第15回全国高等学校情報教育研究会全国大会

情報Ⅰ、情報Ⅱ、そして情報入試 ~全高情研とともに

電気通信大学 中山泰一先生

ご本人提供
ご本人提供

私は、これまで全高情研の皆様とはいろいろ一緒に勉強させていただいてきましたので、今回このような場をいただいたことを大変光栄に思っております。本日は、『情報Ⅰ、これまで情報入試の普及について私たちがどのようなことをしてきたかについてお話ししたいと思います。

 

最初に簡単に自己紹介いたします。電気通信大学では、情報・ネットワーク工学専攻ということで、専門は計算機科学ですが、最近は情報教育に関することも研究テーマとしています。

 

 

並列処理の研究では、1993年に東京大学から電気通信大学に着任して最初に行った研究が、64台のUNIXワークステーションをつないで仮想的な分散メモリ型の並列計算機を作って、ゲーム木を効率的に並列探索するためのシステムを構成することでした。ゲーム木を効率的に並列探索するためのシステムを構築して、19~25手程度の詰め将棋問題を解くということをやりました。

 

この研究成果は、『ICCA journal』というコンピュータチェスの雑誌に掲載されましたが、詰め将棋に関する成果ではこれが最初でした。

 

 

こちらが、当時私が計算実験に用いた25手詰めの問題です。私は高校時代から囲碁を嗜んでいましたが、将棋は電気通信大学の上司の野下浩平教授が将棋の専門家で、一緒に研究しました。

 

当時の技術では、25手の詰将棋の問題は1台のワークステーションでは2週間かけても解けませんでしたが、64台をつなぐことで、並列計算機として処理することで解くことができたというわけです。

 

 

私は電気通信大学で情報科の教職課程も担当しています。

 

これは私の生い立ちにも関わっています。私は神戸大学教育学部の附属小学校を卒業していますが、附属小学校では入れ替わり立ち替わり教育実習の先生方が来られるので、「大学に行くと教育実習に行くものだ」と刷り込まれていました。そして東京大学の大学院修士課程のときに教育実習に行き、修士課程を修了するとともに、中学校と高等学校の数学の専修免許を取りました。

 

電気通信大学では、もっぱらコンピュータの専門教育を行っていましたが、大学で教職課程を維持していく上で情報科教育法の講義を担当できる教職担当の教員が必要ということで、教職課程を担当することになりました。今、私がメディアに出るのは、情報教育に関わることのほうが多くなったのはこのような経緯です。8月8日の東京大学新聞で「『情報』共通テスト 導入経緯と課題」という記事が出ておりますので、ご覧いただければと思います。

 

https://www.todaishimbun.org/johokyote_20200808/

 

 

情報入試のあゆみと情報処理学会

 

高等学校情報科と情報入試の経緯についてまとめました。

 

情報入試は、1997年に大学入試センターの「情報関係基礎」から始まりました。ご存じのように、高等学校の教科として情報科が設置されたのは2003年で、「情報A」「情報B」「情報C」からの選択必履修でした。

 

2013年から今年の3月まで実施されていた学習指導要領では、情報科は「情報の科学」と「社会と情報」の選択必履修でした。同じ2013年に、「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定され、小学校でのプログラミング教育の必要性が示されました。

 

 

2013年12月の毎日新聞の記事によると、この「世界最先端IT国家創造宣言」の閣議決定を受けて、文部科学省がIT人材の育成や情報機器の充実を掲げるなど、情報教育が政策としても重要視されていましたが、当時町田高校の小原先生が、「情報が重要という割には、教員採用が少なく、政策とのギャップを感じる」ということをおっしゃっていました。

 

つまり、閣議決定されても、そこからいきなり私たちが目指すような情報教育が充実したところになったかというと、必ずしもそうではなかったというわけです。

 

 

当時、私たち情報処理学会では、「情報入試の普及」に取り組んでいました。

 

情報処理学会では、2005年から毎年10月に「高校教科情報シンポジウム」(通称:ジョーシン)を開催しており、「ジョーシン2011秋」では「学会は情報教育にどう貢献できるか」、その翌年には「情報の新しいカリキュラムと入試」というテーマで議論を重ねてきました。

 

