New Education Expo2022

【パネルディスカッション】

国立大で必須化、教科「情報」の大学入試に備える

京都精華大学 鹿野利春先生

東京都立神代高校 稲垣俊介先生

河合塾 富沢弘和氏

[コーディネータ] 日経BP 中野 淳氏

情報入試に向けての課題と、その対処はどうあるべきか

中野氏

ここからは、パネリストの皆様が、情報入試に関していろいろな活動をされる中で感じていらっしゃる課題はどのようなことで、それらにどのように対処すればよいのかについて、お話ししていただきたいと思います。まず鹿野先生からお願いいたします。

 

鹿野先生

まずは教員の採用、研修の問題ですね。これについては、新学習指導要領が出たときからずっと対策を進めておりますので、一定の改善は見られていますが、それをさらに進めて、「情報Ⅱ」の実施も含めて、先生がよりよい形で授業ができるための環境を作っていくことが、まずは必要だろうと思います。

 

あとは、今いろいろな教材が出てきていますが、受験本番に向けた実践的な問題集はまだ出ていません。ですから、生徒たちや先生が安心して勉強できるようにするためには、他の教科と同様な受験準備に向けての参考書や模試などの体制が必要です。これらは今からしっかりできていくと思いますし、私も協力していきたいと思います

 

もう一つは、現場の先生に対する支援です。例えば、授業に企業の方が協力したり、授業で使うコンテンツを産業界や学会の方が協力して作ったり、といったことがあります。先ほど稲垣先生から、東京都情報科教育研究会でそういったものを作る、というお話がありましたが、これからはどんどん増えていくでしょう。このような動きが本格化することで、受験の準備体制がしっかりとできていくことになると思います。

 

ただ、2つの問題があります。

 

1つは、授業についていくのがなかなか難しい子どもたちに対して、どのように授業外でサポートしてくのか、ということ。これに対しては、様々なレベルに対応できるWeb教材のようなものが別途必要になるかと思います。

 

そしてもう1つは、授業の枠を超えた才能のある子どもたちをどのように伸ばしていくのか、ということです。これについては、やはり学会や産業界が協力していくということが必要ですので、私も7月に一般社団法人「デジタル人材共創連盟」を立ち上げて、そういったことをサポートしていきたいと思っています。

 

 

中野氏 

ありがとうございます。では稲垣先生、お願いいたします。

 

稲垣先生

大きな課題は、先ほどの私のプレゼンでも申し上げたことですが、情報入試を不安に感じている先生がいて、さらにその向こう側には、もっと不安に思っている生徒がいる、ということであると思います。また、「情報」の先生は1校に1人であることも非常に多いので、そういった先生方で話し合いができる場が必要であると思います。ですので、私からは各自治体の情報科教員の研究会、東京で言えば東京都高等学校情報教育研究会(都高情研)のようなところに参加されることをお勧めしたいと思います。

 

そして、少しでも授業の工夫ができる先生方は、ご自分の知見について、ぜひ情報発信をしていただきたいと思います。それが多少なりとも、この課題の解決につながっていくのではないでしょうか。

教員というのは、ついつい教材や授業のやり方を、一人で抱えてしまうことが多いと思います。同じ教科内であっても、プリントや教材を共有しないことも、よくよくある話ですよね。

 

でも、閉じた世界で不安になっているのでなく、自分が持っているものをどんどん出していく、他の先生がされていることをどんどん求めていく、ということが必要なのではないかと思います。「まだまだ完成レベルではないから、人前には出せない」という気持ちもよくわかりますが、今は出していくことこそ大切ではないかと思います。

 

もう1点は、今鹿野先生がおっしゃったとおり、外部からのパワーを入れることが必要かと思います。ただ、自分が教員だからこう思うのかもしれませんが、できれば、学校で実際に授業をするのは先生がすることにしていただきたいと思います。サポートはぜひともいただきたいですが、ずっと外部の方を頼っていくわけにはいかない、やはり先生自身の授業力が上がらないといけない、というのが私自身の思いです。

 

ですので、ぜひとも先生を鍛える機会を作って現場がパワーアップできるようになれば、と思いますし、それが学校現場の課題を解決することにつながっていくと思います。

 

 

中野氏

ありがとうございます。では富沢さん、いかがでしょうか。

 

