第84回情報処理学会全国大会 イベント企画 「情報入試―共通テストと個別試験」

電子情報通信学会における教科「情報」への取り組み

東京都市大学

電子情報通信学会ジュニア会員運営委員会・委員長、教科「情報」の入試に関する検討WG・副委員長

田口亮先生

ご本人提供
ご本人提供

私は、現在は電子情報通信学会のジュニア会員運営委員会の委員長と、教科「情報」の入試に関する検討ワーキンググループ(WG)の副委員長を務めております。本日私がお話しする内容は、電子情報通信学会としては、教科「情報」の入試に対して、まだ正式な見解を示しておりませんので、かなり個人的な見解であることを予めお断りするとともに、ここまで他の先生方がお話しされたこととは、若干祖語のあるようなことを申し上げるかもしれません。ただ、それは逆に言えば、「情報」をいろいろな視点から見たときの、一つの問題提起であると考えていただければと思います。

 

電子情報学会の情報入試に関する取り組み

電子情報通信学会においては、2021年の5月19日の理事会において、「教科『情報』の入試に関する検討WG」を、理事会配下で設置が承認されました。

 

下図は現在2021年度のメンバーですが、会長が早稲田大学の石田亨先生で、調査理事、および教科「情報」と関係の深い通信システムソサイエティの会長と、情報システムソサイエティの副会長が参加しています。

 

 

このWGの任務として、教科情報の入試に関する検討WGの規程を定めており、次に掲げる事柄について審議することになっています。

すなわち、

(1)教科「情報」の入試の企画、運営に関する事項

(2)教科「情報」の入試の内容や実施のあり方の取りまとめに関する事項

(3)本会員内のソサイエティ、支部、委員会との連携に関する事項

(4)国内外の学会との連携事業に関する事項

ここに関して、情報処理学会の皆様と連携していくことになっています。

 

さらに

(5)その他、教科「情報」の入試に関する事項

として、上記以外に関しても審議を進めていきます。

 

 

ワーキンググループの議論から

さて、このWGはこれまで3回の会合を行ってきました。そこでどのようなことを話題としているかをご紹介申し上げます。

 

まず初回の2021年6月には、このWGの体制について承認するとともに、情報処理学会と共催の公開シンポジウム「大学入学共通テスト情報の目指すもの」(※1)の開催を決定しました。

 

さらにこの初回の会合で高校の情報科の「教員研修用教材」、および大学共通テストの「サンプルの問題」を委員の先生方で見ましたが、委員の先生方はこの時点では初見でしたので、いろいろな感想を持たれたと思います。

 

※1 第20回情報科学技術フォーラム(FIT2021) 

イベント企画「大学入学共通テスト「情報」が目指すもの」

 

 

2回目のWGは、平成28年から平成30年に行われた文部科学省「大学入学者選抜改革推進委託事業」(※2)で情報分野の取りまとめにおいて活躍された大阪大学大学院情報学研究科の萩原兼一先生にご講義をいただきました。

 

この「大学入学者選抜改革推進委員会事業」では、教科「情報」について、個別大学の入学者選抜で「思考力・判断力・表現力」や「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価することの検討が行われ、大阪大学が委託大学、連携大学として東京大学、連携機関として情報処理学会が参加しました。

 

また、情報科の入試の実施における評価手法としてのCBT(Computer Based Testing)のシステム化に関する研究、情報技術による入試の評価に関する研究、広報活動の動向調査研究などが行われました。

 

※2 http://www.uarp.ist.osaka-u.ac.jp/

 

 

ご講演後、委員との間で意見交換を行いましたが、その中で私が気になったことを、こちらにピックアップしました。

 

皆さんもご存じのように、プログラミング教育は高校だけで始まっているのではなく、既に小中学校に導入されております。その意味で、小中高が一貫したデザインとなってるのか、ということについては、萩原先生のお話では、「特に連携していない。高校は高校の、中学は中学の教育という形でデザインをされている」ということでした。

 

 

また、「高校の準備状況から『情報』の入試への導入は急ぎ過ぎではないか」という質問に対しては、「文科省は高校の状況が改善するのを待っていられない、と判断したのではないか」ということ。つまり、入試に「情報」を導入することによって、本格的な教育の改善が図られるという判断であるようです。

 

また、我々は電子情報通信学会でございますので、通信系の教育がどのように行われているか、ということは非常に興味深いところなので、ネットワークや通信の教育の状況についてうかがってみますと、クラウドや家庭・学校内など小規模なネットワークやメールの仕組み等は教えられているとのこと。

 

ただ、内容については、理系だけでなく文系を目指す生徒も考慮しているため、大学で通信・ネットワーク専門にする研究者から見れば、やや物足りないことになっていると思われます。