 

「ジョーシン2011秋」のパネル討論には、当時の慶應義塾大学環境情報学部(SFC)の学部長だった村井純先生をはじめとする方々が、「学会は情報教育にどう貢献できるか」という話をすることになっていたのですが、そこで村井先生が「自分たちは、2016年にSFCで情報の入試を始めることを目指すから、皆さんも頑張っていきましょう」ということを言われました。そのために有志で2013、2014、2015年と3回模擬試験を実施して、2016年2月から「情報」の一般入試を始める、と。

 

 

そうなったら私たちも頑張りましょうということで、筧先生、村井先生、植原先生、角田先生、久野先生、辰己先生、中野先生と私とで「情報入試研究会」を立ち上げました。

 

この研究会の目的は、

・情報の入試問題として適切な内容、水準の共通認識を示す標準問題を作成・公表する。

・良質で多様な標準問題の公表を通して、情報の教育内容や到達水準についての社会の共通認識を確立し、それに向けた情報教育を促す。

・標準問題を用いた模擬試験を実施して、結果を分析して公表する。

としました。

 

 

情報入試研究会の発足日が、「第1回情報入試フォーラム」を開催した2012年3月3日となります。以来、現在まで10年間、下図のような活動をしてきました。

 

2012年10月に最初の試作問題を公開した後、2013年5月に第1回の模擬試験を行い、その後2014年、2015年、2016年のいずれも2月に、合計4回の模擬試験を実施しました。

 

 

こちらが第1回模擬試験の様子です。この時は東京、名古屋、大阪、福岡で実施しました。

 

 

第1回大学情報入試全国模擬試験は80人が受験しましたが、高校生は47人で、33人はそれ以外の方、主に全高情研などで情報科の教育研究をされている先生方が受験してくださいました。

 

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第1回で受験してくださった先生方が、ご自身の生徒さんに「受けてみない?」と声をかけてくださって、第2回は高校生の受験者が858名、高校生以外が11名で、この時の成績はほぼ正規分布に近い分布になりました。

 

こうして、第1回から第4回まで、延べ4000人の高校生に受験していただくことができました。情報処理学会だけでは、到底これだけの高校生の協力をいただくことはできません。全高情研の先生方が常に支えてくださっていたおかげで、ここまで来ることができました。

 

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私たちは、模擬試験の結果を分析して、必ず全高情研の全国大会で発表して、フィードバックをいただいてきました。

 

 

第10回の全高情研では、当時の会長の牛来先生と、現在の会長の福原先生から電気通信大学を会場とすることを打診され、ホスト校として開催させていただくことができました。

 

この当時になると、だんだん情報入試が始まるという機運が高まっていて、大会では情報入試に関するパネル討論も開催されました。

 

 

情報入試の導入に関する提案は2016年3月の時点で示されていた

 

ここまで、私たちが情報入試の普及に最初に取り掛かった辺りの経緯と、全高情研の先生方にご協力をいただいたことについてお話ししましたが、2016年には、他にも二つの大きなことがありました。一つが、日本学術会議が「情報学の参照基準」を策定したことです。

 

日本学術会議では、「情報学は、情報によって世界に意味・価値を与え、秩序をもたらすことを目的に、情報の生成・探索・表現・蓄積・管理・認識・分析・転換・伝達に関わる原理と技術を探求する学問である」と定義しました。

 

情報学の専門教育は、1970年に5つの大学において始まりましたが、2016年になって初めて定義付けがされたと言えます。

 

 

もう一つがこの年、「高大接続システム改革に関する検討会議」が、大学入試センター試験の後継のテストとして、「(仮称)大学入学希望者学力評価テスト」を設けることを提言し、新しい学習指導要領に切り替わった段階、つまり2025年の入試から情報科を試験内容に含める、ということを示したことです。

 

つまり、今年から新学習指導要領に基づく「情報Ⅰ」、また来年から「情報Ⅱ」の授業が始まるわけですが、それを学んだ生徒が大学入試を受験するときから情報科を試験内容に含めるということは、2016年3月ですでに骨子のようなものは提案されていた。つまり、2012年から4年間かけて、私たちが全高情研の先生方に助けていただきながら、情報入試の普及活動をしていたときとちょうど同じタイミングで、大学入試センターの試験に情報科を入れる、という話がスタートしていたことになります。