富沢氏

私からは、ちょっと違う観点でお話をさせていただきます。私のパートでもお話ししましたが、やはり情報入試の“情報”がまだまだ不足していると感じています。特に、新課程の入試科目で、共通テストの「情報I」が、各大学でどのような利用の形になるかということは、早く知りたいところです。必須になるのか選択になるのか、あるいは配点はどうなるのか、といった辺りがはっきりしていない。先生方にもその先の生徒さんたちにとっても、不安材料になっているのではないか、と考えています。

 

大学が早い段階で公表してくださったら、私どももすぐ集計して周知できるような体制を作っていきたいと思います。そういったところで、先生方の後方支援ができれば、と考えております。

 

また、先ほど先生方から、教材の不足というお話がありました。特に入試に近い問題というものが、まだ足りないというところで、我々もご協力ができればと考えています。

 

 

個別試験や総合型選抜で「情報」はどうなる?

中野氏

ありがとうございます。皆さんからお話を伺っても、やはり現場の先生方を含めて、情報入試に関わるいろいろな“情報”がもっと必要であると思います。

 

また、それに向けたいろいろな教材も必要ですし、情報入試に関する情報共有の必要性についてもお話をいただきました。

 

それではもう1点、皆さんにお伺いしたいと思います。

 

今日の皆さんのご講演の中でもありましたが、大学入試では、各大学独自の2次試験があります。この2次試験、あるいはAO入試(総合型選抜)で、教科「情報」はどのような関わりを持っていくのか、という辺りを教えていただきたいと思います。

 

鹿野先生、富沢さんには大学側の立場から、稲垣先生には高校の現場ではどのように取り組んでいけばよいのか、「情報Ⅱ」をどのように進めていくのか、ということについても、ご意見をいただければと思います。まず、鹿野先生、いかがでしょうか。

 

 

鹿野先生

はい。私は大学教員になって1年と少しで、現在は学内の入試委員もしています。国立大学においては、共通テストに「情報Ⅰ」が入る、ということになりましたので、大学の情報教育のスタートが「情報Ⅰ」の内容を習得した段階から、ということになるわけです。そうすると、大学は初年次教育も含めて対応を大きく変えざるをえないということになります。これは、大学にとっても大変なことではありますが、大きく見ればプラスに働くだろうと思っています。

 

個別試験で「情報Ⅰ」を行うことになると、客観式の問題では問えないところも問えるので、より深いところの力を試すことになり、学部の情報教育の出発点がそこからになるわけです。

 

さらに「情報Ⅱ」を課すところは「情報Ⅱ」が出発点になりますから、大学での教育はデータサイエンスや、情報システムのプログラミングをしっかりマスターしたところがスタートになる、ということです。ですから、今後は学部・学科によってどこを目指すのか、そのためにスタートをどこに設定するのか、ということによって、個別の学力試験の内容が決まります。

 

一方、私立大学では総合型選抜(AO入試)という方式がいろいろありますが、例えばアルゴリズムやプログラミングなどの体験授業を受験生に受講させて、そこでの様子を見ていく、という形式を課している大学もあります。

 

ですから、共通テストだけでなく、私立の総合型選抜の中にも「情報I」が今後入ってくることになるでしょう。京都精華大学では、昨年度「アルゴリズム」を総合型選抜で実施しましたが、今年度はさらに「コンテンツ配信の企画」という形でもう一歩、踏み込んでいきたいと思っております。今から問題を頑張って作ります。

 

大学では、文系・理系を問わず「数理・データサイエンス・AI教育」が必須となっていますから、情報入試をそこにつなげていくことで、大学教育全体が良くなっていくことでしょう。これは企業も見ていますし、保護者も見ています。生徒たち自身も、このレベルから始める大学に入りたいという大学選びにもつながってくると思います。

 

 

中野氏

ありがとうございます。稲垣先生、いかがでしょうか。

 

 

稲垣先生

私からは、現場のお話をさせていただきます。まず2次試験の対策ですが、先ほどの私のプレゼンでも申し上げましたが、「情報Ⅰ」の授業は、ただの受験指導ばかりではダメだと思います。

 

