第14回全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会)

大学入学共通テスト「情報」試作問題・サンプル問題と教科書から考察する「情報Ⅰ」

工学院大学附属中学校・高等学校 中野由章先生

共通テスト導入が決まった「情報I」の指導で何が必要になるか

「情報学的アプローチによる「情報科」大学入学者選抜における評価手法の研究開発」第3回シンポジウム より
「情報学的アプローチによる「情報科」大学入学者選抜における評価手法の研究開発」第3回シンポジウム より

まず、7月30日に文科省が、令和7年度大学入学共通テストの実施大綱の予告で、「大学入学共通テストに正式に『情報』を出す」と言ってくれましたのは、たいへんめでたいことです。あとは、この秋に、国大協の入試委員会で、「共通テストは原則として6教科8科目」と言うかどうか、というところに係ってきますが、取りあえず、一山越えたというところですね。

 

 

結論から申し上げます。「情報Ⅰ」で大きくかわるところと認識しなければいけないのが、「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」の3つだろう、ということです。

 

その中で「総合的な探究力」を身に付けさせなければいけない。そして、特に大学入学共通テストなどでは、今までの「知識」を問うところから、「思考力・判断力」というところに、かなり比重が移ってきて、出題のしかたも、長文や会話文から文脈を読み解くような問題になってきています。

 

今年行われた大学入学共通テストでも、教科・科目を問わずそうなってきていました。また、後ほど詳しくお話しする「情報」の「試行問題」や「サンプル問題」を見ると、これは絶対に体験的な学びをやっておく必要がある。座学で知識をつめこむだけでは点が取れるようにはならない、ということを確信しました。

 

 

「情報Ⅰ」の単元はこのようになっています。この黄色で書いたところが、今の共通教科「情報」には入っていない、もしくは非常に弱いところです。「情報デザイン」は専門教科「情報」にはありますが、共通教科にはほとんどありません。「プログラミング」も現行の「情報の科学」にはあるものの、非常に弱くて、どちらかといえばアルゴリズムに寄っています。「データの活用」についても手薄です。ですからこれらが肝になってくるということになります。

 

これは宣伝になりますが、日本文教出版のページで、『いま知りたい!徹底討論 情報Ⅰ』(※1)と、『高校情報科2022年問題を語る』(※2)というビデオクリップを用意しているので、そちらもご覧いただければと思います。

 

※1 https://www.nichibun-g.co.jp/textbooks/joho/joho1_movie/

※2 https://www.nichibun-g.co.jp/textbooks/joho/joho1_movie_2/

 

 

「情報I」の教科書は、難易度だけでなく内容も多彩

私は教科書の執筆者なので、教科書についてあまり突っ込んだことはお話しできないのですが、できる範囲でお話しします。

 

これらはある教科書会社の教科書です。このようにイラストが多かったり、プログラミング言語がScratchだったり、コンピュータ・サイエンス・アンプラグドのワークシートが、別売の学習ノートでなく、教科書の本文に載っていたりするものもあります。

 

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一方で、同じ「情報I」の教科書で、JavaScriptやPythonがゴリゴリ書いてあったりするものもあります。英語や数学など他教科の教科書にも、同じ教科書会社が作っているもので、難しい版と易しい版が分かれているものがけっこうありますが、「情報」の場合は、難しい版・易しい版というだけでなく、内容自体が多岐にわたっています。

 

そのため、自分の学校の、目の前の子ども達には、これが必要だな、ということを選びやすい。その意味では、教科書の環境は素晴らしい、と個人的には感じています。

 

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今回、教科書は公式には13冊出ていることになっています。これは、教科書番号で言うと13種類ありますが、図解編と実習編が別冊になっているものにそれぞれに教科書番号が使われているので、実質的には12種類です。

 

