 

そして、会議当日には オンラインも含めたハイブリッド開催になったため、7つの分科会が全てオンライン会議形式となり、zoom meetingの接続から画面切り替えなどを、全て同校の生徒の皆さんだけでオペレーションを担当し、途中の機器トラブルや、発表者との対応も英語で対応しました。

 

また、クラーク記念国際国校梅田キャンパスからボランティアスタッフ参加した生徒の皆さんは、

「インターナショナルコース」に在籍し語学が堪能であるため、英語・スペイン語などを駆使して、オンライン配信サポートをおこなっていました。

 

基調講演ではオードリータン氏の特別講演に総合進学コースの生徒約150人が参加し、英語でオードリータン氏に質問を投稿して直接答えてもらい、実際にインターネットを通して国を超えたコミュニケーションに感激していました。

 

彼らなしではハイブリットでの本会議成功はありえなかった、と絶賛される活躍を見せ、最終日のクロージングセッションでは壇上で大きな拍手を浴びました。

高校生が、国際学会の運営に深く関わって「情報とコミュニケーション」に関わる活動ができたことは、彼らにとってもまたとない貴重な経験になったことでしょう。

 

[クラーク記念国際高等学校ホームページ  WCCE関係の記事はこちら]

【告知】国際会議 WCCEで外国人向けのオリジナル地図を紹介します!(広島キャンパス)

【キャリア学習】クラーク国際広島の2年生が外国人向け地図づくりに挑戦~テレビ取材も!~

【特別活動】オードリー・タン大臣の講演会へ参加!~なんと!生徒からの質問に直接答えてくだ

 さいました!~

【国際会議】全てが英語!世界中の研修者が広島に!運営スタッフとしてクラーク国際広島生が

 参加しました。~WCCE2022~

 

4日間の大会では、最先端のICT教育の紹介や問題点の共有、教育手法から政策の提言まで、連日様々なセミナーやワークショップ、ポスターセッションやパネルディスカッションが開催されました。

オンラインと現地とのハイブリッド開催となったため、登壇者や参加者の多くが自国からのオンライン参加となり、時差に配慮したプログラムが組まれるなど、新たな国際会議のあり方が示されました。