本日ご来場の皆さんも、多くの方は高校時代にまだ教科「情報」はなかったと思いますので、理科の授業を思い出してみてください。先生が黒板に字を書いて、それをノートに写すだけの理科の授業と、実験や観察などの実習を伴った理科の授業とでは、当然実習を伴った授業の方が、学びもありましたし、記憶にも残ります。「本当にこうなったんだ」というところまでの理解が深まったと思います。

 

私は、「情報Ⅰ」が入試に入ったとしても、ある程度そういうものがないとダメだと思っています。

だからこそ、私は高1で実際に手を動かす授業を行って、一方でやはり大学入試対策はしなければならないので、高3の選択科目で、演習的な選択科目を用意するしかないと思います。

 

ですので、そこでは入試対策用の問題集も必要ですし、そういったものを使いながら、今度は問題を解く方の演習の授業が必要だと思います。

 

ただ、「情報Ⅱ」は内容がとても面白いので、個人的には、これをただ問題演習の授業で終わらせるわけにはいかないと思います。ですので、できれば「情報Ⅱ」を2年生で設置して、さらに深く学んでから、高3でさらに問題演習ができればベストな形であろうとは思います。

 

情報科の教員が1校に1人しかいないこの現状では、なかなか厳しい、というところも課題として残っていますが、理想としてはこのような感じかなと思います。

 

 

中野氏

ありがとうございます。それでは、富沢さんからは、入試関係の今後の動きで補足がありましたら、お願いできますでしょうか。

 

 

富沢氏

先ほど鹿野先生がお話しされたことが全てかと思っております。基本的には、共通テストで「情報I」

が出題されることになりますので、あの内容では少し物足りないと感じる大学、あるいは学部・学科が個別試験で実施をすると認識をしておりますので、そういったところは明確な意図を持った上で、個別試験を出題するのではないかと考えています。

 

逆に受験生の側から考えると、おそらく今回の新課程になって、先ほど鹿野先生がおっしゃいましたが、授業を受けて伸びていく生徒が出てくると思います。そうした生徒さんを、きちんと評価して取ってあげられるような枠組みが、それぞれの大学入試の中でできるとよいと思っています。

 

入試をきっかけに、教科「情報」のさらなる充実を目指して

中野氏

ありがとうございました。本日は「教科『情報』の大学入試に備える」というテーマで議論してきました。最後に、改めてパネリストの皆様方から一言ずつメッセージをいただければと思います。

 

 

鹿野先生

「大学入試」というテーマでしたが、「情報I」は、実は国民的素養として設定したものです。それを大学も必要と思い、入試に入れたという流れであると思います。

 

今回情報入試の形ができて、これからは、それに向けた準備の中身を作るところになっていくわけですが、ぜひ皆様と一緒に作っていきたいと思います。必要であればお声をかけてください。また、私どもは社団も立ち上げますので、そこで一緒に活動していければと思っております。

 

 

稲垣先生

本日はありがとうございました。確かに、大学入試科目ではなかったときの「情報」と、これからの「情報」は違う教科になると思います。どのように舵を切って、どのように変わっていくのか、ということは、私たち教員にも大きく影響を及ぼすものであると思いますが、私としては、ただの入試科目にはしたくないな、と思っています。鹿野先生をはじめ、多くの方々のご支援の下で、今はよい方向に進んでいると思います。もっともっと「情報」が発展していくように尽力していきたいと思いますので、これからもご協力いただければと思います。

 

 

富沢氏

本日はありがとうございました。今回、国立大学の共通テストで「情報I」が原則必須となって、6教科8科目になるということは、受験生の目線から考えると、非常に負担感を感じることになると思います。以前、国立大学のセンター試験が5教科6科目だったのが5教科7科目になったとき、国立大離れのような動きがあって、本来目指したいところを早々に諦めるといった受験生も出てきました。

 

今回、こうしたことが起きないように、できるだけ受験生の負担感を感じさせないような情報発信やサポートといったところで、協力させていただければと思っています。

 

そして、受験生にはできるだけ「情報活用能力を身に付けることが必要なのだ」という意識を自分事として持って受験を目指していただく、という環境づくりをしていきたいと思っています。

 

 

中野氏

ありがとうございました。3名のパネリストの方をお招きして、議論を深めてまいりました。私ども日経BPとしても、メディアを通してこの分野の情報発信を積極的に進めてまいりたいと思います。また教材なども、より充実したものを提供できるようにしていきたいと思っております。