オンラインイベント「教科『情報』をめぐる動きと情報入試に向けた指導を考える」

2025年度大学入学共通テスト概要と出題教科「情報」の位置付け

河合塾 教育研究開発本部 本部長 富沢弘和

本人提供
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新学習指導要領 教科「情報」の再編

 

私からは、プロローグということで、先生方のご講演に先立って、2025年度の大学入学共通テスト(以下:共通テスト)の概要と、新たな出題となる「情報」がどのように扱われることになるか、ということについて、公表情報の確認としてお話しします。

 

はじめに、課程の移行に伴う教科「情報」の科目構成の変化を確認します。

 

現行課程は、「社会と情報」「情報の科学」の2科目から1科目を選択必履修となっていますが、来春からの新課程では、科目構成が変わり、全ての高校生が学ぶ共通必履修科目として「情報Ⅰ」が設置されます。さらに「情報Ⅰ」の内容を発展的に学ぶ科目として「情報Ⅱ」が設置されています。

 

「情報Ⅰ」では、プログラミング、ネットワーク、そしてデータの分析の基礎などについて扱います。現行課程は8割の学校が「社会と情報」を採択しており、プログラミングを扱う「情報の科学」の採択は2割にとどまっています。ですので、「情報I」が始まることで、高校生の情報科の学びの内容が大きく変化することになると思います。

 

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こちらは河合塾で、公立高校を対象に新課程情報科目の設置状況を調査して、集計したものです。

 

「情報Ⅰ」は、1年次での設置が約4分の3を占めていますが、一方で、入試で情報が本格的に扱われるため、入試に近い年次での設置を考えたいということで、2年次での設置も18%、3年次も5%と、少なからずあります。右側の「情報Ⅱ」については、設置は2割弱と限定的な状況です。

 

 

 

新学習指導要領と教科「情報」を取り巻く動き

 

新課程への移行と、それに連動した情報入試に関する動きについてまとめました。新課程の学習指導要領が告知された2018年には、「『情報』を共通テストで出題する」という総理大臣の発言や、「情報」に関わる人材育成に関する政策が相次いで公表されました。

 

共通テストでの出題は、昨年秋に新課程の出題科目の検討案が公にされ、11月に情報の試作問題(検討用イメージ)が関係団体に示されました。

 

そして今年3月に、大学入試センターから「情報」を含む新科目のサンプル問題が公表されました。

7月に文部科学省から公表された2025年度の共通テストの実施大綱の予告で、正式に「情報I」の出題が決定されています。9月末には、実施大綱の予告の「補遺」ということで、各科目の試験時間や現行課程履修者への経過措置が公表されました。今後は、2022年度の秋冬頃に、全体の問題構成がわかる配点付きの試作問題が公表される予定です。

 

 

 

2025年度共通テストはどうなる?

 

今春、2021年の入試は、高大接続改革の中で、入試改革の年として位置付けられていましたが、共通テストの記述式問題の導入や、英語の資格検定試験の活用に関して混乱が生じていました。

 

これを踏まえて、「文科省内の大学入試のあり方に関する検討会議」で議論がされ、今年7月に提言という形で一定の結論が示されています。

 

提言を受けて、2025年度の共通テストの出題科目や出題形式が正式に公表されています。記述式問題の導入と英語外部試験の活用については、正式に断念が決まりました。これらについては、各大学の個別入試で推進していくことが示されています。

 

また、多面的評価に関する部分では、志願者本人が大学に提出する資料を積極的に活用していくということ、調査書については簡素化した様式に見直すという方向性が示されています。

 

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こちらが、9月29日に正式に公表された2025年度の共通テストの出題科目の一覧です。

 

赤字が、現行からの変更されている部分です。一番下に「情報Ⅰ」が、試験時間60分で新設されています。その他に、数学のグループ②と国語の試験時間が、現行から10分増えています。

 

また、科目構成が変わるところでは、数学のグループ②と、地歴・公民があります。「情報」と関連するところでは、数学の②が注目されます。「数学Ⅱ・数学B」がなくなって、「数Ⅱ・数学B・数学C」を合わせた1科目の出題となります。

 

数学Cが新たに加わったのは、新しい学習指導要領で、『ベクトル』が数学Bから数学Cに移行した影響です。結果として、受験生はこの表にあるように、数学Bの『数列』『統計的な推測』、そして数学Cの『ベクトル』『平面上の曲線と複素数平面』の計4項目から3項目を選択することになります。

 

現行の「数学Ⅱ・数学B」では、多くの受験生は『数列』と『ベクトル』のみで対応できましたが、今回はこれに加えて、もう1項目の対応が必要となります。結果として、「情報」とも関連の深い『統計的な推測』の分野を学習して受験対策をする人が多くなる見通しです。

 

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共通テストの出題科目の検討は、現行からの大きな変更を避けることや、科目のスリム化が考慮されました。数学の②で出題をされていた「簿記会計」「情報関係基礎」は、2025年度の共通テストから出題がなくなります。

 

共通テストは、CBTでの実施について、検討・研究も進められてきました。特に新教科の「情報」は、当初CBTで実施すると言われていましたが、最終的には実現に向けて課題が残るということで、他教科を含めて導入は見送られています。

 

 

現行課程の履修者に対しては、2025年度の共通テストに限って配慮した必要な措置を行う、とされています。

 

具体的な内容がこちらです。まず数学と地歴・公民については、現行の全ての科目を旧課程科目として出題することになりました。こちらの科目を選択できるのは、旧課程生のみとなります。

 

