新しい高等学校「情報」と高大接続・大学初年次教育-高等学校の現場から-

京都市立堀川高校 藤岡健史先生

第11回全国高等学校情報教育研究会秋田大会より
第11回全国高等学校情報教育研究会秋田大会より

今日は、研究の報告というよりは、私が高校で行ってきた実践報告と、教科書の執筆に携わってわかったことの情報共有を中心にお話ししたいと思います。

 

現在私は堀川高校に勤めています。教員採用後はいくつかの学校を回って、堀川高校は2回目の赴任となります。もともと情報教育の研究をしていましたが、教育の実態や現場の問題は、実際に現場に入らないと見えてこないのではないかと思って、高校の現場に飛び込みました。

 

私は今回の情報科の検定教科書の作成に携わらせていただきました。私は数学の免許も持っていますので、数学との絡みの部分や、この後説明させていただく新しく「情報Ⅰ」に加わる部分について、ある教科書を書かせていただきました。最近はあまり活動できていませんが、学会の仕事等もお手伝いさせていただいています。

 

 

今日お話しする内容がこちらです。まず教科書の内容の概観、それから、お題をいただいた大学入学共通テストの試作問題・サンプル問題についてご紹介します。そして現場の取り組みのお話と、最後にまとめとして、これからの情報教育についてお話ししたいと思います。

 

 

「情報I」の教科書概要~2単位の中で全てを網羅するための時間や重みの付け方、他教科との連携考えることが必要

 

まず「情報Ⅰ」の教科書につきまして。いよいよ「情報I」が始まるということで、これからどうなっていくのかと非常にわくわくしています。

 

4月に見本本が学校のほうに届き、私は情報教育の研究者と言うより、現場の一教員の立場として、全てに目を通させていただきました。下図が文部科学省の教科書目録です。教科書自体は12種類、6つの出版社から出ています。

 

これらの教科書は、まだ一般に公開されているものではないので、高等学校の先生以外の一般の方が見られるようになるのは、教科書が実際に販売される2022年4月以降になります。現段階では、中身を具体的にご紹介することはできないので、その点はご了承ください。

 

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今日は各出版社のホームページ等で紹介されている目次などを使いながら、概観を見ていきます。

 

例えば下図の教科書は、章立てが「情報社会」「情報デザイン」「プログラミング」「ネットワークの活用」「問題解決」となっており、おおよそ学習指導要領の内容を、そのまま反映しています。他社もこういった形で作られているものが多いと思います。

 

この教科書は、内容がかなり細かく分けられている印象です。現場からすると、どうしても「情報I」は現行課程よりも内容が一気に増えたという印象がありますが、実際どのような時間配分でやっていくのか、年間指導計画をどう立てていくかということについては、先日京都市で行った研修でもかなり議論になっていました。

 

ただ、小学校、中学校と順次学習指導要領は変わっていきますので、全てが高校の「情報I」に詰め込まれているというわけではありません。ですから、来年度4月に入学して来る生徒たちの様子が今までの中学生、あるいは小学生からどのように変化してきているのかを知って、その上で指導計画を立てていかなければならないと思っています。

 

ちなみにこの教科書は1章から4章が理論編、最後の5章が実習編になっていて、実習の内容についてはかなり工夫されていると感じました。

 

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下図は別の教科書です。章立てが学習指導要領の4つの内容とは違う形で組まれている点が、先ほどの教科書とは違います。

 

例えばこの3章は「デジタル」、4章は「ネットワーク」だけで章ができています。また、プログラミング言語で何を使うか、ということに興味持たれている先生方も多いかと思いますが、この教科書は、タイトルに「Python」「JavaScript」と入っていて、教科書の内容もプログラミング言語についてはそれらの言語に応じて書かれています。

 

ちなみに、先ほど紹介した教科書は、PythonとJavaScriptの2つの言語が併記される形になっていました。その辺りの扱い方は教科書によって違いますので、どの高校がどの教科書を採択したかによって、大学入学時までにどういったものを身に付けてきているか、ということは、当初はかなり幅があるのではないかと思います。

 