 

 

先ほどの年表に戻りますが、2018年に「第16回未来投資会議」で、大学入学共通テストの試験科目に「情報Ⅰ」を入れる方針が示され、当時の安倍総理大臣が「『情報』の素養は、現代で言うところの読み書き、そろばんである」ということを言われて、このような方向付けがされましたが、2016年3月時点には、すでにその骨子となる提案がされていた、ということになります。

 

2020年に小学校でプログラミング教育が導入されました。これは、先ほどお話しした2013年の「世界最先端IT国家創造宣言」から7年経って、小学校へのプログラミングが実現したということになります。

 

同じ2020年に、日本学術会議が「情報学の参照基準」に加えて、「情報教育課程の設計指針-初等教育から高等教育まで」を提言しました。つまり、小学校から中学校、高等学校にまで一貫した情報教育を、さらに大学にどのようにつなげていくか、といったことが提言されています。

 

2021年には大学入学共通テストが始まり、今年(2022年)から新しい高等学校学習指導要領が実施されて、情報科は「情報Ⅰ」が必履修、「情報Ⅱ」が選択科目となりました。

 

そして2025年から、新学習指導要領で学んだ生徒に向けた大学入試が実施されることになります。

 

 

2003年に情報科が設置されたときには、「情報A」「情報B」「情報C」の3科目からの選択必履修でした。この中でプログラミングを内容に含んでいたのは「情報B」だけでした。しかし、「情報B」を設置した高校は、全国5000校のうちの約1割、500校程度だったということになります。

 

2013年から旧学習指導要領が実施され、「情報の科学」と「社会と情報」の選択必履修となりました。

 

プログラミングを内容に含むのが「情報の科学」で、「社会と情報」にはプログラミングは含まれていません。その旧学習指導要領の科目選択においては、「情報の科学」を教えているのが約2割で、8割の学校が「社会と情報」を教えていました。

 

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ところが、今年の4月から「情報Ⅰ」が共通必履修科目となり、さらに来年からは、その上に発展的選択科目「情報Ⅱ」が置かれることになります。

 

その内容です。「情報Ⅰ」は、こちらのスライドにあるように4つの領域に分かれていますが、これをざっと見ると、「(2)コミュニケーションと情報デザイン」は、「社会と情報」から移ってきた内容かなと思われますが、「コンピュータとプログラミング」「情報通信ネットワークとデータの活用」は主に「情報の科学」の内容と言えますから、「情報Ⅰ」は実際は「情報の科学」の内容が半分以上を占めていることになります。

 

「情報Ⅰ」は今年4月から始まりましたが、全高情研の先生方の中には、少し早めて1、2年前から先行的に「情報Ⅰ」の内容も含めた授業をされていた先生もいらっしゃいましたので、新しい内容についてもきっちりとした準備をされてきている先生がかなり多くいらっしゃるのではないかと思います。

 

「情報Ⅱ」についても、やはり「情報の科学」的な内容に重きを置いていることがわかります。

 

 

2025年情報入試の実施に向けて

 

「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」に係るスケジュールは、着々と進んできています。今年から「情報Ⅰ」の授業が開始され、「情報Ⅱ」は、来年から授業が開始されます。「情報Ⅱ」の教科書は3冊検定が通っているので、それの中から採択することになります。

 

右側に「共通テスト」と「個別テスト(検討中)」と書いてありますが、共通テストについては2021年度中に実施大綱の予告がされて、「情報Ⅰ」が共通テストに含められることは既に文部科学省において決定しています。

 

今後2023年に実施要項が公表され、2024年度(つまり2025年1月)に大学入学共通テストの「情報Ⅰ」がスタートすることになります。

 

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2018年から2020年頃は大学入学共通テストに「情報」が入るということで、そこに向けて、情報学に関わる学会等が意見を出していました。全高情研は、いち早く2018年の第11回全国大会秋田大会の大会宣言で、大学入学共通テストに情報が加わることについて、自分たちは着実に準備をする旨を表明されています。

 

