第84回情報処理学会全国大会 イベント企画 「情報入試―共通テストと個別試験」

情報入試と高大接続に向けた情報処理学会の歩み

東京大学/情報処理学会 萩谷昌己先生

ご本人提供
ご本人提供

私は、今回司会をいたしますが、同時に情報処理学会の代表として、情報処理教育委員会・情報入試委員会の中で議論をされていることをお話しするという、二役という形で進めていきたいと思います。

 

今回の鼎談の大きなテーマの一つが、「2025年の共通テストに向けて」ということ。もう一つは、より広く「高大接続の充実」というテーマで、私と、人工知能学会から野田先生、電子情報通信学会から田口先生とで議論していきたいと思います。

 

野田先生、田口先生にはこれからご講演いただきますが、それに先立って私の方から、先ほど申し上げたように、これまで情報処理学会の中でさまざまに議論されてきた内容を、私の個人的な意見も交えて述べさせていただきたいと思います。

 

共通テストへの「情報」導入の意味は

まず、「2025年の共通テストに向けて」ということにつきまして。このことの意義の一つは、世界に先駆けて「情報」を大学入試の科目にするということです。海外で「情報」が入試科目に入っているという例は、決して多くはありません。例えばイギリスでは、コンピューティングが入ってますが、他にそのような国は多くはありません。

 

 

では、なぜこの日本で「情報」を入試に入れるのか、という議論は当然ありますが、スライドにあるように、文理を問わず大学の教育・研究の基礎となるということは明らかであり、特に最近のAI・データサイエンスの普及が大きいと思います。つまり、情報教育は情報社会の発展にとって不可欠である、ということですね。

 

また、日本の教育の現実として、特に中等教育では、学校での教育と大学入試が両輪として働いているということがあります。高校の科目の中で、いわゆる「実習科目」と言われているもの以外は、大学の入試科目になっています。かつて情報科は実習科目だ、と言われたこともありましたが、「情報I」の学習指導要領を見ていただけば、それは全く的外れであることが分かると思います。つまり、高校で学んだことを、大学入試でその定着を問うというのは当然のことになります。

 

そして、情報教育の地域格差の問題ということがあります。この共通テストへの導入の動きの中で、地域格差は確実に解消していくのではないかと思います。つまり、共通テストがなければ、恐らく格差はさらに開いていたはずではないかと考えるのです。

 

実際に、各県で情報科の教員採用が進んでいるという状況があります。もし仮に、大学入試センターが今後方針を変えて、情報科を共通テストから外すというようなことがあれば、状況はまた逆戻りして、免許外担当や臨時免許が横行する状態に戻ってしまうことになるでしょう。それはあってはならない。入試に入ることで、現実として地域格差は解消しつつあるということは、皆さんも認識していただいているのではないかと思います。

 

また、受験生の負担が増えるのではないか、という議論が各所で起きています。

 

これに対して私が申し上げたいのは、情報科の入試問題は、恐らく当面は他教科のような難問・奇問が出題されることはないだろうと考えています。新しい科目ですから、当分の間は学習指導要領に沿った基礎的な問題や、思考力を問う問題が出されるであろう、ということです。その意味では、受験生の負担が極端に増えることはないだろう、と考えています。

 

「情報I」は2単位の科目の割に内容が多くて、高校の授業ではとても教え切れないのではないか、という懸念を抱いている方も多いと思います。

 

これについては、高校の先生方から、従来「情報」の授業で文書作成ソフトやプレゼンテーションソフトの使い方のような、リテラシー的な教育に使っていた時間を、学校全体としての教育や、様々な教科の中での活用に置き換えることによって、学習指導要領に沿った教育を行う時間を確保できるだろう、という見通しをうかがっています。

 

4月から「情報I」の授業が始まりますが、高校の先生方のさまざまな工夫で、「情報I」の教育は順調に進んでいくだろう、と考えています。そして、文科省の研修用教材、情報処理学会のMOOCなども準備されていて、各所でオンラインによる教員研修や研究会なども行われています。

 

このように、ここでは非常に前向きな意見だけ述べましたが、私としては、共通テストに向けての環境は整いつつあるということを訴えたいと思います。

 

高大接続の充実~中高の教員の支援、抜きんでた生徒の教育の場作りを

共通テストは入試の一環ですが、次の観点として、より広く「高大接続の充実」ということについて、各学会の先生方とがたと議論していきたいと思います。

 

今後、高大接続をさらに充実させるために、高校や、場合によっては中学の教員の方々への支援が重要であると思います。

 

また、中高生を対象としたイベントの開催として、ロボカップや、本日午後開催される中高生情報学研究コンテストがあります。従来から様々な高大連携が行われていますが、それらをさらに充実させていくことが重要であると思います。

 

 

実は、本日このセッションと同時開催で、「情報科学の達人2.0」(※)という、非常に「尖った」中高生たちの発表が行われています。高大連携の一つの方向性として、抜きんでた中高生をいかに育てていくかということも大きなテーマになるかと思います。

  ※https://www.ipsj.or.jp/event/taikai/84/ipsj_web2022/html/event/B-14.html

 

それと関連して、情報系の部活動支援も重要です。情報処理学会にはジュニア会員という制度がありますが、こういった制度を拡充していくということも重要かと思います。

 

以上、情報処理学会を代表としての意見を述べさせていただきました。ここからは司会として、野田先生、田口先生にご講演を頂きたいと思います。プログラムの順番に従って、まず野田先生からご講演をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

 

つづく

 

人工知能から見た「情報」科目

北海道大学情報科学研究院/人工知能学会 会長 野田五十樹先生