この12種類の教科書を見ていくと、今申し上げたたように、図解と実習が分冊になっているものの他に、まず見開きの上のところで絵で概要・イメージをつかんでから説明に入るというもの、今申し上げた、「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」などの新しい内容を重点的に扱っているものもあります。また、ほとんどの教科書の判型がB5ですが、AB版で側欄を広く用意して、そこをうまく使おうとしているものもあります。さらに、プログラミング演習は教科書本文に入れずに、副教材で扱うというものもあります。このように、教科書ごとにいろいろな工夫がされており、なかなか面白いと思いました。

 

 

こちらは教科書の本文ページを、「情報I」の学習指導要領の(1)~(4)の単元別に分類したものです。ここでは、演習や索引、図表、問題、まとめといったところは省いています。青が「(1)情報社会の問題解決」、黄色が「(2)コミュニケーションと情報デザイン」、赤が「(3)コンピュータとプログラミング」、緑が「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」で、その中がさらに(ア)(イ)(ウ)と分かれています。見ていくと、非常に特徴的な教科書があります。

 

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例えば、このB1、B2の教科書は、(1)の青い部分が極端に少なくて、(3)の赤と(4)の緑の部分がすごく多くなっています。この教科書は、(2)の黄色い部分でさらに黒い枠で囲った「情報デザイン」と、(3)の赤い部分の「プログラミング」、(4)の青い部分の「データの活用」に注力して多くのページ数を割き、他のところを削っています。

 

そうかと思えば、例えばE1、A1、それからD1は、比較的この4色のバランスがよくなっています。これは、比較しているのがページ数だけで、そこに何が書いてあるかは見ていないことにご注意ください。このように、オーソドックスな編集をしている教科書もあれば、はっきりと特色を出している教科書もあるということです。

 

大学入学共通テストでは、「情報I」が単独の時間設定となる

さて、教科書のことはこれくらいにしておいて、大学入学共通テストです。大綱の予告では、出題科目は『情報』の1科目とすること、『情報』は「情報Ⅰ」の内容を出題範囲とすること、そして、『情報』で一つの試験時間帯とすることが示されています。

 

 

これは、今年3月に大学入試センターが発表した内容と同様です。「情報」で一つの試験時間帯とするというのは、現在も「情報関係基礎」という科目はありますが、これが数学マル2の時間帯の中で行われていて、「数学ⅡB」を選択した場合は「情報関係基礎」が選択できなくなっています。今回は、「情報」は何かと抱き合わせでなく、単独の時間設定となるので、受験生が取りやすくなるということで、これも歓迎すべきことだと思います。

 

その大学入学共通テストで、どんな問題を出すのか?ということで、大学入試センターが、「試作問題(検討用イメージ)」(※3)と「サンプル問題」(※4)の2つを公開しています。この「サンプル問題」は、大学入試センターのwebページで公開されていますが、「試作問題(検討用イメージ)」は、大学入試センターでは公開されていないので、大学入試センターから許諾を取って、情報処理学会のwebページで公開しています。

 

※3 https://www.ipsj.or.jp/education/edu202012.html

※4 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou.html

 

 

「試作問題」も「サンプル問題」も「情報I」の全ての領域からの出題を意識

この「試作問題(検討用イメージ)」と「サンプル問題」は、多分明日の基調講演でもお話があると思いますが、「情報I」の全ての項目を網羅しているわけではありませんし、そもそもこれを作ったときは、まだ教科書が世の中にでていないので参照することはできませんでした。ですので、実際の問題セットをイメージしたものではなく、これだけの問題量では試験時間が足りないとか、逆に時間が余る、といったことは言いっこなし、ということです。

 

また、過去のセンター試験や、大学入学共通テストと同様の問題作成・検討のプロセスは経ていません。実際のセンター試験や大学入学共通テストの問題作成や点検のプロセスは、非常に多くの専門家が膨大な時間と労力をかけているのですが、「試作問題」や「サンプル問題」はそこまでの手順は踏んでいませんよ、という申し開きが付けられています。

 

 

先ほども申し上げたように、「情報Ⅰ」は(1)が「情報社会の問題解決」、(2)が「コミュニケーションと情報デザイン」、(3)が「コンピュータとプログラミング」、(4)が「情報通信ネットワークとデータの活用」です。