情報処理学会は2020年3月に、日本情報科教育学会は同年4月に、また情報系の学科・大学院の専攻が加盟する情報学科・専攻協議会という団体がありますが、そこも「大学入学共通テストに情報を出題することについての提言」というものを出しました。

 

 

すると社会の注目も集まってきて、最初に2020年10月にNHKの『おはよう日本』で、大学入学共通テストで情報が出題される方向で検討されている、という報道が流れました。

 

こちらは朝日新聞の記事ですが、2020年10月22日のトップ記事で、「共通テストに新教科情報が入ること。現行の30科目を20科目に再編した上で、情報を加えた7教科21科目に再編される」という素案をまとめたことが報道されました。

 

 

さらに、2020年11月24日には、大学入試センターが『試作問題(検討用イメージ)』を公開しました。これは、「情報」を含めた21科目の試験になると言っても、他の教科・科目は問題のイメージがつかむことができたとしても、「情報」って一体どんな問題が出るんだろう、という関心が高かったため、全国高等学校校長会や都道府県の教育委員会をはじめ、情報処理学会、日本教育工学会、電子情報通信学会、日本ロボット学会、人工知能学会なども含めた、情報系の学術団体に対して配布されました。

 

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「試作問題」は8問あって、「情報Ⅰ」の4つの領域から満遍なく出題されています。このことから、大学入試センターからのメッセージとしてわかるのは、大学入学共通テストのテスト対策の勉強をせよということではなく、高等学校では「情報Ⅰ」の内容を満遍なく教えてきてください、ということであると思いました。

 

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この「情報」の「試作問題(検討用イメージ)」は、大学入試センターから特に許諾を受けなくても自由に使うことができるものになっています。

 

こちらは、「情報処理」の2022年6月号の記事ですが、愛知県立小牧高等学校の井手先生が、授業で「試作問題」で出題された交通渋滞シミュレーションを、実際に生徒さんたちに解かせた報告をされています。

 

井手先生も全高情研で活躍されている先生のお一人ですが、これからの情報科の教育に向けて、前向きに取り組んでいらっしゃる先生方は、「情報」が大学入学共通テストに入ることに向けて待ち構えていらっしゃるな、と大変心強く思っています。

 

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この大学入試センターの『試作問題(検討用イメージ)』に対して、情報処理学会は12月2日に、日本教育工学会は同4日、教育システム情報学会は10日というように、概ねどの学協会も賛同の意思を示しています。

 

 

また、12月14日に8大学情報系研究科長会議が「大学入学共通テストの情報に関する要望」を公表しています。

 

8大学情報系研究科長会議というのは、旧7帝大と東京工業大学の情報系の大学院の研究科長の会議ですが、ここが「大学入学共通テストに情報を入れることを望む」という提言を出しました。さらに、この中では、「いずれは情報Ⅱまで含めた大学入試が行われるべきである」といったことまで言っています。さらに、人工知能学会や日本産業技術教育学会も賛同の意思を示しました。

 

 

各大学はどのように対応するか

 

2021年7月30日に、文部科学省は共通テストに「情報」を入れることを正式決定しました。これは時事通信の記事ですが、これを読む限りにおいて、「国立大学の入試に関して、国立大学協会が情報を加えることを原則とするかどうかを検討しており、今秋にも決定する」ということが書かれています。

 

 

そして、実際には2021年秋ではなく、2022年1月28日に「国立大の受験に『情報』の追加を正式決定し、共通テストは『情報I』を加えた6教科8科目を課す」ことが原則となるということが決定しました。国大協の永田会長(筑波大学学長)は、「未来を考えたとき、データサイエンスやAIは非常に重要である。『情報Ⅰ』を教える体制には、地域間、学校間で差があり、対応が急務となっているが、最低限の状況は整っていると理解している」と述べています。

 

 

今年の4月1日の朝日新聞では、東京大学が全受験生に「情報」を課すということを報道しています。これはやはりかなりのインパクトを与えました。

 

 

共通テストに「情報」を課す国立大学として最初にそれを表明したのが九州工業大学で、その後東京大学、旧帝国大学では、大阪大学や九州大学が共通テストで「情報」を課すことを表明しています。

 