 

少なくとも高校における「情報」は、文系・理系関係なく学ぶことを前提とした内容で設定されているため、「情報」を専門とする学科の準備として位置付けることが難しく、その辺りの連続性は十分とは言えないことが確認されています。

 

さらに、CBTのシステム化については、大学の授業内で使う場合と入試で使う場合とは別物で、入試への導入は現段階ではなかなか難しい、という見解でした。

 

情報入試に対する高校現場の反応は

第3回目のWGは、2022年1月に、私が所属する東京都市大学の付属の等々力高校の進路指導部長、および情報科の担当教員からのヒアリングを行いました。

 

さらに別途、私と高大連携で関係の深い関東のある県立高校(※3)の担当の先生からも、個人的にヒアリングをいたしました。この後のお話は、東京都市大学等々力高校のヒアリングの結果に、この県立高校の結果を交えたものです。いわゆる高校現場の感覚と思っていただければと思います。

※3 この後、文中特に注記がない場合「県立高校」と表記

 

東京都市大学等々力高校は、1学年280人、8クラス構成で、情報科の担当教員は1名です。この先生は他の科目は兼担せず、情報専任です。

 

2022年度からの「情報に」は2年次に設置し、「情報Ⅱ」の設置はありません。先ほどの県立高校も、情報Iは2年次に配当しており、2022年度ではなく、2023年度からのスタートということになります。

また、等々力高校およびこの県立高校とも、現在「社会と情報」を全員が履修しています

 

 

現場の意見を私なりにまとめたのが下図です。先ほど、萩谷先生から、高校現場の負担は増えない、というお話があり、これはこの後の議論にもなると思いますが、少なくとも高校の先生の立場から言えば、やはり学習負担は純増になるという意見が出ています。

 

 

さらに、「情報」の教育内容が広範囲であるため、担当者の負担が大きいという声も出ています。つまり、ここが高校現場の大きな問題なのではないかと思うのが、ほとんどの高校は2年生から理系と文系に分かれて教育をしており、その中で「情報」は理系・文系に関わりなく学ぶ科目なのですが、特に文系の中に「情報」に苦手意識を持つ生徒さんが出てくる可能性があるのではないかということです。この不得意な人に対する教育配慮を考える必要があるのではないかという意見も出ました。

 

プログラミングの環境については、このコロナ禍の影響もあって、高校でも比較的タブレットPCが行き渡ってきており、環境的にはあまり問題がない状況であるようです。

 

もう1点、これは「情報」だけの問題ではありませんが、今回の共通テストの特徴として、AさんとBさんの問答形式のような問題が増えています。

 

この問題への対策は、高校現場の担当者の考え方によって変わると思いますが、我々WGのメンバーには、「情報」でなぜあのような会話型の問題が必要なのか、ということを疑問視する人もおられました。

 

さらに、これは大学のプログラミング教育を考えてみるとわかりますが、1人の先生がクラス全員を教える教育体制で、プログラミング教育が果たして円滑にできるのでしようか。

 

大学の場合は、普通プログラミングの授業はTA(Teaching Assistant)の補助があって初めて成り立っています。その意味で、バックアップ体制の必要性を感じました。以上のような形で、3回のワーキンググループを行ってきました。

 

 

このWGで行ってきたことを受けて、今後我々電子情報通信学会としては、この3月末・4月に今年度の総括と次年度の活動方針を考えます。

 

 

また、教科「情報」の入試の内容、特に通信の内容について、どのように「情報」の中で教えられるべきかについても検討したいと思います。個人的には、あまりにも平易な問題を出題した場合、他科目との比較において大丈夫なのかという感覚も持ちましたので、そのことについても議論をしたいと思います。

 

それに関して、先ほどの話にも出たように、教科「情報」の内容、特にネットワークや通信系の分野はどうあるべきかについても、今後考えていきたいと思います。

 

そして、「情報」の担当教員へのバックアップ体制についても、うまく仕掛けていけないか、ということについても委員で意見交換をしています。これらについては、年度末に文書としてまとめていくよう計画しています。

 

私自身としては、共通テストへの「情報」の導入に対する問題や懸念の抽出を、今のうちに十分に行い、その解決に向けて力を尽くすべきであると思います。

 

また、共通テストに限らず、高校現場で「情報」の教育に対する評価がきちんとされていない、ということも問題です。デジタル社会における、日本の立ち遅れを取り戻すために、例えば大学におけるデータサイエンス教育や、小中高におけるプログラミングの導入が必要になったのであり、その点を高校の現場においてしっかり理解していただくということが必要であると感じています。

 

つづく

 

鼎談-学会活動の視点から情報入試を語る

 萩谷昌己先生、野田五十樹先生、田口亮先生