こちらの教科書は、節は35節までで、項目数はかなり精選されていますが、最後に「ADVANCE」として発展的内容の節が設けられています。ここでは、「情報Ⅱ」を少し先取ったような内容も含まれていて、この辺りの作り方が工夫された形になっていると思います。

 

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今年度いろいろな学会や研究会で、「情報I」の教科書を比較に関する研究が発表されていますので、こちらのスライドにまとめさせていただきました。様々な観点から比較・研究されていて、たいへん興味深く読ませていただきました。ぜひご覧いただければと思います。

  

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また、各教科書会社のホームページには、教科書の目次以外にも、サンプルのページや年間指導計画の例、評価に関する資料も出ています。

 

ここに示したのは、ある教科書会社の年間指導計画案です。

 

「情報I」は2単位の科目なので、学習指導要領では標準時間70時間となっています。

 

ただ、体育祭や文化祭など、各種の行事もありますので、現実問題として、だいたい56時間程度となります。それを割り振って、1章あたり何回かけられるかを考えながら、年間指導計画を立てていくことになります。

 

『データサイエンス』にご興味のある先生が多いと思いまして、『プログラミング』と『データ活用』の部分をピックアップしてみました。この教科書では、第3章の『プログラミング』の内容で少なくて15時間、多くて20時間弱。『データの活用』の部分については、この章はネットワークとのセットですので、データの活用だけピックアップすると5から8時間の内容となろうかと思います。

 

 

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あくまでこれは、この教科書会社が作った標準的な時間数の例ですので、これを各学校の実情や生徒の様子に合わせたりして、ここからどのように計画を練っていくのかということが非常に大事になっていきます。どの部分を詳しくやるのか、あるいは中学校でどれぐらい経験してきているのかということも考慮しなければなりません。

 

さらに、他教科との連携をどうするかということが重要になります。私は数学の教員でもあるので、数学との連携は特に意識していますが、数学以外の教科との連携をどのように行うのか、またコロナの状況がどうなるか不明なこともあって、年間指導計画の予定が変わってくることもあるかもしれませんので、その辺りも注意しながら年間計画を作り、授業を進めていくという形になっていこうかと思います。

 

これらを見ていただきますと、すでにいろいろな先生方もおっしゃっていますが、2単位の「情報I」、年間最大でも70時間で一体どれほどのことができるかと言ってもこの程度なので、これを実際に生徒の力になるためにはどのようにしていけばよいかということには、非常に頭を悩ませるところです。発展科目である「情報Ⅱ」を置くのか。そして「総合的な探究の時間」、私はこれとの連携が鍵になってくるのではないかと思っているので、その辺りについては、この後でお話しさせていただきたいと思います。

 

大学入学共通テスト「情報」試作問題・サンプル問題

 

続いて、大学入学共通テストの「情報」の「試作問題」と「サンプル問題」についてお話しします。これまでの動きをまとめたのが下図です。2018年に、当時の安倍首相が「大学入学共通テストにおいて、国、数、英のように基礎的な科目として『情報』を追加して、文理問わずに学習を促していくという方向が大事である」ということを発言しました。2020年11月に、大学入試センターが情報「試作問題」(検討用イメージ)を関係の学会等に配布・公表しましたが、今は誰でも見ることができる形になっています。

  

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今年3月には、同じく大学入試センターがこれは他教科・科目と同じタイミングで、教科「情報」の「サンプル問題『情報』」を公表しました。これらについてはURLを示しておりますので、ご覧いただきたいと思います。

 

7月には、文部科学省が「令和7年度大学入学共通テスト実施大綱の予告」を公表して、ここで「情報」が共通テストに新設されることが決まりました。以前は「情報」の共通テストについては、CBT(Computer Based Testing)も検討すると言われていましたが、この大綱予告で紙ベースで実施することが明らかになりました。

 

9月には、この大綱予告の「補遺」が出て、「情報I」は60分の独立時間帯で出題されることと、令和7年度については、現行課程履修者への経過措置が行われるということが発表されました。

 