また、東京学芸大学は「全てのコース・専攻において情報を必須とする」としています。これも大変心強い話で、「これから小学校、中学校、高等学校の先生になろうとする人は、学校種や教科に関わらず情報の素養をきっちり身に付けてきてください」というメッセージになっていると思います。

 

私の本務校である電気通信大学も今年7月に共通テストで「情報」を課すことを表明しています。ここに挙げているのは、私が現時点で共通テスト、情報を課すということを示しているウェブページとかを確認できたものですが、逆に国立大学で「自分のところは情報を課しません」と表明したところは、私はまだ見つけていません。これからあと、恐らく全ての国立大学で情報を課すことは決まるのではないか、と思っています。

 

また、私立大学においても「『情報』を選択科目の中に入れてよい」としているところが多く見られます。例えば、早稲田大学人間科学部も情報を選択科目としてよいと言っており、最も良い点数の科目を評価にすると言っています。

 

 

大学入試への「情報」の出題につきまして。共通テストは「情報Ⅰ」から出題されます。これまで共通テストでは、専門高校の生徒を対象とした「情報関係基礎」が出題されてきました。「情報関係基礎」の問題は全て公開されていますので、今後「情報」の出題を考える際の一つの参考にはなると思います。

 

ただ「情報I」は、専門高校の生徒を対象とした「情報関係基礎」と比べると、普通科高校の生徒でも受けやすい難易度のものが出題されるのではないかと推測しています。

 

つまり、高校時代に「情報Ⅰ」の授業をきちんと受けてきて、実際にプログラムを自分で作ったり、データの解析を行ったりしたことがある生徒さんたちであれば解くことができるような、そういったレベルの問題が出されるものと期待しています。推薦入試や個別学力試験においては、「情報Ⅰ」に加えて「情報Ⅱ」から出題する大学が出てくることは、十分にあり得ると思います。

 

 

共通テストに「情報」の導入によって、改めて教員採用問題が明るみに

 

ここで、高等学校情報科の教員の現状についてお話ししておきたいと思います。

 

ご存じのように、大学入試に「情報」が入ることについて、教える体制は大丈夫なのかという問題提起が、様々な人がされています。

 

このスライドは、私が2013年に調査をした教員免許状授与の件数です。全教科で6万7000人の普通免許状が出ているうち、情報の免許は1826人、割合にすると2.7%です。 

 

当時、高等学校卒業に必要な単位は74単位。「情報の科学」と「社会と情報」のどちらかを選択必履修で2単位取らなければいけませんから、74単位のうちの2単位として考えると2.7%になるので、情報科の教員養成としては十分にされていると考えられます。

 

情報科の教員養成が追い付いていないのではないか、と誤解されている方がいらっしゃいますが、情報科の教員免許を取る大学卒業者は十分にいるということです。

 

ところが、公立学校の教員採用数を調べると、2013年度は全国4991名のうち情報科が34名、これは0.68%ということになります。学校の単位数で言えば、本来は2.7%分採用していただかなければいけないわけですが、0.68%しか採用されてなかったのです。

 

では、その分はどうやって補ったかと言いますと、臨時免許状と免許外教科担任です。

 

真ん中の表にあるように、臨時免許状が全教科で2792人のうち情報科が376人、免許外教科担任が全教科で4122人のうち情報科が1360人というように、本来臨時免許状や免許外教科担任は、ある程度はやむを得ないとしても、まるで情報科を狙い撃ちにしたような状況だったのが、2013年です。このように、情報科の教員の採用数が少なく抑えられていました。

 

 

最初のほうで申しましたが、私は2011年から本務校で情報科教育法を担当し、情報科の教員養成を行ってきましたが、なぜか公立学校の教員採用試験を受けても採用されない。最初は、彼らが教職教養の勉強を十分にしていなかったのかな、と思ってたりしていましたが、先ほどお示ししたように、0.68%しか採用されないような状況では仕方ないことだったのかな、という気もするわけです。

 

言葉を選びながら言いますが、せっかく一生懸命情報科の教員養成をしてきても、全く採用されないというのはいかがなものかという、怒りのエネルギーのようなものも感じていたように思います。

 

 

ちょうど私が調査をした頃、文部科学省でも2016年3月に「高等学校情報科担当教員への高等学校教諭免許状『情報』保有者の配置の促進について(依頼)」という指導通達を出しました。