 

 

試行問題の出題分類がどうなっていたか、というのがこちらです。試行問題は大問で8つ提案されており、第2問については問1・問2の2つに分かれています。

 

この表の(1)(2)(3)(4)が「情報Ⅰ」の4つの領域に対応しています。これを見ると、大学入試センターは全ての領域を意識して問題を作っているということがわかります。

 

 

サンプル問題は、大問で3つだけです。第1問が問1から問4までの4つに分かれていて、「情報Ⅰ」の(1)~(4)の全ての領域から出題していることになります。

 

「試作問題」のときは「データの活用」や「情報デザイン」の問題はほとんどありませんでしたが、この「サンプル問題」では出題されています。

 

 

第1問 字面だけでなく行間を読む力、情報デザインの典型的な問題

具体的に見ていきましょう。こちらが第1問の問1です。

 

「情報技術と社会の関わり」ということで、東日本大震災のときの状況に関する長文を読解させます。それから、会話文形式で文脈を読み解く問題ですが、この会話文形式が、今回の大学入学共通テストでは、ありとあらゆる教科・科目で出てきています。

 

ですから、文脈を読み解くこと、つまり字面だけでなく、行間を読む力が非常に大きく問われています。

 

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第1問の問2が「情報デザイン」の問題です。「情報デザイン」として出てきたのがこの問題だけなのですが、「こういう表現をしたいときには、どの図を使うのがよいか」ということを問う、まさに「情報デザイン」そのものの問題です。この問題はすごく簡単ですぐ解けてしまうのですが、「情報デザイン」の問題としてはありだと思います。ただ本番では、もっと難易度の高い問題が出てくるとは思います。

 

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1問の問3は画像のデジタル化で、これはオーソドックスな問題だと思います。

 

 

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第2問 面倒でも地道に解いていくプログラミングの問題

第2問、プログラミングの問題です。今までの「情報関係基礎」で出題されていた手順記述疑似言語DNCLとは違っています。

 

どのように違うかというと、この縦棒 | と鍵印 L でも示していますが、範囲の指定が字下げで行われています。また、今までは代入は矢印(←)でしたがイコール(=)になっているなど、いろいろ違いがあります。今までは「何々を表示する」という形式になっていたのが、「表示する(何々)」という、まさにこれはPythonそのものです。

 

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ただ、Pythonのことがわからなくても、例えば、「この図4のように表示したいときに、ここには何が入るか」ということを考えるのは、Pythonの知識の有無に関係なく答えられると思います。

 

また、二重ループの中に、さらに条件分岐があるような複雑なものもあったりしますが、決して難しい問題ではありません。よく例に出すのですが、糸が絡まったときにほぐすのは非常に面倒ですが、地道にやっていけば解きほぐすことはできます。これを地道にやるかどうか、それだけの問題だと思っています。

 

第3問 「データの活用」は、データを処理した結果をどう解釈・理解するかが問われる

第3問はデータ活用の問題です。大学入学共通テストはCBTでなくPBT、今まで通りのマークシート形式であることが決まっていますから、データを操作、処理するということは問えません。そうなると、「データを処理した結果こうなりました。それをどう読みますか。これはどういう意味ですか。」ということを聞くことになります。データの活用は、どう解釈・理解するか、という問題にならざるを得ないだろうと思うわけです。

 

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例えばこの問題には回帰直線が出ています。これはExcelですぐできます。そして回帰直線の数式はこれですが、じゃあこのxの係数の意味は何か、さらにその後ろに付いている数の意味は何か、という、つまりこの式が何を意味しているのかが理解できることが必要です。何かよくわからないけれど、Excelが出してきたからこれでいい、ではなく、本当の意味がわかっているかどうかということが大事になってくると思います。

 

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情報処理学会の情報入試委員会は、1997年から出題されている「情報関係基礎」の全ての問題と解答と、問題作成部会の見解を公開しています(※5)。この問題作成部会の見解が非常に貴重ですので、ぜひご覧いただければと思います。

