神奈川県高等学校教科研究会情報部会情報科実践事例報告会2021オンライン

講評・講演

「情報I」の実施前夜、都道府県・校種・年代の枠を超えた交流が生み出す新たなパワー

国立教育政策研究所教育課程研究センター 田﨑丈晴先生

ご本人提供
ご本人提供

この実践事例報告会は、神奈川県のイベントでありながら、県を越えての参加者が非常に多く、今年も実現されたのは大変すばらしいと思います。私も、昨年は参加者として、皆さんがいきいきと配信されているのを拝見しておりましたが、今年は去年よりも動画の発表が増えているということで、これもまた大変喜ばしいことであると思います。

 

ご発表の中でもありましたが、動画を撮るメリットというのは、記録という意味もありますが、いつ・どんなことをしていたのかということが短時間でまとめられていることで、ご自身のポートフォリオの一つにもなるのではないかと思います。

 

 

今回のイベントのテーマは「力を結集」でしたが、新学習指導要領の実施に向けて、企画運営に当たられた先生方と、県内外から参加された皆さんが全ての力を結集されたからこそ、このようなイベントが実現し、成功につながったのだと思います。

 

特に私が注目しているのは、若手や中堅の先生方のご活躍です。今回の司会・進行も、参加者との連絡もやりとりにも、若手や中堅の先生方が率先して運営に関わっておられ、またそれをベテランの先生が支えていらっしゃることが伺われました。これが人材育成の面にも、組織としての力量の向上にもつながっていくことを期待しています。

 

また、県内外から参加された先生方も、高等学校だけでなく、特別支援学校や大学など、幅広い校種にわたっていますし、教員だけではなく指導主事、校長、教授、学生と様々な立場の方からの様々な視点を共有できたということは、大きな収穫になったと思います。

 

この県を越えた相互交流こそが、まさにこれからも様々なところで行われることを期待するものです。ご参加の皆さんも、ご自分の都道府県に持ち帰られたものはぜひ共有していただき、情報化を育てる原動力に充てていただければと思います。

 

次のステージへ向けた生徒の学習活動・教師の支援のあり方を共有

今回、オンデマンドの動画52本と、模擬授業9本を視聴するにあたって、これらのご発表で生徒の学習活動や、それに向けた先生の支援がどのぐらいイメージできるかという視点で見せていただきました。

 

まず新しい学習指導要領の大きなポイントは資質・能力の育成ですので、やはり評価や科目の目標を踏まえた活動という点で参考になることがいろいろありました。中には、授業中の生徒の様子やアウトプット、成果としてどのようなものが見られたのかということに言及してくださる先生方もおられました。

 

 

また、「主体的・対話的で深い学びの実現」という項目を挙げましたが、生徒の勉強をどのように支援するのか、言葉かけをするのか、生徒が興味を持つようなテーマ設定はどのようなものがあるのかといったヒントとなるようなお話をしてくださる先生方もいらっしゃいました。

 

知識や技能の習得については、例えば先生が丁寧に説明してしまうと、アクティブ・ラーニングのための時間がなかなか取れない、といった問題について反転授業の効果的な使い方をご紹介してくださった先生もいらっしゃいました。そういった意味で、1年間を通しての授業計画とともに、単元指導や1コマの授業の中で、どのように時間を有効活用するのかという視点でも参考になるご発表がたくさんありました。まだ全ての動画をご覧になれていない先生方には、こういった視点でご覧になると、来年度からの授業の参考になると思います。

 

もちろん、「総合的な探究の時間」や数学等との連携など、情報科で学んだ成果を生かせる場面は、これからどんどん増えていきます。そういった場面での取り組みについて、来年度から実践されたことについては、ぜひ全国大会等で発表していただきたいと思います。

 

本日模擬授業をしてくださった9名の先生方には、大変お疲れさまでした。「主体的・対話的で深い学び」の実現にもつながることですが、ZOOMのブレイクアウトルームやGoogleクラスルーム等を使って、意欲的にアクティビティに挑戦されているご様子も多く拝見することができました。

 

その中で、先生の役割をされた方は、学習活動をどのように見取って、どのような助言をすることで生徒の学びが進むのかという手ごたえを得られたと思いますし、生徒役にご協力いただいた先生方は、先生と生徒の関わり方について、気付かれたこともあるかと思います。

 

来年度からの授業で、アクティブ・ラーニングを進めて行く際のご参考になったと思いますので、今日体験されたことを、ぜひ4月からのご自身の授業づくりに生かしていただければと思います。

 

また、今日のご発表は「情報I」の内容が多かったと思いますが、「情報Ⅱ」や専門教科「情報」の題材となり得るアイデアもありました。バーチャルな環境が作られている事例もありましたが、コンテンツをこういったものは専門教科「情報」の指導に生かすことも可能であると思います。

 

また、発表者との交流タイムでは、学習評価や観点別評価をどうするのか、というところにつながる質疑応答もたくさん見られました。ご協議いただいた先生方、ありがとうございました。

 

1人1台端末を経験した生徒が入学、共通テストへの「情報I」導入に向けて

さて、ここからは学習指導要領改訂に関してご説明します。

 