 

それによると、情報のみを担当している情報の専任の先生は全体の約2割で、情報科以外の教科も担当している人が約5割、残念ながら3割程度の先生(約1600人 )が免許外教科担任である、ということが示されています。

 

 

さらに、「情報のみを担当する教員が2割」というのが、全国津々浦々で2割なのかというと、そうではなくて、東京や埼玉、沖縄では85%以上の先生が情報だけを担当していますが、全国的に見ると情報だけを担当している先生が10%いないという県もあり、いくつかの県では0人だった、ということも調査の結果で分かっています。

 

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ちょうどその頃に、大学入学共通テストに「情報」が入ってくるということが示されたので、新聞各紙も大変興味を持つようになりました。

 

 

7月24日の朝日新聞でも、そのような記事を出しています。2019年に、内閣府がAI戦略として「AI人材を育成すること」を目標に掲げ、小中学校では理数の興味関心の向上、高校では全ての高校生が基礎的リテラシーを習得、大学入試では「情報Ⅰ」の採用の拡大、といったことを打ち出しました。

 

 

遅まきながら教員の採用も始まった

 

こういったことがやはり引き金になったと思いますが、2021年には、全ての都道府県において情報科の教員の採用試験が始まっています。こちらは、情報処理学会の中野由章先生の資料ですが、直近5 年間で情報科の教員採用が最も多いのは神奈川県で、43人採用しています。

 

情報科の教員採用試験を初めて実施したのが遅かった県の中には、ここ数年で急にたくさん採用しているところもあり、方針を決めさえすれば、採用できるということが示されているわけです。

 

 

2021年3月23日の文部科学省の通知を見ると、情報科の免許外教科担任は954人まで減っています。

 

 

前述のように、昨年から全ての都道府県で情報科の教員の採用が始まっていますし、また、2019年頃から情報科教員の採用数は増えていて、先ほども申し上げた7月24日付の朝日新聞の記事によると2022年の採用数は113名と、2013年当時の3倍以上に増えていることになります。

 

2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」で大学入学共通テストの「情報」の出題の方向が示され、同じ年の7月に、大学入試センターが都道府県教育委員会等に、「情報」の問題の素案の提供依頼をしていたことは、どの都道府県教育委員会においても、「情報Ⅰ」の教育を重視していかなければいけない、という方向に舵を切るきっかけになったのではないかと思います。

 

 

小学校から大学まで、体系的なカリキュラムの推進を

 

これから大事なこととしては、まず小中高校から大学まで一貫した情報教育の体系的なカリキュラムを進めること。小学校においても中学校においても学習指導要領で定められたとおりに情報教育は充実させていくべきであり、高等学校でも「情報Ⅰ」さらに「情報Ⅱ」の教育をきっちりと行っていくことが重要だと思います。今の学習指導要領でもそのような設計になっています。

 

それから、情報入試を普及させていくこと。そして最後に、情報を担当する専門性の高い教員を配置することが必要です。

 

 

小中高校から大学まで一貫した情報教育が求められるのは、現代社会ではコンピュータやネットワークなどの情報技術が広く使われ、社会の重要な役割を担うようになってきていて、過去におけるモノや金銭に代わって情報が重視されて、大きな価値を担っています。ですから、一人ひとりが情報活用能力を適切に身に付けていくことが大事です。

 

コンピュータや情報に係る技術や社会的な制度で、何ができて何ができないかをわかった上で、これらを適切に使いこなして、必要な問題解決をこなしながら、社会生活を送っていけることが求められます。

 

 

このように、小学校から高等学校まで情報教育が行われてきて、それが身に付いているか、ということを測るのが大学入学共通テストにおける「情報Ⅰ」であると考えています。それゆえ、情報の専門学科に進むから「情報」を勉強をするのではなく、医学の勉強をする人も、介護の勉強をする人も、法律の勉強をする人も、経済の勉強をする人も、今の世の中は情報技術を駆使して問題解決をすることが求められていますから、文理を問わず、きちんと情報の勉強をしておくことが必要であると思います。

 