これについては、11月に国立大学協会(国大協)が入学者選抜への導入に関する基本方針を提示するということになっていましたが、実は今回の研修会の打ち合わせをしている時に、国大協がこの方針の決定を見送る方針だという報道が出ました。こちらは、10月22日付の記事で出ておりましたので、このスライドを作ったときにはまだ判明しておらず、この部分の日付が変わってくることになりました。

 

また、来年の秋冬頃には次の試作問題が公表されることになっており、ここでは現行課程、つまり「社会と情報」「情報の科学」を学んでいる生徒への経過措置も含めた問題も提示される予定になっております。

 

 

ここからはまず「試作問題(検討用イメージ)」についてお話しします。これが公表されたのが2020年11月ですので、この時点では教科書の見本本もまだ出ておりませんし、内容についても「情報I」の全てを網羅しているものではない、という注釈付きでした。私も見てみましたが、「情報I」の4分野にわたってある程度幅広く出題されていると思われました。

 

今回は、その一部をご紹介します。問題の詳しい内容は、先ほどのURLを参照ください。

 

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例えばここに挙げた第4問では「モデル化とシミュレーション」が出題されています。こちらは現行の「情報の科学」の内容に関わる部分なので、現在「情報の科学」を選択している日本の約2割の高校では、既に行われている内容ですが、「情報I」として全体で行うのは今回が初めてとなります。

 

この問題では、Aさんの学校の近くにある国道と県道の交差点で起こる渋滞を緩和するための取り組みとして、この信号の赤と青の点灯時間を調整する、ということを考えさせる問題です。

 

いろいろな図やグラフの内容を読み取って、最適解を考える、という内容になります。

 

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共通テストの問題について考えるとき、生徒がこれらの問題をどのように捉えるか、どの程度解けるのかという視点が、非常に重要であると思ったので、この問題を私が担当する生徒に実際に解かせてみました。

 

正答率が下図です。信号の点灯時間を考えさせる(ア)の問題で、正答率は54%。多かった誤答が25%ありました。このように、どういった誤答が多いかについても抽出できました。また、(イ)(ウ)はシミュレーションから言えることを選ぶ問題で、これは正しいものを2つ選ぶものでしたが、両方正解した人は20%弱、片方だけ正解だった人が64%という結果になりました。これは出題方法を変えればもう少し正答率を上げられるのではないかと思いますが、ここでも誤答の傾向が抽出できました。

 

堀川高校では「社会と情報」を実施しているので、この問題の内容を授業の中で詳しく扱っているわけではありません。生徒の中には、中学校の時も含めてExcelなどの表計算ソフトを使ったことがある人もいると思いますが、授業の中で全く対策してなくても、この程度の正答率でした。一般的な結果になるわけではありませんが、一つの参考として見ていただければと思います。

 

 

下図は3月に公表された「サンプル問題」のプログラミングの問題です。プログラムは、かつてのセンター試験や大学入学共通テストの「情報関係基礎」で使われている、いわゆる疑似言語のDNCL(大学入試センター言語)で書かれています。「情報関係基礎」は、数学IIBとの選択だったので、センター試験などで実際に選択する生徒は少数でした。

 

今回、このDNCLが新しい形で初めて提示されました。よく見ると、かなりPythonの書き方に似ていることが見て取れます。既に来年度の教科書採択は終わっていますが、今後こういった共通テストのサンプル問題のプログラムの書き方を見て、教科書採択の場面で議論が起きるかもしれないな、とも思いました。

 

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堀川高校の「探究基礎」の実践~「情報I」「情報II」の連携につなぐために

 

ここからは、現場の取り組みを通した研究についてお話しします。

 

「情報I」の内容を見て、高校の現場では、授業時間数が足りない。2単位の中で少しだけプログラミングやデータサイエンス的な内容に触れても、実際どれだけ身に付くのか、ということが言われています。大学の先生方にも同様の感想をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

 

私が高校現場に入ったのは2003年で、そのときから教科「情報」は始まりました。当時の内容と今とはだいぶん異なっていますが、当時でさえ「情報」の内容を2単位だけで身に付けさせるのはとても厳しいものでした。

 