来年度から、高等学校の学習指導要領が年次進行で実施ということになります。今年度は中学校、小学校は昨年度既に始まっています。この流れの中で、GIGAスクール構想では、義務教育では児童・生徒が1人1台端末を使うということが始まっており、来年度からは、これを通して情報活用能力を育成する指導を受けた生徒たちが高等学校に入学してきます。

 

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学習内容については、特にプログラミングや統計に関しては、小中高の連携が強く図られてきています。スライドの赤字の部分については、決して全く初めてではないという状態で高校に進学してきます。神奈川県では、毎年導入テストで生徒がどの程度学んできているのかということを測定していらっしゃいますが、ぜひ結果を教えていただければと思います。

 

こういった生徒達をどのような視点で育てていくのか、どのようなレベル感で授業を進めていくのかというところも、来年度からの課題になってくると思います。

 

 

こちらは共通テストの動向です。令和7年度の共通テストから教科「情報」が設定されています。共通テストは、学習指導要領に基づいて「情報Ⅰ」をしっかり勉強してきた、という前提で作られていくものですから、私たちはまず来年度からの「情報I」の授業を考えるにあたっては、まずは新しい学習指導要領に基づいて指導していくということが大事であると思います。

 

 

文部科学省情報教育振興室でも、これまでご覧のような資料を公開していましたが、現在それらの資料を「高等学校情報科に関する特設ページ」で一つにまとめて、アクセスしやすいよういたしましたので、ぜひご活用いただければと思います。

 

[高等学校情報科に関する特設ページ]

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416746.htm

 

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また、これから高等学校でのGIGAスクールの学びの事例をサイト「StuDX Style」やメールマガジンの中でも充実させていきます。こちらの情報発信も気にしていただければと思います。

 

[StuDX Style]

https://www.mext.go.jp/studxstyle/

 

 

 

学習指導と学習評価を考える際の主語は「生徒」

そして、具体的な学習指導と学習評価を考える際には、新しい学習指導要領の構造に基づいて、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」という視点で考えていただけるとよいと思います。

 

これらの主語は全て「生徒」です。「何を教えるか」ではなく、「何を学ぶか」ですので、先生方には「生徒をいかに育てるのか」という視点で授業に臨んでいただければと思います。

 

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新学習指導要領では、教科・科目の目標が「育成することを目指す資質・能力(=何ができるようになるか)」と「教科等の特質に応じた学習過程(=どのように学ぶか)」が、資質・能力の三つの柱に基づいて整理されています。資質・能力の柱書にある「問題の発見・解決を行う学習活動を通して、情報社会に主体的に参画するための資質・能力を育成」というところに注目していただければと思います。

 

 

「情報I」の学習指導要領の「(1) 情報社会の問題解決」は、この科目全体のガイダンスの役割を果たしていますので、「情報Ⅰ」の指導においては、この「情報社会の問題解決」で必要な資質・能力の基本的なところを指導して、後はそれらを活用されるような授業運営を考えていただければと思います。

 

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学習評価のあり方も変わってくる

また、教科や科目の目標だけでなく、「評価の観点」と「内容のまとまり」も紐づけられて整理されています。専門教科「情報」では、「評価の観点」が各「指導項目」ごとに整理されていますので、こちらもご確認いただければと思います(※1)。

 

※1 https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidousiryou.html

 

 

学習評価の基本的な流れについては、2021年8月20日に「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」を出しました。こちらの動画の解説を教職員支援機構サイト(※2)で配信しますので、そちらもご確認いただければと思いますが、まずご覧の手順で、ご自身で参考資料をご覧になりながら確認していただければと思います。

 

※2 新学習指導要領の改訂のポイントと学習評価(高等学校 情報科(共通教科「情報」)):新学習指導要領編 No61

https://www.nits.go.jp/materials/youryou/061.html

 

 

この資料の中で、「共通教科『情報』の評価の観点とその趣旨」の確認について言及されています。「問題を発見し、解決する活動」を柱に、この3つの観点ごとの評価を行うことが示されていますので、ご覧になってください。

 

[共通教科情報科の評価の観点及びその趣旨]

https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidousiryou.html

 

 

単元の学習評価の進め方について。

 

観点別にA、B、Cで評価を付けることについては、先生方も様々なところからご存知と思いますが、「おおむね満足できる状況=B」の評価規準をぜひよく考えていただきたいと思います。

 

そして、「努力を要する状況=C」になる生徒については、「この生徒はできないからCだ」ということではなくて、この生徒をどのように支援すればBになるのか、ということについてお考えいただければと思います。つまり、日頃の評価の積み重ね、日頃から生徒を指導されての観点別評価、総括につながるような授業であってほしいと思います。

 

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国立教育政策研究所では、教育課程研究指定校事業研究協議会 (※3)を2月4日に開催します。指導と評価についての研究事例発表となっております。興味がおありの方は、ぜひご参加ください。

※3 https://www.nier.go.jp/kaihatsu/kyougikai_r03/

 

また、調査官が学校訪問を行うような事業もございます。もしお声掛けするようなことがありましたら、ぜひご協力をお願いいたします。

 

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最後に、来年度の授業実施の準備として必要になるものを挙げさせていただきました。来年度以降はいよいよ「事例」を作っていただくことになります。これからも先生方の取り組みを様々なところでご発表してくださいますよう、お願いします。応援しております。

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会情報科実践事例報告会2021オンライン 講評・講演より