そのために、国立大学においては、全ての大学が共通テストで情報科を含めた6教科8科目を受験する、ということになってきていると思います。

 

これは大学側もきちんと理解しておかなければならないことです。情報系の大学教員が必要性を説くのはもちろんのことですが、広く自然科学や社会科学、人文科学系の大学教員が、小学校から高校まで情報教育をきちんと受けてきていることの必要性を示すことが重要です。

 

高校までにきちんと「情報」を勉強してくることで、大学ではそれを活用した勉強、さらにそこから発展したことが教育・研究できることの意味を、文系、理系を問わず大学の先生自身が理解し、必要性であることを示していく必要があると思います。

 

 

さらに、大学の先生自身が「高等学校で「情報Ⅱ」を勉強してきてほしい」ということを言っていく必要があると思っています。

 

高等学校において、きちんとした情報科の教育がされるためには、情報学の基盤から理解できていて、きちんと教えられる教員が必須です。つまり、情報科の教職課程を充実させていく必要があると思われます。7月24日の朝日新聞の記事によると、情報科の教員を取り巻く喫緊の課題として、地元の大学に情報科の教員養成課程がないことを問題として挙げているところがあります。国を挙げて、大学の関係者、私たち情報系の教員や学術関係者も一致協力して情報科の教職課程を維持していくことが重要であると思います。

 

 

1校に1人、専門性の高い情報科の専任教員を配置することが必要

 

専門性の高い情報科の教員養成のためには、継続した取り組みが求められます。

 

まずは、情報の免許を持って、積極的に研修に参加している教員による授業が行われることが必要です。このとき、免許外教科担任かどうかということ以上に、情報科の先生が「情報」だけ教えられる環境であるべき、と考えています。

 

他教科との兼任では、教員研修に参加することも難しいでしょう。また、「総合的な探究の時間」や、デジタル関連の部活動の指導にも、専門性の高い情報科の教員が必要です。

 

ですから、全国の約5000校の高等学校に情報の専門性の高い教員を1人ずつ配置するための施策は必要です。私は、時限的措置で構わないので、「情報教育振興法」のような施策が要るのではないかと考えます。できる限り早く、各高校に1人ずつ情報科の先生を置き、その先生が「情報Ⅱ」の教育・研究に専従できるような環境を作ることが重要であると思っています。

 

 

また情報科の先生は、全国5000校のうち多くの学校で、1校に1人だと思います。数学や英語、国語の先生は、同じ学校に何人かの先生がいらっしゃいますから、授業のや教育の内容について相談することができますが、情報科の先生は、学校1人だけであることが多いと思いので、学校の、さらに都道府県の枠を超えて連携することが重要であると考えます。

 

また、私たち大学の教員や学術団体も、教員研修等で貢献していくことが非常に大切だと考えています。

 

情報処理学会は2014年度より教員免許更新講習を実施してきました。教員免許更新制度は、今年の7月1日をもって廃止されましたが、一方情報科の教員研修はこれからますます必要になっていくと考えます。

 

そこで情報処理学会では、2014年から8年間行ってきた教員免許更新講習の内容をそのまま引き継いで、今年から高等学校情報科教員研修を実施することにしました。こちらは文部科学省からの後援を得ることができました。

 

今後も文部科学省や全国高等学校情報教育研究会などと連携しながら、教員研修を実施していくことが重要であると考えています。

 

 

[質疑応答]

 

Q1.各高校においては、「情報Ⅰ」だけでは持ちコマ数が少なく、他教科を担当せざるを得ない状況もあると思いますが、この点に関して、各教育委員会としてはどのような対応が必要とお思いでしょうか。私個人としては、学校内のICT全般の対応の負担が大きいと思うので、情報科目に加えて、校務のICTを担うことでも仕事内容はいっぱいあると思うので、コマ数は少なくても、業務量としては十分かと思うのですが、いかがでしょうか。

 

A1.中山先生

それは全くそのとおりだと思います。教員定数ということを重視して考えると、自治体の中には1学年8クラスくらいあるような学校でないと、情報科の専任の先生を1人置くことができない、というところはあると思います。

 

しかし今、このコロナ禍において、情報科の先生方はICTの利活用の中心になってリーダーシップを

取りながら活躍されている。そのようなこともきちんと評価の中に入れるべきであると思います。

 