理科は、必要に応じて選択問題を出題するという形、そして「情報」については、現行課程の「社会と情報」「情報の科学」の履修者に対応した問題の出題が正式に決定されています。ただ、具体的な出題方法、つまり別科目として出題するのか、あるいは「情報Ⅰ」の選択問題として出題するのかは、今後大学入試センターで検討されます。

 

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大学は入試に「情報」をどのように取り入れるか

 

共通テストでの「情報I」の出題が正式に決まり、今後の焦点は、各大学の利用方法に移っていきます。

 

今年の春、新聞報道で「国立大学がこの共通テスト『情報』を必須で課すことを検討している」という話が出ました。

 

国立大学では、現状一般選抜では、共通テストで5教科7科目を課すことを基本方針としていますので、「情報」が必須なると、6教科8科目という形になります。具体的なイメージをスライドの中央に載せていますが、「外国語、数学2科目、国語、そして理科、地歴・公民の中から3科目」というのが5教科7科目です。

 

ここに「情報」が加わります。

 

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国立大学協会(以降、国大協)の中にも積極論と慎重論があるということで、現時点では結論は公表されておりません。そうした中で、10月4日に全国高等学校長協会から、国大協に対して「導入初年度となる令和7年度、2025年度に限っては、6教科8科目とすることを慎重に検討してほしい」という要望書が出ています。

 

理由としては、「1年前(2024年度)の入試を受験する生徒が、浪人した際に『情報』が課されるという不安を感じて、第一志望校の受験を断念する懸念があるという、いわゆる安全志向となるのを懸念している」ということですね。そうした観点で、6教科8科目を慎重に検討してほしいということです。

 

国大協では11月中旬に総会が予定されていますので、そこで何らかの決定がされるのではないか、と聞いております。決定内容については、もうしばらく待ちたいと思います。

 

 

下図で、共通テスト「情報」の想定される利用方法と、それに伴う受験生の動きをまとめてみました。

 

動向を大きく作用するのが、国大協の基本方針です。パターン1は、「情報」必須を基本方針とした場合です。最終的な判断は各大学に委ねられますが、この場合は原則、国立大学を志望する生徒は対策を求められる形になり、「情報」の受験者数も20万人以上になることが予想されます。

 

一方、パターン2のように「情報」の扱いを大学に委ねる、あるいは情報系学部など特定の学部のみ必須にするといった方針を取ると、状況は大きく変わり、必須とする大学は限定的な形になると思います。この場合は、学部系統、あるいは大学の難易度、地域によって対応が分かれることが予想されますので、各大学の公表状況が出揃うまでは、状況は不明瞭な形になり、対応の必要性を判断するのは少し先になります。

 

私立大学は基本的に選択科目としての扱いにとどまると考えています。ただ、私立大学では複数の入試方式を設定することが一般的ですので、国立大学が必須で課すケースが多くなれば、その併願を見込んで「情報」を必須にする入試方式を設定する大学も、多く出てくると思います。

 

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次に、各大学の個別入試での「情報」の扱いを見ていきます。

 

まず、今年の受験生が受験する2022年度の一般選抜で「情報」を出題する大学は、12大学にとどまっています。

 

いずれも選択科目、もしくは複数の入試方式の中の1方式としての出題ですので、全受験生に対する必須科目として出題している大学はありません。こうした状況からも、現状は「情報」が入試で出題されているという印象は薄いでしょう。

 

 

では新課程の入試ではどのようになりそうか、ということですが、共通テストで「情報」が出題されるのであれば、個別入試での出題が大幅に増えていくという可能性は小さいと考えています。ただ、「共通テストの内容では物足りない」と感じる大学、例えば情報系学部などでプログラミング能力を深く問いたいといったような明確な意図がある大学での独自の出題は想定されます。

 

また、総合型選抜・推薦型選抜も、基本的には一般選抜と同様の形になると思います。総合型選抜では、現状でも、実際にプログラムを実装させて動かすという試験を実施している大学もありますので、一般選抜以上に、大学として測りたい力を測るという形で、「情報」を取り入れる大学も出てくる可能性がありそうです。

 

さらに、各種検定試験の活用が推進されていますので、情報系の検定試験を出願資格、あるいは選抜時の優遇措置として活用する大学は、今後徐々に増えていくことが考えられます。

 

高校生自身の「情報」への取り組みも、新課程の移行に伴って変化していくことが考えられますので、「情報」に関するスキルをPR材料として示していく受験生も、今後増えていくのではないでしょうか。

 

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2025年度入試に向けた今後のスケジュール

 

最後にスケジュールを確認しておきます。

 

新学習指導要領は、来年高校に入学する高校1年生から年次進行で施行されます。そして高等学校の動きとしては、今年春に低学年次の教科書について見本本が配られ、ほぼ採択を終えていると認識をしています。

 

入試に関する動きとして、共通テストに関しては先ほど申し上げたとおりで、来年度の秋冬頃に情報を含めた新科目について、全体の問題構成がわかる配点付きの試作問題が公表される予定となっています。なお、現行課程生用の「社会と情報」「情報の科学」に対応した問題も、ここに合わせて試作問題を作成して公表することになっています。

 

大学の発表は、まず国大協の方向性が提示された後、国立大学を中心に、新課程の科目の公表が始まっていくことになります。「入試に関わる大きな変更の公表は2年前までに行う」という、いわゆる2年前ルールに則って、国立大学ではある程度の大学が、来年の夏頃、遅くとも来年度中には公表されるでしょう。

 

私立大学では、細かな入試方式ごとの内容までは公表に至らない大学も多いと思いますが、新課程で扱う科目については、「情報」を含めて公表されていくと思います。われわれ受験生を抱える立場としては、混乱が生じないように、出題科目の早期の公表を大学にお願いをしていきます。

 

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