※5 https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/ipsjjn/resources/JHK

 

 

情報科の先生に求められる姿勢

情報科の教員として、「情報Ⅰ」に向けて、どうしなければいけないか、ということがよく問われると思いますが、私はこの4つだろうと思っています。

 

まず、情報科の教員が授業を楽しむこと、これに尽きると思います。それから、失敗を恐れず挑戦すること、これは生徒も先生も同様です。10回挑戦しても、うまくいくのは1回あるかないかで、9回は必ず失敗すると言ってよいでしょう。場合によっては、10回全部失敗するかもしれません。でも、挑戦しないとダメだと思います。ですから、失敗を忌避するのではなく、挑戦し続けるという姿勢を持っていただきたいと思います。

 

 

そして、生徒と共に学ぶという姿勢、やはりこれが大事だと思います。生徒の方がいろいろなことを知っている場合もありますから、時には生徒に教えてもらいながら、生徒と一緒に学ぶ姿勢が大事です。

それと同時に、率先垂範して先生自身が学び続けなければいけないと思っています。その、われわれにとっての学びの機会というのが、まさにこの全高情研だと思います。

 

ほかにも学びの機会として、情報処理学会はIPSJ MOOC(※6)いう動画教材を出していますし、8月末には公開シンポジウムや研究会のオンライン開催を予定しています。こういったところで、いろいろな発表をお聞きになってみてください。

 

また、情報処理学会では、小中高教員の新規入会キャンペーンも行っています。勉強の機会として、ご活用いただければと思います。

 

※6 https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/mooc/

※7 https://www.ipsj.or.jp/member/kyoinwaribiki-nyukai-2021.html

 

 

[質疑応答]

Q1.大学入学共通テストのためには、どの言語を学んだら得なのでしょうか。

 

A1.中野先生

これはよくある質問です。サンプル問題で出題されたのはPythonそのものだから、Pythonをやればいい、というのは、手っ取り早いとは思いますが、私はPythonである必要は全くない、Scratchでもいいと思っています。

 

Scratchは制御構造が図として色や形でわかります。そうすると、40人の生徒を教員が1人で指導していても、ぱっと見て、できている・できていないというのがすぐわかって、「ちょっと繰り返しがおかしくない?」とか「条件判断は大丈夫?」といったヒント与えることができます。私は、子ども達が写経じゃなく、構造を理解することの方が大事だと思うので、どの言語を学んだら得かっていうのは特にない、むしろ目の前の生徒にとって、一番構造が理解しやすいものがいいと思っています。

 

今後予備校などがいろいろな視点でバリバリ分析してくるでしょうし、参考書や問題集も出てくると思います。そういう意味で、使える教材が充実してくるのではないかと思っています。

 

 

Q2.教科「情報」が学校設定科目に読み替えられていて、「情報I」のコマ数がゼロの学校は、どのような工夫を考えたらよいでしょう。

 

A2.中野先生

「情報I」の内容は、「情報」だけで完結しようと思ったら2コマでは無理ですから、数学科や家庭科、公民科と、それから「総合的な探究の時間」は、絶対に巻き込まないといけないと思います。

 

情報社会に参画する態度については、家庭科や公民科に随分任せられる部分がありますし、情報活用の実践的な活動については「総合的な探究の時間」に委ねることができますし、データの活用の基礎的な部分は、数学で担ってもらったらいいと思います。

 

「情報」は、データをコンピュータで処理するからこそわかること、例えば、ビッグデータ処理やテキストマイニングなどに注力すればよいと思います。だからこそ、いろいろな教科を巻き込まなければいけない。ただ、そのときに注意しなければいけないのは、「情報」が数学科や「総合的な探究の時間」の下請けになってはいけない、ということです。情報科でやったことが他の教科で活き、他の教科でやってもらったことが情報科で活かされるという、お互いの教科でプラスになるような形に持っていかなければならないと思います。

 

 

第14回全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会) 口頭発表発表 より