もっと言えば、8クラス教えないといけないということでなく、ICT利活用等で活躍されている部分を評価して、教員配置をするべきであり、先ほども申しましたが、国などの施策として、短期でもよいので、まずは各校に1人ずつ情報専任の先生を置くための措置はあった方がよいのではないかと、私は考えています。

 

 

Q2.「情報Ⅱ」を設置する高校が少ないですが、情報系やデータサイエンス系の大学の個別の試験では、「情報Ⅱ」の内容まで踏まえた入試対策が必要かと考えますが、いかがでしょうか。

 

A2.中山先生 

私としては、ゆくゆくはどの学校でも「情報Ⅱ」が選択科目として開設されていることが望ましいと思っています。先ほども申しましたが、情報系に進学する人は、大学に行ってから勉強できるわけですから、むしろそうではない人の方が「情報Ⅱ」の勉強をすることの必要性は高いのではないかと思っています。

 

また、地域を活性化させるために、情報の技術を活用して新しい産業を創出することが必要なはずで

す。そういった人材は地方にこそ必要で、そのときどのような情報の専門家を集めれば新しい産業、

新しいビジネスを生み出すことができるか、といったアイデアを出せる経営的な戦略ができるような人材も必要で、その人たちこそ「情報Ⅱ」の勉強をしてきてほしい、と思っています。

 

しかし、最初の段階では「情報Ⅰ」をきっちりと勉強できる環境が整って、全ての大学において「情

報Ⅰ」の素養が問われるところからスタートするのかな、と思います。

 

 

Q3.小中高で一貫したカリキュラムを組む際に、必ずハードルになるのが組織の問題であると思います。 市町村の教育委員会や都道府県の義務教育課、高等学校課等で、体系的な学習ができている件では、どの組織が旗振り役になっているのか知りたいです。

 

A3.中山先生

そこは恐らくというか、都道府県の教育委員会における指導主事の先生がリーダーシップを取られて

いるのではないかと思います。ただし、私が知る限りにおいて、都道府県の教育委員会の指導主事に

情報科の教員経験のある方が揃ってっているところもあれば、そうでないところもあるようなので、

どうしてもそこにおいて都道府県の差は出てくるかな、とは思います。

 

ただ、今新聞などでも報道されているように、情報科の教員は増えつつあり、また、それによって情

報科を教えてきた先生方が教育委員会等で教育行政に関わっていくことが増えていくでしょう。

 

そういったことで、だんだん充実していくのではないかと期待はしています。

 

 

Q4. 全ての高校に情報の先生が、全ての中学校に技術科の先生が配置される環境を切に希望していま

す。これらの先生方は、自分自身の授業に加えて現在学校全体のICT環境整備と、教育課程をつなぐ

膨大な業務を担わされているので、授業の持ち時間数を減らして配置していただけるようになること

を切に望んでいます。

 

A4.中山先生

授業の持ち時間数については、おっしゃる通りだと思います。今、情報を専門とされている先生方は、 

多大な活躍をされています。さらに、今年から「総合的な探究の時間」が始まって、「情報」だけでな

く他教科をテーマとする探究活動をしていこうとしたとき、当然ICTの利活用は必要になってきます。

 

ですから、情報の先生が情報の教科として持っている時数以外にも、探究活動や、デジタル部活動の

指導などで貢献されてる部分はきちんと評価をして、仮に授業時数が少なめであったとしても、情報

科の先生が生き生きと仕事ができるようになる必要があると思ってます。

 

また、先ほど設置者の話が出てましたが、やはり多くの場合、小中学校は市区町村が設置していて、

高等学校は都道府県が設置しているという違いはあります。

 

今後重要になってくるのは、小中高校の連携ということになってくると思います。さらに、中学校の

情報の課程は、2021年の学習指導要領で内容が大きく増えています。それを高校に入ってくるまでに

きっちりと勉強してくるような体制づくりが必要になってくると思っていますので、設置者を横断

してうまく連携できること、そして今後は中学校における情報教育も核になっていくので、そこを担

う先生方が増えていくことが重要であると思っています。

 

全国高等学校情報教育研究会第15回大会基調講演より