まして、当時の私は情報科学の内容をしっかり教育したいと思っていましたので、プログラミングやデータサイエンスの部分まで含めると、全然時間が足りないということで、「総合的な探究の時間」と融合して深く学ぶ、ということを考え、実際に堀川高校で実践して、博士論文にまとめました。

 

今思うと、「社会と情報」を学んだ後に、「総合的な探究の時間」でさらに深めていくという、いわば「2階建」のやり方は、新課程で「情報I」の次に「情報Ⅱ」を学ぶ、という形に近いかもしれません。

 

本校では、「社会の情報」は全員必修で学びますが、この表の下にある「総合的な探究の時間(総探)」は、本校では「ゼミ」と呼んでいます。ここでは物理や化学、生物、地学、数学と並んで、情報科学も選べるようになっています。もちろん、文系の内容のゼミもあります。

 

 

このゼミは大体各10人くらいの少人数で、そこに教員2人と大学院生のTAが付く、という形です。情報科学を選んだ生徒は、1年生の間は基本的なスキルの習得なので、プログラミングの初歩から始めて、最終的には2年生で論文を書いて、ポスター発表をします。これは個人研究の形で行っています。

 

今、高校だけでなく、小中学校も含めて「探究的な学び」がクローズアップされていますが、堀川高校ではこれを2003年から始めました。報道などで取り上げられることも多いですが、その一環として情報科学があるわけです。

 

 

この「探究基礎」では、全体的な枠組みとして、教科で身に付けた力を、実際に手を動かして体験的に学ぶことで深めることを目指し、学校を挙げて取り組んできました。

 

自分で工夫して実験や調査をして、試行錯誤の中でデータを集め、オープンスペースでいろいろな人に見てもらって議論したりする場も設け、最後に皆の前でポスター発表の研究発表会を行います。この発表には、大学の先生に来ていただいて研究の内容にコメントをいただいたり、学校の説明会も兼ねて保護者や中学生にも見学していただいたりします。

 

今はコロナの関係で通常のポスター発表ができないので、生徒や見学者は、自宅や学校の教室からZoomで視聴する形で研究発表会を行いました。

 

※「探究基礎」の紹介記事はこちらをご覧ください。

https://www.asahi.com/edua/article/14394841

https://toyokeizai.net/articles/-/412023

https://toyokeizai.net/articles/-/469479

 

こちらが私の博士論文の内容です。生徒が情報科学を深く学び、身に付けさせるためのカリキュラムを考えるにあたって、ここでは「問題解決学習」と書きましたが、探究的な取り組みといかに組み合わせるのか、というのが重要であると当時から考えていました。

 

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当時、Squeak eToyというブロック型のプログラミング環境がありました。これは今小学校などでよく使われているScratchの前身です。これを使って、まず前半6か月でプログラミングの基礎と、コンピュータシミュレーションを使った問題解決の基礎を体験させました。

 

その後、生徒自身で問題を設定して、個人でプログラムを作ってデータ分析を行い、問題解決を行って論文を書く、ということを行いました。

 

今思うと、先ほどもお話ししたように、「情報Ⅱ」の前身的なところを行っていたことになります。

 

スライドにあるのが、生徒が行った研究の事例です。体形変化のシミュレーションを作ったり、京都の渋滞シミュレーションを作ったりした生徒もいました。校内の避難シミュレーションを作った生徒は、ある場所で火災が発生したと仮定したときの人流のモデルを作りました。言語を選んで論文を提出するまで、週2時間の授業で約6か月かかりますが、このフレームを応用すれば、「情報Ⅱ」の内容も組み立てられるのではないかと思います。

 

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データサイエンスの研究の事例で印象深かったのが、作家の作品を解析して、そこから統計量を抽出して計算した結果から、ある著者の文章と他の著者の文章がどれぐらい似ているか、という類似度を調べる、というものです。様々な変数を自分で定義して、いろいろな参考文献を引っ張ってきたものも盛り込んでいました。

 

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こちらは本校の講堂の舞台照明のシミュレータです。プログラミングを使って、照明の明るさや色の調整を行うもので、こういったものも喜んで取り組んでいたという印象があります。

 

 

「探究」の授業を成功させるポイント

 

このような実践を通して、「情報Ⅱ」で探究的な取り組みをすることになったとき、授業を成功させるポイントを考えてみました。

  

 

 

まず、研究テーマを発散させないことです。生徒はいろいろなことをやりたがりますが、生徒が本当にやりたいことをしっかり見つけさせることが重要です。

 

プログラミング言語については、最近はいろいろなものがありますが、新しいものを自分で勉強し始めると、その習得だけで時間がつぶれてしまいます。ツールを使いこなせることが大事なので、webベースで勉強できる教材などでできるだけ効率を上げるとよいと考えます。

 

生徒同士の相互評価(レビュー)を、どのようなタイミングで入れるのかをよく考えることも必要です。そして生徒が発表して、そこから学ぶ機会をつくること。今、高校でこういった探究発表会をされていることがあると思います。最近はオンラインで参加できたり、コロナが収まったら外部の方を受け入れられる学校もあることと思います。本校もコロナの問題が解決すれば、以前のように外部から来ていただけますので、高校の先生方、大学の先生方には一度ぜひ高校の現場の様子を見ていただきたいと思っています。

 

また、最近はLMS(Learning Management System)としてMoodleを導入し、論文の内容を生徒同士で共有したり、研究成果を外部コンテストへ発表したりすることも行っています。

 

最近非常に重要であると感じているのが、スライドの6番目の、他教科の先生方といかに連携するか、ということです。これらの取り組みは私一人で行ってきたことではありません。私の場合は数学と情報ですが、例えば理科の実験データを使って、データ分析を行うとすると、生徒にとっては自分の取ったデータですから、自分の中で、そのデータとデータサイエンスの考え方が有機的に関係づけられることになります。そういったことが非常に大事になってくるので、本校ではそのハブとなる「理数探究基礎」という科目を令和4年度から置くことにしました。この中で、「情報」と理科、数学の基本的な内容を押さえることにしました。特に数学では、データの分析について、数Bの『統計的推測』まで含めて行うことを考えています。

 

 

情報科学に加えて「情報とは何か」=基礎情報学の視点も重要

 

最後にまとめとして、これからの情報教育についてお話しします。今回は、私の堀川高校での情報科学ゼミの話を中心お話ししましたし、私は理数系の出身で、そこで学位論文も書いてきたので、こういった情報科学やデータサイエンスの教育の重要性、教育の重要性は実感してきました。新課程の「情報I」は、実はこの情報科学に寄った形に大きく変わっています。

 

 

もともと学校現場では、約8割の学校が「社会と情報」を行っていたのですが、もっと情報科学教育と文系的な社会情報の内容のバランスを取る形にするべきではないか、ということを、2013年度頃から考えていました。これらのバランス取ったプログラムの開発を進め、ある教科書の『情報の分類』や『情報の定義』に基礎情報学の内容を導入する、ということも行いました。

 

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こういった内容が非常に大事であると思うのは、例えばAIの話をするときに、「情報I」では「コンピュータにできること・できないことは何か」とか、「コンピュータが扱う『情報』と、私たちが扱っている『情報』はどのように違うのか」ということを考えた上で、AIについて教えるべきではないか、と考えるからです。ですので、今は情報科学教育で、「情報とは何か」ということをうまく教えていくにはどうしたらよいかということを考えています。

 

学習指導要領でも、「情報」を学ぶにあたっては「情報に関する見方・考え方を働かせ」なければならない、ということが謳われています。情報科学の観点とともに、一方で「情報とは一般的にどういうものか」という情報一般の原理、基礎情報学に代表されるようなサイバネティックパラダイム/コンピューティングパラダイムといったことも、私たち情報教育の教員はしっかり勉強して情報教育を行うこと、そういった視点を備えた先生をこれから育成していくことが重要であると思います。

 

京都大学データ科学イノベーション教育研究センター「数理・データサイエンス・AI教育強化公開FD『新しい高等学校の情報科科目と高大接続・大学初年次教育』」講演より